1. ザ・ベイ
《ネタバレ》 まあ良くある海洋モンスターものの変種バージョンといったところかな。海辺のスモールタウン、独立記念日というフェスティバル、予兆があっても楽観視して無策の首長、『JAWS』以来のお約束事をきっちり守っているので、その点では新鮮味はなし。唯一の工夫はB級低予算映画お得意のPOV形式で撮っているところだが、驚くべきことは監督がバリー・レビンソンだということ。『レインマン』のオスカー受賞監督が撮るような映画じゃない気がしますが、どうなんでしょうかね。考えてみるとたまたま最近観たロジャー・コーマンの『モンスター・パニック』というクソ映画とモンスターの種類が違うだけで展開はそっくりで、さすがに本作の方が丁寧に撮られていますね、そりゃ比べること自体が失礼ってもんですね(笑)。本作のモンスターはワラジムシの変種のような形態の寄生虫ということですが、成虫になったお姿はどう見てもゴキブリにしか見えない。こいつが大量発生する理屈は環境汚染による生態系破壊としているが、ステロイドを成長促進剤として使っている養鶏場から湾に流れ込んだ大量の鶏糞が原因(の一つ)とか、もっともらしいけどけっこう雑な設定です。モキュメンタリー形式で撮るならこういう細部に凝らないといけないんですよ。尺も短いし、暇つぶしにはちょうど良い映画としか言いようがないですね。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2025-01-16 21:38:14) |
2. マンディ 地獄のロード・ウォリアー
《ネタバレ》 ニコラス・ケイジが主演ということで『ゴーストライダー』みたいなノリのお話しかと思いきや、肝心のニコジーは冒頭にちょっと顔を出したと思ったら50分過ぎまでまったく登場しなくなっちゃうし、その間キチ〇イカルト集団の何の意味もない世迷い言を延々と聞かされる拷問みたいな展開。やっと再登場したニコジーボウガンやら手製の剣で嫁を焼き殺されて復讐に奮闘するわけですが、そもそもこの役は枯れてもオスカー俳優が演じるもんじゃないじゃないか?いやいやカルト教祖に負けない不気味さのこの主人公は、やっぱニコラス・ケイジじゃないと演じられないというかまさに適役だったのかなと最後には思い知らされました。彼の主演作の中でももっとも汚いんじゃないかと思う髭面で、殺した相手や自身の負った傷でもう人相も判らなくなるぐらいに血まみれ状態なんだからねえ。でも快作『ウィリーズ・ワンダーランド』のような吹っ切れた爽快感(?)はなくて、重低音の音楽を背景にしたレンズに赤フィルターをつけて撮ったような観ずらい映像で陰惨なストーリーを見せられるのは苦痛です。でもそんなヘンなストーリーでもところどころに味がある部分もあって、ニコジーが夢の中で観るアニメーションがなんか斬新な感じがしました。 この映画で一番耐性が試されたところ:チェダー・ゴブリンのチーズマカロニのCM、こんな気色悪いフェイクCMをわざわざ撮る監督はどうかしてるぜ!ちなみに監督は『カサンドラ・クロス』や『コブラ』を監督したジョージ・パン・コスマトスの息子だそうです。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2024-11-17 21:58:57) |
3. ふたりの女王 メアリーとエリザベス
《ネタバレ》 原題の通りでこの映画はスコットランド女王メアリーの物語で、イングランド女王エリザベスは言ってみれば狂言回しの様なストーリーテリングでした。ドロドロ・グチャグチャと言えばイングランドのチューダー朝のお家芸ですが、スコットランドのスチュアート朝も決して負けてはいませんね。スコットランド貴族たちの“裏切り御免!”ぶりは、皮肉ですけど観ていて清々しいほどです。なんといってもシアーシャ・ローナンの堂々たるメアリー女王演技には、あの少女がここまで立派になって…と感無量です。マーゴット・ロビーがエリザベス一世を演じるわけですが、天然痘を患って顔にあばたが残ったという割と知られた史実通りのメイクを再現しているところは、エリザベス女王が登場する映画で初めて観たような気がします。まあこれは、美貌でメアリーには負けるというエリザベスのコンプレックスを強調する意味合いがあるんだろうな。この映画ではメアリーがイングランドに亡命するまでのいわば彼女の人生の前半部がメインで、夫ダーンリー卿の爆殺の黒幕と疑われる根拠となった“小箱の中の秘密”事件や亡命後の数々の反乱計画などはスルーとなり、かなりメアリーに感情移入させる様な脚本になっています。あと、なぜかエリザベスの側近の一人が黒人、侍女の一人がアジア系の女優をキャスティングしているところがなんか奇妙。こういう物語上はあり得ない人種の俳優をあえて使う映画は他にも観た気がしますが、これも最近うるさいポリコレの影響なんでしょうか?そしてクライマックスでの、二人の女王は顔を合わせることがなかったという史実を超えたフィクションの会見、あの何枚ものベールをかき分けてついに果たした対面には二人の女としてのバチバチ感が緊張感を作っていました。 けっきょくエリザベスでチューダー朝は断絶してメアリーの息子ジェームズがイングランドの王になるという結末には、歴史の皮肉を感じさせるものがあります。メアリーのエリザベスへの最期の言葉は「あなたはいつか、私の流した血を思い起こすことでしょう」だったそうですが、苦悩の果てに死の間際に次王に指名したのがメアリーの血を引くジェームズだったのも皮肉です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-10-22 22:55:54) |
