161. 七つの会議
《ネタバレ》 全く予備知識がない状態で鑑賞してなんだか池井戸作品みたいだと思っていたら、池井戸作品でした(笑) はじめはノルマや会議偏重の会社気質を皮肉ったコメディテイストの映画なのかと思ってみていたらオリラジの藤森が出てきたりドーナツの無銭飲食とか、なんだかちょっとしたいちオフィスのいざこざを見せられて終わるのかと思いきや、いつの間にか八角さんを探る話になり、いつの間にかネジの話になり、いつの間にか大規模リコールを隠す大会社の隠蔽体質の話になっていました。 個人的にエンドクレジットでの八角さんの語りは最高でした。あんな粋なエンドクレジットならずっと見ていられる。いわく、このようなデータ偽装や隠蔽の問題が起きるのは、「会社の常識>世間の常識」「サムライ文化から来ている藩(会社)を守ろうとする日本人のDNA」が問題であってだからこういう問題は無くならない、というもの。語りに引き込まれました。実際、転職という文化があまり浸透せず、仕事を辞める(変える)人を、だから長続きしないやつ、とかこのくらいで辞めるな、とかいかにひとところで長く続けるかが美徳みたいなところが日本にはありますしね。私は全然組織に心酔するような会社人間ではありませんが、それでもやはり一つのことを続けること自体は大事だと思っています。それを周りにも求めたり、人の命より金、誰かの人生より会社、となってしまったらこの話のようになるんでしょうか。 家、車、家具、家電など、いまほとんどの人はお店やネットで売ってる顔も知らない誰かが作ったものを購入して、それに囲まれて生活しています。この映画のように本来リコール対象のものがきちんと発表されずに今家の中にあるのかも…なんて考えてしまったりして。でも資本主義の社会で生きるってことはそういうこととは切り離せないんだろうとかも思ったりして。森の中で仙人のように生活したりするなら別ですけどね。 野村萬斎さんのおかげで話に引き込まれ、とても楽しめ、また考えることができました。とても良い、オススメの作品です!! [インターネット(邦画)] 9点(2022-01-09 00:22:49) |
162. 人魚の眠る家
《ネタバレ》 原作はだいぶ前に読みました。あらすじ覚えていましたが、また映像で見ると違いますね。 個人的には書籍版よりも毒気は少なくなったかなと思いました。それだけに、突然の家族の事故、脳死や臓器移植・そういう家族を抱える状況などに思いを巡らせる機会となりました。娘が突然あんな事故にあったらどうする?娘の臓器提供の意思なんて聞かれたらどうする?娘の体の維持のために最新技術を使えるとか言われたらどうする?残された弟がお姉ちゃんのことで悩んでいたらどうする?娘のことに心酔するあまり周りを蔑ろにする母がいたらどうする?色んな「どうする?」が頭の中を駆け巡りました。すべて、実際にその立場になってみないとわかりませんが、私個人としては家族の立場なら生かしたいと思うし娘の立場ならもう臓器提供しますと言いたくなる。同じ人間が立場を変えて考えても真逆の意見になってしまうので、これは本当に立場次第の問題だと思う。そしてそれを周りがどれだけ尊重できるか、そういう問題だと。 電気信号を与えて体を動かしたり表情を作るということも、そこだけ見れば不気味に映るかも知れませんが、本来の目的は体を動かして身体の代謝をあげたり健康のための機能であって、そういう見方をすれば全然気持ち悪いものでもなんでもない。その結果どんどん身体の数値が改善されていく娘を目の当たりにして家族が喜ばないはずがないんだから。星野さんの彼女も、あんな見せられ方だけされればそれは誤解すると思う。 今はこうやって良くも悪くも他人事としてこんな感想を書いていますが、このような事故が本当に起きたりするのではないか、なったらどうしようと、そんなふうにどこか気持ちを引き締めつつ何もない日常を有難く感じるきっかけになりました。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-01-08 16:59:19) |
163. 青くて痛くて脆い
