41. 君に届け
《ネタバレ》 とても評判がいいので読んでみました。初めの方こそ風早くんのキャラにちょっと引いてしまったけれど、だんだん面白くなってくる。とくに二巻のクライマックスなんかはもう、涙腺がやばい。 君に届けというタイトルは何も恋愛に限った話じゃなくて、不器用すぎる主人公が頑張って人と絆を繋いでいこうとする姿に重ねているんですね。爽子の真っ直ぐさがあまりにも健気で痛々しく、切ない。見た目がどうであれ、実は爽子という名前はこの子にぴったりなんだよね。明るくて誠実で、純粋すぎるくらい純粋で。 いかにも女子に嫌われそうなタイプのライバルも登場するけど、しまいには全然憎めなくなってしまうのがいい。こういうキャラクターにも愛情を持って公正に描いているところに、作者の人柄を感じる。 8点(2008-01-05 00:30:23) |
42. シグルイ
そんなバカな、というキャラと必殺技のオンパレードだけど、驚異の演出力でぐいぐい引っ張る。残酷でエロもある異色作ではあるけれど、一気読みは必至の面白さ。敵役よりも主人公位置にいる藤木源之助のがろくでなしに思えるのは気のせいか? ていうか敵も味方もばけものばっかりだ(とくに岩本虎眼がやばい)。巻を追うごとにテンションは上る一方で、新刊がほんとうに待ち遠しい。 8点(2008-01-01 21:22:45) |
43. ハネムーンサラダ
完成度がどうこうというよりも、絵や台詞に通う血の熱さが半端ない。仕事や恋愛に対して、社会常識すら無視してただ“ほんとうのこと”だけを求める男女三人が織り成す、異色の恋愛ドラマ。普通に考えれば男にとって都合のいいはずの状況も、二人の女性キャラクターそれぞれが持つなんとも手に負えない感じがリアリティを生んでいる。二宮ひかるという人は、めんどくさい女を描かせたら天才じゃないかと思う。 掲載誌がヤングアニマルなのもあってかエロい描写も多いんだけど、二宮さんの作品を読むと、セックスを抜きにして恋愛を語ることのほうが不自然なんじゃないか、と思わせられる。テレビドラマとかにするのは難しいだろうけど、下手な恋愛ドラマよりかはずっと重みがある。作者自身の心血を注ぎ込んだからこその、代表作でしょう。 8点(2007-12-16 18:55:00) |
44. さよならみどりちゃん
《ネタバレ》 一時期女性作家のマンガをたくさん読んだんですけど、これはとりわけ記憶に残っている作品のひとつ。南Q太さんのマンガって短い台詞と大ゴマ(手抜きとかじゃなく)で、独特のテンポでもって進むのが面白い。さくっと描いているのにとても繊細で、暗いネタなのに能天気でユーモラス。 ダメ男に引きずられるように曖昧な関係を続ける主人公。いっちゃあなんだけど、ダメ男にはまる女の人って、自分自身もダメ女な部分があるよね。自身の根元がしっかりしてないから、自分に負けないくらいダメな男を見つけてよっかかりたがる。これはそんな主人公が一皮向けて、新たな一歩を踏み出すまでの物語。 理想が入る余地のまったくないリアルな作風で、でもそれだけにポップコーンを振りまくシーンの突き抜けた明るさが、とても爽快だ。 映画化作品は怖くて未見。シネマレビューの方を見ると平均は低いのにけっこう点数が散らばってたりして、悩ましいところだなあ……。 8点(2007-12-12 02:56:56) |
45. ドロヘドロ
スタイリッシュな独自の絵柄と世界観がかっこいい。ものの肌触りまで伝わってくるかのような厚みのある画。かなり暴力的な描写も多いんだけど、ブラックなユーモアとキャラクターの愛嬌のよさが、殺伐とした空気を相当に和らげている。トカゲ頭のカイマンは強さよりもかわいらしいし、女性キャラがみんな驚くほどごつくてガンダムみたいに強いんだけど、なぜか普通にかわいく感じられる。アクションシーンは迫力があるし、心臓を象ったマスクなど、作者独特のセンスが随所で光る。作者が普通の少年マンガに影響を受けたというだけあって、普通にわかりやすくて一般受けしそうだと思うんだけど、そんなにメジャーでもないのかな? もっと知られてもいい作品だと思う。 8点(2007-12-03 00:54:08) |