4. 運び屋
《ネタバレ》 クリント・イーストウッドが闇バイトに応募して麻薬の運び屋になる!いやはや、最初にこの衝撃のプロットを聞いた時には、あのハリウッド・レジェンドが演じるような役じゃないだろって思いましたよ。実話に(あくまで)ヒントを得た脚本なんだそうですが、実際に逮捕された老人とはデイリリー園芸家だったことぐらいが共通点、この老人は逮捕されるまで20年ぐらい麻薬組織のために働き、しかも自分から組織に売り込んで運び屋稼業を始めたらしいです。逮捕されたときは90歳で認知症が進行しており、受けた刑罰は懲役三年で高齢が考慮されて一年で仮釈放されたそうです。言ってみればかなりのワルだったみたいで、この映画のアール老人はかなりイーストウッドに合わせた感情移入できるキャラになっています、まあ“事実にヒントを得たフィクション”なんだから全然OKですけどね。 とはいえこのアール老人は運び屋として得た報酬でまず差し押さえられた農場を買戻し、それからバリバリの新車のピックアップ・トラックを購入して自分が通っていた火事で焼けた退役軍人クラブの再建に寄付、挙句の果てにはジジイのくせに若い女を引っ張りこんでワン・ナイト・ラブを愉しむ、けっこうやりたい放題です。確かに孫娘の学資を援助したりもしましたが、絶縁状態の元妻や娘と違って彼を慕っていたからで、けっこう自己中な生活をエンジョイしていた感があります。このアールという男には、かなり自由奔放な私生活を送ってきたイーストウッドの内省が込められているのかもしれません。しかし日本のトクリュウが運営する闇バイトとは違い相手はメキシコのカルテル、ヘンな動きをすれば見逃してくれるはずがありません。運送仕事をすっぽかして瀕死の元妻のもとに駆けつけたんですから、組織に見つけられた時点で抹殺されてしまうのが当然だと思いますが、そこから逮捕されるまでの展開はフィクションとは言えちょっと甘い脚本だったんじゃないかな。アールと接する組織の下っ端たちが戸惑いながらも彼に親近感を持つようになってゆくところは、イーストウッドの魅力を堪能できますね。 明らかにイーストウッドに残された時間は少なくなっているのは悲しい現実ですけど、アールが法廷で家族に言う「時間がすべてだった、何でも買えるのに時間だけは買えなかった」というセリフには、イーストウッドの心情が現れていたのではと思います。闇バイトに応募しようとしている若者には、本作を観るチャンスがあるといいよな… [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-10-07 22:54:18)(良:1票) |
5. ジョジョ・ラビット
《ネタバレ》 ビートルズで始まりデヴィッド・ボウイで閉める、第三帝国の社会生活という微妙かつ一歩間違えれば炎上必至のテーマなのにポップながらも重いテーマはきっちりと押さえている、これほど鮮やかな脚本が書けるこの監督はやはり天才なのかもしれない。考えてもみてください、太平洋戦争中の大日本帝国の市民生活をポップな基調でストーリーテリングする映画なんて、あったら面白いとは思うけどそういう発想も実現させる企画力も今の日本映画人は誰も持っていないんじゃないかな。 この映画で描かれるドイツ国内の生活は、史実とファンタジックな要素が絶妙なバランスでミックスされているのが特徴です。ドイツのどこの地方が舞台とされているのかは判らんが、屋外のシーンは終盤までは穏やかな晴天ばかりというのも興味深いところです。そこで描かれているのは平穏な市民生活で、史実でもナチスは革命が起きた第一次大戦敗戦のトラウマがあり、戦時中も国民にはいわゆる“パンとサーカス”が途切れないようにすることには熱心で、フランスやポーランドそしてソ連から略奪した食料や物資を惜しげもなく国民に供給しており、そういう意味でもドイツの一般国民にもある種の戦争責任があることは否めないんじゃないでしょうか。 主人公のジョジョ少年を観てるとどうしても『ブリキの太鼓』のオスカルを思い出してしまいますが、もちろんオスカルの様な怪物的な存在ではなく、歳が離れたユダヤ人少女にだんだんと惹かれてゆく演技には説得力を感じました。この映画では靴と靴紐が伏線の一つなんですが、広場で吊るされたスカヨハの脚と靴だけを見せてジョジョが母親の死に対面するシーンには、胸が締め付けられかつ鳥肌が立ちました。監督自身が演じたアドルフは明らかにドイツ国民を操ったナチス・イデオロギーの擬人化なんですけど、ストーリー上はあまり前面に出てこなかったところは良かったと思います。サム・ロックウェルのゲイの大尉もいい味出して泣かせてくれました。なんか『戦場のピアニスト』のトーマス・クレッチマンみたいな役柄でしたが、このゲイ大尉の方がはるかに印象に残ります。そしてビンタの後のジョジョとエルサのダンス、こういう撮り方ができる監督の才能に拍手喝采です。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2024-10-04 23:10:32)(良:1票) |
