61. ハチミツとクローバー
《ネタバレ》 おまえらえーかげん行動せーよ、とちょっぴりイラつきつつも、良質のユーモアと詩的な空気で飽かさず読ませるラブストーリー。 途中までは大好きなマンガだったのに、最終巻で減点せざるを得なくなりました。そんな、むちゃな。花本先生の秘めた恋心が明かされるくだりでは、展開の強引さに唖然としたし、先生に嫌悪感すら覚えてしまった。最後の最後に「事故」で話を盛り上げるやり方も、大嫌いだ。でも、竹本くんの独白にはちょっと泣きそうになったかな。ラストさえ違えばほんとうに最高の作品だったのになあ。残念。 あ、でも、森田さんは最高。真山もいいし竹本くんもかわいいし、男性から見ても友達になりたいと自然に感じる、魅力的な男が目白押しでした。一方女性キャラに関しては見た目がかわいいだけで、そんなでもなかったかも。減点したつもりでも8点をつけちゃうのは、彼らのおかげでしょうね。 8点(2007-11-02 03:24:27) |
62. 残酷な神が支配する
萩尾望都は昔からしばしば依存や虐待をモチーフとしてきたが、この作品は著者のそうした関心を追求した末の、ひとつの到達点といっていいだろう。レイプによる心的外傷が圧倒的なリアリティで語られ、読み進んでいる最中はほとんど息苦しさすら覚えるほど。おそらく臨床心理の世界に関心がある方であればなおのこと興味深く読めると思う。著者としてはめずらしい大長編で、非常に読みごたえのある力作となっている。 8点(2007-11-02 02:24:54) |
63. セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん
実はギャグ漫画としては革命的といってもいいセンスだったのでは。発表後他作品に与えた影響もかなりのもの。自分のなかでは『行け!稲中卓球部』に並んで90年代の二大ギャグ漫画です。「めそ…」なんかはほとんどトラウマワード。 8点(2007-11-01 01:26:43) |
64. はじめの一歩
強敵と対峙して、作戦や必殺技でぼろぼろにされて、でも根性で立ち続けて、逆転勝ち――一部例外はあれど、大まかなパターンは連載初期から変わってない。しかしマンネリであってマンネリにならない、これがすごい。全然、飽きない。登場人物が緩やかに成長して、少しずつ関係性が増えたり変化しているのもある(※ただし恋愛については一歩も進展してない)が、試合パートの面白さにまったく色あせる気配がない。まっとうなドラマをまっとうな面白さで展開し続ける、作者の安定した力量が素晴らしい。このままのクオリティで100巻くらいいっちゃうんだろうか? 8点(2007-10-30 01:56:14) |
65. HELLSING
特筆すべきは演出力の凄まじさ。ストーリーが込み入ってるとか感動的だというわけじゃなくって、ただただド派手。アドレナリンの迸るままに描いているのか、あまりにむちゃくちゃで、あまりにかっこいい。とくにロンドンでの戦いは壮絶で、中世の大虐殺を再現したかのようなありえない光景が広がる。こりゃー頭のネジがいくつもとんでないと描けないよ。麻薬でもやってるのか? バトルシーンでも普通のマンガみたいな知略がまったくなく、清々しいまでに小細工抜き、理屈抜き。説明すら抜き。それでいて面白さが薄れないのだから、まったくたいしたものだ。こんなタイプのマンガは他に知らない。圧倒的なセンスと表現力に脱帽。 8点(2007-10-30 01:33:00) |
66. 神の左手悪魔の右手
数ある楳図作品のなかでも最強最悪に悪趣味な一品。ホラー耐性のない人であれば何気なくページを開いただけで本を投げ捨てて手を洗いたくなること請け合いです。「黒い絵本」編なんか地味なだけにリアルで、ものすごく不快。生理的な恐怖をとことん突き詰めて、『死霊のはらわた』がおままごとに思えるくらいの境地に達してしまっている。コアなホラーファン以外にはけっして薦められない、秀作(醜作?)。なんか褒めてんのか貶してんのかよくわかんなくなったけど、自分は好きです。 8点(2007-10-28 17:56:28) |
67. HUNTER×HUNTER
