1. 素晴らしき哉、人生!(1946)
窮地に陥った主人公のため天使が救済へ向かうという導入で始まるオープニング。しかし主人公の生い立ちに三分の二の尺が使われ、天使が現れるのはラスト30分。現在の確立された脚本術(いわゆる三幕方式など)に則れば、天使が現れるタイミングは開始10分から20分時点に設定されるのがセオリーだろうと思います。天使の登場が、主人公救済の話が動き出すポイントだからです。実際観ていて主人公の生い立ちにはあまり興味がなく、いつ天使が現れるのだろうと退屈でした。が……あの長尺の生い立ちなくしてあのラストの感動はあり得ただろうか……。主人公の人となりを丁寧に描いたからこそ、無償の愛に溢れる大団円が裏付けられているのではないか……。気がつけば、もし自分がいなかったら家族はどうなっていただろうかとか、この主人公のように誰かから助けられるような生き方をできているだろうかと考えてしまう。人生を変えてくれる映画とは、感動させてくれる映画ではなく自分を省みさせてくれる映画なんだろうと思います。 [インターネット(字幕)] 7点(2024-10-07 22:42:10) |
2. オデッセイ(2015)
《ネタバレ》 主人公がラストの講義シーンで「火星に一人で残されたとき死を覚悟した」と言っていたけど、本当に死を覚悟していたのだろうか。残されたと気づいた時点で頭の中では生き抜くための算段を組み立てていたのではないか。そう思えるくらい、主人公は火星で一人で生き抜くための知恵と胆力を持ち合わせている元から完成されたキャラクターであり、心理的な成長や動揺が見られません。トラブルが起こっても淡々と処理していくもんで、こういうさらっとしたサバイバルSFは自分には物足りませんでした。モノローグ多様の進行も好みではないです。モノローグひとつでNASAとの通信方法の精度が劇的に向上させていたのは端折りすぎです。一番面白かったのは、主人公の移動方向からNASAが主人公の意図を察して廃探査機を使って通信を図ろうとするところ。通信方法もアナログなアイデアで補完してようやく使い物になるという代物で、こういう制限がかかってる状態が一番サバイバルしている感があってわくわくします。 [インターネット(吹替)] 5点(2024-10-06 23:20:31) |
3. ミッドサマー
《ネタバレ》 観る者を不快な気持ちにさせたくてしょうがないことで有名なアリアスターさん。今回は芸術面で好き勝手やってます。なぜ背中を開いた人を鶏小屋に吊るす必要があるのか。なぜ生贄を熊に詰めるのか。なぜギャラリーがみんな裸なのか。なぜ足だけ植えるのか。観ていて感じる「なぜそんなことを」という疑問をすべて宗教上の理由で片づけてとにかくインパクトのある絵面を優先。最後の10分くらいで堰を切ったようにその芸術性を解放させてるのはヘレディタリーと同じですね。ヘレディタリーでの死体放置シーンに匹敵するような、心理描写で観る者を刺しにかかってくる表現がなかったのがちょっと物足りなかったところです。しいて言えば浮気したせいで生贄に選ばれる展開がアイロニカル。芸術性の高い作品なのにオチは理屈っぽいんですね、と思ったんですけど、ヘレディタリーも各所に伏線を散りばめてあって、アリアスターってストーリーは意外と理屈を通すタイプなのかなと。 [インターネット(字幕)] 5点(2023-12-31 15:06:22) |
4. ヘレディタリー 継承
《ネタバレ》 最後の方は指の隙間から見てたので話がよく分からなかったのですが、ちゃんと見ても分からない話だったらしいです。妻の演技もよかったんですが、一番感情移入できたのは旦那。妻が娘の霊を召還すると騒いだ時や、本と一緒に燃え死ぬからと別れのキスをされた時の「ついていけねえ…」って戸惑い方がリアル。旦那は最後までスピリチュアルに理解が及ばないリアリストで、霊だ召喚だと過熱していく妻と対比される人物になっていました。この旦那は画面にいるだけで一旦現実に引き戻してくれるようなストッパー的存在だったんですが、旦那が退場してからのラスト10分は呪いが暴走。話は分からなかったですがここの畳みかけ方には圧倒されました。息子が妹の死体放置するシーンもリアル。自分も多分ああなる。 [インターネット(字幕)] 7点(2023-12-30 08:31:27) |
5. インターステラー
《ネタバレ》 ワープホール通るときはえ~。津波を見上げてはえ~。5次元のなかにできた3次元にはえ~。なんだかすごい映像と不気味な音楽とでっかいスケール感に圧倒されまくり。マン博士との小競り合いなんてささいなことに見えます。このスケール感の腰を折っちゃうんじゃないかと...。そしてロボットのキャラが立ってていい。走ったり人運んだりするときのアナログな動きが癖になる。声は吹替の方が好きだな。最後ついでに助かってて本当によかったです。 [インターネット(吹替)] 10点(2022-12-09 20:58:30)(笑:1票) |
6. ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ
《ネタバレ》 あのおなじみの黄色いMのロゴが盗用だったことに驚愕。本来の創業者の兄弟が報われないままなのがいたたまれません。オープニングで自己啓発のスピーチのレコードを聴いていたレイには斜陽のセールスマンの哀愁にいたたまれなかったのに、マクドナルド店舗拡大に一枚かんでからの行動力のたくましいこと。並々ならぬ執念と努力でのし上がっていくレイには見習う部分があると思いつつも、本来の経営理念を無視する強引なやり口には閉口します。エンディングでの本人の映像の、得意げにインタビューに答える笑顔がむず痒いです。 [インターネット(字幕)] 7点(2020-04-20 14:13:32) |
7. ローン・サバイバー
壮絶の極み。敵の弾丸で体の肉が少しずつ削られいく、絶望と血みどろの脱出劇です。崖を逃げるときのなんと痛そうなこと。体中を岩や木にたたきつけられながら転がり落ちていきます。訓練された精鋭部隊とただの武装集団との射撃スキルの格差、みたいなのも描き分けられていて、しかしその分、圧倒的な数の前に追い詰められていく偵察部隊の絶望が浮き彫りになっています。壮絶なだけでなく、生還に到るドラマも実に運命的。 [インターネット(字幕)] 8点(2017-10-29 12:57:51) |
8. パシフィック・リム
途中から脇役に見せ場を奪われて主人公が空気と化していっちゃってて、そんなところまで漫画らしくせんでもと思うんですが。それに人類が滅びるかどうかの状況で、主人公とライバルがエースパイロットとしての座をめぐって確執するという人間ドラマのスケールの矮小さにも、ちとウンザリします。 しかし怪獣の生々しい肌の質感とロボットの重厚な鉄の質感の対比がなんだかすごく新鮮。「巨大ロボvs巨大怪獣」というありふれたモチーフがフルCGの力でド迫力に立ち上げられていて、この視聴感覚と類似する作品が意外と浮かんできません。 ギャグキャラ補正をもってどんな状況でも絶対に死なないコミックリリーフ、ダサかっこいい必殺技など、誰もが一度は触れたことがあるであろうマンガアニメのエッセンスも随所に散りばめられてます。 [DVD(字幕)] 6点(2017-01-27 23:06:32) |
9. モダン・タイムス
チャップリン初観賞。意外だったのは、笑いの主成分がチャップリン自ら体を張った笑いやリアクション芸だったこと。当時の労働体制を社会風刺しているという前評判から、知的なユーモアを表現した上級者向けの笑いが提供される作品なのだと勝手に視聴のハードルを上げてしまっていたのだけど、チャップリンのコミカルな動きや表情の作り方が単純に面白い。廃屋の壁にもたれかかって池に落ちてしまうときの転がり方なんて絶品、なんて綺麗な転がり方なんだ。その他チャップリン自らがスタントしたというローラースケートプレイや、歯車に巻き込まれるシーンなど、体を使って笑いを取る姿勢に笑いの普遍性を感じました。社会風刺性は序盤ほど色濃く反映され、後半は生活の安定を求め七転八倒するドラマ性が強まっていった印象です。 [DVD(字幕)] 6点(2016-05-12 05:54:45)(良:1票) |
10. 12モンキーズ
《ネタバレ》 伏線回収モノは好きなはずなんですが、「12モンキーズ」が事件の中核を担っていないという事実にふーんとしか思えなかった自分には合わない作品だったようです。未来から来たという主人公の記憶や発言が真実か妄想か定かでない面白味は独特で、いいですね。仕舞いには、精神科医までもが幻覚症状を患った患者なのでは、と疑心暗鬼に。ブラピのイカれた演技も光ります。 [DVD(字幕)] 5点(2016-04-21 19:14:10) |
11. グラディエーター
こりゃ面白い。堕ちた将軍ラッセル・クロウの復讐譚に、コンプレックスと嫉妬に裏打ちされたホアキンのキャラクター像が圧倒的。2時間半があっという間でした。妻と子を殺されホアキンに追放されたラッセル。奴隷となり剣闘士として売られるハメに。しかし勝ち続ければホアキンとめぐり合える可能性があることが判明。そこから始まる名将の無双、無双、無双。これが爽快、タマリません。ひとりで無双するだけでなく、チーム戦では同じ境遇で剣闘士をやらされている仲間に対して指揮をとって勝利と生存へと導く。タマリません。そして民衆を味方につけたラッセルに手を出せずもどかしがるホアキンのわるあがきも見所のひとつ。追われて全てを失った男と追いやって全てを欲する男のドラマ、ぜひどうぞ。 [DVD(字幕)] 8点(2016-04-21 19:00:44) |
