1. ブレードランナー 2049
待望の続編。前作のテーマを「生」とするなら、本作のテーマは「命」だと思う。人間の本質とレプリカントたちの夜明け。「ブレードランナー」としてロサンゼルス警察に所属する新型レプリカント「K」。彼は、かつて反乱を起こした旧型レプリカントを「解任」する職務に就いている。家ではウォレス社製AIの恋人ジョイと過ごす日々を送るのみだ。ある日、彼は捜査中にある農場で旧型レプリカント、サッパー・モートンを「解任」する。その農場の木の根元に埋まっていた「箱」。発掘の結果、中には「遺骨」が納められていた。この事件を発端とし、物語は大きく動き始める...。2022年のテロによる大停電により、世界は壊滅的な被害を受けた。しかしそのお蔭で、「旧型」と呼ばれるレプリカントたちは静かに生きのび、ひっそり人間として暮らしている。人々は合成食料を生きる糧とし、目にする生物は人工動物ばかり。地球環境と生態系の崩壊後、雨と雪と砂に支配され荒涼とした風景は、フィリップ・K・ディックの原作の描写と重なる。愚直なまでに従順となり、完全に人間の下僕となった新型レプリカント「ネクサス9」。盲目の創造主ウォレスと彼らの関係は、神と人間の関係を彷彿とさせる。記憶の中の木彫りの馬。木の根元に刻まれた「06/10/21」という数字。無菌状態の部屋に保護され、記憶を創造することを生業とするアナ・ステリン博士。Kが謎の真相に近づくにつれ、彼は運命のうねりに飲み込まれて行く。全体的に長尺すぎる感はあるが、丁寧に積み上げられた伏線と情報により、世界が深みを増し広がってゆく様が心地よい。また、デッカードの登場、レイチェルの名前と声を聞く頃には、感情の波に飲まれること間違いなし。「お前たちは奇跡を見たことが無い」冒頭、サッパーの残した言葉は、ラストシーンになって心に刺さる。 [映画館(字幕)] 9点(2018-01-27 22:06:09) |
2. スーサイド・スクワッド
決死部隊。DCコミックの悪役たちが世界を救う物語だ。アメリカ政府はヒーローだけでは解決できない問題を抱えていた。そんな状況を打破するため、禁断の手段に手を出すことにした。ベール・レイヴ刑務所に収監されている凶悪な犯罪者を召集し、最強部隊に仕立て上げることだった。ん~、期待していた作品だが悪党たちのワルさ加減がイマイチ。悪党はもっと「悪党」として表現して欲しかった。決死部隊の連中が、みんな普通に格好良く、普通にヒーローに見えてしまうのがマイナス。タランティーノのキャラクタ構築を見習え。また、いつの間にか仲間意識が芽生えて簡単に結束してしまったところもマイナス。ドラゴンボールの悪役を見習え。興業的にも、引くくらいの悪党だと問題があるのは分かるが、バランスよく演出するのが見せどころだろう。あと、主要な事件の発端が、部隊の一員であるエンチャントレスの暴走であり、要するに首謀者アマンダ・ウォーラーの管理不行き届きだろう?ってところがマイナス。また、主要なキャラクタが普通の人ってところも、本当にエンチャントレスの暴走を止められるのか?と思わせてしまうのでマイナス。アクションシーンはそれなりに楽しめたんだけどなぁ。でも、ハーレイ・クインの存在感と愛らしさ、心地よい色気は最高。結局、彼女のための映画であり、彼女が居てこその物語なのだろう。でもでも、彼女が最後には普通に「仲間」って言葉を言っちゃうのはマイナス。峰不二子を見習え。全体的に退屈はしないが、それほど心に残らない感じだった。イマイチ...。 [DVD(吹替)] 5点(2017-07-14 22:54:22)(良:1票) |
3. ドント・ブリーズ
息をするな...。本作を一言で表すなら「自業自得」だ。盲目の老人と彼の家に空き巣に入った男女3人の若者との戦いを描く。ちょろい仕事と思って盗みに入った家で、逆に老人に追い詰められ恐怖に慄く悪ガキ3人。中盤までは、盲目の老人から気配を消して、空き巣3人が老人の攻撃をかわすところが面白い。この辺の見せ方はドキドキする。ただ、物語が進むにつれ老人の狂気が暴かれ、誰が悪者か判然としなくなり微妙に。要は主要人物みんなに悪者感があり、感情移入しにくいのだ。あと、老人宅地下の監禁部屋はグッとくるのだが、明るすぎるのが難点かも。地下室はやはり「暗闇の空間」になっていた方が良い。冒頭、人気の無い住宅街を女を引きずりながら歩く老人の画が印象に残り、期待度が高まるのだが...後が続かない...。コンセプトは良いのだが、いまいちハマり切れなかった。残念! [DVD(吹替)] 6点(2017-06-30 23:44:30) |