46. 臨死!!江古田ちゃん
《ネタバレ》 明日をも知れぬ孤高の女、江古田ちゃんのなんとも筆舌に尽くし難い感じの日常を描いたインパクト抜群の四コママンガ。シニカルかつシビアな笑いのキレは相当レベル高いです。たぶん非常に女性受けのいい作風だと思うので、アフタヌーンに掲載されているのがちょっと不思議。さまざまなバイトに手を出しつつ経済的死線をかいくぐり、いつもろくでもない男にあっさり体を許してしまう江古田ちゃん。見ていていたたまれないほどたくましい。たまに「あんたがほしいのは母親か愛玩動物だもんね」と男心を突き刺すこといってくれたりして、油断なりません。 8点(2007-11-30 15:38:16) |
47. 敷居の住人
途中から作者の意識が変わったのが明らかに見て取れます。序盤は多田由美のものまねなどが見られて少々苦しかったりするんだけど、中盤からは俄然面白くなってくる。わかりやすく成長するでもなく、あーでもないこーでもない、とぐだぐだ悩んだり凹んだりする主人公を見ていると笑ってしまうんだけど、いたたまれなくもある。ああ、こういうのって思春期だよなあ。何気に自己中心的な女性陣の振る舞いにもリアリティがある。そうそう、精神不安定な女の人って本人は悪気はないんだけど、かなり残酷なことするんだよね。著者の出世作、まだ青い部分はあるとしても、やっぱり面白いです。 8点(2007-11-29 01:17:34) |
48. ラブマスターX
《ネタバレ》 『脂肪という名の服を着て』に並ぶ、安野モヨコ氏初期の秀作のひとつ。さまざまな登場人物が有機的に絡みつく複雑な展開が見もの。主役の少女はもちろん、その両親まで恋愛に突っ走る。なぜかおじいちゃんと小学生の弟君がいちばんの決め台詞を吐く。恋に酔ったり病んだりしている連中よりも、恋愛に距離のある人間がもっとも適切な判断力を持っている、ということか。かと思うと意識的に冷静さを捨てることで最大限に恋を楽しむキャラもいる。どちらとも、違った意味でラブマスターなのかもしれない。……「ラブマスター」って素の文で書くと異様に恥ずかしいな。 8点(2007-11-20 02:40:56) |
49. ボーイズ・オン・ザ・ラン
なんかもう、イタいとかそういうレベルを通り越えてる。それだけはやってくれるなよ、というのを見事にやってしまう。 でも人間の生命力っていうのは、堕ちるところまで堕ちて、それでも懸命に這いつくばって進もうとするときがいちばん輝くのかもしれない。史上最もかっこ悪い主人公が、ときおりものすごくかっこいい。あんまりアホで汚いので、読み進めるのが嫌になることすらあるんだけど、きっと最後まで読まずにはいられないだろう。長渕の歌を熱唱するところでは、正直ちょっと泣いた。 現実というのはなかなかかっこよくは行かないものだから、どうしてもフィクションの世界にはきれいなものを求めたくもなる。けれども読んでエネルギーをもらえるのは、こういうばっちい漫画なのだ。主人公を応援している気でいたのに、いつのまにか勇気をもらっている自分に気づく。このどうしようもない主人公がどこまで走っていけるのか、最後まで見届けてやりたい。 8点(2007-11-20 02:08:45) |
50. 幕張サボテンキャンパス
気楽に楽しめる大学を舞台とした四コマもの。各タイトルがオチに繋がっているのが絶妙に上手い。マンガ内での時間の経過がいったんは停滞するもののちゃんと卒業まで続くので、ゆるゆるとドラマ性も生まれ、さりげなくいい台詞があったりして軽く感動してしまう。『ここだけのふたり!』や『あずまんが』でもそうだけど、登場人物がきちんと年をとっていくのを見ると、少し寂しい半面で登場人物へのいとおしさがいや増していく。地元ではまったくないけど千葉のローカルネタも楽しく、読み終えたあとではマザー牧場とピーナッツに妙な愛情すら持っていた(笑)。 ちなみに無駄にインパクトが強かったのはファンレターに対する著者の返答コーナー。津田沼さんと結婚したい、という女性ファンを「こんなもん言ってみりゃ紙とインク。現実見なさい」とあっさり切り捨てていた。いや、そうだけど、それをあんたがいったらお終いでしょうが。 8点(2007-11-18 20:28:21) |