12. バックドラフト
兄弟ドラマにロマンス、サスペンスとテンコ盛りな内容なせいで中途半端さを感じるストーリーなんですが、話が重くなりきる前にどんどん先に展開するような内容なんで、割と最後までスッと観れてしまう。「炎は生き物」というセリフが指すとおり、炎の描写が爆発一辺倒でないところがいいです。床や天井を這う炎には独特の不気味さがあるし、バックドラフト寸前な部屋の扉の隙間に空気が吸い込まれるところなんかまさに呼吸。もちろん圧巻の爆発、爆発、爆発も完備。炎だけでなく、焼失現場やメイクによる火傷の痛々しさも、容赦のない炎の一面を描いています。それにしても、この作品を見る限り、アメリカの消防隊員ってなんか頼りない、って思っちゃう。火災現場でタバコをふかしたり、火災現場の目の前で消防車をすってんころりんさせたり、こんなやつらに自分の街任せたくねー。 [DVD(字幕)] 7点(2016-04-21 17:56:14) |
13. ドライビング Miss デイジー
べ、別にクリスマスプレゼントなんかじゃないんだからね! [DVD(字幕)] 6点(2016-04-18 19:03:12)(笑:2票) |
14. アメリカン・ビューティー
《ネタバレ》 要はこれ、最初は主要人物たち全員がなにかしらのウソをついてる状態だったわけですね。レスター夫妻は偽りの仮面を被った夫婦を演じ、娘はサイコな男に気がありつつも友人には否定し、その友人も処女であることを偽っていた。サイコな男も父親に隠れてマリファナをやっており、その父親もゲイである自分を偽ってゲイを否定していた。しかし、レスターが道徳を破って生きる活力を取り戻していくことをきっかけに、そのウソは次々引っぺがされていく。レスター妻は浮気で欲求不満を解放し、娘はサイコの怪しげな魅力にみるみる惹かれていく。友人は最後には純真な心で処女を告白し、サイコも父親への不満を露にし、その父親もたかが外れレクターにキスをする。混沌としたラストには、謎のカタルシスが感じられると同時に、己の欲望や不満に対し正直になるには道徳や通念を破らなくてはいけないのか、という虚しい余韻も感じられます。結局最初からウソをついていなかったのは、レクター家のお隣のゲイのカップルだった、というのはなんとも皮肉です。 [DVD(吹替)] 7点(2016-04-11 12:02:54) |
15. ジュラシック・パーク
《ネタバレ》 『ジュラシック・ワールド』がほぼ人災のお話だったんですが、こっちもほとんど人災のお話ですね。この作品が発信した命題は明確で、「ジュラシック・パークは安全は否か」という問いが物語の切り口。各分野の専門家を召集し、施設の安全性を議論する。結局その安全性は崩壊するわけですが、そのきっかけを作ったのは内部の人間。研究資料を外部に持ち出さんとしたために起こった人災なわけですね。しかし「どれだけ管理しても予測不能な事態を起こる」という自然の偉大な力をチラつかせてる描写もあり、たとえ悪人がいなくても、いずれ安全性は崩壊していたことも暗示されています。それにしても「巨大な何かが近づいて来てる危機を、水面が同心円状に波打つことで示す」というアイデアは本作が初出なんでしょうか。これやられると分かっててもドキドキする。 [DVD(字幕)] 7点(2016-04-10 20:20:43)(良:1票) |
16. ジュラシック・ワールド
《ネタバレ》 この、恐竜映画にもモンスター映画にもなりきれてない感、どうしたものか。『ジュラシック・ワールド』というくらいだから、当然最初まあ恐竜が大暴れするストーリーを期待しますわな。太古の時代を支配していた生き物が、非力で愚かな現代人どもを牙と爪で襲う。しかし出てきたのは、遺伝子操作により生み出されたハイブリッドなダイナソー。イカの擬態能力にカエルの体温調節能力、そして人間を騙しおおせるほどの高度な知性と持ち合わせているという。これはもはや恐竜ではない。こうなってくるとこちらとしては、「そうか、そういうB級モンスター映画路線で行くのか、じゃあきっとこれからハイブリッドが特殊能力とか頭脳戦を駆使して人間たちを翻弄したり蹂躙していくわけだな」と切り替えざるを得ないわけです。しかし、ハイブリッドに特殊能力が備わっていることが判明して以降、特殊能力を一切使わなくなるという「やっぱり恐竜映画路線に変更」展開。その後もなんやかんやあるんですが、とりあえず言えることは、この映画で「恐竜って怖いな」とは思えないこと。遺伝子操作という設定が混じった時点で自然の脅威は感じられません。 [ブルーレイ(字幕)] 5点(2016-03-26 04:21:46) |