《ネタバレ》 「自分の取るあらゆる行動には人を不快にさせる可能性がある。不用意に人に近づかない、人を否定しない。そうすれば誰も傷つけないし、傷つけてしまった誰かから自分が傷つけられることもない。」 パラパラ漫画とかのセリフから映画は始まります。あらすじとしては、冒頭の台詞のような信念を持つ男子大学生の楓が、それと真逆の性質を持った女の子に話しかけられ、モアイというサークル活動を始めるに至り、惹かれるも、肥大化したモアイの中に居場所を見つけられず、想いを寄せていた彼女が自分のいないサークルで楽しそうに活動していることに歪んだ嫉妬をして、モアイや彼女に攻撃するというお話。こう書くと、すごく暗い歪んだ話だと思いますが、実際すごく暗い歪んだ男の話です。 でも自分も内に籠って勝手に壁を作るタイプだからあんまり偉そうには言えません。こんな攻撃をしたりはしませんが、わりと彼の気持ちはわかったりする。好きな人が違う誰かと仲良くしてたりしたら普通に嫉妬するし、それを見てるのも嫌になる気持ちは普通にある。わからないのは、衝動的に部屋を飛び出して彼女を探したり、遠くに見つけた彼女を見つけて走って話しかけに行ったりしたこと。いやそんなエネルギーやモチベーションで動けるならそもそもこういう人間になってないでしょう。映画なので、そこは物語っぽく作る必要があったのだろうけど、そこの動きだけ彼の設定とは、真逆の動きをしたことに戸惑ってしまった。 まあ、全く同じではないまでも、自分の内面を他人に見せられた気持ちがした、なんだか複雑な気持ちになった映画でした。 [インターネット(邦画)] 7点(2022-01-07 23:31:24) |
164. 弥生、三月 君を愛した30年
《ネタバレ》 全く同じ俳優、女優が高校生から50手前の中年まで演じることに違和感を感じる人もいるのかもしれませんが、私はそこまで違和感を覚えず見ることができました。 高校時代の友、その時の記憶を胸に男女二人の人生の変遷を見ていく物語。二人とも、若い時の夢と大人になってからの現実を抱えながら時を重ねていく。同時に、二人の互いへの想いも募らせながら。 何十年もの歳月の、三月だけを切り取って見せるというのは面白い手法ですね。携帯電話の形で世の中の移り変わりも感じたり。ストーリーの場面は「え、ここで?」という切り取り方のところもあったんですが、逆にそれからの展開が気になってのめり込めました。「絶対生きる」と言っていた親友が次の3月には亡くなっていたり、好きな相手の結婚式に呼ばれたり、逆に呼んだり。お互いワーワー言ってる関係が心地良いが反対にそれ以上の関係になりたくてもなかなかそこから踏み出せないとか。なんだか切なくしょっぱいラブストーリーでした。 50手前になっても、最後には想い人と一緒になれたなら、それは幸せな人生だと思う。 [インターネット(邦画)] 7点(2021-12-22 11:51:54) |
165. 犬部!
《ネタバレ》 実話ベースと言うことだが、現実にここまで自分の持つ理想通りに行動できる人がいたらそれはすごいな。昔よく、「口の付いたものは家に持って帰ってくるな」ということを家で言われたり誰かが言ってるのを聞いたりしましたが、命あるものを抱えるっていうのは本当に大変なことですよね。それが犬であれ猫であれ、金魚であれ人間であったとしても。 実際近所にも猫屋敷みたいになって家の周囲猫だらけでおそらく中では繁殖しすぎた猫たちがあふれてるんだろうなという家があります。その猫が外でよその家の庭に糞をしたり、車の下に隠れてたりボンネットに乗ってたり・・・。この映画を見て、中で死んでる猫とかもいるんではないかとか想像してしまいました。もし責任を持って動物を多頭飼育できる人がいるとしたらこの颯太先生みたいな人でないと無理なんでしょうね。仕事があり、家族がある人にはこんなまねは出来ない。 颯太先生は作中で持ち込まれた動物を全て無償で避妊・去勢手術していましたが、ちゃんと飼い主のある人からはお金を取ってたんでしょうか。それともどちらも無償でしていたんでしょうか。個人的にはどちらもきちんと正当な手術代は受け取って欲しいと思う。かかっている薬や器具のお金、設備のメンテナンス、手術代、それらを行う人材全てにお金がかかっている。本当はこういう颯太先生のような人に正当な報酬が流れるべきで、そうでない獣医にあまり報酬が出ないような形になれば理想なのだが。でもそんな制度を作ると今度はやたらと犬猫を繁殖させて避妊手術ばかりで儲けようとするような人が出てきたりするのかな。理想として制度がこうあって欲しいというのはあるのだが、それを悪用するケースまで考えねばならない行政の人も難しいだろうな。 エンディングテーマがとても良く、この映画のために作ったのかと思うほどの歌詞のピッタリ感。自宅でエンドロールまでしっかり見たのは久しぶりでした。 [インターネット(邦画)] 7点(2021-12-16 17:05:35) |