6. ジェイコブス・ラダー(2019)
《ネタバレ》 あのカルト映画のリメイクなんだけど、海外のサイトRotten Tomatoesなどではもう酷評の嵐、『ウィッカーマン』を挙げるまでもなくカルト・ホラーのリメイクは得てしてこき下ろされがちなのは判っているが、気を引き締めて鑑賞しました。ちなみにオリジナルはずいぶん前に観ているけど、オチしか覚えてなくてあまりイイ印象は残っていなかったなあ。 ぶっちゃけるとリメイクと言いながらもかなり設定などは変えられていて、オチがある意味オリジナルとは全然違うというのが不評の浴びる要因だったのかもしれません。主人公が従軍するのはもちろんアフガン戦争にアップデートされており、主人公自体とその家族も黒人に変えられているのが今風なのかな。オリジナルと大いに違うところは主人公ジェイコブと兄アイザックの物語というストーリーテリングであるところでしょう。掴みは記憶の中では戦死したはずの兄が生きていて再会するけどヤク漬けになっていた、これはスピリチュアルに走る展開なのかと思いきや、オリジナルでのヤク漬け実験を踏襲しつつも終盤では驚きの展開、これはちょっと意表を衝かれましたね。個人的にはオリジナルに拘らなければ普通に満足できるストーリーかなと思います。 ジェイコブやアイザックをはじめこの主人公家族がみな聖書にちなんだ名前なのはオリジナル通りですが、このオチでは前作のオチを暗示していたような『ジェイコブス・ラダー』というタイトルが意味がなくなってしまった感はありました。前作のラストにあったような“魂の救い”の様な要素は観られず、本作の方がダウナ―度は高めだったと思います。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-09-30 23:25:16) |
7. 記憶にございません!
《ネタバレ》 三谷幸喜の映画は久しぶりに観たけど、こんなに毒味がない作風だったとはちょっとがっかりでした。世間から嫌われている総理大臣が記憶喪失になったのを機会にイイ政治家に生まれ変わるというプロットは、すでにご指摘のある方もいる通り『チャップリンの独裁者』にルーツがあるストーリーですでに同じようなプロットの映画も存在するが、『独裁者』もだがたいていは政治家とそっくりさんが入れ替わるパターンで、本人が記憶喪失で改心してしまうのは珍しいかな。較べると『独裁者』には失礼かもしれないけど、ラストに主人公の大演説があるというのも確かに似ている。でも同じ題材ならやはり宮藤官九郎が監督したほうが面白かっただろうな、と感じざるを得ないところです、なんか弾け方が足りないんだよな。 まあリアル感が薄いメルヘンチックなお話なので目くじら立てたら野暮なのかもしれんが、あんだけ人格が変わってしまったら違和感が強すぎて世間はともかく官房長官以下の閣僚には気づかれそうなもんだけどね。政治のことは全部記憶が喪失してるのに子供のころのことは覚えているというのも、なんか都合よすぎじゃないかなこの脚本は。あとこの映画が製作されたのが19年で22年のあの事件のもちろん前ですが、現職の総理が石を投げつけられて負傷したり演説中にパチンコで狙われるなんて展開は、現在ではもうシャレにならずエンタメ化なんてもう無理でしょう。まさに“事実は小説よりも奇なり”です。 想像以上に光っていたのは女優陣で、中でも小池栄子はさすがの芸達者でした。私には前半のTV放送で突如出演する羽目になって無表情でヘンなダンスするところがツボでした、この映画で唯一笑わせていただけたシーンです。あと妙にバタ臭いニュースキャスター、まさかあれが有働由美子だったとは観てるときには全然気づきませんでした、まさにサプライズ! 不思議だったこと:なぜか総理以下の登場人物がみなスマホじゃなくてガラケーを使っていたこと、政府関係者だけかと思ったらフリージャーナリスト役の佐藤浩市も明らかにガラケーでした、90年代あたりが時代設定なら判るけどねえ… [CS・衛星(邦画)] 5点(2024-09-21 22:33:17) |
8. 十三人の刺客(2010)
