1. ハッピーマニア
Amazonの紹介文に「一家に一本!読むユンケル!」なんて書いてあって笑っちゃうけどわからんでもないなと思う。 重田加代子、というもっそい普通の名前の主人公なのだけれど、行動力がすごいというかイっちゃってるというかもはやポジティヴとかそういう次元なの? という強烈な性格の持ち主。自分の寝た男がろくでなしだとわかったときの、「ギャー最悪! 走ってくる! ちょっとあたし走ってくる!」という台詞に笑った。凹んで部屋にこもるとかじゃなくて、走るのかよ。 すべてにおいてこんな調子なので、読んでいるこっちまで元気になってくる。なにしろダメ男を渡り歩く話なのに、タイトルが『ハッピーマニア』だもんな。同じような題材でも『だめんず・うぉ~か~』とは明るさが違う(後者も面白いけど)。ダメ男にひっかかるのを「不幸」じゃなくて「幸せを探すこと」としてとらえるなんて、常人の感覚じゃないって。 テーマが前向きなだけの作品ならいくらでもある。だけどこのマンガはひとつひとつのコマ、台詞に、太陽のように明るいエネルギーがごく自然に満ちていて、それがページを開けばあふれ出してくる。読んだだけでこんなに元気になれる作品なんて、そうそうできるもんじゃない。安野モヨコという人はほんとうに素敵な才能に恵まれていると思う。 9点(2007-10-30 17:10:18) |
2. BANANA FISH
《ネタバレ》 ラストの感動に関しては、ナンバー1。途中のアクションのくだりはけっこう忘れちゃったけど、結末部分は台詞まではっきりと覚えている。ニューヨークの描き方にちょっと引いてしまうところもあったけど、細かな欠点が気にならないほどのものが込められていた。いつかのダヴィンチで「芥川賞をあげたいマンガ」第一位でしたが、納得の名作です。 9点(2007-10-30 02:06:15) |
3. ハネムーンサラダ
完成度がどうこうというよりも、絵や台詞に通う血の熱さが半端ない。仕事や恋愛に対して、社会常識すら無視してただ“ほんとうのこと”だけを求める男女三人が織り成す、異色の恋愛ドラマ。普通に考えれば男にとって都合のいいはずの状況も、二人の女性キャラクターそれぞれが持つなんとも手に負えない感じがリアリティを生んでいる。二宮ひかるという人は、めんどくさい女を描かせたら天才じゃないかと思う。 掲載誌がヤングアニマルなのもあってかエロい描写も多いんだけど、二宮さんの作品を読むと、セックスを抜きにして恋愛を語ることのほうが不自然なんじゃないか、と思わせられる。テレビドラマとかにするのは難しいだろうけど、下手な恋愛ドラマよりかはずっと重みがある。作者自身の心血を注ぎ込んだからこその、代表作でしょう。 8点(2007-12-16 18:55:00) |
4. ハチミツとクローバー
《ネタバレ》 おまえらえーかげん行動せーよ、とちょっぴりイラつきつつも、良質のユーモアと詩的な空気で飽かさず読ませるラブストーリー。 途中までは大好きなマンガだったのに、最終巻で減点せざるを得なくなりました。そんな、むちゃな。花本先生の秘めた恋心が明かされるくだりでは、展開の強引さに唖然としたし、先生に嫌悪感すら覚えてしまった。最後の最後に「事故」で話を盛り上げるやり方も、大嫌いだ。でも、竹本くんの独白にはちょっと泣きそうになったかな。ラストさえ違えばほんとうに最高の作品だったのになあ。残念。 あ、でも、森田さんは最高。真山もいいし竹本くんもかわいいし、男性から見ても友達になりたいと自然に感じる、魅力的な男が目白押しでした。一方女性キャラに関しては見た目がかわいいだけで、そんなでもなかったかも。減点したつもりでも8点をつけちゃうのは、彼らのおかげでしょうね。 8点(2007-11-02 03:24:27) |
5. はじめの一歩