166. 仮面病棟
《ネタバレ》 原作既読でした。そのおかげで鑑賞前から作中の情景はおぼろげに想像できていたので、すっと話に入ることができました。 実際この田所病院のように、身元不明者を入院させてる病院ってあるんですかね。少なくとも自分はそういうのを見たことがなくて、あったらなんだか地元で変な噂でも立ってそうですね。そういう変な噂をフィクションの話にしたのがこの映画や原作なのかな。設定自体も好きですが、やはり原作者がミステリ作家の方なせいか、病院に隠し扉や隠しエレベーター。隠し部屋が満載なのがなんだかミステリー感があってワクワクしました。私も童心に帰ってこういう得体の知れない場所を徘徊して隠し扉を見つけたりしたいものです(笑) あと、やはり仮面というものは人に与える印象を大きく変えるものですね。『ジョーカー』よろしく、ピエロマスクはそれを見るものに恐怖や不安を与えます。が一転、仮面の下が自分の知ってる誰かだとわかると(実際はその人ではなかったわけですが)、途端に仮面への恐怖は収まり、しかも中身の人物が自分より下の人間だとわかるとむしろそれまでより強気になるという、複雑な仮面効果を見て取れました。 たぶん原作にはなかったような気がしますが、ラストの元首相の街頭演説以降のシーンは、正直要らなかったかな。元首相を暗殺したのかしなかったのか、したとして彼女は捕まったのか逃げ延びたのか、はたまた自害したのか。ラストが投げっぱなし過ぎて最後の最後で適当に放り投げられるのはなんだかスッキリしませんでした。あの記者会見もドラマチック過ぎて全然現実感が無かったですし。あんな会見で「もう憎むのはよせ!!」とかあんな劇場型のセリフ吐いたらそもそも会見打ち切られる。そしてその後あんな平和に病院で医者できないだろう。蛇足だったなあ。 [インターネット(邦画)] 6点(2021-12-14 23:21:57) |
167. KOTOKO
《ネタバレ》 Coccoの歌と世界観が好きです。一時期はずっと聞いていて、今でもシャッフル再生でCoccoがかかったりすると嬉しくなります。彼女の歌の世界観を知っていれば、この映画にも入りやすくなるかもしれません。何も知らずに見てしまうと色々受け入れられないことがあると思います。そういった事前の心の準備ありきで鑑賞しました。 それでもやはり内容としては辛いものもありました。綺麗だな、素敵だなと思っている人が痛々しい目に遭ったり壊れていったりする様を見て嬉しい人はいませんね。世界が二つに分かれている、だけならまだ大丈夫だったかも知れませんが、分かれたもう一つが襲いかかってくるというのは恐怖でしかないですね。しかもどちらが幻かは分からないという。二つ見えてるもののどちらかが攻撃してきたら、自分は守るしか選択肢がないですからね。自分には守るべき子供がいて、その子を守ろうと反撃すると傷害となり住む家を追われたり、状況はどんどん悪くなっていく。ようやく世界を一つにしてくれた人も何故か消えてしまって、また世界は二つになって、、、。 見ている自分が手を差し伸べたくなる、そんな映画でした。差し伸べる、というと偉そうかもしれませんが、ただ同じ時間を過ごしてあげたいですね。手をフォークで刺されるかもしれませんが。めっちゃ痛いんだろうなぁ、あれ。 それでも彼女と子供が笑顔でいてくれれば。またその綺麗な歌声を聞かせてくれれば。そう思える映画でした。 単純に数字で良い、とか悪い、という評価が難しい映画ですが、率直に気持ちが動いた、感じるものがあったという点でここでのシネマレビューの評価基準では8を付けておきたいと思います。 [インターネット(邦画)] 7点(2021-12-08 15:15:32) |