51. なるたる―骸なる星、珠たる子
《ネタバレ》 バカバカしいラストを別にすれば、面白かった。 愛らしい絵柄にはまったくそぐわない凄絶な内容で、茫然とさせられる。目を背けたくなるものばかり見せてくれたあげく、ラストでは世界をリセット。こんな醜い世界は消えてしまえばいい、ということだろうか。他にも似たような結末の作品はいくつかあるが、素直にいいと思えたことがない。これだけ長いこと付き合わせといて、結局いいたかったのはそんなに子ども地味たことなのかと思う。人間ドラマにしても娯楽性にしても(あざといのがたまに瑕だけど)相当な力を持った作者だとわかるだけに、この結末は残念。 もっとも、多少の欠点があるにしても、ありふれた凡作よりはこういった問題作のほうが好きだ。 8点(2007-11-18 20:12:07) |
52. 乙女ウィルス
良い。 8点(2007-11-15 01:56:02) |
53. ガンスミスキャッツ
銃器に対する強い愛情と知識に裏打ちされた、秀逸なガンアクション。 銃を使ったアクションは星の数ほどあるけれど、大抵はヒーローは百発百中なのに敵の弾は足元を抉るだけというしょうもないファンタジーに終わる。それに比べると、本作も主役が凄腕であるのは変わりないとしても、武器についての豊かな知識を利用して敵の裏を掻く過程が説得力をもって描かれている。常に読者の意表を突いた展開が心憎い。ハリウッドのアクション映画の作り手たちはこれを読んで勉強するべきだろう。 ただ、ちょっとHなのはご愛嬌だとしても、さすがにミニーメイの設定には引いた。露骨にロリコンの願望充足のためのキャラクター。主役の設定にもどうかと思うところはあるけれど、これはあんまりだ。 銃と車と、美少女。良くも悪くも、男性のためのマンガだろう。 8点(2007-11-15 01:22:51) |
54. G戦場ヘヴンズドア
《ネタバレ》 なんといっても、坂井大蔵が息子に気づかずにその横の鉄男を抱擁する、表彰式のくだりが印象的だった。正直それまではなんとなく読んでいたところもあったんだけど、それ以降はぐいぐい引き込まれていった。 思うに、境田も阿久津も、酒やギャンブルに嵌まっている父親なんかよりある意味ずっと恐ろしい。漫画にかける気持ちが家族の情にも勝り、周囲の人間をないがしろにしてなお、迷いがない。 創作に熱中している本人も必ずしも幸せというわけではない。ただ苦痛と喜びがない混ざった幸福よりも密度の濃い時間があって、一度それを知るともう抜け出すことができない。漫画に限らず、創作に身をやつすことの面白さと怖さを上手く捉えていると思う。 8点(2007-11-13 00:12:15) |
55. ヴィンランド・サガ
《ネタバレ》 入念な取材に基づいてヴァイキングを描き、重厚な世界観を構築している。リアリズムに徹しつつも格闘漫画ばりのアクション描写や、魅力的なキャラクターの配置で読者を飽きさせない。ヴァイキングが「愛」という概念にまったく馴染みがないという描写があるように、現在のそれとはかけ離れた価値観を教えてくれるのも興味深いところ。物語はまだまだ始まったばかりといった感じなので、これからどういった方向に展開していくのかわくわくしながら待ってます。 欲をいえば、ヴァイキングたちが現代日本の若者みたいな話し方をするのがちょっと微妙。作者も何か思惑があってこうした言葉使いを採用したのかもしれないけれど、当世のサブカルチャーを安易に取り込んでも安っぽくなるだけではないかと。 8点(2007-11-11 22:04:04) |
56. ヒストリエ
古代オリエントの智将エウメネスの成長を描く歴史冒険譚。壮大な歴史ドラマはもちろん、エウメネスがいかに知恵を練って難局を打開していくかという知的な楽しみを追うだけでも充分に読ませる。とくに侵略者から村を守るくだりには心が躍った。武器と戦略の変遷は、そのまま歴史の変遷に直結する。紀元前のギリシアなんてまったく興味の範囲外の世界だったけど、遠い時代の遠い国の人々が、この作品では非常に生き生きと動いていて距離を感じさせない。連載がなかなか捗らないのがもどかしくてならない。 8点(2007-11-06 01:10:48) |
