141. 三島由紀夫VS東大全共闘 50年の真実
《ネタバレ》 1969年5月、その日、東京大学駒場キャンパスのある教室は異様な熱気に包まれていた。何故なら、反体制を掲げ時に過激な行動で世間を騒がせた東大全共闘と世界的ベストセラー作家として名声を欲しいままにする三島由紀夫との討論会が行われたからだ。観衆も含め1000人を超える学生グループとたった一人敵地ともいえる教室へとやって来た大作家。片や共産革命を掲げる左翼思想グループ、片や天皇崇拝を主張し国家主義を是とする右翼的作家。真っ向から主義主張の異なる両者の対決は、文字通り命を掛けた激しい激論となった――。本作は、長い間テレビ局の倉庫に眠っていたそんな貴重な映像を再編集して50年目の今日、新たに世間に公表しようと試みた挑戦的ドキュメンタリーだ。中学生だった頃に三島由紀夫の傑作『仮面の告白』を読んで衝撃を受けた自分としては、感慨深いものを感じながらの鑑賞となった。当時の異様な熱気を生々しく写し取った映像は最後まで緊張感が途切れず、両者の激しい舌戦はまるで激しい格闘技を見ているかのような感覚にさせられる。特に、三島由紀夫の生涯のテーマとも言える「世界を変えるのは認識か行動か」という重要な思想が時折垣間見えるのが興味深い。高度な知性によって世界を変革しようという三島氏と文字通り暴力も辞さない行動によって世界を変えようという学生たちとの討論が最後まで噛み合わないのは当然だが、三島がそんな学生たちに理解を持って接していたのが印象的だった。もしかすると氏は、学生たちに深い羨望のようなものを感じていたのではないか。あくまで文筆活動で戦後のぬるま湯に浸かり切ったような日本を変えようとした三島氏が最期、あのような暴挙に出たのはもしかするとこの討論会で学生たちが見せた清々しいまでの若さに影響されたのかもしれない。もちろんかなり穿った見方であることは承知の上だが。ただ、討論会の途中から急に登場する、この時代のひろゆきみたいな芥氏という人物。この人の存在が自分は最後まで不快で仕方なかった。ずっとへらへらしながら自分以外の人間を小馬鹿にしているようなその態度が終始鬱陶しい。幼い娘を抱えながらこの討論会に参加しているのだが、それも「娘の子育てに忙しい自分が、ここで面白そうなことをしているみたいなのでなんとなく参加しただけだし」という言い訳を最初から用意している感じがしてなんとも不愉快。現在の年老いた芥氏にインタビューしているシーンもあるのだが、ここでも変わらず人を小馬鹿にしたような態度で「人ってどれだけ年取っても変わらないものだ」と思わず笑ってしまった。こんな男に最後まで真摯に対応した三島氏の度量の深さには改めて尊敬の念を抱かずにはいられない。反対に、悔恨を感じながらもあの頃の自分たちを肯定せざるを得ない心境で滔々と告白する全共闘の当事者たち。行動を起こしながらも結局世界を変えられなかった彼らには、三島の最後の長編『豊饒の海』にも通じる無常感すら感じる。この貴重な映像を50年後の今日、公開してくれた制作陣に改めて敬意を表したい。 [DVD(邦画)] 8点(2023-02-13 09:13:15) |
142. マザーズ(2016)
《ネタバレ》 子供が出来ない夫婦のために代理母となる決断をしたシングルマザーが遭遇する不条理な事態を淡々と描いたマタニティ・ホラー。監督は、自分には何がいいのかさっぱり分からなかった『ボーダー/二つの世界』のアリ・アッバシ。自分の好みとは全く正反対のその内容に、「この監督の映画はもう観ない」と決意したのですが、一作だけでそう判断するのはフェアではないと思い、最新作と思われる本作を今回鑑賞。と、思ったらこちらの方が2016年制作のデビュー作だったみたいで。とは言え、内容の方は『ボーダー~』と同じく、さっぱり面白くなかったです。終始ブレブレのカメラワークで撮られた小汚い映像、起承転結に乏しい退屈でありがちなストーリー、全く魅力を感じない根暗なキャラクターたち……と、見れば見るほど睡魔が襲い掛かってきて、最後まで観るのが苦痛で苦痛で仕方なかったです。ここまで自分の好みとは正反対の感性を持った監督も珍しい。改めて、「この監督の映画はもう観ない」と決意した次第であります、はい。 [DVD(字幕)] 3点(2023-02-13 09:07:27) |
143. シニアイヤー
《ネタバレ》 チアリーディング部のキャプテンとして、恋に友情にと青春を謳歌していたリア充女子高生、ステファニー。だが、プロムクイーンを目指して練習に励んでいたまさにその日、彼女はライバル同級生の策略により、瀕死の重傷を負ってしまう。意識不明となって病院へと担ぎ込まれたステファニーはなんとそれから20年も昏睡状態のまま月日が流れてしまうのだった――。20年ぶりに目覚めた彼女は意識こそ17歳のままだが、その外見は年相応のぽっちゃりとしたおばさん体形。スマホやSNSといった当時はなかった先端技術にも戸惑うばかり。でもステファニーは持ち前の明るい性格から、すぐに失った月日を取り戻そうと前を向いて生活し始める。高校へと戻り再びチアリーディングを始めた彼女は、もう一度プロムクイーンを目指して努力を重ねるのだが……。17歳で昏睡状態となってしまった女子高生が20年ぶりに目覚めたことから巻き起こる騒動を終始軽快に描いた青春コメディ。まぁ完全なる出オチ映画ではあるけれど、レベル・ウィルソンのすっとぼけた存在感で前半はけっこう面白かったですね。病院で目覚めた彼女が鏡に映った自分の姿を見て「ちょっとこのおばさん、誰?」と看護師に聞くシーンとか普通に笑っちゃいました。それが自分だと分かった瞬間、失神するなんてレベル・ウィルソン以外がやったら絶対すべってたでしょうね。