ありふれた少年コミックの多くが、戦闘の駆け引きがやや複雑なだけでストーリーそのものはひどく単調であるのに比べ、極めて入念にプロットが練りこまれている。その上戦闘描写も極めて複雑、かつスリリングだ。「念」という概念や、「GI」というゲームのルールの作り込みようにはほとんど偏執的な情熱が感じられる。主人公達の成長もさまざまな伏線が張られているだけに楽しみで、とくに純粋さゆえの危うさも感じさせるゴンがどう変わっていくのかが気になるところ。 ところで、休載について苦言を呈されることが多いようだけれども、個人的には別にかまわないと思う。冨樫信者ってわけじゃないけど、じっくり仕事をするだけ作品の質が上がるなら好きなだけ休んでほしい、というのが本当の気持ちだ。そもそも週刊連載自体が異常に過酷なわけで、編集部が冨樫を甘やかしているというよりは、これまでの漫画業界全体が厳しすぎたように感じる。才能を使い捨てるようなやり方を少しでも改めて、力のある作家を大切に見守るようになったのなら、むしろいいことだと思う。 〈追記〉それにこの作品の場合、たまにしか読めないことが逆に評価を吊り上げているような気がする。若くして夭折したアーティストが熱烈に支持されるのにも似て、連載が飛び飛びになることでじらされて、面白さが三割増しして感じられるんじゃないだろうか。「冨樫は天才」とよくいわれるけれども、他にもそう呼べる漫画家はいないわけではないと思う。 8点(2007-10-28 02:54:24) |
68. 寄生獣
《ネタバレ》 視覚的なインパクトだけでも充分すごいのに、高い娯楽性もテーマの奥深さも持ち合わせている、という奇跡的な作品。 普通はアイディアからして単なるスプラッターホラーとなるわけで(それも悪くないけど)、ここまで普遍性のある物語を紡ぎだせるというのは驚くほかない。設定も構成も徹底的に考え抜かれた上で構築され、読み応えのある骨太の作品となっている。 個人的に印象深いのはクライマックス近くのパラサイト掃討作戦の、合理的かつ現実的な戦闘場面。クリーチャーを題材にした物語は数あれど、ここまで生々しく、リアリティを追求した例は珍しいと思う。 8点(2007-10-28 01:08:41)(良:2票) |
69. のだめカンタービレ
《ネタバレ》 コミックス途中まで集めてたんだけど、最近の展開は正直、どうでもいいかも……てっきりフランスへ留学が決まってフィナーレかと思ってた。個性的なキャラクターとギャグで味付けしつつも、主人公らの着実な成長を追うかなりの正統派ストーリー。それだけに、国内編終了で大きな山を越えたあとは、若干のマンネリ感が否めず……。いずれは盛り返すことを期待しつつ、立ち読みを続けています。ちなみにいちばん好きなキャラクターは千秋先輩。普通女性向けマンガでかっこよすぎる同性が登場すると鼻につくんだけど、超がつくほどの努力家という設定のためか不思議と嫌いになれません。少なからず欠点もある、というのが人間味があってまたよろしい。 8点(2007-10-27 03:00:17) |
70. 働きマン
「読むと働きたくなる!」ってどこかで宣伝していたけれどほんとうにその通りで、このマンガを読むと働くということがすごく楽しい行為であるかのように思えてくるから不思議だ。読んだだけで元気をもらえるのが安野モヨコ作品のもっとも素晴らしいところだと思う。 また回ごとに視点が切替るなど、入念な取材に基づいた説得力のある構成となっており、著者の語り手としての成長が感じられる。『ハッピーマニア』みたいな勢いでつっぱしる作品も面白かったし、過去にも『ラブマスターX』みたいな入り組んだ構成の作品はあったけれども、そうした素質がこういうリアルで、恋愛が主眼ではない作品に結実するとは思いもしなかった。 安野モヨコという天才に脂が載り切った今、もっとも楽しみな連載のひとつです。 8点(2007-10-25 23:54:04) |
71. おぼっちゃまくん
