1581. ドゥ・ザ・ライト・シング
《ネタバレ》 うだるような暑さが、ストレスを加速させてゆくようなある一日。昼間から働くでもなく徒党を組んでる黒人の若者はホームレスの“市長”を蔑み、年寄りたちは韓国人の悪口を言いながら座っているだけ、店の写真に因縁をつけ、大音量のラジカセのボリュームを絞ろうともしない迷惑客。白人も黒人もアジア人も、それぞれが相手を悪く言い、建設的な意見を言う奴なんかいやしない。愚かで浅ましい略奪行為。“白人警官に殺された6人の黒人に捧ぐ”と掲げてはいたけれど、S・リーの目線は実にフラットで、「差別は許しがたいけど、俺らだってどうよ?」とぶちまけられたかのよう。自らも黒人ゆえに、逆に遠慮の無い抉りっぷりにはたまげた。 [映画館(字幕)] 7点(2013-04-04 17:29:17) |
1582. バロン
奇想天外なワールドが次々に展開して、各々の世界観はよく考えてあるなあ、と感心しないでもないけど、いかんせんお話がそんなに面白くない・・。目が慣れると退屈になってくる。せっかくの映像なのにな もっとわくわくしたいんだけど。ユマ・サーマンのビーナスは一見の価値あり。そしてすぐ処刑されちゃうチョイ役スティング、無駄に存在感ありすぎ。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2013-04-04 01:01:19) |
1583. 丹下左膳餘話 百萬兩の壺
《ネタバレ》 なんと鮮やかな70年前の作品だろう。音が聞こえづらいのを除けば、古さを一切感じさせない。三味線小唄に合わせてカメラがすうっと横に流れる。屋内から屋外へと。会話も説明も無くとも、各場所での人々の動きと流れでドラマが説明される。私の不明もあるだろうけど、こんな演出他では見たことがない。オチを落とす“間”の、絶妙な速さと、各キャラの性格を余さず伝える粋な台詞。左膳がやくざ者に絡まれる場面の緊迫感といったら、のんびり笑って観ていたのでもの凄く驚く。子供に数を数えさせ、カウント・10で瞬殺のこの場面といい、道場破りの立ち回りといい、大河内の身体のキレには目を見張る。予想不可能な結末と、加えて最後までお藤の尻に敷かれる剣豪丹下左膳、チャンチャン、というラストシーンは作り手のキレッキレのセンスが炸裂で、もう眩しくて何にも見えないくらいだ。戦前の日本映画にこんなにオシャレでかっこいい作品が存在したなんて。胸が熱いし山中監督の悲運を思うと泣けてくる。 [CS・衛星(邦画)] 10点(2013-03-18 14:33:08)(良:1票) |
1584. 雨に唄えば
すごく平均点が高くてびびる。みんなこれ好きなんだね。私が鑑賞後にぼんやり抱いた感想といえば「アメリカって豊かだったんだなあ」。“パーティにはキツネ(のコート)に色をつけて”だって。52年当時私の育った地域はまだ下水道水洗化もなってなかったな。それはさておき、この「古き良きアメリカ」そのものな映画、あまりに善良すぎて私にはちょっと無理だ。楽しげにタップを踏み、歌い踊り、へんな顔をして笑わせてみせる、こういうのを受け入れて一緒に笑えるってなんかすごい。心が清らかだ。そもそも私がミュージカルが苦手なのも一因かな。でも無邪気で善良だというのは必ずしも人を救わないと思うんだ。それに「雨に唄えば」この曲、私にとってはすでに「時計じかけのオレンジ」のものなんです。そっちの方が心に響くんです。すみません。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2013-03-13 00:31:41) |
1585. 死刑台のエレベーター(1958)
《ネタバレ》 ヌーベル・ヴァーグの草分け的存在であるという大看板や、なんか気だるいアンニュイな雰囲気(J・モローがぶすっとしてるからだと思うんだけど)とジャズミュージック。これらで目くらまし効果大なんだと思うな。普通に観てもサスペンスとして完成度高いとは言えないもの。白昼堂々、目撃者100人はいそうなビル正面での窓移動。まさかのロープ忘れ。ジャンヌも恋人が車で去ったのを見たのになんでまた夜中に徒歩で探そうと思うの?いるかいその辺に。バカな若者二人に煽られたドイツ人夫婦が友好的なのもよくわかんないし。粗はいっぱいだけどラストはフランス映画っぽい皮肉なオチで驚きがある。私的には今作で初めて目にするジャンヌの笑顔に、別人かと思ってそこんとこに一番驚いた。 [地上波(字幕)] 6点(2013-03-12 00:27:53) |