17. 天使にラブ・ソングを2
「シスターでなければ」という要素が前作より希薄で、物語にパワーが欠けます。一応「聖歌隊」というワードが出たり、前作のシスターたちが出てはいますが、果たして態度の悪い生徒たちを改心させるのに本当にウーピーでなければいけなかったのか、かつて聖歌を大衆曲にアレンジしローマ法王までひきつけたあのウーピーが指導するからこそ生まれる面白味はあったのか、というね。「シスターでなければ」というより「ウーピーでなければ」ですかね。結局音楽で生徒たちの心が開くのなら、音楽に情熱のある人なら主役は誰でもよかったんじゃないの、という気がします。生徒たちを手なずけるのも意外とあっさりで、歯ごたえに欠けるところも。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2015-10-02 00:35:32) |
18. 天使にラブ・ソングを・・・
《ネタバレ》 やはりこういう楽しく痛快な作品ほど、緻密で繊細な計算の上に成り立っているもの、ですわね。幼少ウーピーが使途の名前を答える問いにビートルズのメンバーを挙げるというプロローグで、「シスター」「音楽」「型破りな性格」という作品のキーアイテムをすらっとナチュラルに提示。でもってシスターという素材を、人の命を奪う悪人も相手がシスターとなっては手を出せないというオカシサなどに活かすツボのおさえ方。シスターという題材だからこそ生まれる面白さ、みたいなのが随所にちりばめられてて、そして単に散りばめるだけでなく、その面白さの前にどういう流れだったらより面白くなるか、ということもよく考えられてます。警察内部に内通者がいる辺りの流れは会話だけで説明されていたりしますが、愉快なコメディパートと、ウーピーの働きで破綻寸前の教会が持ち直していくサクセスストーリーにパワーがありますので特に不満にはなりませんでした。 [CS・衛星(字幕)] 8点(2015-10-02 00:24:49)(良:1票) |
19. 情婦
オチも確かに素晴らしい。けど、そのオチへ視聴者をスムーズに届けさせた、ウィルフリッド卿の魅力がまたいいんですな。何がいいって、そのギャップ作り。法廷弁護士という尊敬されるべき職に就いていながら、当初は看護師の指示を無視し、なんとかして葉巻を吸おうとするダメっぷり。ライターを貸してくれた人を即いい人認定。なんてダメ人間。と思いきや、裁判が始まると露呈してくるその確かな辣腕っぷり。名立たる法廷弁護士としての実力を発揮します。やるじゃんウィルフリッド卿。そしてそして、佳境に入るとなんと正義感に溢れる好漢だったことが判明。なんて気持ちのいい男なんだウィルフリッド卿。法を司る人種でありながら、法の枠外で人を裁くラストもまたステキ。 [DVD(字幕)] 9点(2015-06-21 22:58:55) |
20. ローマの休日
《ネタバレ》 すごい。すごいすごい。なんだこのシナリオ。これは、ロマンス映画だとか、ラブストーリーだとか、そういう「ジャンル」に収まるような器の作品ではないです。あまりにストーリーが計算しつくされていて、変な笑いが出てしまいました。まず冒頭、公務で公人たちに事務的な挨拶を交わす間、ドレスの中では足で足をボリボリかくプリンセス。この瞬間からアン王女のキャラクターがバッチリ見えてきてすっかり魅せられました。画で語る、とはまさにこのこと。でもって公務漬けの日々と礼儀・作法・行儀を要求される束縛にウンザリの王女。そんな彼女が憧れるは「俗世」。羽を伸ばせる唯一の世界と信じて疑わない場所。えいやっと抜け出し、出合ったのは新聞記者ブラドリー。金癖の悪いブラドリーは当初、王女を金のなる木としかみておらず、スクープ激写による金儲けを画策。アン王女の素顔を引き出すため一日ローマ巡りを。しかし一日が終わりを迎える頃には二人は恋に落ちる。そして終盤、身分の違いにより分かれなければならなかった二人。しかし、公人としての覚悟を決め一肌脱げたアン王女と、金より愛を選んだブラドリー。そこにはもう、公務を投げ出す自分勝手な王女の姿もなければ、金にだらしのない記者の姿もない。何もかもが計算されたヒューマン・ストーリー。それがローマの休日。って自分でジャンル分けしちゃってますな。ダルトン・トランボに興味がわきました。近いうち、彼の手がけた作品を漁ることになりそう。 [DVD(字幕)] 10点(2015-06-21 22:31:59)(良:1票) |