ツイッターやインスタグラムといった当時なかった技術との世代間ギャップで笑いを取るのもベタながらあり。行き過ぎたポリコレからかなり窮屈となってしまった現代社会を揶揄するネタもけっこういいとこついてる。ただ、結局それだけの映画なので後半のグダグダ具合はちょっと観てられないレベル。特にこの主人公の自己チューっぷりには見ていて腹立って来ましたわ。『ディープ・インパクト』を観ながらライバルをやり込めるために悪態つきまくるシーンは率直に最悪。映画館で思いっ切りでかい声でネタバレ叫ぶなんて一番やっちゃいかんことでしょ!深刻なテーマをあくまで軽く扱うのも良いとは思うけど、さすがにちょっとやりすぎ。最後のエンドロールで撮影風景を楽しそうに流すのも、なんか仲間内のハッピー押し売り感がウザかったです。前半はそこそこ面白かったんですけどね~。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-02-13 08:31:18) |
144. パーフェクト・ケア
《ネタバレ》 彼女の名は、マーラ・グレイソン。認知症を患い判断能力の衰えた高齢者を対象に、本人に代わって生活の基盤を守ることを目的とした会社を経営する若き成功者だ。身寄りがない、もしくはとてもケアを保証できない身内ばかりの高齢者を、裁判所の正式な許可を取って成年後見人となり、財産の管理、住居の確保、介護サービスの拡充などを行っている。誰もが幸せな老後を過ごせる権利を尊重するそのビジネスモデルは、現代のマザー・テレサと呼ぶにふさわしい素晴らしいものだった――。だが、その実態は、裏で手を回した医師に誇張した診断書を書かせ、結託した介護施設に高齢者をほぼ軟禁すると、その財産を骨の髄まで搾り取るという悪徳後見人だ。どれだけ親族に訴えられようが豊富な資金と優秀な弁護士とで徹底的に退ける。そうして多くの高齢者を生かさず殺さず抱え込み、日々莫大な利益をあげることに成功している。「この世は、奪う者と奪われる者しかいない」と豪語するそんなマーラが今回目をつけたのは、高級住宅地で独り暮らしをしている高齢女性。身寄りがなく、仲の良い友人もいない。しかも金融機関で長年働いてきた彼女は莫大な貯金を貯め込んでいた。「彼女こそ私が待ち望んでいた金の卵だ」。さっそく嘘の診断書を手に裁判所へと向かうマーラ。いつものように彼女を介護施設に無理やり入所させることに成功すると、その財産を徹底的に査定・売却してゆく。だが、マーラはまだ知らなかった。その〝金の卵〟には、恐るべき裏の顔があることを……。冒頭から流れるように見せられる介護ビジネスを巡る暗部には驚くばかり。高齢者を人間とも思わず、ただ金を生み出す家畜のようにしか考えていない介護施設や医師、そして主人公が経営する介護ケアサービス会社。本当にこんなことが行われているのではないかと思わせる、妙にリアルなところがとても恐ろしい。『ゴーンガール』でついた強烈な悪女イメージをさらに更新するようなロザムント・パイクの嵌まりっぷりが見事。新たなターゲットとなった高齢者が実は主人公を上回るような闇組織の加護にあったというのもピカレスク・ロマンとしてぞくぞくするような面白さがありました。とにかく全員悪人ばかり。でも、何故か惹き付けられるこの感覚は、『ナイトクローラー』以来かも。ただ黒幕であるピーター・ディンクレイジが登場してからは、ちょっと自分が求めていたものと違う展開となってしまったのが残念。このまま介護ビジネスの暗部を巡る社会派サスペンスとして更なる闇を見せてくれるのかと思いきや、途中からマフィアの裏金を巡る普通のクライムドラマとなってしまい自分は少し肩透かし感がありました。もう少し、この介護ビジネスの酷い内幕を活かしてほしかったですね。とは言え、ピーター・ディンクレイジの不気味な存在感も良かったし、彼とパイクとの極悪対極悪の対決は見応え充分。最後まで充実した映画体験をさせていただきました。 [DVD(字幕)] 8点(2023-02-13 08:03:16) |
145. 西部戦線異状なし(2022)
《ネタバレ》 凄惨を極めた第一次大戦下のヨーロッパを舞台に、愛国心から志願した若き一兵士の目を通して戦争の真実を見つめた反戦ドラマ。過去に何度も映画化されたドイツの作家レマルクの古典的反戦小説『西部戦線異状なし』を再び映像化したという本作、今年のアカデミー作品賞はじめ数々の部門でノミネートを果たしたということで今回鑑賞。いやはや、予想していたこととは言え、凄まじい内容でした。汚泥と硝煙に塗れた塹壕戦はこちらにまで血の臭いが漂ってきそうなほどリアルで、観ているだけで胃のあたりが重くなります。さっきまで和気藹々と話していた同僚の兵士が上官の命令とともに出撃し、呆気なく命を落とすシーンは戦争の不条理を否が応でも分からせてくれますね。そんなこと気にもしない国の上層部は、きれいな広い部屋で豪華な食事にありついている……。戦争の実態をこれ以上ないくらい皮肉たっぷりに描いている。そして最後。あと15分で停戦が成立するというのに、将軍の意地とプライドのために再び出撃させられる一兵士たち。まさに無駄死にとしか言いようのない絶望感漂うラストは、戦争の虚しさをこれでもかというほど訴えかけてきます。自分や自分の大事な人がもしこの場に居たらと思うと堪えられない……。今も同じようなことがウクライナで起こっているのだろう。ますます混迷の度を深めてゆく現代社会に於いて、真に観るべき映画の一つと言っていい。 [インターネット(字幕)] 8点(2023-02-13 07:05:32) |
146. アイダよ、何処へ?
