ヒメアノ~ル の デミトリ さんのクチコミ・感想

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ヒメアノ~ル の デミトリ さんのクチコミ・感想
作品情報
タイトル名 ヒメアノ~ル
製作国
上映時間99分
劇場公開日 2016-05-28
ジャンルサスペンス,犯罪もの,青春もの,漫画の映画化
レビュー情報
《ネタバレ》 予備知識ゼロで見てしまった。
前半40分ぐらいまでは面白く見られたのでそういう映画だと思ってお気楽に見てた。
幸せの絶頂の向こうに佇む森田からのタイトルを見るまでは・・・怖い。
色々突っ込み所はある、用意周到に逃げ回るキャラではないのに捕まえられない、
警官が殺されて銃を奪われているのにしばらく気がつかない警官の無能さ。
無差別に近い殺人が繰り返されているのに緊急配備もされないであるとか諸々。
しかしもうそんな事はどうだっていいのかもしれない。
ひたすら怖い。今までも狂気でグロテスクな作品も見てきたが
これほど怖いと思った作品は無かったかも知れない。まず怖いと思うのは
表現が直接的で痛々しいのもあるが、それ以上に怖いのは誰でも被害者になり得る恐怖だろうか。
あれほど酷いイジメはともかくとして自分の学生時代を思い出すと
風の噂なども含め多かれ少なかれ思い当たる節がありはしないだろうか。
虐めて居たあいつ、傍観していたしていたあいつ、いじめられていたあいつ。
今どこで何をしているのだろうかと頭をよぎってしまいはしないだろうか。
自然とどこかで自分を重ねる事でより近くで見ているような臨場感が恐怖をかき立てる。

そして本当に怖いのは森田は感情が表に出すぎる事もなく感情が外から見えない事。
これには森田剛君の配役が良かった。そして演技・演出もたいした物だと思った。
どこにでも居そうなヤワな青年だが心が死んで居る様を見事に演じていると思う。
狡猾で暴力的で強いタイプやサイコパスの話にありがちなIQが高くて利口な人間では無い。
森田がパチンコ屋で15万勝ったが、その帰り絡まれ、あっさりその金を奪われる
(その描写はないが以後金がない事がその事実を物語っている)その弱さは今までの
殺人鬼とは少し違うと言う事を想像させる。

「人は皆不満なんだ、不安や不満が無いと生きて行けない、だから君は変じゃない」と
ムロツヨシが浜田岳を諭すシーンからこの話が始まる。
人は概ね幸せを求め生きている。より良い生活の為に働き、欲求を満たすために恋人を作り
生きた証を残す為に結婚して子供を作って死んで行く。この社会にある漠然とした
幸せと言う価値観が自分とは別の世界の話になった時、生きる事の喜びや死への恐怖に
意味を見いだす事が出来なくなるだろう、森田には不満も不安もない生も死にも興味も執着も無い。
まして社会にも他人にも自分も。もはや空虚で何もない心は他人が考えて理解できる物では無い。
なぜなら空っぽでそこに心がないから。
森田の一連の行動は、性の対象は求めても単純な快楽殺人でも暴力的な衝動でもない。
社会の雰囲気が作りだした価値観に縛られた側から森田を見ても
彼の行動は理解も想像もできない、うかがい知る事が出来ないものなので
人間が理性で押さえ込んだ本能的に持つ暴力的な衝動や性的衝動の直接的な恐怖よりも
もっと深くて暗い直視できない恐怖に、ただただ怯えるだけだ。

そしてこの話の質が悪いのは、ただ怖いだけではなく様々な感情をぐちゃぐちゃにかき乱してしまう。
もしイジメを助ける奴がいたら、いや、そもそもいじめが無かったら・・・
森田にも違う人生があったかもしれない。
だがそんな事は正当化される理由にもならない。同情の余地さえも踏みにじる残虐性。
そもそも森田にとって違う人生や幸せとはなんなのだろうか。
見終わった後も捕らえどころのない嫌な余韻を残す映画でした。
本来ならこのようなバイオレンスで気を引くような作品にはあまり高得点は
付ける気がしなかったりするのですが、この作品にはそれだけの力とメッセージがあった気がします。
一つ残念な所は佐津川愛美さんの脱ぎっぷりが中途半端な所でしょうか(笑)
中途半端にしか脱げないなら脱がないで良いかな。自身か事務所か監督の判断かは分かりませんが。
せっかくここまで拘った作品なのに行くなら行ききって欲しかったですね。
デミトリさん [DVD(邦画)] 8点(2017-02-22 00:50:34)(良:1票)
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