61. 東京2020オリンピック SIDE:A
《ネタバレ》 自分はもともと東京でのオリンピックの開催には反対だったし、それでもいくつかの競技をみて、それなりに楽しんだり感動したりして、そして開催後は(感動した選手の名前でさえも)きれいさっぱり忘れてしまった、たぶん「一般的な」視聴者の一人だったろう。そんな自分にとっては、「公式記録映画」が何を残そうとしているのか気になって本作を観たのだけれど、観たところで何かに納得できるわけでもなく、なんとも評価に困る一作となった。ナレーションなし、音楽も最小限で、アンチクライマックスな演出。登場する選手たちはオリンピックが何らかの人生の転機と重なっているものの、全体で見えてくるのはそれぞれの人生がオリンピックの後も続いていくということ。選手としては男性も女性も登場するが、印象的なのはやはり女性の選手、とくに子どもを持つ「母親」でもある選手たちだ。赤ちゃんへの授乳を求めるカナダ代表バスケ選手、子どものために人種差別に抗議する米国代表選手、子連れで日本に来たのに子どもと離ればなれの生活を余儀なくされる米国マラソン選手、そして、出産後のオリンピック延期で引退した元日本バスケ代表など。「公式記録」として後世に残したいと思ったのは、女性スポーツ選手が育児と競技とどう向かい合っているかというテーマだったのではないかとさえ思える。この関心には共感するけれど、正直劇中での描き方、とくに元バスケ日本代表の大崎佑圭選手が赤ちゃん連れで競技を続けるカナダの選手と対面する場面はなかなか残酷で、少しイヤな気持ちになった。映画全体としては、河瀬監督は、オリンピックを心から楽しんだ人もやっぱりやるべきじゃなかったと思ってる人も、誰もかれも突き放したところにボールを投げてきた。この映画を「公式記録映画」として出してきた河瀬監督の胆力には感心するけど、これが「公式記録映画」でよかったのだろうかという疑問はますます大きくなっている。 [インターネット(邦画)] 5点(2023-01-03 16:36:47) |
62. リコリス・ピザ
《ネタバレ》 こんなに肩肘張らないポール・トーマス・アンダーソン監督ははじめて! 舞台も同じなので空気感は『ブギーナイツ』や『マグノリア』の頃を思い出しますが、もっと力が抜けていて多幸感にあふれていて、ずっとこの世界に浸っていたくなる。なにより素晴らしいのは、クーパー・ホフマン君!名優を父に持ち、父との名コンビで知られたPTA監督作でデビューでいきなりの主役。なのにこの自然体演技は一体何者か。ティーンなのに背伸びして何でもやりたいゲイリー君その人なのではないかと思えるのびのび感。事業家気取りの一方で、おっぱい見たい触りたいあたりのバカさの加減も素晴らしい。一方のアラナさんは先が見えない20代女性の迷いをこれも名演。カラフルな衣装とセットも素晴らしいけど、単にホワイト・サバービアへのノスタルジーだけでなく、何気なくセクハラするカメラマン、日本人妻にわざわざ訛った英語で話すレストランのオーナー、そしてどうにも人の気持ちがわかっていない政治家など、白人男性のイヤな思い上がりを(そしてゲイリー君がその予備軍になりそうなことも)きっちり描いているあたりも好印象。あと、自然体の主演2人のまわりで、ゲスト出演の大物スターたちがやりたい放題やってるのも楽しい。とくに、ショーン・ペンとブラッドリー・クーパーのキレっぷりは本当に楽しそうでした。何よりもリラックスしてても物語の骨組みはしっかりしていて、背伸びする10代と迷う20代が反発したり、対抗したり、でも共感したり、思い合ったりしながら、バディのような関係性のもとで、郊外の田舎町で少しずつ前に進んでいこうとするさまが、本当に愛しく、大好きな一作になりました。 [映画館(字幕)] 9点(2022-12-24 17:04:08) |
63. 燃ゆる女の肖像