《ネタバレ》 1995年、冷戦終結により勃発した民族紛争が泥沼化していたボスニア・ヘルツェゴビナ。ムスリム勢力の町スレブレニツァはセルビア側の激しい攻撃の末、とうとう陥落してしまう。2万5千人におよぶ町の住民たちはたちまち難民化、安全を求めて国連平和維持軍が駐留していた基地へと一斉に雪崩れ込んでくる。当初は住民たちを受け入れていた国連側も余りの数の多さに途中で受け入れを拒否。結果、基地の周りには行き場を失くした町の住民たちが大勢なす術もなく立ち尽くすことに――。国連の通訳として働く元高校教師アイダは、そんな難民の中に自分の家族も含まれていることを知るのだった。夫と2人の息子だけでも基地に入れてほしいと上官に懇願するアイダ。だが、更なる混乱を恐れた上官は彼女の要望を拒否する。到底納得できないアイダは、何とかして家族を安全な基地内に引き入れようと画策するのだが、さまざまな手続きの壁に阻まれどうにもうまくいかない。そんな折、セルビア側の司令官ムラディッチ将軍から住民を安全な場所に移動させるので速やかに引き渡せとの要請が国連側に届く。何か信用できないものを感じたアイダは、家族とともに逃げようとするのだが……。デビュー以来、一貫してボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争を題材とした映画を撮り続けるヤスミラ・ジュバニッチ監督の最新作は、そんな過酷な運命に翻弄される一人の女性を通して戦争の不条理を冷徹に見つめたヒューマン・ドラマでした。この監督の作品は今回初めて観ましたが、全体を覆うひりひりするような緊張感がとにかく真に迫っておりました。この時代、この地で実際に撮られたドキュメンタリー映画なんじゃないかと思えるくらい。そんな中、ただ家族を救いたいがために奔走する主人公。国連にたまたま通訳として現地採用されたというだけで、軍人でも実力者でもない単なる一市民のエイダに出来ることなんてたかが知れている。それでも愛する子供たちをなんとしても救おうと駆けずり回る彼女には胸が締め付けられる思いでした。でも、そんな過酷な現実は彼女だけのものではなく、ここに押し寄せた2万5千人の全ての人々にそれぞれの事情がある。そう思うとやはりやり切れない思いにさせられます。みんな普通に生活していただけなのに。そして最後に辿り着く悲惨な現実――。戦争の愚かさをこれ以上ないくらい痛感させられてしまいます。過去を乗り越え、気丈に振る舞っていたエイダがそれでも最後に辿り着いた場で泣き崩れてしまった姿に自分も思わず涙してしまいました。最後に表示される、「スレブレニツァの女性たちと殺害された8372名の息子・父・夫・兄弟・いとこ・隣人に捧ぐ」というテロップが重い。ただただ最後、彼女が育てた教え子たちがいつまでも平和に過ごせることを祈るばかり。人間の愚かさと悲哀を鋭く捉えたなかなかの秀作と言っていい。 [DVD(字幕)] 8点(2023-02-10 08:33:06) |
147. アンテベラム
《ネタバレ》 南北戦争真っただ中のアメリカ南部の田舎町。白人に誘拐され綿花農場で奴隷として働く女性エデンは、横柄な白人に日々虫けらのような酷い扱いを受けていた。日中はいつ倒れてもおかしくない過酷な労働を強いられ、夜は白人の主人に無理やり夜の相手をさせられる。少しでも抵抗しようものなら激しい制裁を受けることに。北軍が勝利しまがりなりにも奴隷が解放されるのは、まだ先の話。エデンは、生まれてくる時代を間違えたのだと自分を納得させるしかない。それでも彼女は希望を捨てず、残してきた大事なもののため密かに農場脱出を図るのだが――。一方、現代のニューヨークに生きる社会学者ヴェロニカは、黒人で女性という自身のアイデンティティ解放のために日々活動を続けている。優しい夫にも支えられ、愛する娘と充実した毎日を送るヴェロニカ。だが、そんな彼女を疎ましく思っている保守派のまなざしは、彼女が成功すればするほどより厳しさを増してゆく。ある日、仲の良い友人たちと久しぶりのディナーを楽しんでいたヴェロニカに怪しい影が忍び寄ってくる……。過酷な時代を生きたある無名の黒人奴隷と現代に華々しく生きる黒人社会学者、一見何の繋がりもない二つの物語はいつどこで交わることになるのか?実力派女優ジャネール・モネイがそんな異なる時代を生きる女性を演じたことでも話題となったサスペンス・スリラー。とにかくこの監督のセンスに尽きると思います!冒頭、不穏な音楽をバックにワンカットで撮られた農場のシーンで掴みはバッチリ。これから何かとてつもなく嫌なことが起こりそうな息詰まるようなこの空気感を、開始10分で作り出せるのは大したものだと思います。その後、主人公の黒人奴隷としての不条理極まりない現実を延々描いた後で、突如として現代の洗練されたニューヨークへと舞台が移るのも素晴らしい演出。正反対の立場にいる女性たちを同じ女優が演じることで、これまで黒人が受けてきた不当な差別の歴史を浮き彫りにさせることに成功している。彼女たちは違う時代に生を受けた生まれ変わりなのか――。そう思わせといてからのことの真相の明かし方ももはやセンスしか感じません(スマホの音!)。まぁ肝心の真相は荒唐無稽でリアリティ皆無のものだったのですが、ここまでセンス良く見せられると素直に受け入れられちゃいますね。社会派映画として充分良く出来ているのに、サスペンス映画としても普通に面白いのも大変グッド。主人公に徐々に迫ってくる危機の見せ方なんてぞくぞくする怖さがありました。特にタクシーの中で主人公が暴行を受けてるのに、隣を走る友人たちは知らずにはしゃいでるシーンは「あぁぁぁ!」と変な声が出ちゃいましたわ。この監督の知的で品のいいセンスはこれから要注目。次作が楽しみな才能にまた出会えてしまいました。 [DVD(字幕)] 8点(2023-02-10 07:31:08) |