《ネタバレ》 オリジナルが持つ無常観は微塵もないけれど、『七人の侍』的な要素というか戦闘・チャンバラのシークエンスを前面に押し出したリメイクと言えるでしょう。この江戸版テルモピュライの戦いともとれるシチュエーションで、やはり重要となるのは決戦の地である落合宿の要塞化であることは戦術の基本であり、隘路に大軍を入り込ませて戦力を分散させるというのは合理的です。本作ではこの落合宿要塞化の描写に力を入れているけど、あんな短時間であそこまでの仕掛けを造るというのは、ちょっと嘘くさくなり過ぎの感もあります。まあそこはとかくやり過ぎるところが持ち味の三池崇史が監督ですからね、サービス精神が過剰になるのは必然でしょう。 とにかくこの映画は、稲垣吾郎のサイコパス殿様がおいしいところを全部持って行ってしまったと言えるでしょう。こんだけ狂っていれば排除されるのも当然と言えば当然、この殿様のキャラ付けこそがオリジナルになかった要素で、あまりに酷いので鬼頭半兵衛=市村正親が主君を守ろうとすること自体が悪事の片棒を担いでいるような微妙な感じになってしまいます。対する島田新左衛門=役所広司は相変わらずの飄々とした演技、とても大博打に打って出る凄腕武士には見えないんだよな。自分ははっきり言ってミスキャストだと思うんだが、2010年以降は彼が主役という日本映画が多すぎるとも思います。俳優にはそれぞれ演技パターンに応じた役柄があるもので、大物俳優の層が薄いというよりもぶっちゃけ役所の名前を出せば企画が通りやすいという風潮があるのかもしれない。彼の演技の最大の難点はとにかくセリフが一本調子でなおかつ聞き取りにくいというところで、映画館ではどうだったかは判りませんが普通にTVで視聴するとまったく聞き取れずヘッドホン着用が必須でした。まあ他の俳優たちのセリフも聞き取りにくかったのは共通で、これはやはり監督の責任でしょう。 けっこうエグい場面が多かったが、戦闘シーンでは意外と血しぶき描写が少なかった印象もあります。いちばん?だったのは伊勢谷友介の復活で、「こいつは化け物か…」と絶句してしまいました。まあこういうところが三池崇史らしいと言えますけどね。 地上波では絶対放送できない本作に、よくTV朝日が出資したもんだ。これもまだSMAPだった稲垣吾郎が出演するのであの事務所に対する忖度が働いたのか、はたまたプロデューサーに騙されたのか(笑)。 [CS・衛星(邦画)] 7点(2024-09-03 23:35:28) |
9. トランボ/ハリウッドに最も嫌われた男
《ネタバレ》 二度もオスカー受賞したのに、どちらも借名や架空名義にするしかなくて自身の名前を出すことが出来なかったダルトン・トランボ、ある意味この映画は“名前を消される”“社会から存在を否定される”ことの恐怖が主題だった様な気がしました。トランボは言わずと知れた“ハリウッド・テン”のリーダー格だった人、実際にも共産党員だったけどただの一般党員でとっくに離党しており、別に過激な政治活動をしていたわけでもなく俗に言うところのリベラルという分類に当てはまるんじゃないかな。このいわゆる赤狩りの恐ろしいというか雑なところは、議会の公聴会の様な衆知の場で自分が党員だったことを告白しなければならないところ。FBIに監視はされていたけど非合法だったわけではなくて、証言を拒否すると偽証したわけではないのに議会侮辱罪なるヘンな法律でムショにぶち込まれるという恐ろしい話しです。実際にスパイ活動をしていたというなら話は別だけど、スターリン時代のソ連だって北朝鮮だって頭の中で考えるのは自由で、止めさせることは不可能でしょ。 監督があの世紀のおバカ映画『オースティン・パワーズ』シリーズのジェイ・ローチなんでちょっと訝しかったんだが、観てみると実に見応えがある正統的な映画でした。ブライアン・クラストンの演技は素晴らしくて、実際はどうだったんだが知らないがトランボの誠実な人柄が印象に残ります。非米活動委員会側の映画人たちの陰険さはたまらなく不快感を催すけど、中でも“蛇の様に嫌らしい女”としか言いようがないヘッダ・ホッパーを演じたヘレン・ミレンがこれまた強烈。こんな憎まれ役でも軽々と演じてしまうのが彼女の凄いところです。ロジャー・コーマンと並ぶ50年代B級ムービーの帝王であるキング兄弟、その兄であるフランクを演じたジョン・グッドマンには笑っちゃいました、だってこの人は過去にも『マチネー』や『アルゴ』で映画プロデューサーを演じていて、もう太っ腹の映画プロデューサーは彼の専売特許のようです。そんなクズ映画を量産していた彼が、トランボの書いた『黒い牡牛』でオスカー受賞してしまったのは皮肉としか言いようがないですね。そして『スパルタカス』製作時のカーク・ダグラスのカッコよさにも惚れ惚れしましたね。できればダグラスがトランボの名前を脚本クレジットに出すべきか悩んだときに、キューブリックが「だったら俺の名前にすりゃいいじゃん」と提案して来て「スタンリーよ、君は才能があるけど実にクソったれな奴だ!」と激怒して言い返したというエピソードも入れて欲しかったな。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2024-07-06 23:21:03) |