《ネタバレ》 なんだか久しぶりの文芸映画。公開時の評判がとにかく高かったので、配信にて期待値高めで鑑賞。ところが、文芸系のテンポに体がついていかず、1回目の鑑賞は前半で熟睡してしまい、中断。気を取り直しての2回目は通してみました。公開から3年たっているとはいえ、たった3年のあいだでも同性愛に対する見方も、そうした作品を見る側の視線も変わったのかなというのが最初に頭をよぎる。自分自身、この映画の「愛のかたち」をなにか「特別」「特殊」なものだという感覚がないまま、ふつうの恋愛映画として見てました。そして、それはたぶん、作者のねらいでもあるのだと思います。静かで疑念に満ちた始まり、燃えるような愛、そしてあまりにあっけない幕切れ、それでも忘れられない日々。定番といっていいプロットを彩るのは、こりに凝った音楽の使い方とか、隠喩ありまくりの画の数々とか、ささやくような台詞のあいだの長〜い間とか、とにかくてんこ盛りの技巧の数々。セリーヌ・シアマ監督がただものではないことがビンビン伝わる。ただ、本作は、それがちょっと目についてしまうというか、音楽が鳴る場面とか、長回しとか、自分の感情が持って行かれる前にまず技術のほうに関心してしまうのだよねー。これはもしかしたら劇場で見たら違ったかな。それでもやっぱりあのラストの長回しの画は凄いです。必見の映画であることは間違いないです。 [インターネット(字幕)] 7点(2022-12-16 17:09:19) |
64. ゴーストバスターズ/アフターライフ
《ネタバレ》 うーん、『ストレンジャー・シングス』風ジュブナイル(キャストかぶりあり)+オリジナル・キャスト再集結の「おっさんホイホイ」が、21世紀迷走中の『ゴーストバスターズ』の最終結論なんでしょうか・・・。2016年版は個人的にもイマイチでしたが、『サタデーナイト・ライブ』的アメリカン・コメディ風味があって、まだあっちのほうが『ゴーストバスターズ』的だったように思えてくる。それが、配信時代に大ブームとなったジュブナイル・ホラーに旧作同窓会ぶっ込んどけばみんな喜ぶっしょ、というマーケティング的な安易さが透けてみえてしまって、とても残念。シガニー・ウィーバーもアニー・ポッツもおまけ映像で残念な感じだし、同窓会TVスペシャル見たかったんじゃないのよ、こっちは。新しい映画1本見たくて、見てるのに、終盤から同窓会スペシャルに急展開されて、前半で「面白いかも」って思わせてくれた4人のメインキャラクターたち(+母ちゃん&ポール・ラッド)に対してはリスペクトの欠片もないまま終わってしまって。そのリスペクトのなさが、かえって旧作の登場人物へのリスペクトのなさにもつながってるのよ。ちなみに、私、はじめて映画館で見て「映画が好き!」をはじめて自認した洋画が84年のオリジナルです。そして、ジェイソン・ライトマン監督作は、ほとんどフォローしてるファンでもあります。だからこそ、旧作にも新作にもリスペクトを欠いた本作に怒っているのです。 [インターネット(字幕)] 2点(2022-12-11 17:08:01) |
65. ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー
《ネタバレ》 ストーリー的にはどういう映画になるかはおおよそ予想できていたし、だいたいその通りの作品でした。個人的には、その結果よりも「どうやって」の部分に興味があって久々の映画館へ。上映時間の長さは、王女シュリの成長を丁寧に描いた結果であるとは思うのですが、正直なところ前作のティ・チャラとキルモンガーの因縁と同じ重さを、シュリとネイモアの対決に負わせるのは酷というものでしょう。キルモンガーが背負ってきた大都市ゲットーの黒人の不平等の問題に対して、ネイモアが背負っているのは別名「ククルカン」(マヤの神)が示すようにヨーロッパ人によって滅ぼされた先住民族の物語。 冒頭に嫌な感じでフランスの高官が出てきますが、本作ではフランスの植民地であっていまもその遺産に苦しむハイチが鍵になり、ハイチ独立の英雄と同じ「トゥーサン」という人物の登場が示すように、所々でこれに関連するテーマが匂わされています。この名前は、本作がアフリカと北・南米を蹂躙してきたヨーロッパ人による帝国主義・植民地主義による苦難の歴史から起ち上がってきた人びと(アフリカ人、奴隷・元奴隷たち、そしてアメリカ大陸の先住民族)の物語であることを象徴しています。そして、チャドウィック・ボーズマン=ティ・チャラという軸を失ったため、本作は苦難を生きる/生きた人びとの群像劇的な物語として再構成されました。その結果、話のスケールが広がり、ライアン・クーグラー監督をはじめ製作者のねらいも明確になったと思います。こんな「ポストコロニアルな世界」を娯楽映画、それもヒーロー映画でみることになるとは、と妙に胸が熱くなりました。 