148. ほんとうのピノッキオ
《ネタバレ》 イタリアの児童文学の名作を最新の映像技術を駆使して実写化したファンタジードラマ。監督は『五日物語』などで独自の世界観を構築するイタリアの鬼才、マッテオ・ガローネ。うーん、自分はいまいち嵌まらなかったですね、これ。絶妙にグロテスクなこの唯一無二の世界観は確かに凄いとは思うんですけど、脚本がいまいちな印象。考え抜かれたプロットや胸躍るような起承転結などはほぼ皆無、ひたすらこのピノッキオ少年があっちにいったりこっちにいったり、何の脈絡もなく出てくるキャラクターに翻弄される様を延々見せられるだけ。もう少し一本筋の通った物語があればよかったんですけどね。ねちょねちょナメクジ婦人(あ、カタツムリか!笑)や正反対の判決を下すサルの裁判官など、登場するキャラクターはけっこう魅力的だっただけに惜しい! [DVD(字幕)] 5点(2023-02-07 06:03:21) |
149. 消えない罪
《ネタバレ》 彼女の名は、ルース・スレイター。過去、保安官を射殺した罪で捕まり、20年も服役して今日出所してきたばかりの哀しい女性だ。当然仕事もなければ貯金もゼロ、両親はすでに亡くなり友人ももはや音信不通、頼るあてもない。そんなルースの唯一の心の拠り所は、彼女が捕まったときに離れ離れとなってしまった幼い妹の存在だった。当時5歳だった妹との生活は、これまで辛いことばかりだったルースの人生の中で一番光り輝いていた瞬間だった。だが、これまで獄中から何度も手紙を書いたが返信は一切なし、面会すら叶わず、知っていることは風の便りに何処かの裕福な家庭に養子に貰われたという情報だけ。生きていれば今頃25歳になっているはず。小さな水産加工会社に採用され働き始めた彼女は、独力で妹の行方を捜し始める。でも、警官殺しの過去は簡単には彼女を許してくれない。世間からの厳しい目に晒され、次第に孤立してゆくルース。さらには事件の遺族から嫌がらせの電話まで受けるように。どんどんと追い詰められてゆくルースだったが、相談を聞いた優しい弁護士から妹の居場所を突き止めたとの知らせが届き……。許されざる罪を犯してしまった孤独な女性の更生の日々を淡々と見つめたヒューマン・ドラマ。世間から孤立し、次第に行き場を失くしてゆくそんな元犯罪者を演じるのは実力派女優サンドラ・ブロック。観ればみるほど気が滅入るような陰鬱なお話なのですが、監督の丁寧な演出のおかげで最後まで惹き込まれて観ることが出来ました。刑務所から出所してきたばかりの彼女の日常をひたすら追うのではなく、彼女と偶然知り合うことになった弁護士一家、彼女と生き別れ今は義理の家族と幸せに暮らしている妹、そして彼女に父親を殺された被害者遺族、それぞれのドラマに焦点をあてる演出は相当巧み。互いに信じる価値観や信念があり、それが相容れないためにどんどんとぶつかり合ってゆく様は、誰もの気持ちが分かるぶん切なさが半端ないです。ただ唯一の肉親に会いたい主人公、今やかけがえのない家族の一員である娘を守りたい義理の親たち、主人公に父親を殺され人生をめちゃくちゃにされた兄弟……。「きっとこれは誰も幸せにならない暗い結末を迎えるんだろうな」と正直、げんなりしながら観ていたのだけど、でも、最後のシーンで自分は救われたような気持ちになりました。確かに現状は何も変わっちゃいない、何なら事態はますます複雑で不幸になるかもしれない。それでも主人公は最後、生きる希望を取り戻した。不幸で理不尽な現実に微かな希望の光を当てる、慈しみに満ちた秀作。 [インターネット(字幕)] 8点(2023-01-30 08:05:12) |
150. LOU/ルー
《ネタバレ》 最愛の一人娘を女手一つで育てるシングルマザー、ハンナ。夫である元海兵隊員は戦場の苦しい記憶から心を病んでしまい、2人に暴力を振るうようになったのだ。彼から逃れるため、人里離れた山の中に建つ一軒家を格安で借りた彼女は娘とともにひっそりと暮らしている。大家である初老の女性ルーは偏屈な気難し屋で、ここからそう遠くない家に愛犬と一緒に暮らしている。何かと嫌味を言うルーを疎ましく思っていたハンナだが、娘のヴィーは何故かそんなルーに懐いている。世間の目から逃れるように密やかに暮らしていたそんな親子をある日、悲劇が襲う。激しい嵐が島に上陸した夜、行方不明となっていた元夫が再び2人の前に現れたのだ――。家に忍び込み、やすやすと娘をさらってしまった彼。暴風のため電話は全て不通。なす術もない彼女は、藁をも縋る思いでルーの家へと走るのだった。彼女の話を全て聞いたルーは、さも当然のように銃を手に取ると、暴風が吹き荒れる森へと向かう。さらには様々なサバイバル術を駆使し、執拗に元夫の後を追い始めるのだった。動揺しつつも彼女の後に続くハンナ。果たしてルーは何者なのか?娘をさらった元夫を追って、謎めいた初老の女性とともに嵐が吹き荒れる森を彷徨う母親を描いたサバイバル・アクション。