168. パーマネント野ばら
《ネタバレ》 冒頭から子どもがないがしろにされてて嫌な雰囲気だなと思っていたら、最後も母を探す子どもの姿に癒され、大人には全く癒されない映画でした。下ネタで盛り上がる大人がいることは当人同士がいいなら別にいいのだが、小さい子どものいる前でそれを平気でする神経は全くわからない。しかも街ぐるみでそんな雰囲気なんだから。出てくる男は女たらし、電柱カッター、DV野郎、ギャンブル狂。それに再婚の報告を自分ではなく娘にさせようとするオッサン。唯一まともだった愛する男も亡くし、おかしくもなってしまうかもしれません。 まずタイトルが店名だったことに驚きました。「永遠のバラ」的な意味だと思っていたら頭のパーマのことだったとは。そして内容はそのタイトルから限りなく遠く、、、下品で粗野な田舎と、そこでの暮らしに疲れて壊れた女性の話。 良かったところは、あまり無い。なおこは素敵な女性だったけど、子供を愛せていない姿が少しショックでした。他の人たちについてはすでに上述した通り。 なんだかたくさん映画を見てるうちにどんでん返し系ラストにも免疫ができてしまいました。良くも悪くも慣れてしまったのかな。新しい発見が少なくなってきたことがなんだか寂しいです。 [インターネット(邦画)] 4点(2021-12-04 18:08:53) |
169. 461個のおべんとう
《ネタバレ》 両親は息子のことが大好きで、映画でよくみるような虐待やひどい叱責があるわけでもない。いたって大事に息子のことを育てているし、息子は息子でけっこう素直。人並みに親へのわだかまりや自分自身と環境への不満などはあるみたいだけど、基本的に勤勉で真面目な性格。自分で自分のことを責任持ってなんとかしようとする、きちんとした子供だと感じました。作中で語られるように、たしかに「これは毎日のお弁当の話で、それ以上でもそれ以下でもない」のかもしれません。 ただ、前半少し残酷だなと思ったのは、両親の離婚やその後の息子の人生について、父母両方ともに「あなたが決めていいのよ」「お前のやりたいことをすればいい」と選択の責任をすべて息子に振るのはちょっときついなと思ってしまった。そこはもう家庭の教育方針になると思うのですが。彼は高校に行き、まともな友人に囲まれ結果幸せな高校生活を送れたと思うのですが、仮に息子がグレて普段あまり人のいない自宅が変な友人のたまり場のようになってたらどうしたんでしょうね。そういう意味で『望み』という堤真一さん主演の、子供が不良グループに巻き込まれて死んでしまう、という映画を思い出しました。ぜんぜん描かれ方の違う映画ですが、場合によってはそういう可能性もあるんだろうなと思ってしまった。 はじめに書いたように、井ノ原さん演じる父親もまた母親も子供のことが大好きで、そこに愛情をかけることには余念がありません。ですが、変化し成長するのは息子ばかりで、父親はお弁当を作るようになったということ以外は特に変わらず。母親も高校3年間でほとんど出番なく。まあ「お弁当以上の話はない」と先にことわられてますけど。色々見せておいてあまり回収されないストーリーだったので、空中で放置されたような変な感覚のまま残されてしまったのがちょっと・・という感じで終わってしまったのがなんだか残念です。 [インターネット(邦画)] 6点(2021-11-26 20:58:57) |
170. イヴの時間 劇場版
《ネタバレ》 この世界ではロボットに人の心は宿るという前提なんですね。旧型、新型によらずそれはどうやら皆同じらしい。自由意志がないと急にあんなカフェを訪れるわけはないし、急にオーナーが命令もしていないことを実行するはずがない。「〜はどうですか?」という提案くらいならあり得るが、実行までしてしまうとこれはもうロボットとは言えない。ロボットの利点は故障したり電源を失わない限り決められた行動を延々とやり続けられることで、例えば工場でロボットAが「最近自分のオーナーが疲れ気味だから早く帰ろう」とかロボットBが「今日は気分を変えて生地に混ぜる砂糖を少し多めにしてみよう」とかやり出したらもうロボットの利点は無くなる。この映画ではあくまで対人間の場においてロボットの心をどう扱うかということでしたが、その影響がどこまで広がるかと考えたときに、管理する側の人は難しいなと思いました。 そもそもなんでロボットが勝手にあのカフェを訪れたのか、なんでログにあんな言葉が残されたのか、もう少しきちんと語る映画でも良かったかもしれません。 [インターネット(邦画)] 5点(2021-11-22 09:40:26) |
171. こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話
《ネタバレ》 賛否両論ありそうな映画ですね。実話に基づくとは言っても映画だから、良くも悪くも誇張されていたり場面の切り取りなどはあったかと思いますが、それを抜きにしても個人的には好きになれない部分が多かった。 似たような設定の映画で『最強の二人』を前に見たのですが、その時の感想を抜粋: {世の中には肉体的・経済的・人間的な差が必ずあり、人と人は決して「平等」たりえないなと改めて思いましたが、人と人が「対等」になることは充分できるんじゃないか、そう思わせてくれた作品でした。} で、この映画の鹿野さんはしきりに「オレと君たちは対等」と言いますが、 「バナナ食べたい。無いの?買ってきて」 「ドムドムバーガーじゃ無くて頼んだのはモスバーガーだよ!わかってねーなー」 「今日の夜空いてる?どうせ何も無いんでしょ?」 ・・・対等?? ボラがいないとオレは死んでしまうんだということを盾に取った圧力の面が強すぎて、うまく彼のことを飲み込めない自分がいました。命に関わることはまだ仕方が無いとしても、バナナが欲しい程度のことなどはもっと相手のことを思って発言できないものなのか。あんな言い方も「実話に基づいた」というのであれば私は単純にこの人のことを好きにはなれない。『最強の二人』は本当に互いのことを一人の人間として認め合い、その関係の中で言いたいことを言い合う関係が見ていて気持ちよかったのですが。この二作、似ているようで全然違う。 ボランティアの意義は分かるし彼のように筋ジストロフィーなどで体の自由のきかない人がああいった手段で人を集めて病院に世話にならない自立の道を開拓したことはすごいと思うし尊敬できる。ただ、人として好きになれない。それだけでした。 もし自分が実際にこの物語の誰かになったとしたらまた感想は全然違ったかもしれません。 [インターネット(邦画)] 6点(2021-11-19 22:24:43) |
172. 鍵泥棒のメソッド
《ネタバレ》 あのまま桜井さんが殺し屋に、コンドウさんが貧乏役者のままで人生過ごしたらどうなるか最後まで見てみたかったですね。一時的に立場が変わっても、成功するかどうかは人間性次第だってことがよく分かりますね。グチャグチャだったアパートがコンドウが住むようになって以降間違えるように綺麗になっていたり、逆に桜井がコンドウのマンションに住み始めると瞬く間に汚くなってしまっているところが二人の対照性がうまく描かれていました。 広末さんのキャラも、あそこまで極端に几帳面な人はいないけど、でもいたら面白いなってくらいの感じでちょうどいい。あと香川さんはなんだか何をやらせても既視感があるにも関わらずどの役をやらせてもしっくりきますね。それこそ殺し屋の役をやっても記憶喪失になって誠実な男を演じても役者としてチンピラを演じても。味がある、濃い役者さんです。 物語はシンプルですが、テンポ良く進むので飽きることなく楽しめました。きちんと整理されたコメディだと思いました。 [インターネット(邦画)] 7点(2021-11-14 10:42:10)(良:1票) |
173. ハチミツとクローバー
