1. 魔女の宅急便(1989)
宮崎アニメの中で一番好きです。どのシーンにも無駄がなく、必然性が感じられるところは、「もののけ姫」以降の作品とは好対照です。脱線ですが、英語吹替版はいただけません。キキの性格が変わってしまったのとユーミンの歌が変わってしまったのはかなり痛いです。この辺りは、海外での大衆受けを狙うべきか、あくまでもオリジナルの作家性を守るべきか議論になりそうです。ちなみに海外でもコアなファンにはオリジナルの方が受けが良いです。 10点(2003-12-07 09:19:28) |
2. 欲望の翼
何度も観るほど好きな映画で、誰よりもこの映画の良さが判っていると思っていました。しかし実際にコメントを書こうとすると語るべき言葉を持ち合わせていないことに気づいて気持ちが沈んでしまいました。音楽が素晴らしいのは間違いないですが、音楽だけの映画と割り切れるものではありません。皮肉なことに、粗を探すといっぱい出てきます。レスリー・チャンが演じる主人公は身勝手で行動が突飛なため感情移入ができないし、足のない鳥の話だって生活力のないダメ男の妄想みたいで安っぽく見えるし。ウォン・カーウァイの出世作で「どうだ、俺のセンスはすごいだろ」という独り善がりの作風に思えます。でもセンスが本当にすごいので満点。 10点(2003-12-07 04:19:10) |
3. スター・トレック2/カーンの逆襲
《ネタバレ》 私の中では、今のところ人生最高の映画です。20回以上観ましたが、観るたびに新しい発見があります。 「コバヤシマル」や「多数の要求」をはじめとして、序盤から中盤に出てくる殆どの要素が伏線になっています。スポックの死も最後のカークの台詞も、複雑に絡み合った伏線上に浮かび上がってくるので、感動が増すのでしょう。さらに、TVシリーズの長い歴史のオマージュも取り入れているので、この映画で張られた伏線とダブルパンチで効いています。 終盤、カークと息子が話すシーンの中で、彼らの関係を考えると不自然な会話があります。息子がまるでスクリーンの前のカークファンの代弁者みたいな質問をするのですが、恐らくそれもニコラス・メイヤー監督の狙いの一つでしょう。 10点(2003-12-07 00:57:21) |
4. 機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編
《ネタバレ》 ファンの間ではこの映画を含めたファーストガンダムは不可侵ともいえる絶対的な存在です。そしてファーストガンダムを基準にして他のシリーズを「許せる」「許せない」で判断する風潮があります。例えば、Zは許せるけどZZは許せないと言った場合、「ファーストガンダムを基準して」という暗黙の了解あります。物語のほうは静かで厳かな幕開けから、サイド6、テキサスコロニー、ソロモンを経てア・バオア・クーで完結しますが、無駄がなく且つ緩急や静と動のバランスがとれており、とてもテレビ版を継ぎはぎしたとは思えません。さらに言えば、本来はア・バオア・クーではなくジオンの本拠地であるサイド3で完結する構想だったのを、テレビの低視聴率の影響で短縮した妥協の産物であるのに、この完成度は奇跡です。前2編の伏線は、アムロはじめホワイトベースクルーの成長にその効果が確認できます。特に、アムロの未熟さや軍紀を乱す子供っぽい行動を執拗に描いた効果はてきめんです。また、荒廃した地球の戦線を延々と、少々冗長に描いたことで、宇宙の開放感が強く感じられます。様々な角度からこの映画を論じることができますが、私は「アムロとシャアの果てしない喪失の物語」として論じようと思います。シャアは、生い立ちからして失うものが何もない場所からスタートしていますが、今編ではララアと自身のプライドを失って涙を流します。ララアに関しては失って初めて彼女への愛に気付いたのではないでしょうか。この喪失感からシャアは本来の宿願であるザビ家打倒とニュータイプによる世界の変革という目標軸を一旦見失いかけます。一方、アムロの喪失はシャア以上です。母との心の繋がりを失い、マチルダさんを失い、父は自分の行動が遠因となって正気を失い、運命の出会いだったララアを失い、あれほどアムロに想いを寄せていたフラウ・ボウはハヤトの元に走ります。喪失感が深まるのと対照的に、彼のニュータイプとしての能力は開花し、鬼神のようなその強さは前人未踏の領域に彼を引き上げ、そのことが孤独感をさらに深めます。ララアの「あなたには守るべきものがない」という趣旨の台詞は、深く深くアムロに突き刺さったはずです。エンディングでは、そんなシャアとアムロにせめてもの慈悲が提示されました。シャアは自分の手でキシリアを誅殺することで目的の一つを達成しました。そしてアムロは、喪失の果てに何を得たのでしょうか。 9点(2003-12-12 10:31:25)(良:3票) |
5. バグダッド・カフェ
最初のシーンでは、「オイオイ、こんなのがヒロイン?なわけないよね、勘弁してくれ」と思ったのですが、デブのおばちゃんが最後には魅力的に見えてしまうところがすごいです。こういう映画はハリウッドでは作れないでしょう。 9点(2003-12-08 01:47:37) |