小学生時代には大好きだった、思い出深い作品です。ド下品で下らなくって、小林よしのり独特の異様なエネルギーが充満したギャグ漫画。今読んだら感想も違うんだろうけど、当時はめちゃくちゃ面白かった。『東大一直線』もちょこっと読んでみたら思ったより面白かったので、今でもある程度は楽しめるのかもしれない。発想がぶっとんでるんだよなあ、この人は。 著者の現在の活動には賛否両論いろいろあって、「小林よしのりはとりあえずクサしておけばOK」といった風潮が強いけれども、それと過去の作品との評価は切り離して捉えておきたいと思う。 7点(2008-06-19 23:18:34) |
72. ルート225
《ネタバレ》 非日常を通して日常をより鮮明に表現する手際が巧みだと思う。スペースオペラのようなガチガチのSFは苦手なんだけど、こういったふうに日常生活に自然に題材を溶け込ませたものは好き。家族や友人といったあって当たり前の日常に真剣に向き合うことの大切さっていうのは、やっぱり失いかけてみなければわからないんだろうか。終始抑えた筆勢がいかにも芥川賞系作家という感じがする。 志村貴子ファンとしては、オリジナルでは絶対にありえないSFネタと台詞まわしが新鮮だった。 7点(2008-06-18 18:39:35) |
73. めぞん一刻
いい話ではあるんだけど、全体の八割が同じようなストーリー展開(誤解→ケンカ→和解)で構成されているので、少々辟易させられた。ワンパターンのお話で無闇に連載を長期化させるのは高橋さんの悪い癖だ。あまりのまどろっこしさにイライラが臨界点を超えたこともあり、やや減点(しかし四谷さんの妖怪ぶりに加点)。 今読むと当時の感覚とのギャップが大きくて面白い。携帯電話が存在するか否かでラブストーリーの展開ってずいぶん変わってしまったんだなあ。あと、二人きりになるとすぐに「押し倒す」という発想が出てくるのがけっこうな違和感。 7点(2008-06-12 14:04:42) |
74. 地獄先生ぬ~べ~
正直子どもの頃は「ジャンプから消えてしまえばいいのに…」とか思ってたけど、これはこれでいいマンガなのかもしれないと最近になって思えてきた。個性豊かな生徒が大勢いて、それぞれを主人公に配置できるという設定の強みがあり、ジャンプには珍しい一話完結型で連載が続いたタイプ。今文庫を立ち読みしたりすると、けっこうエグイ。見開きで怖い絵をドーンと見せる演出とか上手いし、哀しい話は今のジャンプでは珍しいくらい重かったりする。ていうか眠鬼……いろいろな意味で記憶に焼きつくマンガだった。いい意味でも悪い意味でもいい加減なところがあるから、完成度うんぬんをいえば苦しいところもあるけど、子どもの頃の思い出に残っているのは間違いない。良作? かもしれない。 7点(2008-05-31 20:46:48) |
75. ヘウレーカ
《ネタバレ》 ありえねえと思うのだけど、意外と史実に基づいているそうなので驚き。“車輪”も実在したのだろうか?? 凄惨な戦場の画を見ると、『寄生獣』の頃と変わらず下手だ(笑)。 エウリュアロスの攻防がこの作品のハイライトだと思うが、そこで大喜びする男を登場させて主人公に「狂ってる」と腐させる辺りの冷静な客観性が、いかにも岩明均らしい。最後の「他にやることないのかい」という台詞もまた秀逸だ。戦いの高揚感とその後に訪れる空虚が、短いページ数の中に凝縮されている。 ただ、アルキメデスについての脚色やその死についての演出は面白かったが、最後の一ページなんかは微妙だった。やや尻切れトンボな感も否定できない。ダミッポスを中途半端な主役ではなく狂言回しに徹しさせ、アルキメデスを中心に置いた方が、話としては均衡が取れたんじゃないかと思う。 7点(2008-05-18 15:16:50) |
76. とめはねっ! 鈴里高校書道部