1586. 不倫期限
《ネタバレ》 ルーマニア映画。あまりなじみの無い国制作の映画を観るときは、その国らしさや目新しい風俗なんかを探すのも楽しみなんだけど、不倫が引き起こす人間関係のもつれってのはいやはや洋の東西を問わないらしい。展開する泥沼模様は日本の昼ドラとちっとも変わるとこが無い。ルーマニア色皆無。愛人は本妻を見て取り乱し、コトを打ち明けられた妻は逆上し絶縁宣言、何も知らぬ両親は孫を猫可愛がり、と。なんてことない家庭の日常を隅々まで描いているのが上手い。兄嫁がどうしたとか、子供の歯の矯正時期とか、まあ夫婦の会話なんてつまらないものです。そういうものです。それらの日常が崩壊するさまを見せられて、他人事ととらえてその後を無責任に予想するもよし、わが身を顧みてリアルにぞっとするもよし。(?) [CS・衛星(字幕)] 6点(2013-03-12 00:10:29)(良:1票) |
1587. フレンチ・コネクション
街が、寒い。灰色で冷たくて、厳しい。息を白く吐いて両手をこすり合わせながら任務につくG・ハックマンとR・シャイダー。きついことにラストも甘くない。厳然としたリアリティと冴えない中年オヤジ二人の執念。自らに酔わないタイプのハードボイルド、心にずっしりと溜まります。 [ビデオ(字幕)] 7点(2013-03-06 00:42:53) |
1588. ノウイング
《ネタバレ》 ホラー仕立てから始まって、なにやらサスペンスの様相になってきたと思ったら、特撮SFになって終わった・・。未知の力を宇宙人に集約、これをやられると私は一気に機嫌が悪くなる。鼻白むなあ。宇宙船が突如現れてからのN・ケイジの理解の早いことに驚いちゃう。ええーあんな奴らに子供を渡すのか。私ならまず小一時間は彼らに出自を問いただすと思うが。なんか一昔前なら地球滅亡は核戦争が引き金パターンだったと思うのだけど近頃は宇宙線等の影響が多いのですね。ディスカバリーチャンネルの功績(?)ですかね。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2013-03-06 00:17:54)(良:1票) |
1589. 川の底からこんにちは
《ネタバレ》 んー全編満島ひかりの存在におんぶにだっこしてる感じかな。前半のどん詰まった人生を「しょうがない」とやり過ごす満島の覇気ゼロな演技がこわいくらい上手い。「それ・・知らない、知らない・・っす」という彼女の口癖が移りそうになる。故郷に戻ってからは当初周囲の冷たい視線に萎縮してたのが、男に去られたのをきっかけに彼女突如キレるわけです。「どうせ私なんて中の下なんですよ。だから頑張んなきゃしょうがないんですって」“中の下”だから“やってもムダ”という方向へ流れるのが大勢かと思うんだけど、そこを驚異的な力技で逆ベクトルへ持っていけるのも満島の力があってこそ。でもねえ、少なくとも5歳児に「あんたもどうせ大したことない人間なんだから」と言ってはいけないと思うんだ。そのあとに「だからがんばれ」と続けたところで幼児に開き直りの行間が理解できるか。工場のおばさんたちも意地悪の質が悪い。あんなおばさんたちを、ちょっと状況が変わったくらいで新しいお母さんだなんて呼べませんて。といろいろ不満もあったのですがとにもかくにも満島ひかりの仕事には脱帽です。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2013-03-04 01:56:20) |
1590. 17歳のカルテ
アンジーの出世作にして今のとこ最高作なんじゃないかな。これほど彼女が“やってのけた”作品てあるかしら。野良猫みたいな強い警戒心を瞳にぎらぎらさせてその場の空気をぱっと支配しちゃう存在感。ゲームのスーパーヒロインみたいな役でイメージが固定されてしまうのはほんと勿体ない。ウィノナが食われてしまってるなあ。アンジーがはまり過ぎなので分が悪いんだけどね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2013-03-04 01:27:45) |
1591. ブリジット・ジョーンズの日記