4. 鉄男 TETSUO
モノクロの映像から溢れだす色彩!観客は、その映像が発する得体の知れないパワーに浸食される!平凡なサラリーマンである「男」。ある朝、出社の身支度を整える「男」は、自分の頬に金属のニキビが出来ていることに気付く。気にしつつも「男」は通勤の途に就く。だが通勤途中、突然、金属に浸食された「眼鏡の女」に襲われる。「男」は何とか「眼鏡の女」を撃退し逃げ果せるが、その日から「男」の日常は奪われることになる。「男」の身体は凄まじい痛みを伴いながら、徐々に金属に浸食されてゆく。恋人との情事。巨大なドリルへと変貌した股間が彼女の肉体を引き裂く。何故こんなことに...。金属による肉体改造に失敗した「やつ」。それは「やつ」を轢き逃げして山に捨てた「男」の末路だった。「男」と「やつ」は金属に蝕まれた身体同士を融合させる。巨大化。「こうなったら世界中を鋼鉄化し、錆び腐らせてやろう」。金属に蝕まれながら融合した「男」と「やつ」は、どことも知れぬ街を疾走して消えてゆく...。訳分からん!レビューが書けない!...だが、感じるパワーは兎に角<<凄い>>の一言。クレイアニメ調のストップモーションアニメによる身体の変化や、パンクロック調のBGMなどが程よく脳に突き刺さるその感覚!一見の価値あり。ハナマル!! [試写会(邦画)] 7点(2017-06-14 23:56:31) |
5. アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン
マーベル・ヒーローズ第二期『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』。お馴染みのヒーロー達が一同に会す、お祭り映画の二作目。冒頭のヒュドラ基地の攻撃シーンから興奮必至。アベンジャーズのヒーロー同士の連携攻撃も発揮され、彼らのパワーアップを感じられる。 また、南アフリカで初めて闘うこととなる「双子の強化人間」の能力に苦戦する面々。最高の魅せ場は「ハルクvsハルクバスター」!精神支配により暴走させられたハルクと、対ハルク兵器として開発されたアーマー装着型アイアンマンの本気の殴り合いは燃える。天才として心を通せ互いを認めていた二人だからこそのこのシーンだ。また、ウルトロンによるラスト間際のあの「巨大物体」落下作戦の防衛線は迫力満点で、のめり込んで観てしまった。このようにアクションは大幅にパワーアップして申し分ない。...のだが、物語の面はイマイチ。まず、トニー・スタークとブルース・バナーが産み出してしまった「自己進化する人工知能」ウルトロンとの対決を中心に考えてみると、根源的な脅威はアベンジャーズ自身ではないかと思う。ウルトロンは「平和のために人類を滅ぼす」という原則・原理に従って、飽くまで「平和」を実現しようとしていただけだ。本作のアベンジャーズはウルトロンに出し抜かれてばかりで、彼らは自分たちが起こした「大事故」に対し「尻拭い」をしているのみなのだ。アベンジャーズは、市民を守るため不可抗力とはいえ、大規模な破壊を繰り広げた挙句、あの「巨大物体」は消滅。彼らは市民を救出してはいるが、そもそも関係のなかった市民が何千人死に、怪我をし、財産を失ったことか。市民が普通の生活に戻れるまで、どのくらいの期間がかかるのだろうか?まあ「ヒーロー」たちは、そんなことは百も承知で脅威から地球と市民を守るために戦っているのであろうが。本作は「アベンジャーズの存在意義」を問うているかのようだ。この辺の矛盾点というか、アベンジャーズによる街の破壊描写ばかり見せられた点が、今一つスッキリしない部分なのだろう。もっと、何も考えずにアクションだけ見たいものだ。 [DVD(吹替)] 6点(2017-06-09 19:42:17)(良:1票) |
6. キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー
ウィンターソルジャー=帰還兵。前作ラストで現代に蘇ったキャプテン・アメリカの活躍を描く、シリーズ第二弾。あの『アベンジャーズ』の戦いから2年。スティーヴ・ロジャース(=キャプテン・アメリカ)は、慣れない現代生活に苦労しつつも、諜報機関「S.H.I.E.L.D」で世界の平和維持活動に従事していた。あの戦いでともに戦ったナターシャ・ロマノフ(=ブラック・ウィドウ)も同僚として共に活動している。そんな中、S.H.I.E.L.D長官ニック・フューリーが襲われ、匿ったキャップも同僚のはずの攻撃部隊によって襲われる。実はS.H.I.E.L.D高官であるピアース一派が指揮権を奪い、密かに世界を支配する計画を進行していたのだ。「インサイト計画」による恐怖支配。それは、空中空母ヘリキャリアとスパイ衛星を利用し、「平和維持」の名のもとに現在・未来に脅威となるテロリストを殲滅するというものだった。何とか難を逃れたキャップは、ブラック・ウィドウや新たに仲間となったファルコンと共に、暗号を解読して手に入れた資料を基に秘密基地を探し当てる。だが、そこで彼らを待っていたのは、予想だにしない人物だった...。世界平和を維持すべく組織されたはずのS.H.I.E.L.D。だがその内部は、かの「ヒュドラ」によって食い荒らされていた。この点は、テレビシリーズ『エージェント・シールド』ともリンクする内容となっている。そしてキャップと互角の戦闘力を持つ「ウィンター・ソルジャー」との熾烈な戦い。シリーズ屈指のアクションとして見事な内容になっていると思う。実はキャップとウィンターソルジャーは、コインの表裏のような関係であることが判明する。根源的な「正義とは何か」という問いを提起している内容は、単なるアクションものとして終わらせない深みを作品に与えている。"ファルコン"や"エージェント13"など、キャップに近しい魅力的な新キャラも登場し、シリーズ続編への期待も高まる。ハナマル! [DVD(吹替)] 7点(2017-05-01 23:54:05)(良:1票) |
7. スタンド・バイ・ミー
"ぼくのそばにいて欲しい..."「死体を見たくないか?」物語を作る才能がある内向的で真面目なゴーディ。家庭に問題があり将来を悲観しているが正義感に溢れるクリス。父親に虐待を受けているが父を愛する眼鏡のテディ。太めで臆病なうっかり者のバーン。本作は、この四人の少年たちによる、ひと夏の他愛もない冒険小旅行の物語だ。主題は「死体探しの旅」であるが、年上の不良グループとの諍いも適度に絡めつつ、それぞれ家庭に問題を抱えた彼らの身の上が分かり易く表現されており、誰もが通過するであろう「大人」への純粋な憧れが清々しく描かれている。その道中での多感な少年の行動や心理の細かな描写が素晴らしく、彼らの友情が心に沁みた。リバー・フェニックスを始めとする、子供たちの演技の新鮮さも見どころだ。特に焚き火のシーンで、クリスがゴーディに「大人の裏切り」について告白するシーンが素晴らしい。対比的に、大人になるために色々なものを失わざるを得なかった寂しさ、虚しさを感じさせるリチャード・ドレイファスの存在感も特筆ものだ。また、主題歌である"Stand by me"の素晴らしさも言わずもがなだろう。この映画のために創られたと思えるほど作品にマッチしており、エンドロールでこの歌が掛かると物語の感動も一入となる。作品としては小粒に映るが、誰もが懐かしさと清々しさを感じる内容は素晴らしい。ハナマル! [DVD(吹替)] 7点(2017-04-16 21:31:55)(良:1票) |
8. エクス・マキナ(2015)