ただ、前作からみてもスケールが広がった本作の文脈を日本の観客が読み取ることは難しいと思いますし、抽象度も高いので物語の推進力としても、それを背負うキャラの魅力としても、前作と比べると見劣りしてしまうのはたしかです。そもそも今日的な文化帝国主義の代表ディズニーのマーベル娯楽大作で、植民地主義批判をやってしまうことの矛盾も感じることも。そして、前作以上に女性の活躍が気持ちよく、シュリの「自由奔放な妹」キャラからの成長を長い時間をかけて描いた本作であればこそ、ラストのアレは必要だったのか・・・私には疑問でした。また、せっかく大きくなったスケールが、三作目でまた家族の血縁の物語に戻ってしまうのでは、どっかのSF大作と一緒じゃないかー。次もあるっぽいですが、そうならないことを切に願っています。 [映画館(字幕)] 7点(2022-11-21 19:18:08)(良:1票) |
66. ドリームプラン
《ネタバレ》 微妙な邦題とアカデミー賞授賞式の例の件で残念な映画っぽいイメージが拭えなかった本作、見てみれば思いのほか爽やかで気持ちいい物語でした。主人公のリチャードは、言わずと知れたヴィーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹の父で、すべての観客がこの姉妹のその後の成功を知っているという前提が本作を見るポイントだと思います。リチャードの「プラン」は理にはかなっているけれど、それを守ろうとする頑固さは狂気のレベルに近い。この頑固な親父のせいで、とびきり優秀な2人のテニス選手の将来が潰されてしまう未来もあり得たかもしれない(し、そもそも成功には至らなかった「リチャード&姉妹」はほかに大量にいたかもしれない)わけですが、私たちはこの2人がどうなるかをあらかじめ知っているからこそ、無茶な主張と周囲の衝突を多少は安心しながら楽しむことができる。そして、実際に周りにいたら迷惑・面倒だろうなと思う親父リチャードのどこか憎めないチャームは、ウィル・スミスだからこそ表現できたものでしょう。実際、ポールやリックも姉妹の才能だけでなくリチャードの人柄やウィリアムズ家に惹かれてコーチを引き受けたというのがよくわかりますが、この絶妙なバランスはほかの俳優では難しかったでしょう。『アリ』や『コンカッション』のシリアスな役ではなく、いい役でオスカーを取れたと思います。そうした千載一遇の奇跡に触れることができるのも映画を見る楽しみですね。 [インターネット(字幕)] 8点(2022-11-19 10:02:30) |
67. マトリックス レザレクションズ
《ネタバレ》 第1作目のころ、「いま生きている世界は偽りの世界だ。覚醒せよ」という話にいまいち乗れなかった。というか90年代映画って某スリラーや某暴力系まで「見えている世界と本当の世界は違う」的なモチーフがあふれてたような気がして、そのなかでは本作はあまりに「中二病」的でダサくみえてしまったのでした。そこから20年あまり経って、正直いまのほうが本作にとっては難しい時代なはず。なぜって、このモチーフはまるまる「陰謀論」の世界観でもあって、それが現実の政治やら生活にも影響を及ぼしている昨今、本作が描く「覚醒」や「革命」も文字通りに感情移入するのは難しくなってしまったから。ただ、そんな難しい時代にあえて本作を問うことに、ラナ・ウォシャウシキー監督自身がどういう意図をもってるのか、軽い興味はあった。 で、見た結論としては、残念な結果に落ち着いてました。それは、物語上は「覚醒」を求めながらも、どこかで「なんちゃって」というメタ視点を留保し続けることで「本気になるなよ、これは作り話だよ」という構造にしてしまったことです。世界観への没頭力やら物語の推進力は大幅に後退し、2時間半を持たせるのはかなり辛かった。序盤のグダグダした展開はコミカルにテンポよくすることができたと思うし、モーフィアスとスミスというオリジナル・キャストの変更は、物語上の理由付けも中途半端で製作上の理由だろうというのが見え見えだった。前作以降のアクション描写、スペクタクル描写の進展についていけておらず、あまりに「進歩」がないのはあえてのレトロ趣味かと思えてしまうほど。いろいろ足りない部分を謎かけっぽい会話でなんとか補っても、物語に没入できないメタ構造がそれを邪魔する・・・。 ただ、それでもある意味、元祖陰謀論のような本作シリーズに自ら落とし前を付けた部分はあったと思うし、そうするしかなかったんじゃないのかな、という風にも思います。決して無意味な商業映画ではなく、トランプやコロナを経験したあとの2020年代という時代を象徴した一作だったのかもしれない、というふうに思います。それが「いい映画」だったかどうかは別として。 [インターネット(字幕)] 5点(2022-10-16 09:03:44)(良:1票) |