なんたって配役がパーフェクト。ブリジットには、もうレニーしか考えられないし、H・グラントの不誠実炸裂っぷりもC・ファースの生真面目キャラもぴったりはまる。30女の恋愛コメディとしてエピソード等はベタだけど、役者さんたちののびのびした明るさと、コリンのお料理姿がキュートだったり(個人意見)でなかなかに楽しい作品。ブリジットがやたら出してたお尻よりも、個人的にはどぎつくはっちゃけてたブリジットおかんの方が妙に印象に残ってしまった。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2013-03-02 17:24:22)(良:1票) |
1592. 死霊のはらわた(1981)
《ネタバレ》 なるほど、当時はさぞかしショッキングな映像だったのだろうな。この手のゾンビはもう消費し尽くされちゃってるし、耐性のできた身で観るとつっこんでばかりになっちゃうのでちょっと悲しい。きっとこういうグロテスク・ホラーが好きな人達が集まってわいわいと企画したんだろうな、目に浮かぶようだ。「監督、腸といっしょに手が出ちゃうってのはどーすか?ぶしゅーっと」「お、それいいね」的なノリだったに違いない。なにしろヤバイ状態に持っていかなくちゃならないから、彼らの行動にものすごく無理が生じる。そもそも男二人に女三人で小旅行、このメンツは一体何?としょてから大疑問、そしたら姉弟が一組いた。弟のダブルデートに付いて行く姉ちゃん・・あり得ん。でもって、彼女がとんでもない様相を呈しているのに、みんななんかのんびりなんだよね。「あの目が怖いわ」って、いや目だけじゃなくて姿かたちがゾンビ化してるでしょうが。なぜ逃げんのだ。・・等々、ケチをつけてても楽しめないわけですが。ともかく全編液体がぶしゅーっびしーっと飛び散りっぱなしです。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2013-03-01 01:35:04) |
1593. アパートメント(1996)
《ネタバレ》 時間軸が入り組んでるわりに、観やすく整理されている脚本に拍手。しっとりと落ち着いた色彩のフランスの街並みにも見惚れます。個人的に、アリスのような女子が超絶苦手なのでマックスが彼女を選んだ(一時的にだけど)のには仰天しました。そしてさらに男の小ずるさ炸裂の、ラストのちゃぶ台返しに二度唖然、と。いろいろ見ごたえあったなあ。 [DVD(字幕)] 7点(2013-03-01 01:07:16) |
1594. レスラー
拝啓 ミッキー・ローク様。80年代の、最高に美しかった貴方の一ファンにとって90年代はなかなかに辛い10年でありました。聞こえてくるのは整形失敗だのボクサー転向(それも失敗)だの詐欺被害だの、ゴシップ絡みの話題ばかり。堕ちるとこまで堕ちたとの悪意コメントに心はきりきり痛んだものでした。それが、“奇跡”とまで呼ばれる復活を遂げられるとは。ハリウッドで、底の底を見てきた貴方と二重写しになったかのような老レスラー、その哀感。まことに見事な生き様を体現して見せてくれました。かつての美貌は確かに失われてしまったけれど、ああもうこれで俳優としてのキャリアを正当に評価されるのですね。M・ロークは女子供にしか人気が無いだの猫パンチがどうだの、悪口を一蹴することができて、私は胸が一杯です。G・グローブ授賞式の録画を観て、また泣こう。 [DVD(字幕)] 8点(2013-02-28 01:12:15) |
1595. カサノバ(2005)
セットも衣装もお金かけてしっかり作りこんである。そのわりに、と言ってはなんだけどお話はとってもライトなコメディ。ヒースのカサノバは優雅なチャラさを振りまいてなかなか魅力的だし、J・アイアンズが楽しそうに悪代官をこなしてる。「あ、あなたは・・!」と問われてシャキーン!と(そんな効果音は無いが聞こえた気が)こちらを向く目線の切り方とか、意外と喜劇の心得ある方なのですね。ただ、シエナ・ミラーの首周りが太いのがすごく気になった。キーラ・ナイトレイとまでは言わなくてももう少しなんとかならないんだろうか。どうしても首周りの開くドレス姿必須の時代劇より、現代劇の方が彼女にはおすすめだ。大きなお世話ですね。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2013-02-21 01:16:36) |
1596. 赤い砂漠
