1. 放浪息子
女の子になりたい男の子、二鳥くんと、男の子になりたい女の子、高槻さんの緩やかな成長を綴る青春もの。志村貴子さんの絵柄は丸っこくてかわいらしくて、たとえ深刻な展開であってもなごめるのが良いです。そして題材の割にはいたずらに深刻にならないのがまた良い。人物描写にも説得力があって、脇役の千葉さおりという子がとくに実在感があって面白い。かわいいんだけど感受性が強すぎて、悪意はないのに結果的に自己中心的になってしまって、同性からは嫌われる――いるよなあ、こういう子。どのキャラクターも類型にはまらない個性があって、楽しいのです。物語もやんわりと読者の予測を裏切り、淡々としているようでとてもドラマチック。志村貴子はもっともっとメジャーになってしかるべきだと思うんだけど、それは個人的な贔屓目に過ぎないんでしょうか? 9点(2007-11-04 17:16:45) |
2. ポーの一族
萩尾望都の世界観に浸るには最適の作品ではないかと思う。『トーマ…』も良いけどこちらのほうがより広いテーマと豊富なエピソードを備えていて、一般に受け入れられやすいはず。初期のアンデルセンの挿絵のような画風や最近のリアル志向の画風もそれぞれ異なる長所があるけれども、やはりこの時期にの絵には得難い美しさがある。萩尾さんの長編ではいちばん好きだ。 9点(2007-11-02 02:36:40) |
3. 吼えろペン
マンガ家そのものを題材にした異常に濃いいギャグマンガ。吼えまくるマンガ家といい、熱さといい、身も蓋もない発言といい、なんだか『ゴーマニズム宣言』を思い出させる。リアルなエピソードも興味深いが、なんといっても素晴らしいのはギャグが普通に面白いことだ。十巻以降ややトーンダウンしたように感じられるが、新シリーズはさらに面白くなっている。古谷実やあずまきよひこのような冷静なタッチの日常系ギャグが人気の今、こうした迸るような熱さに満ちたギャグは、貴重だ。 8点(2008-05-05 02:46:29) |
4. 僕の小規模な生活
《ネタバレ》 なぜ語彙の少ない妻から出てくる罵倒が「バカ」でも「アホ」でもなく「クソブタ」なのかが非常に気になるところ。これを読んで以来、気に入らないやつがいると「あのクソブタが」と影で毒づく癖がついた。 しかしキャラクター的には、妻も面白いけど作者もかなりのつわものだと思われる。バイトが長続きせず普通にばっくれるわ、意味もなくバンド活動を始めるわ、人としてやばい雰囲気がぷんぷん匂う。たぶん作者にほとんどの責任があるのであろう、編集部との生々しい軋轢の記録は相当面白い。土壇場で責任放棄しようとするところとか、ひどすぎる。半分フィクションであってほしいと願うぐらい、ひどい。 作者の鬱陶しさが、妻の可愛さと怖さと足の太さによって、ちょうどいい具合に中和されている。個人的には吾妻ひでおのアル中ノンフィクションよりもこっちのだめノンフィクションの方が好きだ。 8点(2008-04-23 01:38:54) |
5. ボーイズ・オン・ザ・ラン
なんかもう、イタいとかそういうレベルを通り越えてる。それだけはやってくれるなよ、というのを見事にやってしまう。 でも人間の生命力っていうのは、堕ちるところまで堕ちて、それでも懸命に這いつくばって進もうとするときがいちばん輝くのかもしれない。史上最もかっこ悪い主人公が、ときおりものすごくかっこいい。あんまりアホで汚いので、読み進めるのが嫌になることすらあるんだけど、きっと最後まで読まずにはいられないだろう。長渕の歌を熱唱するところでは、正直ちょっと泣いた。 現実というのはなかなかかっこよくは行かないものだから、どうしてもフィクションの世界にはきれいなものを求めたくもなる。けれども読んでエネルギーをもらえるのは、こういうばっちい漫画なのだ。主人公を応援している気でいたのに、いつのまにか勇気をもらっている自分に気づく。このどうしようもない主人公がどこまで走っていけるのか、最後まで見届けてやりたい。 8点(2007-11-20 02:08:45) |
6. 封神演義
おちゃらけたノリがどうしても好きになれなかった。普通に面白いんだけど。とくに登場人物が「このマンガの連載が~」なんてふうにメタ的な台詞を吐いちゃうのが、どうしても許せない。そういう要素があると真剣な下りでも白けて読んでしまうのは自分だけだろうか? あと作品の性質上仕方ないかもだけど、人の命が軽すぎる感じもいやだった。絵柄はとても斬新で面白いと思うのだけど、自分のなかではとても微妙な作品。むしろその後の完全にふざけきった短期連載作品のが、開き直った感じがして好きだったなあ。 6点(2008-01-08 14:28:12) |