"Deus ex machina"=「機械仕掛けの神」。人工知能とロボット技術の進化の先にあるものは?大手IT企業「ブルーブック」でプログラマーとして働くケイレブ。彼は抽選でその会社の社長ネイサンの自宅へと招かれる。そこは広大な森と山岳が広がる地にある、社会から隔離された巨大研究施設だった。ネイサンから開発中の人工知能に面談テストを依頼され、快諾するケイレブ。だが、その人工知能を搭載した女性型ロボット「エイヴァ」と出会ったことで、彼の人生の歯車は狂い始めるのだった...。本作は社会から隔離された研究施設で起きるサスペンスだ。施設からの逃亡を画策するエイヴァと、助けたいと思うようになったケイレブの秘密の会話を、ネイサンに聞かれるのではないとハラハラしながら観ていた。ブルーブックが開発した検索エンジンで全世界から収集した情報が、人工知能の思考アルゴリズムの中核を為しているという設定も、今までになく斬新だと思う。高度に進化した人工知能が暴走することの恐怖。『2001年宇宙の旅』『ターミネーター』『マトリックス』そして『ブレードランナー』など同じテーマを扱った作品は多いが、本作は加えて「性」という要素が大きなウェイトを占めるように感じた。始めのうちはスケルトンボディの見た目が、少しばかり違和感のあるエヴァだが、演じるアリシア・ヴィキャンデルの芯のある美しさもあり、適度なエロスを感じるようになる。また、物語中盤に突然現れるメイドのキョウコ。演じるソノヤ・ミズノが予想外の美しさで掘り出しモノ。今後の出演作に注目したい。現実の世界でも、更なる高みに向け進化を続ける人工知能とロボットの技術。それらのもたらす未来はどうなっていくのか。物語のラスト、神が無慈悲であるようにエイヴァもまた無慈悲であった。人間は「機械仕掛けの神」を制御する術を獲得できるのだろうか?ただ、それはどう転んでも人類の未来に大きな転機をもたらすのは間違いなさそうだ。ハナマル。 [DVD(吹替)] 7点(2017-04-08 21:17:51) |
9. ロスト・バケーション
浅瀬の岩場での攻防。限られたアイテムの上手な使い方。主人公は医学生のナンシー。彼女は休暇を利用し、今は亡き母がかつて訪れたビーチに辿り着く。父と幼い妹の世話、勉強漬けの日々から解放され、サーフィンを楽しむ彼女。そんな彼女の足元には一匹の巨大な人喰いサメが潜んでいた...。突然の襲撃に足を負傷し大量に出血したナンシー。何とか近くの浅瀬の岩場に逃れた彼女は、恐怖に喘ぎながらも、医学の知識を頼りに生き残りを掛けた戦いを始める...。美しい海と砂浜、そしてサーフィン。水上では軽快に波乗りを楽しむ人間を描写し、水中ではそんな人間を見上げ近づく描写を挟むことで彼らを密かに狙う存在を示し、その流れ沿ってキーアイテムをチラ見させる。違う視点を挟むことで不安感を煽り、新たな展開へとつなぐ演出が上手い。冒頭、砂浜で遊ぶ子どもが発見するカメラ付きヘルメット。車で砂浜まで連れて来てくれた男性。地元のサーファー。酔っ払い。ナンシーのピアスとネックレス。潮の満ち引きが分かる時計。視界に残るブイ。傷つき消耗し、血色が悪くなって行く身体。満身創痍のナンシーの希望となるキーアイテムが密かに散りばめられ、物語の重要な要素となっている。また、そんな彼女に寄り添うように岩場に居ついたカモメは、まさに彼女の分身のように見えた。最後にボードの切れ端に乗せられ波に揺られる画は「助かる」暗喩なのだろう。蛇足だが、結構長いこと同居するカモメを観ていて、どことなくスティーヴン・キングの短編「生きのびるやつ」を思い出した。※興味がある人は読んでみて。「スケルトン・クルー-ミルクマン」。そして、ラストのサメとの対決の結末は、ちょっとご都合主義な感じがして不満。どちらかというと「サメ映画」というより「サバイバルホラー」といった感じが強く、少し物語が薄いが、十分楽しめた。 [DVD(吹替)] 7点(2017-03-27 23:54:45) |
10. セッション