10. イコライザー2
《ネタバレ》 前作を観たのは5年前、細かい設定などはすっかり忘却していましたが、たしかホームセンターの店員だったデンゼル・ワシントンはLyftの配車サービスの運転手が世を忍ぶ姿なんですね。この種のサービスは日本では認可されていないんのでいまいちピント来ないけど、Uberのタクシー版というイメージなんでしょうね。この配車サービスの運転手という設定はけっこうストーリーでは重要な要素で、Lyftがスポンサーになっているのかもしれませんね。デンゼル・ワシントンも前作の仕事人的な活躍ではなくて旧友メリッサ・レオ殺害に対する復讐がメインになっていますが、ホームセンター店員の時の様なトリッキーな殺しの技が無くて、なんか物足りなかったです。誘拐された少女の救出や絵描き志望の黒人少年を善導したりしていますがなんかとってつけた感があって、これじゃ“イコライザー”と称する意味が薄いんじゃないかな。でも、最近はトム・クルーズやマット・デイモンなどが元凄腕エージェントとして活躍するシリーズものが多い感じがするけど、やっぱオスカー俳優であるデンゼル・ワシントンが演じると、ストーリーは大したことなくてもなんか深みを感じてしまいます。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-06-10 22:23:42)(良:1票) |
11. グレイトフルデッド
《ネタバレ》 そうですね、確かにこの作品には園子温風味がありますね、それも暴走を抑え気味で撮った園子温映画って感じでしょうか。キリスト教が陰のモチーフであるところも園子温の作風に繋がるところがありますが、彼なら後半の爺さんとヒロインの激闘はもっとハチャメチャになることは間違いなしでしょう。正直言って感情移入できる登場キャラは皆無だしストーリーも暗くて後味は最悪ですが、なんか刺さるものがあったのは確かです。 10年前の映画ですけど、キャスト・スタッフの中で三人のキーマンが現在に繋がっている気がします。まずは監督の内田英治、10年前はまあ駆け出しに毛が生えた存在という感じでしたが、その後に力量を発揮してゆきついには『ミッドナイトスワン』で絶賛されることになりましたね。本作では脚本も彼が手掛けているがストーリーは自分には?だったけど、この独特の間の撮り方は好みです。次はヒロイン(なのかな?)役の瀧内公美、この役はオーディションで選ばれた女優デビュー作でしたがスターダスト所属ながらも脱ぎまで見せる根性を見せてくれます。彼女も順調にキャリアを積み、本年にはNHK大河ドラマにも出演しています。今後が愉しみですね。そして忘れてはいけないのは、プロデューサーも務めた笹野高史の殺される息子を演じた木下ほうか、最近文春に悪事が暴露されて警察沙汰にはならなかったけど芸能界からは追放状態、もうTVや映画に出演することはないでしょうね。プロデューサーだったことも災いしたのか本作の公式HPは存在しているけど閲覧不可能になっている、やっぱ本作自体も今後はCSでも放送が難しいのかもしれません。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2024-06-07 23:01:09) |
12. ファイティング・ダディ 怒りの除雪車
《ネタバレ》 リメイク版ではリーアム・ニーソンが起用されているそうだが、まさに北欧に生まれたリーアム・ニーソンともいうべき男ステラン・スカルスガルド。ぞのいかつい容貌には惚れ惚れさせられてしまいます、そういや本作では一切笑顔というか緩んだ表情を見せませんでしたね。まさにバイキング子孫の北欧男という感じなんですが、最近売り出し中の息子のビル・スカルスガルドが親父とは似ても似つかないラテン系の顔なのが不思議。 私が感じたのは、監督のこの映画での撮り方は北野武の風味が強いなということ。たしかにギャング同士の会話などにはタランティーノ風味もあるかもしれませんけど、場面転換や遠景に拘りを感じさせる景色の見せ方などは、北野武が撮ったと言っても違和感がないんじゃないですか。劇中で死人が出るたびに入る十字架と死者の名前のカットも、実にシュールで雰囲気があったなと思います。言われてみると「そうかな?」と納得はしますが、個人的にはこの映画が観終わるまでコメディだとは感じませんでした。でも観たときにはちょっと理解できなかったラストは、コメディとして観ればとてつもなくシュールなセンスですよね。 ノルウェーというととても民主的で平和な国というイメージがありましたが、当たり前ですがノルウェーにもギャングや反社がいるんですね、おまけにセルビア人マフィアも。あとノルウェー人がデンマーク人を嫌っていることも判りました(笑)。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2024-04-15 21:59:09) |
13. 300 <スリーハンドレッド> ~帝国の進撃~
