1. ザ・ワールド・イズ・マイン
阿部和重、伊坂幸太郎と帯に並ぶ名前が異様に豪華ですが、実際これほど衝撃的な読書体験は小説の世界でもなかなかない。 殺人鬼“モン”の理屈もなにもない狂気じみた台詞が奇妙な魅力と説得力を持って、読むものの倫理観を揺らがせる。殺人鬼をヒーロー扱いする世相の描写もリアルで、現代における倫理の頼りなさを巧みに伝えている。一方で、対するマリアやユリカンの唱えるきれいごとが不思議なほど感動的に響く。類型的な人物やありがちな台詞といったものは皆無に等しく、登場人物は皆尋常ではない人間臭さと存在感をもって話しかけてくる。 賛否両論分かれたラストについてはどちらかというと否定派につきたいが、それを補って余りある内容だと思う。暴力の恐怖と魅力、倫理のもろさと力強さ、命と善悪をめぐる相反する側面が力強く活写されている。終盤には作者の自己陶酔や意味のわからないぶっ飛びすぎた展開が増えてやや残念なところもあるけれど、とくに前半は文句なく素晴らしかった。 名作だと思います。……たぶん。 9点(2007-11-17 23:42:14) |
2. 3月のライオン
登場人物たちの仲良しこよしぶりは前作と同じだけど、今回はより悲惨で過酷な要素が前面に出てる感じ。棋士や数学者という仕事は論理的思考を極めようとする孤独な戦いでもあるから、ある意味アーティストに似たところがある。はぐちゃんの背負っていた苦痛をより鮮明な形で体現しているのが本作の零だと思う。一人で歩くことをどうしようもなくさだめられてしまった人間、というか。 まだまだ序盤の序盤、これからの展開を楽しみにしています。 8点(2008-04-24 21:20:27) |
3. さよならみどりちゃん
《ネタバレ》 一時期女性作家のマンガをたくさん読んだんですけど、これはとりわけ記憶に残っている作品のひとつ。南Q太さんのマンガって短い台詞と大ゴマ(手抜きとかじゃなく)で、独特のテンポでもって進むのが面白い。さくっと描いているのにとても繊細で、暗いネタなのに能天気でユーモラス。 ダメ男に引きずられるように曖昧な関係を続ける主人公。いっちゃあなんだけど、ダメ男にはまる女の人って、自分自身もダメ女な部分があるよね。自身の根元がしっかりしてないから、自分に負けないくらいダメな男を見つけてよっかかりたがる。これはそんな主人公が一皮向けて、新たな一歩を踏み出すまでの物語。 理想が入る余地のまったくないリアルな作風で、でもそれだけにポップコーンを振りまくシーンの突き抜けた明るさが、とても爽快だ。 映画化作品は怖くて未見。シネマレビューの方を見ると平均は低いのにけっこう点数が散らばってたりして、悩ましいところだなあ……。 8点(2007-12-12 02:56:56) |
4. 残酷な神が支配する
萩尾望都は昔からしばしば依存や虐待をモチーフとしてきたが、この作品は著者のそうした関心を追求した末の、ひとつの到達点といっていいだろう。レイプによる心的外傷が圧倒的なリアリティで語られ、読み進んでいる最中はほとんど息苦しさすら覚えるほど。おそらく臨床心理の世界に関心がある方であればなおのこと興味深く読めると思う。著者としてはめずらしい大長編で、非常に読みごたえのある力作となっている。 8点(2007-11-02 02:24:54) |
5. 座敷女
《ネタバレ》 これを読んだ当時は確か「ストーカー」という現象にスポットライトが当たっていた頃で、ドラマでも本でもストーキングものが山ほどあったと思う。でも記憶にある限り、『座敷女』よりも怖いストーカーはいなかった。どこにでもいそうなサイコさんがだんだん人間離れしてきて、しまいにはストーカーなのか化け物なのかもわからなくなる……都市伝説のようなリアルな肌触りが薄気味悪かった。何気に印象的な佳作です。 7点(2007-11-04 18:46:14) |