《ネタバレ》 そっか。これって少女漫画が原作なんですね。言われてみれば納得です。でもそんなにゴテゴテした少女漫画然としたものではなく、芸術家の卵たちの人生や作品に対する葛藤を見れた、っていう感じです。面白かった。 芸術品についてはよくわかりませんが、作品にひたむきに取り組んでいる人を見るのは好きです。この映画なら、はぐみさんがまさにそんな感じの人。ゴツいヘッドフォンで周りの音を全て遮断するようにしながら作品と向き合うあの姿は確かに魅力的でした。竹本君が一目惚れするのもなんだかわかります。森田君は天才肌という感じですが、アーティストというより旅人という感じ。一箇所にじっとしてるタイプじゃなさそう、人間関係も。はぐみさんとなんとか仲良くなろうして、実際少し仲良くなり始めた竹本君が、急速接近するはぐみさんと森田君になんとも言えない気持ちを抱くシーンはなんだか切なかったですね。ストーカーの真山君と、彼を好きな山田さんの気持ちだけはよくわからなかったな。とにかく相手が好きだという気持ちだけはわかりました。 抑えきれない、飲み込みきれない誰かが誰かを好きになる気持ちというものを見ることができました。この映画では若い男女の物語でしたが、いくつになってもそういうものを忘れずに過ごしていきたいものです。 [インターネット(邦画)] 8点(2021-11-13 14:38:54) |
174. 鈴木家の嘘
《ネタバレ》 見る前に思っていたイメージとはだいぶ違っていた。変な表現ですが、きちんとしたヒューマンドラマでした。溺愛していた息子が引きこもりで、ある朝母親が食事を作って息子を呼びに行くと首をくくって死んでいた。それを見てショックを受け大けがを負った母親は記憶喪失に。残された父親・娘・母の弟などの親族は何も知らない母のため、息子がまだ生きていると母親に嘘をつき続ける。 見ながらずっと感じていたのは、娘が一番かわいそうだなと言うこと。娘も立派な母親の子どもなのに、母親は息子のことばっかり。あなたの子どもはこっちにもいるんだよ、と何度言ってあげたくなったか。記憶を失い知らないこととはいえ、息子の肩ばかり持ち、昔のことを息子に謝れだとか、親類の結婚式に息子の誕生会を無理矢理入れ込んだり、そこでもまたビデオメッセージで娘に息子への謝罪を促したり。母親のために頑張って嘘をつき続けてきた家族の気持ちはどうだったんでしょうね。本当のことを言ってやりたい、でも言ってしまうとまた母親が手首を切ったりしてしまうかも知れない。家族の葛藤がひしひしと伝わってきました。最後の最後で、川に入水自殺しそうになる娘を母親が止めてくれて本当に良かった。愛すべき子どもがそこにもいることをようやく気づいてくれたんだなと思いました。 息子の浩一が実際に何故死んだのか、理由は?背景は?色々と憶測や推測が出てきますが最後まで明るみにはなりません。しかしこのようなことが実際に実社会で起きてもきっと同じ事になるでしょう。記憶喪失云々は別にして、結局自殺の理由なんて本人しか分からず、残った家族や恋人などはその人に辛く当たってしまった過去の記憶を探ってそれが本当の理由であるかどうかも疑心暗鬼のまま自責の念に駆られるんでしょうね。それはとても苦しいことだ。酔いに任せた流れとはいえ、北別府さんが鈴木家の嘘をぶちまけたことは鈴木家としても良いきっかけだったんだろう。最後には母も含めて家族みんなで兄の死と向き合うことになって良かった。ほっとした。 [インターネット(邦画)] 7点(2021-11-13 07:57:01) |
175. 樹海村
《ネタバレ》 『樹海村』と言うタイトルと、作中での「樹海には自殺しようとして死にきれなかった人たちのコミュニティが存在する」という設定からそういうものを想像(期待?)していたのですが、全然そんなものが出てくる気配はなく、ただただ変な箱が出てきたら人が死ぬフラグが立つ話でした。コトリバコ?というのですか?他の方のレビューを拝見してるとそっち方面では有名な代物らしいのですが、寡聞にして存じ上げませんですみません。 「〜村」というシリーズにしたいという優先順位が勝ってしまって、面白いものが作れなかったのかな。この映画は名付けるなら『コトリバコ』とでもすればいいのにってくらいメインは箱。「村」的なものはほとんど見ることができず話が終わってしまいました。 最近ホラーというジャンルに対して、悪い意味でハードルが下がってしまったように思います。ITの発達により、誰とでもどこからでも連絡が取れたり写真を撮れたり。「そこにあるもの」や「そこにないもの」に対して考える機会が減ってしまったように思う。そのせいなのか、唐突に化け物が出たり人の人格が変わってしまったりしても「怖い」というより「何してるんだろう」という感じ。 『リング』や『らせん』などのホラー作品は昔大好きでした。今のホラーが楽しめないのは時代のせいなのか、自分のせいなのか。どっちなのかな。 [インターネット(邦画)] 3点(2021-11-11 20:57:32)(良:2票) |
