101. ハチミツとクローバー
《ネタバレ》 おまえらえーかげん行動せーよ、とちょっぴりイラつきつつも、良質のユーモアと詩的な空気で飽かさず読ませるラブストーリー。 途中までは大好きなマンガだったのに、最終巻で減点せざるを得なくなりました。そんな、むちゃな。花本先生の秘めた恋心が明かされるくだりでは、展開の強引さに唖然としたし、先生に嫌悪感すら覚えてしまった。最後の最後に「事故」で話を盛り上げるやり方も、大嫌いだ。でも、竹本くんの独白にはちょっと泣きそうになったかな。ラストさえ違えばほんとうに最高の作品だったのになあ。残念。 あ、でも、森田さんは最高。真山もいいし竹本くんもかわいいし、男性から見ても友達になりたいと自然に感じる、魅力的な男が目白押しでした。一方女性キャラに関しては見た目がかわいいだけで、そんなでもなかったかも。減点したつもりでも8点をつけちゃうのは、彼らのおかげでしょうね。 8点(2007-11-02 03:24:27) |
102. ポーの一族
萩尾望都の世界観に浸るには最適の作品ではないかと思う。『トーマ…』も良いけどこちらのほうがより広いテーマと豊富なエピソードを備えていて、一般に受け入れられやすいはず。初期のアンデルセンの挿絵のような画風や最近のリアル志向の画風もそれぞれ異なる長所があるけれども、やはりこの時期にの絵には得難い美しさがある。萩尾さんの長編ではいちばん好きだ。 9点(2007-11-02 02:36:40) |
103. 残酷な神が支配する
萩尾望都は昔からしばしば依存や虐待をモチーフとしてきたが、この作品は著者のそうした関心を追求した末の、ひとつの到達点といっていいだろう。レイプによる心的外傷が圧倒的なリアリティで語られ、読み進んでいる最中はほとんど息苦しさすら覚えるほど。おそらく臨床心理の世界に関心がある方であればなおのこと興味深く読めると思う。著者としてはめずらしい大長編で、非常に読みごたえのある力作となっている。 8点(2007-11-02 02:24:54) |
104. スティール・ボール・ラン
《ネタバレ》 前作でシリーズに大きな区切りを付け、スタンド概念も微かに変わった?模様です。実在した大陸横断レース、キャノン・ボール・ランを元に構想されたそうだけど、舞台が斬新な割りにやっていることはやはり変わらない。ただもちろん、質も下がっていない。とくに単行本表紙のイラストレーションは、シリーズ中最高といってもいい流麗な仕上がりとなっている。敵役にアメリカ合衆国大統領を据えるという大胆不敵なチャレンジもあり、物語にどのように決着をつけるのか、今から楽しみだ。 7点(2007-11-02 00:14:32) |
105. ジョジョの奇妙な冒険
小学生の頃からコミックを集めていた(どんな小学生だ)、長年のファンです。 ゴシックホラー風味の一部・二部も悪くないけど、やっぱり「スタンド」概念の登場する第三部以降が素晴らしい。今では特殊能力を扱ったコミックは珍しくないけれど、これが原点にして頂点だろう。 突然手首が吹っ飛ぶ、などのこのマンガにしかない強烈な演出があり、ホラーやサスペンスを猛勉強した著者ならではの作風が形成されている。世界中を飛び回る第三部、苛烈極まる第五部がお気に入り。究極の悪ディオ・ブランドー、殺人鬼吉良吉影など、悪役が愛情をもって造型されているのも成功の要因だろう。 画風に嫌悪感を持つ方が多いようだけど、大ファンである自分ですら「嫌いでは、ないかな」という感じなので、弁護はできない。着方のわからない服、真似したくない髪形、次元のひずみにいるとしか思えない立ち姿など、非常にあくが強いのは確かだ。ギャグマンガでパロディにされることなんかしょっちゅうだし(『ついでにとんちんかん』の頃からすでにやられていた)。でも常に人と違う表現をしようと努力する著者の姿勢は、評価されていいと思う。 9点(2007-11-01 23:38:32) |
106. レベルE