《ネタバレ》 テルモピュライの戦いの後日談だと思いきや、ほぼ同時進行していたアケメネス朝ペルシャのギリシャ侵攻がモチーフになっているんですね。今回はアテナイのテミストクレスがヒーローとなるわけですが、前作のレオニダス以上に筋肉バカぶりが凄まじい。史実に寄ればテミストクレスは戦略家というよりも権謀術数に長けた政治家と言うタイプで、後日にはアテナイから追放されてなんとアケメネス朝に亡命して晩節を汚した人物。ただひたすらにギリシャと自由を守らんと奮闘する姿は、あまりに歴史上の人物を聖人化していてドン引きします。製作者がなんと言い繕うとしても、この二作は文明の衝突をスプラッター系エンタメとしているに過ぎません。「ギリシャ文明ってそこまで神聖視して崇めるものなのか?」ていうのが、自分の率直な感想です。まるでエイリアンの様な描かれ方ですけど、アケメネス朝ペルシャだって高度なオリエント文明の一つだし、ギリシャの都市国家群だって、ギリシャ以外の土地をバルバロイと蔑み過酷な奴隷制度にあぐらをかいた挙句にポリス同士で殺し合いを繰り返して滅びちゃったじゃないですか。こういう欧米人の歴史感には、どうにもついてゆけないところがあります。 筋肉バカ・テミストクレスのお株を奪ってしまったのは、エヴァ・グリーン=アルテシミアの強烈なキャラであることは間違いないでしょう。あの視線の凄みには圧倒されます。キャラは盛っているんでしょうが、実際にサラミスで指揮をとったカリアのアルテシミア一世がモデルなんでしょうね。首を狩りまくるしテミストクレスとは乳出しでHしちゃう、もう唖然・呆然でございました。最後にはレオニダスの王妃=レナ・へディまで参戦して来て斬りまくるし、なんかいい所をこの二大猛女が持って行ってしまった感はあります。しかしこの海戦のシークエンスのスプラッター度はかなりのものでした。まあスパルタ船の参戦が雌雄を決したというのは、他のサラミス海戦の描写を含めてこれまたモリモリですけどね。 [CS・衛星(吹替)] 5点(2024-03-20 23:06:07) |
14. ランナーランナー
《ネタバレ》 優秀な一流大学生が頭脳を活かしてギャンブルの世界で活躍するというプロットのお話しは以前に観たことがあるけど、この映画ではポーカーもネット・カジノも主人公の単なる背景にしか過ぎず、この手の映画に付き物のコン・ゲーム的なおもしろさは期待しない方が良いです。テンポが良いのはイイとしても、ベン・アフレックの運営するネット・カジノの詐欺手口がどういうものなのかがさっぱり判らないのはこの映画の大弱点です。ジャスティン・テインバーレイクが演じる主人公も切れ者という感じが全くないし、ベン・アフレックに仕える過程もまるで『ラスト・キング・オブ・スコットランド』のアミンに魅了されるジェームズ・マカヴォイみたいな感じ、だけど肝心のベン・アフレックにカリスマ性が皆無なので全体的に薄っぺらな印象になっちゃうんだよね。ぶっちゃければ、ベン・アフレックはミスキャストだったという結論になりますかな。まあ暇つぶしにはちょうど良い尺だと思います。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2024-03-14 22:18:47) |
15. ガンズ・アキンボ
《ネタバレ》 死体役や変な悪役など最近おかしなキャラを演じることが多いダニエル・ラドクリフ、今回は両手にハンドガンを縫い付けられたシザーハンズならぬピストル・ハンズとなってしまいました。“なんでこうなるの?”という無茶苦茶なプロットだが、スキズムなる殺し合いタイマン試合をリアルタイムでネット中継サイトに悪口投稿したら、タトゥーまみれの主催者を激怒させて拉致され人体改造されて試合に無理やり出場させられたというわけです。まあなんか無理くり納得させてくれそうな設定だけど、このスキズム自体が最近日本でも物議をかもしているブレイキングダウンを連想させてくれて、なんかリアル感があります。ラドクリフ君が両手の銃を指代わりにせざるを得ず四苦八苦するところは笑えるが、掌に銃が文字通り釘づけにしただけの雑な改造は観るからに痛そう。対戦相手のこれまたタトゥーだらけの女・ニックスと協力するようになるだろうなって想像つきますが、彼女があんな最期を迎えるとはちょっと予想外でした。平和主義者であるラドクリフ君は基本として逃げ回るだけですけど、ニックスの方は多人数の敵の中に飛び込んでいって全部血祭りにしてしまう、爽快感はあるけどリアリティ無さすぎじゃね?前半のコメディ調がだんだん薄れてゆきシリアスになっちゃうのは、スピード感も失速してしまい残念でした。ラストで「これはラドクリフ君の妄想でした」という夢オチじゃなかっただけマシかな。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2024-03-11 23:07:38) |
16. テリファー