書道部ってこんなに面白いものなのか?! と思ってしまうけれどたぶんこれほどではないだろう。もしかしたらこれ以上かもしれないが。 合宿に大会、ライバル校の存在などなど、ジャンルは文科系ではあるが話を盛り上げる素材としては過去のスポーツものに準じていて、なんとも巧みな換骨奪胎だと思う。各人物のキャラの立ち具合も、地味すぎず過剰すぎず、順当過ぎて嫌味なくらいだ。 書道に馴染みのない者にとっては知識が得られるだけでも楽しい。こうした作品に触れてしみじみ感じるのは、自分の知らないちょっとマイナーな領域でも、蓋を開けてみれば無限といっていいほどに広く深い世界が広がっているのだなあということ。 正直いって自分が書道の世界に足を踏み入れることはないとも思う(少なくとも、本格的に筆を持つことは)。だからこの漫画でたとえ擬似的にでも書道を体験できるのは、とても幸せなことだ。 面白そうな分野に片っ端から首を突っ込んでいたら人生が何十年あっても足りないから、大概は横目で見ながら通り過ぎるだけにとどめて、自分の好奇心とは妥協する。しかしこれを読んだあとにたまたま書道の展示に出くわしたりしたなら、今までと同じように平然と通り過ぎることはできないだろう。ど素人であるのは変わりないにしても、そこに広がる世界の豊かさの一端を垣間見てしまったのだから。 7点(2008-05-18 14:48:52) |
77. 謎の彼女X
今のところ女の子が何者でなにが起きているのかさっぱりわからない。でも面白いし、きっちり説明されてしまったらかえって興醒めしてしまうんだろう。よだれのネタは冷静に考えると気持ち悪いような気もするが、絵柄のおかげで毒気が抜かれている。日常を舞台にしていても、この人の作風だとなんとなく異世界の空気が漂っているのが面白い。妖気というほど怖くはないが、この世にはありえないおもちゃ箱をひっくり返したような変てこな雰囲気。著者の以前の作品はいたずらに題材や世界観に意匠を凝らして人物がはりぼてのように感じられることもあったけれど、これに関しては安心して読める。 7点(2008-04-29 19:18:04) |
78. ハチワンダイバー
エキセントリックなキャラクター、異常に字の大きい台詞や線の太い独特の絵柄に、暴力的なまでのエネルギーが漲っていて、圧倒させられる。 将棋を題材にしたものは他にもあるけれど、普通の棋界とは別物のアンダーグラウンドを舞台に選んだのが大正解。ギャンブルの要素を含むのもあってか非常にあくが強く、純粋に頭脳戦のはずなのに超異色の格闘マンガといった趣きがある。ホームレスのところで勉強する下りなんか、昔ながらのマンガにある修行シーンの頭脳バージョンともいえる。 某ランキングで1位を獲得していたのをきっかけに読んでみた……が。面白いけど、ダントツ1位というのはよくわからない、かも。 7点(2008-04-23 01:32:31) |
79. カズン cousin
《ネタバレ》 いくえみさんの他の作品に比べると切実さに欠ける分、いくぶん読み応えが弱い気もする。 ただ、さえない女の子が発奮して変身するというところまではありふれているものの、そのあとも容易く幸せになれるわけではない、というリアルさが珍しい。頑張って自分を変えてからが実は最大の試練である、という。主人公のたるんだ裸をさらっと絵にしてしまう筆が、シビアだなあと思う。 そんな作品中、体重がリバウンドして戻ってしまったときの「経験があるんだからまるっきり元通りにはならない」、という励ましの言葉がいちばん力のある台詞じゃないだろうか。 等身大の主人公の成長を通して読者にエールを送る一方で、単純に読者の願望を満たして、甘やかすだけの作品には終わっていない。少女漫画の世界にはこうした描き手がもっともっと必要だろうと思う。 7点(2008-04-15 16:04:13) |
80. ブラックブレイン
知る人ぞ知る怪作。どこからこういった変態アイディアが浮かんでくるのか? なんでまたそれを作品として形にしようなんて血迷った決断をしたのか?? 異様に素人くさい絵柄のため、グロ描写の衝撃はかえっていい意味で半減しているが、エロい場面の効果は悪い意味で半減している。毎回毎回敵キャラの設定が秀逸(というか、なんというか)で、個人的には過激フェミニズム団体の敵が大好きだった。意外にもストーリーの骨子は普通の娯楽作なので、ある程度感覚のチャンネルを切り替えることができれば普通に面白いかもしれない。十年位前に一度読んだきりだけど忘れ難い、というか忘れたくても忘れようがない強烈なインパクトがあった。 7点(2008-04-14 13:12:03) |