68. 機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島
《ネタバレ》 『閃光のハサウェイ』が新世代のガンダム的でとても出来がよかったので、あのTVシリーズの1エピソードをどんなふうに広げて/深めているのか、期待高めで見たけど、それが裏目だったようです。安彦さんの「オリジン」はコミック版を愛読しているので、どちらかといえば連邦軍、ジオン軍、ホワイトベースのそれぞれの思惑が「ククルス・ドアンの島」で交差するような政治劇・サスペンスドラマ部分での掘り下げを期待してしまったのですが、残念ながらそっちはTVシリーズ版からあまり発展は見られず、物語的にはスパイス程度でした。むしろメインは、ドアン、島の子どもたち、アムロの交流。ただ、この点では正直言って定型以上のものは一切なく、予定調和的に流れていくだけでした。一人一人に個性をもたせる子ども描写はハウス名作劇場というよりは『約束のネバーランド』的で、それが映画全体でうまく活かされている感じはしない。終盤にガンダムで敵兵士を踏み潰す描写は、ドアンや子どもたちとの交流を通して、アムロが「兵士」としての覚悟を示す(彼らの世界と決別する)描写にもできたと思うけど、そうゆう雰囲気もあまりない。見所は最新技術で動くファーストガンダムと懐かしいBGM! ただ絵として一番ケレン味があって印象に残ったのが、山羊vsホワイトベースの面々というのがなんとも・・・。 [インターネット(邦画)] 4点(2022-10-08 09:29:09) |
69. コーダ あいのうた
《ネタバレ》 前評判どおり、気持ちのいい映画でした。予想外にぶち込まれる下ネタの数々もいいスパイスになっています。主人公のエミリア・ジョーンズは、歌唱力的には物足りないと感じる部分もありますが、たいへんな環境のなかでの嫌みにならない健気さは出色の出来でした。オスカー受賞のトロイ・コッツァーはもちろん、実力者マーリー・マトリンもそしてお兄ちゃんもとにかく「家族」の造形と描写が見事で、この人たちのやりとりをずっと見ていたい気持ちになります。北東部地方の漁村の風景も美しい。これだけで映画としては大成功だとは思うのですが、ストーリー、設定、演出の面では違和感も。コンサートの無音シーンはすばらしかったのですが、実はこのときふと「手話しながら歌えばいいんじゃね?」という考えが頭をよぎってしまいました。この思いつきが、この後に尾を引いてしまい、一番感動すべきラストの試験のシーンもやや興ざめに。あと、結局通訳問題は解決してないように見えるのだけれど、どうやって乗り切ったのかわからないところ。たとえば、お母さんがおばちゃんグループに入っていけないところなど、どうやって乗りこえたのか?「障害者(お母さん)の側が心を入れ替えさえすれば、世界は変わる」という話なんだとしたら、障害者の側に困難を乗り越えろと求めているようで、ちょっとそれは違うように思える。バーのお姉ちゃん以外では、筆談すらする気配がない町の人たちにも、心がざわつく。田舎町という設定だから、ということなのかもしれないけど、とにかくいろいろ不自然に見えてしまって、せっかくの物語に入っていけなかった。愛すべき佳作ではありますが、いろいろコンサバな部分も目に付く。それが、オスカー作品賞を導いたのかもしれませんが。 [インターネット(字幕)] 6点(2022-09-25 14:58:58) |
70. リップヴァンウィンクルの花嫁