6. GO NOW
最近のTVドラマにもこういうのありますよね。重度の障害を抱えつつも俗っぽい精神を隠さないというテーマ。すこし間違えれば陳腐になりがちな内容ですが、酒とサッカーという放蕩的イギリス労働階級の雰囲気がワサビのように効いていて、陳腐さを払拭しています。ロバート・カーライルとジュリエット・オーブリーのカップルは、女性のほうが体も大柄で、情けないやら微笑ましいやら複雑な印象を受けます。外見も内面も平凡で格好悪い主人公で正解です。公開当時も今もたいした話題になっていないですが、まさに掘り出し物を見つけた感じです。 9点(2003-12-07 21:23:10) |
7. トレインスポッティング
良質のブリティッシュロックとダイアンのつるっとした裸が印象に残りました。イギリス映画は、この手のテーマが多いですがその中では傑作だと思います。 9点(2003-12-07 21:07:37) |
8. イル・ポスティーノ
主演のマッシモ・トロイージの死を目前にしながらの鬼気迫る演技は注目に値します。惜しむらくは、スペイン語(イタリア語?)の詩を原語で理解できないことです。詩の翻訳は不可能なので、私は彼の詩の素晴らしさを1/10も理解していないと思うと悲しくなりました。 9点(2003-12-07 20:30:48) |
9. 砂の器
高校の時、社会科の先生が映画好きで、授業を潰してたまに映画を見せてくれました。その時に観た映画はどれも良かったのですが、この映画が一番です。 9点(2003-12-07 10:57:12) |
10. 十二人の怒れる男(1957)
高校の時の社会の先生が映画好きで、授業を潰して観させられました。この映画を観て、映画に対する考え方が変わりました。派手な演出や特撮なんて映画の本質ではなくて、発想と脚本と役者の演技が重要なんですね。 9点(2003-12-07 10:34:41) |
11. 紅の豚
豚を主人公にして、さらにその豚が森山周一郎の渋い声でカッコいい台詞をビシビシ決めてしまうなんて。この映画を観てアドリア海で飛行艇に乗りたいと思った人は私だけではないはずです。 9点(2003-12-07 09:45:15) |
12. ブエノスアイレス
「恋する惑星」、「天使の涙」とごった煮的なストーリーの作品が続いた後で、一本道で、少々退屈な映画に回帰しました。この映画、ストーリーを追おうと思うと退屈で眠ってしまう危険がありますが、当然ウォン・カーウァイ好きならそんなことはしないでしょう。音楽と雰囲気と主演二人のシリアス且つコミカルな演技を楽しめば良いと思います。同性愛を扱っている事も拍車をかけて、一見さんを受けつけない印象があります。 9点(2003-12-07 04:42:48) |
13. 恋する惑星
《ネタバレ》 テクニックとセンスとユーモアと小細工に徹底的に凝った作品です。しかも前作「欲望の翼」と違って登場人物に血が通っていてストーリーも楽しめます。大仕掛けとしては金城武主演の前編とフェイ・ウォン主演の後編を脈絡もなく接着してしまう斬新さが挙げられますが、全編に散りばめられた小さな仕掛けが見所でしょう。例えば、ぶらぶら揺れる受話器や、パイナップルの缶詰を食べ続ける金城武、何度も石鹸に語りかけるトニー・レオン。何度観ても新しい発見があるという意味では、この作品は映画史の中でも記念碑的だと思います。それとこの映画には、パイナップルの缶詰と一緒で、賞味期限があると思います。私が観たのが21歳の頃ですが、28歳の今の年齢で初めて観たらこれほど良いと思わなかったと思います。もちろん期限は精神年齢でカウントされます。 9点(2003-12-07 04:33:15) |
14. エイリアン
「遊星からの物体X」と双璧。設定の妙では「物体X」の勝ちですが、怖さでは「エイリアン」のほうが上かな。とにかく、カメラワークで怖い、静と動の対照で怖い、パニックで怖い、謎めいて怖い、救いがなくて怖い、意外な展開で怖い、逃げ場がなくて怖い。ホラー映画に必要な部分を殆ど備えている優等生です。一つ欠けている要素は「身近にありそうで怖い」ですが、まー宇宙の話だからしょうがないか。シガニー・ウィーバーが若くて綺麗だから十二分にカバーできてます。 8点(2004-01-26 23:25:20) |
15. U2/魂の叫び
「これは映画じゃない」という意見には、反論するすべを知りません。これはどこからどう見てもミュージックビデオです。でも劇場公開されているので、かろうじて映画と言うこともできます。さて内容ですが、U2の良い所が全て詰まっています。彼らの音楽のルーツを探る旅に合わせて曲が挿入されます。全曲素晴らしいですが、見所は何といっても「Where the streets have no name」です。オープニングからモノクロ映像が続いてこの曲のイントロに合わせてカラーに変わるシーンは、まさに鳥肌モノです。あと、個人的は「Bad」が良かったです。アルバムバージョンから大きく変更があるのですが、これに収録されているライブバージョンの方が断然訴求力があり、素晴らしいです。U2ファンはご存知だと思いますが、この映画(又は同名アルバム)を最後にU2は音楽的に大きく変質します。今までのメッセージ性の強い、ルーツに忠実なスタイルを完全に捨てて、まるでチープなポップスターを演じるようなアルバムを次々とリリースします。この映画(又はアルバム)を最後にU2に見切りをつけた人は多いと思います。実は私もその一人です。U2の集大成とも言えるこの映画を是非一人でも多くの音楽ファンに観てもらいたいものです。 8点(2004-01-19 08:57:28) |