《ネタバレ》 豊富なアイディアとよく練り込まれたプロットで、短いながらも読みごたえがある秀作。ただプロットに特殊なところがあって、読者をいい意味でも悪い意味でも裏切ってしまう。話を転がして大風呂敷を広げ、わくわくしてきたところで唐突に話をぶった切る。 広げた風呂敷をあっさり破り捨ててしまうので、リアルタイムで連載を追っていたときはほんとうに唖然とした。今であれば反応が違ったかもしれないが、子どもだった当時は全力で肩透かしを食らっていた。もちろん意識的な試みであることはわかっていたけれど、だからどうしたんだよ? という気持ちを拭いきれなかった。こうしたストーリーはコロンブスの卵だけど、だからといって潰れた卵が不恰好であることに変わりはないんじゃないの? なんて思った。それでも下手な凡作よりは遥かに面白いんだけど、当時の正直な感想を反映させるとマイナス1点しないわけにはいかない。 ところで、王子の作ったゲームに無理やり組み込まれる子どもたちの奮闘を描いたカラーレンジャー編は、『H×H』のGI編に繋がる要素を多分に含んでおり、また結末のアイディアはキメラアンツ編に結実しているように思う。そういう意味では、『H×H』は『レベルE』で中途半端に放り出していたネタをまっとうに熟成させた作品だといえるわけで、個人的には少年期の不満を補ってもらっている気がしてとてもうれしい。 7点(2007-11-01 23:04:03) |
107. えの素
読んだ先から脳内で新しいシナプスがぷちぷち繋がっていく、前代未聞の快作。普段何を考えてたらこんなものができるんだろうか? 底なしの下品さと、漫画的ならではの手法の結晶ともいうべき不条理さが相俟って、とんでもない高みにまで達してる。こんなこといったら笑われるかもだけど、もはやアートの一歩手前だ。とくにクライマックス長編の弾けっぷりは常軌を逸している。空想力が、あまりにもアクロバティック。数え切れないほど笑かしてもらった。葛原さんや田村さんなど、名キャラクターにも事欠かない。ある意味ギャグマンガの頂点でしょう。っていうか、同じ物差しの上で測れるものが他にない。 9点(2007-11-01 22:37:14) |
108. 神戸在住
スクリーントーンを使わずに多様な斜線を利用するなど、かなり個性的な手法にのっとった絵柄で、淡くやわらかく、温かみのある雰囲気を持っている。かと思うと阪神大震災を題材とした回では、淡々としているだけに確実に心に食い込んでくるので油断ならない(読後しばらく地震恐怖症になってしまった)。大仰さのない徹底的にリアルな、エッセイ風のフィクション。スローペースな語り口の本が大好きなんだけど、これはその系統の最上の部類に入る。心の機微や人間関係をじっくりと追っていく過程がとても味わい深く、疲れ切ったときなんかに読み返したいと思う。余談だけど、主人公の桂さんは本の趣味がとてもよいですね。 9点(2007-11-01 22:15:41)(良:1票) |
109. よつばと!
《ネタバレ》 夏休み初めからの一日一日を余さず綴っていく日記のような趣向で、ありふれた(??)日常を重ねていくだけなのに、飛びぬけたエンターテイメントとなっています。 非現実的にはならない程度に個性的なキャラクターたちがみんな魅力的。今のところ「現在」を丁寧に汲み取っていくだけで回想シーンをまったく混じえずに展開しているので、よつばや父ちゃんのバックグラウンドもほのめかされるだけでほとんどわかっていない。これもちょっと珍しい趣向だと思う。 ストーリーも絵も素晴らしいし、さまざまな伏線をどのように収束させていくのかも興味の尽きないところです。 10点(2007-11-01 21:58:41) |
110. ジョジョの奇妙な冒険 Part6 ストーンオーシャン
ほぼ全編に渡って刑務所が舞台、という少年誌としては非常に意欲的な試みの第六部。初めて女性の主役を据えたのだが、第一話で「ちっきしょ~看守に○○見られちまったよ……」といきなりド下品発言から開始。この女は普通のマンガの美少女とは違いますよ、「萌え」どころか男も踏んづけるようなやつなんですよ、という作者の宣言のように思えた。 刑務所だけに、キャラクターも猟奇的な殺人者からカルト集団の教祖まで、癖のありすぎる連中ばかり登場する(それはいつもか……)。また舞台はかなり限られているのだが、荒木飛呂彦の想像力はいつも以上に自由だ。無重力空間での攻防があったと思えば「透明なゾンビ」という異様な敵に襲われ、さらには空から降ってくる毒ガエルの雨、植物化、カタツムリ化する人間達……奇想天外なイメージの奔流に感動すら覚えた。 ところがクライマックスが近づくに連れて荒(?)が目立ち初め、しかもまったく想像外の結末を迎える。面白いのは確かだが、シリーズ中最大の異色作といってもいいだろう。こんなにマッチョな女性ばかり登場するコミックもめずらしい。 7点(2007-11-01 02:15:12)(良:1票) |
111. セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん
実はギャグ漫画としては革命的といってもいいセンスだったのでは。発表後他作品に与えた影響もかなりのもの。自分のなかでは『行け!稲中卓球部』に並んで90年代の二大ギャグ漫画です。「めそ…」なんかはほとんどトラウマワード。 8点(2007-11-01 01:28:39) |
112. MIND ASSASSIN
短期間で連載終了してしまったのに、とりわけ深く記憶に刻まれている作品。人の記憶、または精神を破壊することのできる超能力者を主人公としたサスペンスで、繊細だけど力強い絵が印象的だった。 いくらでも広げようのある良いアイディアだったと思うのだけど、作者がデビューしたてのためかストーリーのワンパターンが目立ち、またジャンプらしからぬ大人向けの題材が多かったのもあって、人気を保ち続けることができなかった。しかし女性作家ならではの繊細な語り口が魅力で、連載当初から個人的なお気に入りだった。 充分な熟成を待たずに打ち切られてしまったのを残念に思う。大きな可能性を持っていた、惜しい作品だった。 6点(2007-11-01 00:22:36) |
113. 11人いる!
普通に面白いです。でも普通以上のものはなく、手塚治虫のSFを読んでいるようで萩尾望都らしさは若干薄いかもしれない。ミステリー的な結末も、ちょっと擦れたミステリ好きなら予想の範囲内でしょう(発表された年を考えるとすごい?)。いちばん衝撃だったのはフロルというキャラクターの特異な設定で、これは萩尾望都以外の作家が書くとつまらないギャグになりかねない(ていうか普通思いつかない)。愛らしいんだけど好きだといわれるのはためらわれる、ちょっと不思議なキャラクターでした。 6点(2007-10-30 17:24:57) |
114. ハッピーマニア
Amazonの紹介文に「一家に一本!読むユンケル!」なんて書いてあって笑っちゃうけどわからんでもないなと思う。 重田加代子、というもっそい普通の名前の主人公なのだけれど、行動力がすごいというかイっちゃってるというかもはやポジティヴとかそういう次元なの? という強烈な性格の持ち主。自分の寝た男がろくでなしだとわかったときの、「ギャー最悪! 走ってくる! ちょっとあたし走ってくる!」という台詞に笑った。凹んで部屋にこもるとかじゃなくて、走るのかよ。 すべてにおいてこんな調子なので、読んでいるこっちまで元気になってくる。なにしろダメ男を渡り歩く話なのに、タイトルが『ハッピーマニア』だもんな。同じような題材でも『だめんず・うぉ~か~』とは明るさが違う(後者も面白いけど)。ダメ男にひっかかるのを「不幸」じゃなくて「幸せを探すこと」としてとらえるなんて、常人の感覚じゃないって。 テーマが前向きなだけの作品ならいくらでもある。だけどこのマンガはひとつひとつのコマ、台詞に、太陽のように明るいエネルギーがごく自然に満ちていて、それがページを開けばあふれ出してくる。読んだだけでこんなに元気になれる作品なんて、そうそうできるもんじゃない。安野モヨコという人はほんとうに素敵な才能に恵まれていると思う。 9点(2007-10-30 17:10:18) |
115. おおきく振りかぶって