《ネタバレ》 岩井俊二は妄想系雰囲気映像を楽しむべし、という過去作の教えは十分に活かされました。ストーリー自体はなかなか酷い内容ですが、一つ一つの場面の美しさや即興的な楽しさはピカイチ。ただ、ちょっと趣味押し出し過ぎではないか、という場面もちらほら。(物語上は綾野剛さんに操られる)黒木華さんがなんというか、映画全体を通して監督の道具にされているようで、正直なところあまりいい気がしなかった。序盤の残念な黒木華、スーツケース2つで突然世の中に放り出される黒木華、メイド服でCoccoと絡む黒木華、そしてウェディング・ドレス姿、ラストの溌剌とした表情まで。さすがに3時間詰め込まれると、なんだかおかしな趣味に付き合わされているような気分になる。また、Coccoも彼女のパブリックイメージに頼りすぎじゃねーかというキャラ設定。もちろん、のびのびやることは大切ですが、そこにいるのは「真白」ではなく「Cocco」にしか見えない。とくに、歌声聞きたくなるのは当然だけど、やっぱり歌わせるべきじゃなかったように思う。綾野剛さんはうまいよね。いつもの綾野剛でした。というわけで、物語上の人物や心情よりも、黒木華とCoccoと綾野剛を見た、という3時間でした。ただ、その甘ったるいアンサンブルに肉弾で飛び込んできたりりイさんはすごかった。あの笑っていいのか泣いていいのかわからない酒宴のシーンは、本作の白眉でした。 [インターネット(邦画)] 5点(2022-09-16 13:28:13) |
71. シン・ウルトラマン
《ネタバレ》 ウルトラマンって怖いよね。っていうか、あらゆるヒーローは「異形の存在」であり、その不気味さを見事に映像化した序盤、とくに最初のウルトラマン登場シーンは秀逸でした。さっと延ばされた左腕・・・のへんな姿勢からのスペシウム光線の恐ろしさ。もうこれ見ただけで満足。ただ、そこからは徐々に失速。ザラブやメフィラスとの頭脳戦は面白いが、やっぱりラスト、ウルトラマンがなぜそこまでして地球を守ろうと思ったのか、何を何から「学んだのか」がまったくわからないので、カタルシスもない。美女を巨人化してる暇があったら、そっちをちゃんと描けよって、制作陣もわかっているとは思うし野暮だとも思うが、やっぱり思ってしまう。自分も幼少期に夢中になった1人なので「わかる」ことも多かったけれど、結局のところ、制作陣の「思い入れ」を観客がある意味読み取りながら見なきゃいけないのって、なんだかんだいって苦痛なんですよね。「さすが○○、わかってるー」っていうのにあふれてる現在、そろそろそういうの抜きで楽しめるカイジュー映画も見てみたいかなあ。 [映画館(邦画)] 5点(2022-09-08 14:42:32)(良:4票) |
72. ソウルフル・ワールド
《ネタバレ》 ピクサー作品だというのに、予備知識もほとんどないし、世間の評判もあまり聞かないまま鑑賞。音楽を映像でみせるのは難しいけど、音楽だけでなく表情や視覚効果も融合した演奏シーンにまず引き込まれる。ところが、人生最大のチャンスと思われた演奏機会の直前に「あっちの世界」に行ってしまった後悔から、なんとか現世に戻ろうと奮闘するあたりは、『インサイド・アウト』のおっさん版の趣きだが、抽象的な映像表現と結構複雑なルールに少し疲れる。物語が一気に動いたのは、主人公ジョーが、問題児22番のメンターになったあたりから。並み居る著名人を蹴散らしてきて22番と、何が何でも現世に戻りたいジョーのやりとりが微笑ましいが、2人を通して描かれるのが「生きる意味」であったことに驚く。個人的には、自分の夢が叶った夜に突然訪れるむなしさ、今度はこれが「日常」になることをうまく受け入れられない感じは、似たような経験があったので、とくにぐっと来た。夢はかなっても日常は続く、という当たり前のことに気づき、「生きる意味」をより深く考え始める主人公。そこからの展開は、予想の範囲を超えるものではないですが、無機質で抽象的な死後・生前の世界との対比で、日々の日常の美しさがとにかくこれまでになく説得的に描かれたアニメーションであり、その描写は涙なしには見られませんでした。物語の設定やバランスに難点がないわけではないのですが、「生きる意味」という難題に果敢に挑み、映像でその答えを示してみせたことで、私にとっては特別な一本になりました。 [インターネット(字幕)] 8点(2022-09-05 18:42:18) |
73. DUNE デューン/砂の惑星(2021)