強敵と対峙して、作戦や必殺技でぼろぼろにされて、でも根性で立ち続けて、逆転勝ち――一部例外はあれど、大まかなパターンは連載初期から変わってない。しかしマンネリであってマンネリにならない、これがすごい。全然、飽きない。登場人物が緩やかに成長して、少しずつ関係性が増えたり変化しているのもある(※ただし恋愛については一歩も進展してない)が、試合パートの面白さにまったく色あせる気配がない。まっとうなドラマをまっとうな面白さで展開し続ける、作者の安定した力量が素晴らしい。このままのクオリティで100巻くらいいっちゃうんだろうか? 8点(2007-10-30 01:56:14) |
6. HUNTER×HUNTER
ありふれた少年コミックの多くが、戦闘の駆け引きがやや複雑なだけでストーリーそのものはひどく単調であるのに比べ、極めて入念にプロットが練りこまれている。その上戦闘描写も極めて複雑、かつスリリングだ。「念」という概念や、「GI」というゲームのルールの作り込みようにはほとんど偏執的な情熱が感じられる。主人公達の成長もさまざまな伏線が張られているだけに楽しみで、とくに純粋さゆえの危うさも感じさせるゴンがどう変わっていくのかが気になるところ。 ところで、休載について苦言を呈されることが多いようだけれども、個人的には別にかまわないと思う。冨樫信者ってわけじゃないけど、じっくり仕事をするだけ作品の質が上がるなら好きなだけ休んでほしい、というのが本当の気持ちだ。そもそも週刊連載自体が異常に過酷なわけで、編集部が冨樫を甘やかしているというよりは、これまでの漫画業界全体が厳しすぎたように感じる。才能を使い捨てるようなやり方を少しでも改めて、力のある作家を大切に見守るようになったのなら、むしろいいことだと思う。 〈追記〉それにこの作品の場合、たまにしか読めないことが逆に評価を吊り上げているような気がする。若くして夭折したアーティストが熱烈に支持されるのにも似て、連載が飛び飛びになることでじらされて、面白さが三割増しして感じられるんじゃないだろうか。「冨樫は天才」とよくいわれるけれども、他にもそう呼べる漫画家はいないわけではないと思う。 8点(2007-10-28 02:54:24) |
7. 働きマン
「読むと働きたくなる!」ってどこかで宣伝していたけれどほんとうにその通りで、このマンガを読むと働くということがすごく楽しい行為であるかのように思えてくるから不思議だ。読んだだけで元気をもらえるのが安野モヨコ作品のもっとも素晴らしいところだと思う。 また回ごとに視点が切替るなど、入念な取材に基づいた説得力のある構成となっており、著者の語り手としての成長が感じられる。『ハッピーマニア』みたいな勢いでつっぱしる作品も面白かったし、過去にも『ラブマスターX』みたいな入り組んだ構成の作品はあったけれども、そうした素質がこういうリアルで、恋愛が主眼ではない作品に結実するとは思いもしなかった。 安野モヨコという天才に脂が載り切った今、もっとも楽しみな連載のひとつです。 8点(2007-10-25 23:54:04) |
8. ハチワンダイバー
エキセントリックなキャラクター、異常に字の大きい台詞や線の太い独特の絵柄に、暴力的なまでのエネルギーが漲っていて、圧倒させられる。 将棋を題材にしたものは他にもあるけれど、普通の棋界とは別物のアンダーグラウンドを舞台に選んだのが大正解。ギャンブルの要素を含むのもあってか非常にあくが強く、純粋に頭脳戦のはずなのに超異色の格闘マンガといった趣きがある。ホームレスのところで勉強する下りなんか、昔ながらのマンガにある修行シーンの頭脳バージョンともいえる。 某ランキングで1位を獲得していたのをきっかけに読んでみた……が。面白いけど、ダントツ1位というのはよくわからない、かも。 7点(2008-04-23 01:32:31) |