以前友達とこの本の話題になったときに感想が一致したのが、「おれたちは野球も興味ないし、野球漫画なんか嫌いだったのに、どうしてこんなに面白いんだろう?」という疑問だった。 考えるに、まず第一にキャラクターがある。神経質過ぎるほど神経質で、女の子のように弱々しいピッチャーが主役、というのがまずびっくりだった。こんなにケンカ弱そうなスポーツマンはなかなかいない。キャッチャーの阿部君も、エースの田島君も、みんな親しみがもてるというか、過剰な体育会系の臭いがしない、友達になれそうなやつばっかり。超人もいなければ不良もいない、等身大の人間味あふれる連中が揃っている。ひぐちさんは昔シリアスなドラマ作品を描いていただけあって、人間を描くのが非常に上手い。 さらに、試合運びの上手さもある。根性論抜きに、シビアな戦略を元に展開する熾烈な駆け引き。不思議なことに、これが野球を知らなくても普通に楽しめる。これを読んで初めて野球には頭のよさが必要だというのがよくわかった。 とまあ、いろいろ書いたけど、このマンガの面白さをうまく説明するのは難しいのです。ひとつ確かなのは、野球に馴染みがないからといってこの作品を敬遠するのは大損だということ。野球嫌いにこそ手にとってほしい。初心者には野球用語がさっぱりわかんないけど、コミックスには親切な注までついているので安心です。おすすめ。 9点(2007-10-30 02:44:09)(良:1票) |
116. BANANA FISH
《ネタバレ》 ラストの感動に関しては、ナンバー1。途中のアクションのくだりはけっこう忘れちゃったけど、結末部分は台詞まではっきりと覚えている。ニューヨークの描き方にちょっと引いてしまうところもあったけど、細かな欠点が気にならないほどのものが込められていた。いつかのダヴィンチで「芥川賞をあげたいマンガ」第一位でしたが、納得の名作です。 9点(2007-10-30 02:06:15) |
117. はじめの一歩
強敵と対峙して、作戦や必殺技でぼろぼろにされて、でも根性で立ち続けて、逆転勝ち――一部例外はあれど、大まかなパターンは連載初期から変わってない。しかしマンネリであってマンネリにならない、これがすごい。全然、飽きない。登場人物が緩やかに成長して、少しずつ関係性が増えたり変化しているのもある(※ただし恋愛については一歩も進展してない)が、試合パートの面白さにまったく色あせる気配がない。まっとうなドラマをまっとうな面白さで展開し続ける、作者の安定した力量が素晴らしい。このままのクオリティで100巻くらいいっちゃうんだろうか? 8点(2007-10-30 01:56:14) |
118. HELLSING
特筆すべきは演出力の凄まじさ。ストーリーが込み入ってるとか感動的だというわけじゃなくって、ただただド派手。アドレナリンの迸るままに描いているのか、あまりにむちゃくちゃで、あまりにかっこいい。とくにロンドンでの戦いは壮絶で、中世の大虐殺を再現したかのようなありえない光景が広がる。こりゃー頭のネジがいくつもとんでないと描けないよ。麻薬でもやってるのか? バトルシーンでも普通のマンガみたいな知略がまったくなく、清々しいまでに小細工抜き、理屈抜き。説明すら抜き。それでいて面白さが薄れないのだから、まったくたいしたものだ。こんなタイプのマンガは他に知らない。圧倒的なセンスと表現力に脱帽。 8点(2007-10-30 01:34:03) |
119. 幽☆遊☆白書
小学生の頃大好きだった、思い出深いコミックです。最初の二巻くらいは淡々としていて、やがて普通のバトルマンガになったかと思うと、だんだんと暗い雰囲気が色濃くなり、終盤には現在の『HUNTER×HUNTER』に通じるような凄惨な作風が前面に出てくる。通して読むと作者の成長具合が目に見えてわかり、違った意味で面白い。当時はすごく好きだったけど、今読み返したらそんなでもないのだろうか? 7点(2007-10-28 18:10:49) |
120. 神の左手悪魔の右手
数ある楳図作品のなかでも最強最悪に悪趣味な一品。ホラー耐性のない人であれば何気なくページを開いただけで本を投げ捨てて手を洗いたくなること請け合いです。「黒い絵本」編なんか地味なだけにリアルで、ものすごく不快。生理的な恐怖をとことん突き詰めて、『死霊のはらわた』がおままごとに思えるくらいの境地に達してしまっている。コアなホラーファン以外にはけっして薦められない、秀作(醜作?)。なんか褒めてんのか貶してんのかよくわかんなくなったけど、自分は好きです。 8点(2007-10-28 17:56:28) |