『Whiplash』。原題になっているジャズの名曲(らしい)「Whiplash=鞭撻」は、まさに物語の本質を端的に表していた。主人公アンドリュー・ニーマンは偉大な音楽家を目指して名門音楽大学に通う学生。そんな彼がドラムの練習中、指揮者で教官のテレンス・フレッチャーの目に留まり、彼の楽団に招かれる。だが、フレッチャーの苛烈なまでの指導に、アンドリューは次第に俗世を捨てドラムの世界に没頭していく...。野心と傲慢さをさらけ出し、音楽に執着するアンドリュー。一貫して苛烈な指導を続けるフレッチャー。熱狂と狂気の果てに、彼らの戦いは思わぬ終着点を迎える...。全編通して明度の低い映像の中、火花を散らすような二人の狂気。アンドリューは、手を血だらけにしながら常軌を逸したドラムの練習を重ねる。観客はその「痛み」から彼の孤独と狂気を感じる。二人がともに転機を迎えた中盤、フレッチャーが本心を吐露する。「危険なのは、"上出来"という言葉だ」。本物の天才は「才能が無い」というレッテルを貼られても、常にそれを跳ね除ける努力を重ねて来たのだ。そこで諦める者は、成功者にはなれない。彼の指導者としての哲学が、非常に印象に残るシーンだ。異常なまでに苛烈な指導が、一握りの天才を世に出すためには正しいのではないか?...と観客に思わせ、その狂気に「説得力」を与えている。そして狂気の師弟は、その関係を変化させながら奇妙な絆へと昇華させ、ラストのセッションシーンへ突き進む。「ねじ伏せる」。この言葉がこんなに合うシーンは観たことが無い。そのシーンは是非自分の目で確かめてほしい。ハナマル! [DVD(吹替)] 8点(2017-03-20 11:53:33) |
11. アデライン、100年目の恋
アデラインの年齢...世代...。誰もが願う永遠の若さの意味とは...。アデライン。29歳のとき、彼女が落雷による電磁圧縮作用で得たのは、1日たりとも老化しない体。100年の時が経ち、孤独に苦しめられ続けた彼女。彼女が不老となってすぐ、FBIに拘束された経験から、10年単位に素性を変えるようになる。ともに暮らせる人も無く、過去を思い返しては悲嘆に暮れ、最愛の一人娘も老い、愛犬の死も何度も経験し、そしてそんな生活がいつまで続くかも分からない。叶わない願いだからこそ「不老」は魅力的なわけだが、老いないだけでは失うものの方が多いようだ。でも、彼女は自らの死を以てそんな状況を終わらせようとはしない。人生そのものを大事にする彼女は、本質的に「前向き」な性質なのだろう。(それとも宗教的な?)そして、全編通して映像の美しさが印象に残る作品だ。まあ、主演のブレイク・ライブリーが美しいのは間違いないのだが...神々しさすら感じるほどだ。アデラインが、もっと地味で男から言い寄られることの少ない女性だったら、また違った人生だっただろうと思ったりして。彼女はパーティで知り合った男性エリスと付き合うこととなるが、今までの経験からあと一歩が踏み出せない。娘からの後押しもあり、やっと彼の愛を受け入れることを決心する。そしてそんな彼女にラストシーンで本当の幸せが舞い戻ってくる。その内容と顛末は観てのお楽しみ...。普通の人なら落ち込むこともある現象が、彼女にはこの上ない幸せなのだ。軽くほほ笑む彼女に観客はゆったりとした温かみを感じるだろう。久し振りに出会った素敵な大人の物語だった。ハナマル! [DVD(吹替)] 8点(2017-03-17 23:26:42)(良:2票) |
12. 最強のふたり
触れ得ざるもの。障碍者と人種の壁。若いころの事故で首から下が麻痺した大富豪フィリップ。フィリップの介護人となったスラム街出身の黒人青年ドリス。そんな二人の友情を描く物語だ。「障碍者」「黒人」という「社会の枠組み」に押し込められて窮屈に暮らしていた二人が、交流することで様々な「壁」を、そして己が知らず知らずのうちに積み重ねてしまった「心の壁」をも乗り越えていく姿は、観ていて心地よく感動的だ。差別的なブラックジョークもバンバン交わされるが、何故だか嫌な気分にはならない。無知と包容力。彼らそれぞれの立場を思いやる「言葉」であることが伝わるからだろう。この物語は、どのような相手でも「触れ得ざるもの」としてではなく、対等の立場で関わって行こうと言っているかのようだ。観終えた後は爽快感に包まれること間違いなし。ハナマル! [DVD(吹替)] 7点(2017-03-09 23:13:43) |
13. アイズ(2008)