《ネタバレ》 自分ではヴィルヌーヴ監督との相性はいいほうだと思います。代表作『ボーダーライン』『メッセージ』『ブレードランナー2049』はどれも複数回見て、見た年のベストテンにも入ってます。しかし、この作品はダメでした。ダメだった理由ははっきりしていて、一つは「終わらなかった」という点。公開直後から「終わらないらしい」という話は聞いていたのでわかっていたことではありますが、ヴィルヌーヴ監督作品って見てる最中は、退屈というか苦行に感じる部分もあるのですが、物語がきちんと「終わる」ことで、その苦行が昇華するというか、そういう作品がいいのです。『メッセージ』なんか、あのラストで大感動が押し寄せるわけで、それがなければやっぱり退屈な設定勝負のハードSFって感じだったわけで。今作、事件らしい事件も起きない、というか起きてるんだけどアンチクライマックスな作りと終始鳴りっぱなしのハンス・ジマーの音楽が、映画としての抑揚を失わせてしまい、その苦行にたえても最後にカタルシス不足。自分は『ロード・オブ・ザ・リング』は『旅の仲間』が一番好きで、冒険がはじまるぞという高揚感で終わってもぜんぜん楽しめるタイプの人間だと思ってましたが、たいして盛り上がりを見せることなく、ゼンデイヤのあの台詞で興ざめて終わってしまう本作では、さすがの私も頭にきてしまいました。二つ目のダメな理由は私の個人的なものなので点数には反映させていませんが、映画館で見られなかったことです。それなりの大画面テレビ+音響で見たとはいえ、暗い画面が多く、とくかくスローに画が展開する本作はやっぱり映画館で見るためのものでした。全編これは映画で見なきゃいけなかったとひたすら思いながら、2時間半以上を過ごしました。結局のところ、この作品は、「終わらない」とわかっていて、いつものカタルシスを味わえないのに、わざわざ映画館に見に行くのか、という壮大なジレンマを抱えてしまっているというわけです。次作を観に行くかどうか。二部作なら行ってみようかなと思うけど、三部作だったらもういいかな、という気分です。 [インターネット(字幕)] 5点(2022-07-16 10:32:54) |
74. 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
《ネタバレ》 大傑作ドラマ『True Detective』(シーズン1)の監督を務めたキャリー・ジョージ・フクナガ監督が007映画を!というのは、期待半分・不安半分でした。あのドラマで展開された乾いたスタイリッシュな映像、計算されたアクション、複雑な人間ドラマは、サム・メンデス版を引き継ぐにはベストに近い人選とは思いますが、メンデス版に感じていた違和感(あの、楽しい007がいつの間にかシリアスで湿っぽい映画になってしまった・・・)をいっそう加速させるような気がしたからです。そして、満を持しての鑑賞・・・でしたが、やっぱりその予感はあたっていたようです。それもどちらかといえば悪い方に・・・。 よかった点。バキバキした映像の美しさ、冒頭のちょいホラーっぽい演出や長回しなど新鮮なアクション演出、007のバカバカしい世界観(とくに『007は二度死ぬ』的なオリエンタル趣味)を真面目に描いている点、女性も男性もキャラ1人1人がみんなとにかく格好いい。とくにレア・セドゥは素晴らしかった。 残念な点。長い。ラミ・マレク登場あたりからドラマが一変してしまう。中盤の謎かけのような会話が続くのはフクナガ作品っぽさではあるが007では冗長。娘の登場からは完全に別映画になってしまう。これだったらボンド映画である必要はないような・・・とずっと違和感を持ち続けた先のラストシーンで完全に冷めきってしまった。「こんなのはボンドじゃない」以前に、私はもう自己犠牲ラストが本当に好きではないのです。タイタニックからダークナイトからアベンジャーズまで、とにかく主人公が命をかけて守る・・でまとめてしまうのは(それで「感動のラスト」とかいうのも)もっとも安易だと思う。とにかく、最後まで生きようともがいてほしい。そういうのとは無縁だと思っていた007が、その手の「闇落ち」してしまったショックはめちゃめちゃ大きい。 もちろん、永遠のマンネリを終わらせることは勇気のあることで、フクナガ監督はその蛮勇を買って出るだけの力量があるのは間違いない。その難行をきわめて高いクオリティでまとめたこともよくわかる。けれど、ぼくはやっぱりこの映画は「嫌い」です。 [インターネット(字幕)] 4点(2022-07-09 08:28:36)(良:1票) |
75. 先生、私の隣に座っていただけませんか?