そんな最強おばあちゃんを演じるのは、実力派女優アリソン・ジャネイ。こーゆー設定の映画ってだいたい主人公を助けてくれるのは引退したじいさんというのがセオリー。メル・ギブソンやシルベスター・スタローン辺りがやっていそうな内容なのだけど、本作ではそれが本来弱い存在のはずのおばあちゃんなのがミソ。ジジイがめちゃめちゃ強かった!というのはこれまでさんざん観て来ましたが、ババアがめちゃめちゃ強かった!というのは新しいですね(笑)。屈強な男どもがいるところへとよぼよぼのフリしながら近づいてゆき、スキを突いてボコボコにするシーンはけっこう斬新でした。ただ後半、その設定が巧く活かされていなかったのが残念。もうちょっとこのお婆さんという設定を巧く使ってほしかった。クライマックスもなんか感動モノへと無理やり持っていった感が強く、いまいち盛り上がりに欠けたまま終わっちゃいました。ここは潔くエンタメに振り切ってほしかったところ。とは言え、アリソン・ジャネイの鬼気迫るような演技は凄まじく、嵐が吹き荒れる中を執拗に男の後を追う彼女は迫力満点!次第にそんな彼女へと心を許してゆくシングルマザーの心情も丁寧に描かれていたし、ぼちぼち面白かったです。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-01-30 07:38:33) |
151. アナザーラウンド
《ネタバレ》 「血中のアルコール濃度を常に0.05%に保つと生活や仕事の効率が高まる」という説を実際に実行した4人の男たちの顛末をほろ苦いユーモアを交えて描いたヒューマンドラマ。この監督の前作『偽りなき者』が印象深かったのとアカデミー外国語映画賞に輝いたということで今回鑑賞してみました。確かに、こんな地味な登場人物たちが織りなす地味な物語でテーマだって地味なのに最後まで淡々と見せ切る演出は巧み。マッツ・ミケルセン演じる主人公が酒の力を借りて次第に生きる活力を取り戻してゆく姿はリアリティ抜群で、彼が調子に乗ってどんどんと酒の量を増やしてゆくところはアルコール中毒者の生成過程を見ているようでひやひやさせられちゃいますね。ただ、観終わってこの作品の描きたかったテーマが「お酒は楽しく適量を」くらいしか伝わってこず、自分はそこまで得るものはなかったです。 [DVD(字幕)] 6点(2023-01-27 11:07:43) |
152. グレイマン
《ネタバレ》 常に死と隣り合わせの危険な任務ばかりを請け負う、CIAの極秘部隊、通称「グレイマン(見えない男)」。その正体はいつでも使い捨てに出来る凶悪な元犯罪者ばかりで構成された部隊だった。CIA高官にスカウトされて獄中生活から抜け出して以来、30年も人知れず活躍しているエージェント、シックスもその一人。今回彼にくだされた任務は裏社会で暗躍する武器商人の暗殺。簡単に終わるミッションのはずだった。だが、標的であるはずの犯罪者は殺される直前、彼にあるものを渡し、衝撃の告白をする。「俺もお前と同じグレイマンだ。CIAは俺たちをハメようとしている。頼む、このデータを公にして組織に復讐してくれ」――。すぐさまCIAの幹部によって、最重要ターゲットにされてしまったシックス。世界中の暗殺者に命を狙われながらも、陰謀を暴くために世界を駆け巡る彼だったが……。巨大な陰謀に巻き込まれた凄腕エージェントの活躍を世界的スケールで描いたエンタメ・アクション。監督はマーブルアベンジャーズシリーズを幾つも手掛け、現代エンタメ映画界を牽引するルッソ兄弟。自分は、アンチアベンジャーズの人間なんでこの監督の名はもちろん知っていたのですが、今回初めて鑑賞してみました。いやはやこれが素晴らしいエンタメ映画に仕上がっていて、めちゃくちゃ面白いじゃないですか!!冒頭から怒涛のように続くアクションシーンが終始キレッキレでサイコーに楽しかったです。「どうやって撮ってんだ、これ」という空間を自由自在に動くカメラワーク、誰がどこで何をしているかがちゃんと分かるように計算されつくした編集、とにかくお金を掛けたであろうゴージャス&スタイリッシュなアクション。もうどれもこれも完璧でした。特にプラハでのカーチェイスは最近観たアクション映画の中では出色の名シーン。世界を救うためとは言え、さすがに破壊しすぎちゃいまっかという突っ込みはナシですね(笑)。まぁストーリーは王道中の王道で驚きなど一切ないベタなものだけど、ライアン・ゴズリングをはじめとする登場人物がみんな魅力的なので最後までワクワクしながら観れちゃいます。あのクリス・エバンス演じる冷酷非道なのに何処かお間抜けな悪役もいい味出してましたね~。ただ、上司が2人も自己犠牲で死んじゃうのはやり過ぎかな。ここは1人で良かったように思う。あと、ペンチで爪を剝がすシーンは痛いから止めて!とは言え、自分は充分大満足。アベンジャーズシリーズも一段落したようだし?ルッソ兄弟、これからはこんな面白い映画をいっぱい撮ってね! [インターネット(字幕)] 8点(2023-01-26 07:06:30)(良:1票) |
153. トロール