9. バキ
シンクロニシティによって、最強の死刑囚達がいっせいに脱獄して日本にやってくる――といういきなりトンデモ科学な説明で始まってびっくりしたけど、まあ普通に楽しめた。この辺りまでは。問題は『範馬』編で……。 もともと絶対ありえないネタばかりだったけど、催眠術だの「毒ガス」だの自由の女神が崩れかけるだので、いよいよ謎のファンタジーマンガと化してきた。電話ボックスのなかで戦っていたらボックスが逆さになった場面なんかは名演出(まあこれもありえないんだけど、ぎりぎり許せる)だったけど、それ以上の領域に踏み込むのは明らかに危険。誰も板垣さんを止める人はいなかったのかなあ? あと、外伝の『性』。何なんですか? 作者が心配です。普通に心配。 7点(2007-12-09 21:42:24) |
10. バジリスク―甲賀忍法帖
初めて山田風太郎の忍法帖シリーズを読んだときはあまりの荒唐無稽さに言葉を失ったものだけれど、こうして漫画化されたものを読むと、活字よりしっくりくる。山田氏の破天荒すぎる想像力には漫画という方法論が合っている。せがわさんや浅田寅ヲさんの見事な仕事振りをみるにつけ、山田風太郎は生まれてくるのが早すぎたと思う。 ちなみによく『バジリスク』の若い読者が「ストーリーがジャンプ形式」だというけれど、実際には山田氏原作の古典的名作(横山光輝『伊賀の影丸』)からバトルものが始まってのちの少年マンガに受け継がれていったのであって、正確にいうと山田風太郎がジャンプ形式なのではなくジャンプが山田風太郎形式なのです。 だから『バジリスク』は現代エンターテインメントの原点と最前線が交叉した作品といえるわけで、そう考えるとなかなか感慨深いものがあります。 7点(2007-11-11 23:43:54) |
11. 花とみつばち
《ネタバレ》 安野さんにしては切れ味に欠けている感じ。さくさく読めるんだけど、冴えない男が頑張っているというだけで話に深みがなく、ギャグについても無駄に下品なだけで普通。ラストに至っては登場人物が勝手に動いてしまったのかあるいは強引に終わらせたのか、完全に普通のラブストーリーになってしまった。きっとこのテーマではストーリーを広げるのも深めるのも難しかったんじゃないかと思う。 5点(2007-11-15 01:00:21) |
12. 範馬刃牙
《ネタバレ》 読んでいると、超強烈なトンデモ本の誕生にリアルタイムで立ち会っていることを実感する。ある意味、面白い。 きっと作者は刃牙と勇次郎を、完璧に世界最強の存在にしたいのだろう。銃や爆弾を持ってきても殺せない、国家権力ですらただの腕力でねじ伏せてしまう、絶対無敵の格闘家に仕立て上げたいんだろう。でもはっきりいってそんな発想はひどく子どもじみているし、そんなばかげた空想を真面目に語っても誰もついてきてくれやしない。 王牙を初めとする各人物のエピソードは完全に常軌を逸している。勇次郎が走っただけで人工衛星にズレが生じるとか、生まれたその日に世界各国のトップが核の保有を決意したとか……なんというかもう、失笑という言葉では生易しいくらいに失笑もののエピソードが満載。はったりに関してはドラゴンボールよりすごい。 カマキリとの対決にも唖然としたけど、のちに原人ピクル編とクロスした時点で、完全に白けた。これまでSF的な世界観をまったく創り上げてこなかったくせに、いきなりジュラ紀(白亜紀?)から甦った原人を出されたって、読者が受け入れられないのがわからなかったのか? 全体的に支離滅裂だけれども、とくにピクルの登場はシリーズ中最悪の愚挙。マスターベーションにも限度がある。 第一部から読んできた者としては、「バキ」が単なるギャグマンガに成り下がってしまったことが、残念で仕方がない。 4点(2007-12-11 00:30:34) |