《ネタバレ》 久方ぶりに吹っ切れたスプラッター映画を観た気がします。これは免疫のある人でもピエロ恐怖症を患うことは間違いなし、劇中で一言も発しないピエロがただただ人を惨殺しまくるだけの映画ですからねえ。このピエロの造形がまた凄くて、とくに印象に残ったのが今まで観たことない鋭利な鷲鼻、これは演じたデヴィッド・ハワード・ソーントンの素顔を見ると特殊メイクだったことが判りましたけどね。彼は演じた感想としてこのピエロを“邪悪なMrビーン”だと評していますが、そんなこと聞くとMrビーンがサイコキラーになって殺しまくる映画を思わず想像してしまいました(笑)。その殺しの手口がまたエグくて最初に出てくる生首ジャック・オー・ランタンなんて可愛いもの、まさか古代中華で流行ったというのこぎり裂きまで映像で再現するなんて、こちとらの耐性を越えています。こういう拷問系スラッシャーはおフランスのお家芸と思ってましたが、完全に上を行っています。タラとドーンそしてタラの姉ヴィクトリアがメインの犠牲者ですけど、死亡フラグが立ちまくりのドーンはともかくとしてタラかヴィクトリアが反撃してピエロを倒すというのが普通のパターンなのに、見事に肩透かしを喰らわせてくれるバッド・エンドでした。まあピエロ自体がスピリチュアルな存在みたいですから、何をやってもムダだったというわけです。 不潔極まりない場所で延々と血まみれの映像を見せつけてくれるので普通の感覚では迷わず0点が妥当評価でしょうが、アート・ザ・クラウンという突き抜けたキャラには2点ぐらい献上しても良いかなと思う次第です。続編も製作され最近はPart3まで公開されているそうですが、果たして自分は観れるだけの耐性があるのかは自信がないです。 [CS・衛星(字幕)] 2点(2024-02-02 21:39:36) |
17. バッド・ジーニアス 危険な天才たち
《ネタバレ》 貴方は学生時代にカンニングをしたことがありますか?私はあります。でも、カンニングをビジネス化して大金を稼ぐなんて発想は思いつくわけもなく、現代はITテクノロジーがそれを可能にしてしまったわけだけど、どんなことでも金儲けの手段になるなら躊躇しないという世界になってしまったという事なんでしょう。まあこの映画のタイの高校生が使う手段はスマホなんだけど、あくまで情報伝達ツールであるわけで解答をデータに落とし込む手口はまさに悪知恵の極致と言えるもので、こうやって考えるといくらAIが発達しても人間の悪知恵の方が一枚上を行くんじゃないでしょうか。 タイの映画を観たのはたぶんこれが初なんだけど、いやはやいきなり凄い傑作にぶち当たりました。“バンコクの蒼井優”みたいな感じの舌を噛みそうでとても音読みできそうもない名前の主演女優、劇中で喜怒哀楽をほとんど見せない強烈な演技を見せてくれますが、実はファッションモデルで演技経験はゼロというのは驚き。彼女とペアでSTICに挑むバンク君が母子家庭、父子家庭の主人公とは左右対称みたいな環境で、二人を利用して試験突破を図るカップルはブルジョア家庭というところはちょっとありきたりな設定と言えなくもないけど、このバカップルをけっこうコミカルな存在としているのは良かったです。とにかく後半のSTIC試験のシークエンスでのサスペンスとハラハラドキドキは半端ない、まさに手に汗握るとはこういうことですな。たかがカンニングがここまでスリリングなストーリーになるとは、予想外でした。生真面目なキャラと思っていたバンク君が、ラストではふてぶてしいカネの亡者みたいになってしまうのは、自分にはまったく思いもよらない展開でした。邦画なら絶対に二人を恋仲にするラブコメみたいになるのが必定、こういうシビアな幕の閉め方を少しは見習ったらいいのにねえ。でもいちばんいい味出してたのは、リンのお父さんであったことは間違いなしでしょう。名前が出てこないけど、この人とそっくりな俳優が日本にいますよね、誰だったかな? [CS・衛星(字幕)] 9点(2024-01-22 22:06:59)(良:1票) |
18. LIFE!(2013)
《ネタバレ》 『虹を掴む男』のリメイクかと思ったら全然違うストーリーでした。もうこれは完全に紙媒体のLIFE紙の廃刊という実際の出来事をネタにした脚本で、ウェブ版に移行する際の社内リストラがけっこう赤裸々に描かれていて、買収先の企業が良く許容したなというレベルです。『朝日ジャーナル』や『週刊朝日』の休刊の内部事情をえげつなく映画化することを朝日新聞が大目に見るなんて、日本じゃ到底考えられないことです。前半のベン・スティラーの妄想は確かに派手にCGを使っているので判りやすいのですが、ショーンを追いかけてグリーンランドなどで冒険するところは妄想に入るところが曖昧で、自分は観終わるまであの冒険はスティラーのファンタジーとしての実際の活動だと思ってましたよ、まあ映画なんだからそれもアリでしょう。冒頭から“ショーンを捜して”というストーリー展開なので「ショーンって誰なんだろう?」という興味を否が応でも観客に持たせてくれますが、それがショーン・ペンだと明かされるところでは「なんだ、そのまんまじゃん」と苦笑してしまいました。とは言っても冒険パートでの雄大なロケ映像の数々、これだけでもこの映画を観る価値はアリでしょう。まだまだ元気そうなシャーリー・マクレーンを観れたのも、嬉しかったです。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-01-19 22:26:13) |