《ネタバレ》 北欧の神話や民間伝承に登場する恐ろしき怪物、トロール。人間などひょいと摘まみ上げて食べてしまうそんなモンスターが、山地開発をきっかけに現代に蘇ってしまった!前例のない驚くべき事態に人々は右往左往するばかり。政府や軍幹部、そして怪物を調査する古生物学者は果たしてこの危機を乗り越えられるのか?という、極めてシンプルなモンスターパニック映画。まぁバカバカしいっちゃバカバカしいんですけど、それでもCGで描かれたトロールの造形はけっこうお金がかかっていて暇潰しで見る分にはそこそこ楽しめました。このトロール君の見た目が何処か間抜けで、こいつが都会を破壊しながら練り歩くシーンは大真面目に作ってある分、なんか笑けてきちゃうのが本作のミソ。ただ、お話の方ももっとおバカに振り切っても良かったんじゃないかな。ところどころクスリとさせられるものの、中盤からはいまいち盛り上がりに欠けたまま終わっちゃいました。同じくノルウェー&トロールで言えば、今やハリウッドの第一線で活躍するアンドレ・ウーヴレダル監督の知る人ぞ知るカルト作『トロールハンター』があるけど、笑いも物語もあちらの方が一枚上手でしたね。以下余談。いかつい軍幹部がオタクっぽい首相補佐官に軍歴を聞いたところ、「あるよ。コールオブデューティだ」って答えたところが個人的にツボでした。 [インターネット(字幕)] 6点(2023-01-23 06:15:25) |
154. ほの蒼き瞳
《ネタバレ》 19世紀アメリカを舞台に、士官学校で起こった猟奇的な殺人事件の謎に挑む若き日のエドガー・アラン・ポーを描いたミステリー。この監督の作品は何作か観て、世界観の作り込みや画の撮り方などは凄く拘りが感じられて大変良いとは思うんですけれど、毎回ストーリーがなんとも残念な印象。本作はそれが顕著に表れてる感じでした。大まかなストーリーは分かるものの細かい部分に「?」が多すぎていまいち入り込めなかったです。最後のオチも「なんじゃそりゃ」って感じで全く腑に落ちない。全体を覆う、おどろおどろしい雰囲気は嫌いじゃないだけに残念!! [インターネット(字幕)] 5点(2023-01-23 05:45:07) |
155. ディープエンド・オブ・オーシャン
《ネタバレ》 3人の可愛い子供たちに恵まれ、現在子育て真っ最中の専業主婦ベス。手のかかることも多いが、優しい夫にも助けられ幸せいっぱいの充実した毎日を送っていた。そんな彼女をある日、悲劇が襲う。子供たちを連れて高校の同窓会に出席した際、ちょっと目を離したすきに3歳になる次男ベンが迷子となってしまったのだ。当初はすぐに見つかると思っていたベスだったが、何処をどう捜してもベンの姿は見つからない。友人たちの助けでテレビでの公開捜査に踏み切るも何の手がかりも得られることなく、時間だけが空しく過ぎてゆく。罪悪感と喪失感からふとした瞬間に半狂乱となるベス。次第に険悪となってゆく家族。失踪から1年が過ぎたころ、ベスは残された子供たちのため気持ちに区切りをつけることを決意するのだった――。9年後、成長した長男や長女とともに穏やかな日々を過ごしていたベス。それでもベンのことを1日たりとも忘れたことはなかった。そんなある日、ベスはたまたま近所の少年を目にした瞬間、雷に打たれたような衝撃を受けるのだった。その男の子は自分が思い描いていた成長したベンと瓜二つだったのだ。果たして彼は本当に9年前にいなくなった我が子なのか?警察とともに少年のことを調べ始めたベスはやがて衝撃の事実に辿り着く……。失踪した我が子を巡って人生を翻弄される母親の苦悩を描いたヒューマン・ドラマ。非常に丁寧に描かれた作品で、冒頭から流れるように続く子供失踪までの過程にまず惹き込まれました。その後、3歳の子供がいなくなってからの母親の苦悩はとてもリアルで、ミシェル・ファイファーの抑えた熱演の力もあり、見ていて痛々しいくらい。夫や残された長男の苦しみなども抜かりなく描かれており、この監督の演出力の高さは相当なもの。特に、自分のせいで弟が居なくなってしまったと自らを責める一方、弟一辺倒で自分を二の次にする母親に反発する長男の哀しみはダイレクトに伝わってきました。ただ、これはきっと意図してのことだと思うのですが、良くも悪くも軽いんですよね、この作品。心に重くのしかかってきそうなシーンもそうなる直前くらいにすぐ別の場面へと移行する。最後まで流れるようにテンポよく進んでゆく。きっとそれがこの作品の美点だと思うのですが、自分はもう少し魂を震わすような圧倒的な現実を見せつけるような物語が好みですかね。それは失踪したかもしれない次男が9年後近所で見つかるシーンで顕著になります。真相はネタバレになるので避けますが、いや、さすがに偶然が過ぎるんじゃないですか。そこの部分もちょっと引っかかってしまって、僕はどうにも物語に入り込めず。途中からほとんど出てこなくなる妹の存在も気になりました。と言ったわけで完成度は確かに高いとは思うのですが、好みの問題もあり自分はそこまで嵌まれませんでした。 [DVD(字幕)] 6点(2023-01-19 07:30:22) |
156. ナラタージュ