《ネタバレ》 これはなかなかの掘り出しものでした。序盤からどこかずれている夫婦のコミュニケーション、あの原稿を見てしまってからの夫の狼狽ぶり。その後は、コメディとしてもホラーとしても楽しめるし、虚実入り交じったサスペンスとしても面白く、平凡な素材でもまだまだ面白くできる、ということを実感できました。不倫ものだけどジメッとした「三角関係」に持って行かなかったのは、柄本佑さんのダメ男ぶりに加えて、カラっとした奈緒さんの好演が大きい(ただ、若干物語的に都合が良すぎるようにも見えてしまうけど)。ラストの復讐劇ですが、俊夫はただ単に佐和子に「捨てられた」のではなく、「救われた」のだと思っています。少なくとも佐和子と千佳の2人にとっては、俊夫は「才能あふれる漫画家」だったわけで、やっと「筆」を再び取る決意を導いたのは、間違いなく佐和子です(→そこで、はじめてこのタイトルの意味がわかる構造もすごい)。だから、これは夫の「自立」の物語でもあり、その結果、妻もまた「自立」への道を歩んだラストだろうと思います。車の免許は、妻の自立を象徴する要素だし、だからラスト、私は、妻は1人だったという解釈です。「新谷先生」は最初から最後まで虚構のなかの存在であり、あの人のよさそうな青年は本当にただの教習所教官だったのでしょう。夫婦それぞれが「成長」した先に「別れ」があるという、たいへんよくできた夫婦もの映画であったと思います。 [インターネット(邦画)] 7点(2022-06-27 10:01:00) |
76. トップガン マーヴェリック
《ネタバレ》 デンジャーゾーンで始まるのであれば、マイティ・ウィングスで終わってほしかった・・・(ラスト・クレジットであのイントロがいつ来るかと身構えたけど、ガガとアンセムだけだった)。空中戦シーンの「リアル」さには感服するしかないのですが、1980年代の映画の続編を2020年代に作ることの意味ってなんだろう、ということも考えてしまったのでした。 60間近になってもやりたいことっていうのが、kawasakiで疾走、若造たちに格の違いを見せつけるドッグファイト、半裸でビーチ・フットボール、美魔女とのラブシーン・・・という1980年代の発想からほとんど抜けていないことにはむしろ驚いてしまいます。匿名性をやたら高めた「敵」の描き方なんて、前作でも批判されていたはずなのに、今作では何の工夫のなく同じことを繰り返すばかりか、アメリカ側の一方的都合による先制攻撃作戦をメインに置くという点では、前作以上に問題がある。そんなことをいうのは野暮だとわかっているけど、もう2020年代なんだし、そのあいだにアメリカが関わった酷い戦争が何度も起きてるわけだし、観客だって大人になってるどころか人生1周しちゃってるわけだし、少なくとも自分としては前作と同じようには喜べないだろ、それ、としか言いようがない。 「アクション・スター」として「挑戦」を続けるトム・クルーズに、そんな歳相応・時代相応を求めるのは大いなる筋違いだとは思う。でも、そう思ってしまった観客もいるよということは記録として残しておこうと思います。 [映画館(字幕)] 6点(2022-06-19 08:32:27)(良:2票) |
77. 佐々木、イン、マイマイン
《ネタバレ》 序盤は、主人公の悠二の類型的っぽい、いじけキャラがうっとうしかったのと、高校時代の「佐々木」の全裸踊りみたいなノリについて行けなかった(自分はあれを教室の隅でうるさいなあと思いながら見ているタイプだった)のもあって「え、これが青春時代の美しい思い出なの?」「評判高かったけど失敗したかなあ」と思っていたくらいでしたが、むしろ僕のような観客が先入観から見ようとしなかった、青春時代のひとつの姿をみせてくれたという点で、とても優れた作品だと思います。悠二の何事も決められない状態も、佐々木のいつまでも変わらない哀しさも、そして、ちゃっかり人生を前に進めている同級生「木村」の存在も、すべてが青春時代から大人への過渡期の真実の姿であり、どの生き方にも心当たりと共感を抱かずにはいられず、終幕のころには自分もまるで彼らの「友達」の1人になった気分で見てました。ただなあ、ラストの唖然とするシーン、佐々木の象徴はやっぱり「全裸踊り」と「佐々木コール」なんですよね。そのノスタルジーに「帰る」のではなく、そこから前に進んだところをラストでは見せてほしかったかなあと思いました。 [インターネット(邦画)] 7点(2022-05-23 13:52:59) |
78. ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償