19. ロボコップ(2014)
《ネタバレ》 全然違う製作陣だったけど『トータル・リコール』のリメイクが予想通りの出来だったので、しょうじき全然期待はしてませんでした。製作会社のロゴを観ればチャイナマネーが注入されていることは明白でしたが、オムニ社の生産拠点がもろ中国本土に置かれているという設定には、ちょっと頭がクラクラしてしまいました。という開始冒頭での懸念はその後も尾を引きましたが、けっこう真面目に撮られていることは確認できます。 オリジナルの傑作『ロボコップ』はなんせヴァーホーヴェンが監督でしたからグロ要素とデフォルメされたブラックセンスが満載でしたが、このリメイクはロボコップ化されたマーフィーの物語に重点が置かれた脚本で、荒唐無稽さは極力おさえられたストーリーテリングだったと思います。今作も悪の根源は当然オムニ社ですが、デトロイト市を乗っ取っているようなぶっ飛んだ存在ではなく、連邦議会の法律に規制をかけられている巨大兵器産業という感じです。本作での究極の悪役はCEOであるマイケル・キートンで、もう彼の芸風通りの悪辣さで、オリジナルのダン・オハーリヒーの様なとぼけた味わいは皆無です。オムニ社側のもう一人のキャラがロボコップ開発責任者のゲイリー・オールドマンですが、オールドマンらしくなく善玉でマーフィーを助けようと奮闘します。そう言えば彼は昔ほど悪役キャラを演じることが無くなってきている気がします、オスカー受賞したしイメージを気にするようになってきたのかな(笑)。ロボコップ=マーフィーの造形と思考なんかはより人間的になっているが、オリジナルにあった様なマシーンと化してしまって妻子にも正体を明かせないマーフィーの苦悩が観られないところはどうかと思うところです。マイケル・キートンが強烈過ぎて全般的に他の悪役が影が薄いのが難点と言えなくもないけど、軍事教官役のジャッキー・アール・ヘイリーだけは存在感を出してましたね。マーフィーの相棒も黒人刑事に変わったりしているけど、名前はナンシー・アレンの役名と同じルイスだったり、随所にオリジナルからの引用というか小ネタも使われていました。その相棒ルイスがブラック・カラーのマーフィーのコスチュームを見て、「お前、黒い方がいいな」と笑うところは、この映画で唯一笑えるところだったかもしれません。 結論としては、オリジナル版の毒味が好物な自分としては物足りないところが多々ありますが、オリジナルの無視した要素を膨らませた脚本として観れば面白いし、『トータル・リコール』のリメイクよりははるかにマシ、普通に退屈させないアクション映画だったと思います。 [CS・衛星(吹替)] 7点(2024-01-16 23:32:40) |
20. マーガレット・サッチャー/鉄の女の涙
《ネタバレ》 まあ確かにマーガレット・サッチャーは政治家としては毀誉褒貶が激しい人ではあるけど、どう見ても英国は“サッチャー以前/サッチャー以後”と区別できるほど国家として変貌を遂げたことは確かでしょう。そんな人物をメリル・ストリープに演じさせたということは、冗談ですけどそりゃ反則ですよ。正直なところ扮装自体はさほどサッチャーに似ているとは思わないけど、その話しぶりや仕草などはサッチャーそっくりなんだそうです。認知症を患っている引退後のサッチャーと亡霊のように彼女の幻視に現れる亡夫デニスとの対話を通じての回想というある意味オーソドックスなストーリーテリングなんですが、双子の子供のうち娘のキャロルだけを登場させて問題児のマークを出さなかったところはさすがに忖度でしょうか。『鉄の女の涙』という邦題の割には劇中メリルが涙を流す場面は皆無だったような気がしますが、「サッチャーが泣くところなんか誰も観たくないだろ」と考えたかもしれない脚本は正解だったと思います。実際のところサッチャーが公の場で涙を見せたのは、息子マークがバリ・ダカール・ラリーに出場して一時行方不明になった時だけだったそうです。デニス役のジム・ブロードベントとメリルの掛け合いはさすが名優同士だけに見応えがありましたが、その印象が強くてなんか舞台劇を見せられたような感もあります。そういうところが、ある意味でこの映画の弱いところなのかもしれません。 驚くべきはこの映画が製作されたときはまだマーガレット・サッチャーは存命だったということでしょう。公人だったとはいえ、その認知症を患っている姿まで赤裸々に描くとは、腰抜け揃いの日本映画界では考えられないことです。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2024-01-13 22:42:08) |