《ネタバレ》 演劇部に所属する真面目な女子高生が、顧問だった教師への片思いに何年も悩まされる姿を描いたラブストーリー。自分、原作者である島本理生さんはデビュー当時からの大ファンでして、若い女性の恋心を瑞々しい文体で描写するその繊細な世界に魅了されておりました。で、当時「島本理生が新境地を拓いた新たなる代表作」と宣伝されていた本作、もちろん期待して読んだんですが……、その余りにもそれまでの作風と違う内容に大いに落胆させられた記憶があります。だってこれ、「思わせぶりなキザ教師にひたすら振り回される根暗女子」の話としか思えず、その最後までウジウジクヨクヨした後ろ向きな内容に読めば読むほどげんなりさせられちゃいました。でもたまたまネットの観放題にこの映画化作品があったので今回鑑賞してみました。だって監督によって、まったく違う内容になることもあるしね。んで観終わった感想は……、やっぱり「思わせぶりなキザ教師にひたすら振り回される根暗女子の話」でした(笑)。こんな可愛い女子高生に迫られてるのに手を出すでもきっぱり振るでもなくただただ思わせぶりな態度を取る葉山先生は男として理解できないし、そんな身勝手な男に何年も片思いを寄せるこの主人公も意味不明だし、彼女に想いを寄せる同級生の男も愛情表現がひたすら気持ち悪いし、僕が「ムリ!!」と思った要素がここまで揃ってるというのはある意味、原作に忠実な映画化だったんじゃないでしょうか。こればっかりはもう生理的な好みの問題なので如何ともしがたいですね。あと、僕の大好きな名作『ダンサー・イン・ザ・ダーク』をメンヘラ女子のバイブルみたいな雑な扱いするんじゃねー!!と、好みの問題で自分的には低評価となりましたが、それでも映像はキレイだったのと音楽の使い方も品があって心地良かったので、総評としては5点ってところですかね。ちなみに自分はこの『ナラタージュ』という本が嫌いなだけで島本理生さんは今でも好きですよ。特に『七緒のために』という作品は傑作なので機会があれば是非読んでみてください。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-01-10 18:05:09) |
157. ナイブズ・アウト:グラスオニオン
《ネタバレ》 そこは数多くの謎が隠された、〝グラス・オニオン(ガラスの玉ねぎ)〟の島――。独創的なアイデアで巨万の富を築き上げたIT企業CEO、マイルズ・ブロン。稀代のミステリー好きでもある彼は、恒例となっているあるゲームを今年も開催するのだった。それは、風光明媚なギリシャにある孤島に参加者を集め、彼のシナリオに沿ったミステリーゲームを行い誰が先に真相を突き止めるか競うというもの。マイルズからの招待状を手に、さっそく意気揚々とその絶海の孤島へとやって来た古い友人たち。再選を狙うアメリカの州知事、天才の名をほしいままにする科学者、影響力絶大の人気ユーチューバーカップル、世界中に工場を持つアパレル会社社長とその秘書、そして彼とは長い裁判闘争を続けていたはずの共同創始者……。そこに何故か、招待していないはずの孤高の名探偵ブノワ・ブランまで顔を揃えている。不審に思いながらもいつも通りミステリーゲームの開催を宣言するマイルズ。だが、その直後マイルズが計画していたものとは違う、本物の殺人事件が発生するのだった。慌てふためく参加者たち。果たして誰が何の目的で事件を起こしたのか?誰もが疑心暗鬼に陥る中、やがて第二の殺人が起きてしまう……。風変りな名探偵ブノワ・ブランが再び難事件へと挑む人気ミステリーシリーズ第2弾。前作以上に豪華キャストを揃えて制作された本作、これが前作以上に面白い極上のエンタメ作品に仕上がっておりました!!様々な仕掛けが施された「招待状」を参加者たちが悪戦苦闘しながら開封する冒頭部で、もう掴みはバッチリ。そこからギリシャのグラス・オニオンへと舞台を移してからは最後まで怒涛の展開で、ホント息つく暇もありません。存分にお金をかけたであろうゴージャスな映像とそれぞれに思惑を抱えた癖の強いキャラクターたちが織りなす腹の探り合い、そして二転三転するテンポのいい脚本…。観客にとにかく楽しんでもらおうという監督の思いが伝わってきて大変グッド。全編に散りばめられた上質のユーモアも素晴らしい。主催者のエドワード・ノートンが自信満々に前口上を述べた後、ダニエル・グレイグ演じる名探偵がすんなり謎解きするシーンで思わずにんまり。エドワード・ノートンの苦々しい顔がもうサイコーでした。ジェレミー・レナーの激辛ソースとか普通に笑っちゃったし。肝心のミステリーも散りばめられた伏線が全て後半に回収されるという手際の良さでなかなか考えられてますなぁ。まさか途中でお話が事件前夜にまで戻るとは予想外でしたが、それも全然不自然には感じず。最後のモナ・リザの扱いなんてかなり不謹慎だけど、爽快感は抜群!いやー、潔いまでにエンタメに拘ったサイコーに楽しい作品でした。続編、期待して待ってます!! [インターネット(字幕)] 8点(2023-01-09 06:20:06) |
158. バルド、偽りの記録と一握りの真実
《ネタバレ》 政情不安に揺れるメキシコを舞台に、アイデンティティの危機に直面したある一人のジャーナリストをマジックリアリズム風に描いたシュルレアリスム劇。監督は、メキシコを代表する映画作家アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。アカデミー賞を受賞したものの、世評では賛否分かれる『バードマン』が自分はけっこう好きだったので今回鑑賞してみました。正直、あかん映画でしたよね、これ。とにかくずっと意味不明でしかも2時間40分もあったので、最後まで観るのがかなり苦痛でした。しかも映像が終始小汚いうえに全体的にいまいちセンスも感じられず、もう何を楽しんでいいのやら。監督はきっと、デビッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』のような作品を撮りたかったんでしょうけど、出来上がったものは比べるべくもない酷い代物でした。『バードマン』が好きだっただけに、残念!! [インターネット(字幕)] 4点(2023-01-05 09:35:39) |