《ネタバレ》 ヴァイオリニストとして活躍するシドニーは、幼いころ事故で視力を失ったが、自立して快活に生きる女性だ。そんな彼女が、姉の勧めもあり、角膜移植手術を受ける。手術は成功するが、視力の回復とともに「自分にしか見えないモノ」が居ることに気づく。リハビリの医師にも必死に訴えるが、信じてもらえない。それらが頻繁に見えるようになった彼女は、理解者もなく、不安と恐怖に苛まれる。そして、移植した角膜に原因があると確信した彼女は、医師の協力を得てドナーの女性について調査を始めるのだった...。ネットリと心に纏わりつくような恐怖を味わえる物語だった。やっとモノが見えるようになったのに、普通に自分の目には見えるモノが、他人の目やカメラには映らないことに気付いた時の恐怖...。視力に頼らず生きてきた彼女が、視力の回復とともに恐怖に晒され、誰にも頼れない状況は精神的な不安感を煽る。だが、シドニーが心ならずも得てしまった能力が、イマイチ判然としないのが難点。『デッドゾーン』のジョン・スミスの能力と似て非なるもので、彼のように他人に触れなくても、過去や未来の「死のビジョン」が勝手に心に流れ込んでくる。「死者の霊」「死につつある者の魂」「霊を死地へ導く者」「運命の死」など、死にまつわる霊的なものが見えるようなのだが、分かりづらい。また、始めはシドニーの訴えを取り合わなかったリハビリの担当医が、途中からいきなり心変わりしてシドニーに協力し始めるのも奇妙。しかも医師免許剥奪の危険を冒してまで。シドニーを好きになったから?にしては重過ぎる選択ではないか?そして、角膜のドナーである女性の物語に現実味が無いのが残念。特殊な能力を持ってしまったため、田舎町で忌み嫌われ蔑まれた女性。その存在感にリアルさが感じられないのだ。まあでも、これら「死のビジョン」が、ドナーの女性が心から訴えたい真実に彼女を導いていく展開は良い。そして、ラスト間際の「あのシーン」は、今までのフラストレーションを払拭するかのように派手だ。最後、シドニーは「元の生活」に戻れたようだが、それが彼女にとっては幸せだったように感じる。んん、でももう一ひねりほしかったかな。残念。 [DVD(吹替)] 5点(2017-02-26 14:42:59) |
14. トレマーズ
《ネタバレ》 荒野の地中を驀進する巨大生物「グラボイズ」。軽妙な掛け合いの心地よさ。舞台はアメリカ西部の小さな田舎町。そこでは最近小規模な地震が多発していた。何でも屋のバルとアールは、調査に来た地質学者のロンダと謎を探ることに。そして体長10メートルのワーム型モンスターが、次々と住人たちを餌食にしていることを突き止める。予想外に知能の発達したモンスターに通信手段を断たれ、孤立した町の住人と未知のモンスターとの生き残りを掛けた戦いが始まる...。まず、主役モンスター「グラボイズ」の存在感が凄い。「太いミミズ型の体」「硬い体表」「鉤状の口」「口中から生える触手」が合理的に機能し、醜悪ながらも現実に存在するかのようだ。加えて銃や手製爆弾程度の攻撃でも倒せるという弱点が設定されることで、よりリアル感が増している。地表のすぐ下を驀進する巨大生物がが、モグラのようにボコボコと地面を盛上げながら迫って来る映像は圧巻。また、地中に生息する「グラボイズ」は振動を感じる能力が発達しており、「音を立てずに地面を歩く」ことが重要になってくる設定が秀逸。家の屋根などに避難した住人たちが、「どうやって別の場所に移動するか」が重要になり、知恵を絞って窮地を乗り越える展開が緊張感を高め、面白さを増幅させる。また、暗くなりがちなモンスターパニックものにしてはコメディ感が強く、住人たちの掛け合いが楽しい。町の住人たちはヘンな人ばかりで、特にバルとアールのコンビの掛け合いとアクションが予想外に面白い。更に住人の中でも銃オタクのガンマー夫妻が大量の重火器をコレクションしており、非常に良いアクセントになっている。夫妻の活躍は凄まじく、コレクションの銃や手製爆弾を駆使して大型モンスターを駆逐するシーンが燃える。最後の最後まで彼らが知恵を絞ってグラボイズに対抗する展開が非常に好みだ。続編は未見だが、観たくなってきた。ハナマル! [DVD(吹替)] 8点(2017-02-11 14:58:55) |
15. フィフス・エレメント