176. 嘘八百 京町ロワイヤル
《ネタバレ》 前作に引き続き鑑賞。やはり私はそもそも骨董品に興味はないようだ。基本、お皿やお茶碗など使ってなんぼだと思っているので、、、絵画とかならともかく飾るようなお皿とかよくわからない。もっと言えばそれを高値で取引したり偽物で儲けようとするのもよくわからない。まあ物の価値は人それぞれということはわかってますが。 京町ロワイヤルということで色んな京都の景色が見られるとも思ったんですが、期待していたほどに「京町」感も無かったです。渉成園は出てきましたが、他の寺社仏閣や京都の街並みはほとんど出ず、それ目当てだった私のような視聴者には空振りになってしまいました。残念。 今回は「はたかけ」というお茶碗を用いての詐欺ストーリーということですが、茶碗の欠け具合であったり歪み具合は千差万別で、いくつも贋物が作られるわけですが高名な鑑定士が見てもどれが本物やらわからなくなってしまうという。それならなおさら茶碗の価値ってなんだろうと思いましたね。 唯一良かったのはエンディングでのはたかけのCG。茶碗の継ぎ合わせの模様から枝が伸び、ひとつの木のように描かれたCGがとても綺麗でした。 [インターネット(邦画)] 5点(2021-11-10 17:50:31) |
177. 嘘八百
《ネタバレ》 キャストが中井貴一さんと佐々木蔵之介さんということで興味を持ち、タイトルから察するに詐欺師かなんかの話かなと思って鑑賞。全然別の映画で美術品を扱う作品を見て、良い美術品を見つけてそれをさらに高値で他の人に流す仕事の価値がよくわからず面白く感じなかったことを思い出しました。この映画もそういうやつかなと、途中まで諦め半分のような気持ちで見ていましたが、「本物より良い贋物を作る」と佐々木蔵之介さんが本気モードになってからはなんだか作品に血が通ったのを感じました。たとえそれが偽物でも、何かを本気で作るということは何だか惹かれるものがありますね。砂にこだわり焼きにこだわり色にこだわり、、、何かのイメージに寄せて騙すという目的を除けばそこには本気の作家が一人いるだけ。茶碗製作のシーンは好きです。 あとはそれを品評会に出しもっともらしく演説を打つのもまあ見せ場でしたが、そちらはまぁまぁ、、という感じ。中井貴一さんのほうの役柄にあまり魅力を感じなかったせいかなあ。何にも知識がない人の家の蔵を覗いて、価値あるものをそうでないと偽って安く買い叩く姿は少し嫌悪感を覚える。まあそもそもあんな風に急に訪れた人に蔵なんか見せませんけどね。 最後はこういう映画でありがちの、騙したつもりが騙されて終わりエンディング。どっちにしてもあまり後味良い終わりかたではないのでスッキリはしませんでしたが。次作は京都編ということでしたが、中井貴一さんに熱を感じる作品にしてくれたら嬉しいです。 [インターネット(邦画)] 5点(2021-11-07 11:32:25) |
178. 私をくいとめて
《ネタバレ》 つい最近観た『勝手にふるえてろ』に何だか似てるなぁと思っていたら、やはり【タケノコ】さんがすでにおっしゃっていました。共通点は、彼氏がいない独身女子が仕事や人間関係などの日々の出来事に対して脳内で色々突っ込んだり妄想を展開してみたりするということ。『勝手にふるえてろ』のほうではあくまで主役の女子本人が脳内一人芝居を行うのに対し、本作『私をくいとめて』では、A、という自分の中のもう一人の自分との対話が中心になります。Aは自分の中にいるもう一人の自分として、主役の彼女に冷静に助言をします。Aの存在は彼女にとって当たり前にいてくれる存在でありすぎて、一度Aを失った時の喪失感を彼女はとても恐れています。現実には自分を好いてくれる男性がいて、自分も彼を大好きなのに、そうなるとAを失うことになるんではないかと怖がる彼女はなかなか現実の恋愛を前に進めることもできず、、、と、作品概要のようになってしまいました。 比較ばかりであれですが、『勝手にふるえてろ』より本作のほうが毒気は少ない印象です。