159. ロスト・ドーター
《ネタバレ》 風光明媚な海辺のリゾート地へとバカンスにやって来た、中年女性レダ。たった一人、レンタカーに質素な荷物だけを手にやって来た彼女は、さっそく浜辺に建つホテルへとチェックインする。昼は見渡す限りの海岸線を臨みながら海水浴を楽しみ、夜は現地のグルメとお酒に舌鼓を打つ。最高のバカンスになるはずだった。ところが彼女の表情は何処か浮かない。それは、同じ日にやって来た家族連れの旅行客のうちの一人、幼い娘を育てる若い母親を目にしてからますます酷くなってゆく。何故ならレダは過去、深刻な育児ノイローゼに陥り、2人の幼い娘に取り返しのつかない哀しい想いをさせてしまったから――。物語は、そんな哀愁漂う中年女性の現代の旅行風景と彼女が若いころ、辛い子育てに追い詰められてゆく回想シーンを交互に描いてゆきます。そんな自責の念に苦しむ母親役には、『女王陛下のお気に入り』での怪演が記憶に新しいオリビア・コールマン。正直、ものすごく辛気臭いお話でしたね、これ。別に僕はそーゆー辛気臭いお話が嫌いと言う訳ではないのですが、この作品のそれはちょっと僕の好みとは合わなかったです。とにかくこの主人公の過去のことをいつまでも引きずり、ひたすらウジウジクヨクヨしている余りに後ろ向きな態度が全く好きになれません。いや、気持ちは分かるんだけど、もうちょっと前向きになろうとか新しい世界に踏み出そうとか今は疎遠になっている娘と真剣に向き合ってみようとか、そういう応援したくなる要素がこれっぽっちもないんですよね、彼女。ひたすら嫌味なおばはん。そのわりには、現地の若い男と食事に行ったり、エド・ハリス演じるホテルの管理人に気のあるそぶりを見せたりする。正直、自分はかなりお近づきになりたくないタイプの人でした。2人の幼い娘を捨てて違う男の元へ逃げたという過去の罪悪感に苦しむのも、「そりゃそーなるわ!!」って感じで全く同情できません。そう言うわけで自分はさっぱり嵌まれませんでした。オリビア・コールマンの哀愁漂う演技に+1点。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-01-01 07:06:53) |
160. ハリガン氏の電話
《ネタバレ》 アメリカ、メイン州のとある寂れた地方都市。母を失くし、父親と慎ましく暮らす少年クレイグはある日、近所の豪邸で独りで暮らす今は引退した大富豪ジョン・ハリガン氏からあるアルバイトを持ちかけられる。それは週3日、彼の豪邸で目が悪い氏に代わって本を読み聞かせること。少しでも生活の足しにしようと、クレイグはすぐにその提案を受け入れるのだった。『チャタレイ夫人の恋人』『闇の奥』『罪と罰』。世界の様々な名作を読み聞かせる時給5ドルのバイトはそれから何年も続き、これまで休んだのはたった1回だけ。クレイグは、偏屈で傲慢、現役時代は商売敵や部下を徹底的にやり込んだというハリガン氏のことを嫌いではなく、本を読むことも楽しみの一つとなっていた。そして高校生となった彼は、これまでの恩を返そうと一台のアイフォンを買い、彼にプレゼントする。情報は新聞で充分と言い張っていたハリガン氏に、クレイグは丁寧に使い方を教えてあげるのだった。だが、それからすぐハリガン氏は急な病でこの世を去ってしまう――。突然のことに、哀しみに打ちひしがれるクレイグ。最後のお別れの日、クレイグは彼にプレゼントしたアイフォンを密かに棺桶へとしのばせるのだった。そのまま埋葬されるハリガン氏。ところが数日後、彼の携帯に有り得ないメッセージが表示される。なんとハリガン氏からメールが届けられたというのだ。いったいこれはどういうことなのか?不審に思いながらも、クレイグは彼とのメールのやり取りを重ね……。スティーブン・キングの短編小説を元にしたという本作、監督がヒューマン・ドラマの佳品を多く手掛けてきたジョン・リー・ハンコックということで今回鑑賞してみました。冒頭から丁寧に描かれる、この孤独な老人と素直で純朴な少年とのドラマにすぐ惹き込まれました。冷酷に厳しく当たるのでもなく、過度に干渉するでもない、この2人の友情がなんとも心地良いですね。朗読に選ばれる本のチョイスもいいセンスしてるし、前半は一人の少年の成長物語として非常に良く出来ている。ただ、問題は後半部分。ハリガン氏が亡くなってから、急にミステリー的な要素が増え、さらには死者からのメッセージというホラー要素まで加わります。この唐突な急展開はかなり問題で、明らかに物語のバランスが崩れてしまってます。挙句、ここまで引っ張っておきながら、最後のオチがかなり投げっぱなしのまま終わるのはいかがなものか。てっきり僕は、主人公が最後に棺桶に入れた携帯をあの怪しい庭師が盗っていて、メールのやり取りも殺人もきっとあいつが陰でやっていたんだと踏んでました。でもそれだと遺言書の文言や墓の中から聞こえてきた着信音だとかの説明がつかないから、きっとラストで驚きの種明かしが待ってるんだろうなと思っていたのに、これではとんだ肩透かし。前半はすこぶる良かっただけに、なんとも勿体ない作品でありました。 [インターネット(字幕)] 6点(2022-12-27 05:55:56) |