四元素の石柱と五番目の要素。「愛は地球を救う」数年に1回は観たくなる作品。過去の映画で観たことあるようなシーンばかりのいいとこ取り感はある。...だが面白い。物語は単純明快。未来世界で地球存亡の危機に立ち向かう男女の活躍を描く冒険活劇だ。カッコいいヒーローとヒロインが、カラフルな世界を縦横無尽に冒険するさまはドキドキ・ワクワクする。リュック・ベッソン監督のオタク気質がいい方向に向いており、楽しませ方がうまい。お約束の「マッチ箱に残った1本のマッチ」が大好き。それと、健康なお色気を振りまく、若きミラ・ジョヴォヴィッチ演じるリールーの一挙手一投足が、ホントに可愛らしく美しい。また、ゲイリー・オールドマンが間抜けな悪役を楽しんで演技しているのも良い。ハナマル! [DVD(吹替)] 7点(2017-02-04 16:52:55) |
16. フラッシュダンス
夢を捨てることは死ぬことと同じ。ダンスと音楽と爽快感。昼は溶接工、夜はバーのダンサーとして働くアレックス。彼女にはプロのバレエダンサーになるという夢があった。恋愛と友情。様々な困難を乗り越え、夢に向かって走る女性姿を描く。シンプルな物語に迫力あるダンスと爽快な音楽を盛り込み、80年代に大ヒットした映画だ。子供のころ友人と劇場で鑑賞した際には、同じ日に3回連続で観てしまった。物語は本当にシンプルな展開で、大した山場も捻りもない。合間合間に挟まれるダンスと音楽のため、長尺のミュージックビデオ的な構成になっている。だが、何も考えずに物語に入り込める内容は好み。連続して再生される音楽と映像に包まれるような気分になり良い。悩んでいたり、落ち込んでいる時に観ると、気分をアゲてくれること間違いなし。たまにはこんな映画も観てみてはいかが? [DVD(字幕)] 7点(2017-01-22 21:59:55)(良:1票) |
17. パニック・フライト
深夜フライト[RED EYE]。緊張感と駆け引きと勇敢さ。マイアミの高級ホテルでマネージャーを務めるリサ。彼女は、郷里テキサスで祖母の葬式に参列し、その帰りで深夜フライトに乗り込む。機内には空港で知り合った男性ジャクソンがおり、偶然にも隣席。紳士的なジャクソンとのつかの間の同行をうれしく思ったリサであったが、実は彼は要人暗殺を企てるテロリストの一員だった。飛び立った飛行機の中で、彼は自宅にいるリサの父親を人質とし、ホテルに宿泊する要人の部屋を変えるように脅迫する。彼に従わなければリサの父親の命は無い。身動きの取れない機内で、リサの静かな闘いが始まった...。まず、有能なホテルマン、リサを演じるレイチェル・マクアダムスが非常に魅力的。いかにもキャリアウーマン然とした見た目と立ち居振る舞いでハマリ役。好感度抜群ですぐに応援したくなる。また、巧みにリサに近づくテロリストを演じるキリアン・マーフィーも適役。紳士然とした好青年から、いきなり無表情な卑劣漢に切り替わる不気味さが良い。父親を人質に取られ助けすら呼べない状況のリサは、思いつく限りの方法でただ一人、父親や暗殺対象の要人を助けるために奮闘する。いつの間にかリサに感情移入して一緒にテロリストと戦っている気分になっている。そしてリサの悲しい過去のことが語られ、何故こうも彼女が勇敢に苦難に立ち向かえるのかに説得力が与えられる。演出が非常に的確で見事だと思う。リサはテロリストから逃げ切ることができるのか?リサの父親と要人の運命は?それは観てのお楽しみ。ハナマル! [ブルーレイ(吹替)] 7点(2017-01-15 23:19:19)(良:1票) |
18. ボディ・ハント
通りのはずれの一軒家。殺人事件の真相とは。両親の離婚により、郊外に母と二人転居することなった女子高生エリッサ。転居先の貸家は格安で、隣家で殺人事件が起きた曰く付きの物件。その隣家には、事件唯一の生き残りの青年ライアンが、近所から忌み嫌われながらも生活していた。その事件とは、ライアンの妹キャリー・アンが両親を殺したと言われるものだった。ある雨の夜、エリッサが帰り道をライアンに車で送ってもらうことになる。ライアンが思わぬ好青年だったことから2人は急速に親しくなっていくが、彼には他人に話せない秘密があった。そして、その秘密がエリッサ母娘を戦慄の恐怖に引きずり込んで行く...。