16. シザーハンズ
この作品は、「雪はなぜ降るのか?」という問いに対する答えからはじまるところが良いんだと思います。これを観て2人の作家を連想しました。村上龍の小説「海の向こうで戦争が始まる」は、海の向こうに見える蜃気楼の町を肉化して醜悪な物語をスタートさせていますが、シザーハンズの展開はまさにそれのファンタジー版です。また、神話的な物語の展開はガルシア=マルケスを彷彿とさせます。で、何が言いたいかと言うと、つまりこれは文学です。そして、全ては感動的なラストシーンのために計算しつくされて流れて行きます。驚きと感動のラストは、「物語的」必然性に裏付けられています。 8点(2004-01-08 17:58:06) |
17. 犬神家の一族(1976)
「八つ墓村」と双璧。大仕掛けな謎と怨念、おぞましい殺害現場、異相の怪人、どれをとっても一級のサスペンスです。金田一シリーズは、和風ホラー的な要素をうまく使っているから面白いわけで、オカルト的な謎を名探偵が見事に理論的に説明づけていく過程にカタルシスを感じます。 8点(2003-12-15 11:01:08) |
18. ベティ・ブルー/愛と激情の日々
「愛とは見つめあうものではなく、お互いが同じ方向を見つめること」という趣旨の格言がありますが、この映画はその格言の向こうを張って更に内側に沈み込んでいく愛が描かれています。「こんなの愛じゃない」という意見はご尤もで、私も現実的には家に火をつけたところで見切って、こんな女とはさよならすると思いますが、内心その先を見てみたいと思う気持ちもあるので、この映画を気に入っているわけです。理性的な判断しか認められない人間には芸術は創作できません。太宰治は人間性が破綻していたし、高村光太郎は妻が破綻していたし。ゾルグはいい小説家になるでしょう。 8点(2003-12-14 13:20:19) |
19. トイ・ストーリー2
代表的な「前作以上に面白かった続編」だと思います。今回はウッディを人質役に仕立てて、他のキャラを前面に押し出すというツボを抑えた演出をしています。スタートレック、小説版の「リング」「らせん」「ループ」、三島由紀夫の「豊饒の海」でも実践されているとおり、主人公を代えるのは(今作では「代える」というほどのものではないですが)、世界観を活かしつつ新鮮な視点を提供するために効果的な手法です。前作でバズのフィギアを買った私ですが、今作を見てハム(ブタの貯金箱)とスリンキー(バネ犬)も追加購入したのは言うまでもありません。ん?端役キャラのおもちゃを売るための戦略だったのか、ディズニー。。。 8点(2003-12-11 02:24:49)(笑:1票) |
20. パルプ・フィクション
多くの人の映画に対する見方を変えた記念碑的な作品です。公開された年、私は大学1年生でしたが、この映画のポスターが貼ってある友人知人の部屋は数え切れないほどありました。この映画を賞賛する者はセンスがあり、良さが判らない者は大作映画やトレンディドラマに毒された俗物であるという行き過ぎた風潮さえありました。しかし、総制作費であったり、SFXの凄さであったり、豪華なキャスティングや感動的なストーリーといった紋切り型のアプローチを繰り返した当時(今もそうですが)の大作主義的映画の中にあって、「この映画こそ、俺達の映画だ」と思わせるシャープさと大胆さがあり、私も痛く感動したのは事実です。ビートルズ以前の音楽界では、金儲けの事しか頭にないレコード会社のプロデューサーが、作曲家に適当に綺麗なメロディを作らせて、毒のない歌詞をつけて、適当に歌唱力とルックスに秀でた歌手にそれを歌わせていました。「なにか違う」と納得のいかない若者も、他に選択肢がないので適当なポップソングを「これはいい歌だ」と自分に思い込ませながら聞いていました。そこにリバプール出身の薄汚い4人組が現れて、熱狂をもって迎えられたのは周知の事実です。ブームの規模は違えど全く同じ現象がこの映画をきっかけに起こり、コマーシャルベースで見捨てられがちだった個性派映画を求めて小さな映画館に若者が殺到しました。「単館系映画」というジャンルまで生まれました。(この映画が単館上映だったわけじゃないですけどね。)タランティーノが掘り起こして、ウォン・カーウァイが固めたこの流れのお陰で、良い映画を鑑賞できるチャンスが広がったのではないでしょうか。(そこまで言うなら10点つけろ、というツッコミは勘弁してくださいね。) 8点(2003-12-11 02:05:24)(良:1票) |