《ネタバレ》 シカゴの歴史博物館にいったとき、フレッド・ハンプトン事件についての展示をみた記憶がある。FBIによる強制捜査で暗殺されたという経緯も今の感覚ではにわかには信じがたいけれど、50年前のアメリカで実際に起きた出来事。本作は、この事件をブラック・パンサー党のメンバーで「裏切り者」ビル・オニールの視点から描いたもの。社会運動の現場を臨場感たっぷりで描きつつ、潜入もののサスペンスも加味されることで、事件の背景に詳しくなくても話にはついていけると思う。ハンプトンのアジテーション演説も力強く、ダニエル・カルーヤはオスカー受賞に値する好演でした。ただ、このドラマとサスペンスにあふれた設定を映画としてどこまで昇華できたかは、少し疑問でもある。ビルとメンバーとの会話、FBIとの隠れたやりとりなどはどうも演出が平板で緊迫感に欠けている。その分、突然の逮捕劇、銃撃戦、FBIの襲撃シーンとの落差が大きくてショッキングにはなっているのだけれど、全体を通してみると、裏切り者の苦悩を描きたいのか、カリスマ的なリーダーとしてのハンプトンを描きたいのか、潜入もののサスペンスを描きたいのかはっきりしない印象になってしまっている。せっかくの題材ではあるけれど、脚本・演出の面では物足りなさが残念な一作となりました。 [インターネット(字幕)] 5点(2022-05-01 19:11:15) |
79. スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム
《ネタバレ》 もしかしたら自分世代(40代)だと、熱狂的なファンでもなくても公開されるとなんとなく見てきた映画シリーズの筆頭が『スパイダーマン』なのかも。『スターウォーズ』はたぶん思い入れあり過ぎるし、MCUは逆に仕事やら家庭やらで忙しくてフォローする余裕がない。そんな絶妙な距離感でつきあってきたシリーズも、まさかの過去作主人公&ヴィラン勢揃いとなれば、それはそれで懐かしくもあり、気分もあがって楽しい時間でした。とくに、打ち切りによってあまりに中途半端なままだった『アメイジング・スパイダーマン』のピーターにちゃんと「救済」のチャンスを与えていたのにはウルッと来たし、ヴィランそれぞれにピーターらしい結末を用意したのも、ほかでもない「心優しい」本シリーズらしさを感じました。一方で、あまりに苦い結末は、いよいよトム・ホランド版ピーターも、親友や初恋の人と違う人生を歩みはじめ、「子ども」から「大人」への階段を上ったのだと思えば、丁寧に彼の成長を追ってきた本シリーズらしい納得のまとめ方だったと思います。それぞれの登場人物たちにちゃんとそれぞれの結末を用意し、映画会社の都合で作られてきた3つのシリーズをまとめてしまうという力技には、ただただ感心しました。一つだけ、2代目グリーン・ゴブリン(ハリー・オズボーン)をどういうふうに絡ませるのかな、というのが気になっていたのですが、ピーターの台詞で触れるだけで終わってしまったのは、ちょっと物足りなく感じました。もしかしたら問題続きのジェームズ・フランコを起用できない事情もあったのかなーなどと邪推をしてしまって若干物語に集中できなかったのは少し残念。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2022-04-29 20:01:02) |
80. ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結
《ネタバレ》 お世辞にもできがよいとはいえなかったデヴィッド・エアー版に対して、テンポのよさと切れ味鋭い「騙し」で見事に序盤で観客の心をつかみ、ディズニー映画では絶対にできない悪趣味描写を連発させるジェームズ・ガン監督のエンタメ真骨頂を堪能できます。冒頭、監督の盟友マイケル・ルーカーや『サタデーナイト・ライブ』でおなじみコメディアンのピート・デヴィッドソンまで登場しての上陸作戦、まさかの「かませ犬」描写にはもう大笑い。巨大ヒトデによる都市破壊は、『ゴーストバスターズ』のマシュマロマンを思わせるシュールさでした。同作では「真の悪役」ポジションともいえるウォラーが案外あっさりとしていたり、ヒトデ襲撃でみんな死んじゃったはずの町をそれでも助けようとするスーサイド・スクワットの面々の決意の理由が微妙にわかりにくいなど、気になる点もあるとはいえるし、個人的には「残虐描写」は苦手なので、途中までは若干顔をしかめながら見ていたのですが、本作のラスト「もっとも底辺で忌み嫌われている者たちの逆襲」シーンのころには大号泣。自分が大量のネズミ襲撃描写に「泣く」日が来るなんて、夢にも思いませんでした。大作映画がパッとしなかった2021年で、笑って泣けるエンタメのスマッシュヒット。見る人を選ぶのはわかるけど、メッセージは思った以上に普遍的でストレートです。 [インターネット(字幕)] 8点(2021-12-28 17:04:17)(良:1票) |