全体的なまったり感は否めないが、十分面白い内容だった。最初ホラーだと思って観始めたら、完全なサスペンスものだった。ライアンの境遇が非常に同情を誘うもので、見せ方が上手く、感情移入してしまう。伏線とミスリードを誘う描写が多く、謎が少しずつ明らかになるにつれ、どんでん返し。物語冒頭の殺人の真実が暴かれると、いい意味で裏切られること間違いなし。また、ジェニファー・ローレンス始め役者の演技も良く、小粒ではあるが、なかなかの良作だと思う。だが、一点腑に落ちないのは警官の挙動。警察なら犯人未検挙とはいえ、殺人事件の真相もある程度は分かっていて然るべきなのになぁ、と思う。若しくは全部知っていての態度なのか?詳細は観てのお楽しみ。ハナマル! [DVD(吹替)] 7点(2017-01-14 13:25:46)(良:1票) |
19. ヘイトフル・エイト
斬新なマカロニウエスタン。ろくでなし8人。舞台は南北戦争後のアメリカ。駅馬車で雪道を街へと向かう賞金稼ぎと賞金首の女。その道すがら、別の賞金稼ぎと街の新保安官を拾う彼ら。吹雪に見舞われた4人は、山中にある行きつけの店に避難する。その店にはいつもの店主が居らず、同じく避難してきた4人の先客がいた。そして雪に閉ざされた密室で、それぞれの隠された思いがぶつかる夜が始まるのだった。全6章で構成されているが、前半は人物紹介が主で正直長い。だが彼らが行なう会話の中で、人物像が見えて来る演出が上手い。ちょっとダラダラ感があるが、そこを楽しんでこその物語だと思った。そして諍いが起き1人が射殺される。その最中、誰かがコーヒーに毒薬を入れたことで密室劇が始まる。目撃者もいるのだが、何故か黙っている。偶然居合わせたと思われた8人は、実は故あって集められていたのだ。最終章はバイオレンスの嵐。えっ、そんなところに...ってサプライズもあり、最後まで楽しめた。最後に生き残るのは誰か...?それは観てのお楽しみってことで。ハナマル! [DVD(吹替)] 7点(2016-12-31 17:32:30) |
20. 遊星からの物体X ファーストコンタクト
《ネタバレ》 雪と氷に閉ざされた南極大陸。ノルウェー観測隊が氷の中であるものを発見した。考古生物学者ケイトは、その太古の昔に死んだと思われる生命体の調査のため南極へ向かう。しかし、"それ"は死んではいなかった。調査中に解き放ってしまった"それ"は、他の生物の体内に侵入してその細胞と同化し、その生物に成りすます地球外生命体だった。ケイトとノルウェー観測隊隊員たちは、雪と氷に閉ざされた地で、音もなく侵略する"それ"との戦いに巻き込まれてゆく...。本作はジョン・カーペンター監督の1982年版の前日譚であり、前作同様、誰が"それ"なのか分からない疑心暗鬼を生む演出は、サスペンス感が堪らない。また、全編通して1982年版へのリスペクトが感じられ好感が持てる。1982年版では謎となっていた出来事「壊滅したノルウェー基地」「顔や身体が融合したような生命体の焼死体」「首を切って自殺したと思しき氷漬けの死体」「氷原で破壊された円盤状の物体」「壁にささった斧」などが発生した状況が浮き彫りとなる。そしてエンドロールでは、いよいよ脱走した犬とヘリで追いかける隊員のシーンが描写され、1982年版の冒頭に繋がる構成となっている。「あの人」が犬を追い駆けてたんだ...と、前作のファンには腑に落ちる構成となっており、その他もろもろ「ああそうか、ナルホドね」と思わせ上手い。また、最終的にケイトの行方が謎になっており、他の続編への広がりも見えて良い。クリーチャーの造形も進歩したCGのお蔭でリアルにグロな感じが良い。ただ「映像的に何かが足りない」と思ってよく考えてみると、それは「粘液・体液」の滴り感なのだろう。全体的に映像が「乾いている」のだ。ロブ・ボッティンとスタン・ウィンストンの手によるクリーチャーは、全体的に濡れていて気色悪かった。人間はネバネバぐちゃぐちゃしているものが本能的に嫌いなのかもしれない。そこが残念。ただ、作品としては独立して観れるし、十分見て損は無い作品に仕上がっている。ハナマル! [DVD(字幕)] 7点(2016-12-25 23:19:15)(良:1票) |