意識が遠のきそうになるほどのストーリーのツマラナサと、心がどんどん滅入っていく究極に寂しい画。汚染された川に鉄錆の浮いた船体、蒸気を上げる石油コンビナートのパイプ。誰にも笑顔が無くて、なんかもう勘弁してくださいと言いたくなるくらい心が寒いよ。にも関わらずこの映画が強烈な印象を残すのは、モニカ・ヴィッティがいるから。モニカが綺麗で、コートが素敵で似合っていて、脚のラインが見事で、髪形が古くさくなくて、声も表情も全部とんでもなく美しいので最後まで観れた。イタリアの至宝とは彼女のことかしら。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2013-02-21 00:55:10) |
1597. ミシシッピー・バーニング
FBIの描き方が史実と違う、という指摘がたくさんあってちょっとしゅん、となってしまったけれど、それでもなおこの映画の訴える問題とか憤りはストレートに伝わるし、遠い島国でのほほんと暮らす私の脳髄に一撃を喰らわした勢いを減殺するものではないと思う。差別意識に染まった人間の底知れない業の深さが恐ろしいし、一方でG・ハックマンの憤怒の形相には甚だしく説得力があり、「暴力は良くない」というスタンスだったW・デフォーも後半は止めはしない。1964年に何があったのか、この映画によって私の記憶に刻まれた。本当に恐ろしい思いをした映画だった。 [ビデオ(字幕)] 8点(2013-02-21 00:40:25) |
1598. キューティ・ブロンド
《ネタバレ》 お金があって、容姿にも(そこそこ)恵まれて何不自由なく育ったお嬢さんって、悪意から守られて生きてきた分、ごくまれに意地悪成分の少ない性格に仕上がることがあるのですよね。それがエル。この単純明快な天然お嬢さんに扮するはR・ウィザースプーンというとこに制作の絶妙なセンスを感じる。美人すぎても残念すぎてもはまらないですから。美形というよりは愛嬌のある顔を、ということでしょう。エルの魅力が炸裂しているのは、ヘアーサロンで先のどん詰まった中年のオバサンとも仲良くなってしまえるところ。同年代の女たちは(彼女にとっておそらく初めての)イジワル揃い。そこで萎れず、アンテナに入ってきた者たちを分けなく受け入れる懐の広さ。観てる側も、初めは呆れていたのがいつの間にかエルを好きになっている、この心地よさが魅力です。でも仮装パーティと信じて行ったとしてもあれをチョイスするかね・・ [CS・衛星(字幕)] 7点(2013-02-18 01:12:58)(良:1票) |
1599. 真珠の耳飾りの少女
下働き顔のS・ヨハンソンが役に最強にはまっていて、色白の顔が窓からの光線により、それこそ絵画そのままに浮かび上がる映像が全編にわたって美しい。フェルメールと彼女の間に表立っての恋愛的行為は起こらない。起こらないけれども、アーティストと、そのアートを理解する者との心の絡みが、それはそれは激しく展開しているのです。この二人の近くにいたら、必ず当てられます。お話の淡々とした按配と、17世紀オランダの古く情緒ある風景がぴったりとマッチして中世を旅してきた気持ちになりました。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2013-02-18 00:55:51) |
1600. シン・シティ
《ネタバレ》 血が吹き飛び、肉がちぎれるスプラッタ・アトラクションへようこそ。いったんトロッコに乗ってしまったら、眼前で繰り広がるのは猟奇と暴力と、人それぞれの正義感。まあ人が死ぬ死ぬ。しかしアトラクションなのでほとんど痛みは感じない。額からナイフの柄を飛び出させたまましゃべるデル・トロに至ってはこれぞコミック。あまりのシュールさにムゴさ感覚は完全に吹っ飛ぶ。初見では全く判別できないM・ロークは暗がりでもっそり生き生きしているし、B・ウィリスは一生懸命、デル・トロは余裕の不良警官、J・ハートネットはあれだけですか?きっとベタ尽くしの濃いページであろう原作コミックの画をスクリーンに見事に再現したねっとりした質感の美術が印象的。さて出口が来てトロッコから降りてみれば、まずまず料金の価値はあったなと思う。決して趣味が良いとは言えないけど。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2013-02-16 23:30:42) |