57. コーヒーもう一杯
甘味も苦味も含んだ連作短篇シリーズ。ささやかでなんてことない、しかし大切な人生の一幕を切り取る手腕が鮮やか。膨大な量のかけあみによって構成された画面にも注目。書店にあふれるたくさんのコミックの中で、本作はプラスチック製品の山に紛れ込んだ木製のおもちゃを思わせる、静かな輝きを放っている。告白できないままに終わった初恋の話、壁に突き当たる演劇青年など、大好きなお話がたくさんあります。強いていうなら寓話系はちょっと苦手かも。 8点(2007-11-06 00:54:06) |
58. 医龍-Team Medical Dragon
医療ドラマはどちらかというと苦手なんだけど、これは別。この手の話にありがちな押し付けがましい感動がないのがまずよい。天才外科医の活躍を描くのに並行して、利権と理想をめぐって渦巻く政治的な権謀術数が展開していく。『ブラックジャックによろしく』みたいな湿っぽさがなく、硬質のサスペンスとして仕上げられている。乃木坂さんの絵もよい。この人は人体を描くのがとても上手いのですね。女性キャラなんか必要以上に色気がある。外科手術シーンの多いこの作品にとっては適材だと思う。ちなみにドラマ版は徹平くんがかっこよすぎてびっくりでした。 8点(2007-11-05 02:53:24) |
59. 邪眼は月輪に飛ぶ
いつもは壮大なスケールの物語を大団円に収束させることに力を尽くしている著者だが、この作品は短い。しかし短いからこそ、その無駄のない展開の妙、卓越した構成力が明確にみてとれる。そして血が熱くなるようなアクションエンターテインメントとしてのテンションは、微塵も衰えていない。 年老いた猟師とアメリカの若き捜査官という異色の主役コンビも素晴らしい。いつも思うんだけど、藤田和日郎のキャラクターの組み合わせ方は絶妙だ。ひとりひとりはあくが強くて、良くも悪くも片寄ったキャラクターなんだけれども、手を組めば補い合い、調和する。不完全な連中が互いの背中を守ることで、どんな怪物より心強い最強の存在となる。 もちろん、“ミネルヴァの梟”という敵の魅力も忘れてはならない。超常の力を持つ“梟”はあまりにも恐ろしく、けれど途方もなく寂しい怪物だ。『うしおととら』の“白面”もそうだったけど、圧倒的な力を持っている代わりにひどく孤独な、人間側とは対照的な存在なのだ。見るもおぞましい化け物でありながら、いつしか読者は“梟”を哀れんでいる。こうした悪の描き方に、藤田和日郎独自のヒューマニズム(といったら大げさかな)が見て取れるように思う。 大長編は時間がかかるしちょっと…という方にはとくにおすすめしたい。短いながらも密度は濃く、藤田和日郎の最良の部分が凝縮されているといってもいい良作である。 8点(2007-11-04 18:28:19) |
60. 天才柳沢教授の生活
実は一話完結ものの人間ドラマって相当に難しいジャンルだと思うんですが、『柳沢教授』シリーズはかなりの高水準を保っています。しかも主役は個性的ではあるものの一介の大学教授に過ぎず、話としても地に足ついたリアルなもの。この設定で読ませるのは著者の卓越した洞察力があってこそでしょう。天才から凡人、善人や悪人、子どもから子猫まで、山下和美の筆勢には一定した愛情が感じられる。主人公の柳沢教授同様に、山下さんにとっては人間という生きものが面白くて、愛しくて仕方がないのではないかと推察します。あ、あと「学ぶことの素晴らしさ」というテーマを忌憚なく伝えられるのもこの作品の奇特なところです。お父さんが大学教授、というバックグラウンドに支えられてのことでしょうか。いずれにせよ山下和美独自の人間観に乗っ取っているからこそ、こんなに魅力的な人間ドラマを量産できるのだろうと思います。 8点(2007-11-04 17:40:46) |