周囲の誰かに対してではなく自分の中のもう一人の自分であるAとの対話が中心になっているからかもしれません。私自身も外に出すより心の中に葛藤やら何やらを溜め込むタイプなので、自分なりのAとの対話をしてるのかもしれません。勇気を出して飛行機に耐えて海外の友人宅を訪れたら、友人の旦那家族勢揃いのサプライズって。こう言うタイプの人間には辛すぎるなあ。セクハラを目の当たりにして心がざわざわする気持ちもわかるし、主役ののんさん演じる黒田さんに色々感情移入してしまう映画でした。 この映画も、女子だけでなく、色々人間が抱える心の声などを可視化して見ることのできる良い映画だと思いました。他の人もこういうふうに思うんだ、感じるんだということを見れるっていいですよね。 [インターネット(邦画)] 8点(2021-11-04 16:12:09) |
179. RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ
《ネタバレ》 日本でも他の国でも、自分の好きな乗り物に名前を付けたり擬人化して愛情を注ぐということがありますが、この映画も電車に名前をつけたりこそしませんが、三浦友和さん演じる運転士の電車に対するじんわりとした深い愛情が感じられました。それとは全く対照的に、家庭のほうでは昭和のおやじ的な奥さんに「おいお茶!」みたいな亭主関白モード全開で、普段ならともかく、本当にやりたいことを相談もできない夫に辟易して奥さんは出て行ってしまいます。 奥さんのことも運転士としての仕事も、ひいては電車のこともとても好きなのに、それらに対しての姿勢は真逆になってしまう。無機物には素直になれるけど、好きな人に対してはプライドや恥じらいが邪魔して素直になれない、いっぱいいっぱいになった時に感情をぶつけてしまって、後で後悔する。なんだか自分を見ているようでした。主役の滝島さんに対しても、素直になればいいのにって第三者の視点からは冷静に思えるんですが、いざ自分が同じような立場になると全然冷静になんかなれなかったので、その葛藤がわかってしまうことに感情移入してしまい、辛かったです。勢いや感情任せに言ってしまった言葉で、本当に大事なものを失ってしまう。この話では間違った自分と向き合ってやり直すことができて、良かった。 最後に、滝島さんが定年の祝いの席で言われたセリフが刺さります。私は定年なんてまだまだな年齢ですが、この言葉は良い意味でも悪い意味でも覚えておきたい。 「おまえさん、老い先短いとか思っとるだろう?長いぞぉ、ここからが…」 [インターネット(邦画)] 8点(2021-10-28 19:02:25)(良:1票) |
180. スマホを落としただけなのに 囚われの殺人鬼
《ネタバレ》 一作目の方は原作も読んで映画も鑑賞したのですが、こちらのほうは原作があるんでしょうか??自分が知らないだけかもしれませんが、でもあったとしたら「スマホを落としただけなのに」という部分があまりにも雑すぎませんかね。延々とそんなシーンはなく、最後の最後で実は出会いのきっかけがそうだった、って言われても。今回に関してはスマホを落としたこととストーリーには何の関連性もないし、ただ前作の名前を借りた別のサイバー犯罪の映画ってだけですよね。どちらかと言うとストーリーのキモはMを探し当てるサスペンス要素と、主役の彼の生い立ちに焦点が当たっていて、シリーズものというより別の映画でしたね。そういうものとして見れば、まあ普通です。 映画だから細かいこと気にすんなと言われればそれまでなんですが、浦野の警備が異様に緩いことと、全てミラーリングしてるのに借金まみれの警官にお金を振り込んだことを誰も把握してないこととか、基本彼一人で警備してることとか、そもそもあんな技術持ってるやつに強制ミラーリングとかかけてもすぐに解かれるか別の画像に置き換えられるとかされるんじゃないのかとか思ってしまう。だいたい警察側に浦野級の技術を持ってる人がいないから浦野を頼るんだし。 粗があっても映画だし、と割り切れるものは割り切れるんですが、この映画はちょっと無理なやつでしたね。続編にあぐらをかいた凡作でした。 [インターネット(邦画)] 3点(2021-10-26 19:58:05)(良:1票) |