1. ジョン・ウィック
《ネタバレ》 最近徐々に支持者が増えているのか、若干政策ペースが上がってる所謂「ノワール物」。ニューヨークの摩天楼を見下ろすショットや、夜のクラブに溶け込む裏の世界の住人達、それらを切り取る影の映し方等、本当にド直球のノワール映画です。また、この手のノワール映画では主人公のキャラクター造形も、ハードボイルドになることが多いですが、そのキャラクターにキアヌ・リーヴスを起用している点が上手いと思いました。キアヌは正直繊細な演技が苦手な俳優だと思うので(確かトム・クルーズと同じく失読症を過去に患っていたと思う)、良くも悪くも自分に合ったキャラクターしか演じれないタイプです。なので、妻の身代わりであるワンちゃんを殺されて、再び殺人マシーンになってしまう主人公の雰囲気には抜群に合っていたと思います。 あとはラスト付近でマフィアのボスが逃亡の途中から恐怖というか諦念というか、そのせいで笑ってしまっていたのが非常にリアルっぽくてよかったです。あんな不死身の殺し屋にどこまでも付け狙われたら笑うしかねーわな。 [DVD(字幕)] 7点(2015-10-23 23:49:59) |
2. ジュラシック・ワールド
《ネタバレ》 過去作を徹底的に研究した上に作られているのが実に良く分かるのでシリーズのファンとしてはとても楽しい映画体験になりました。先ず、主人公たちに立ち塞がる敵としてキメラ恐竜を設定した点が面白いです。『3』でフューチャーされたスピノサウルスはいまいちT-REXを超える恐竜としての説得力はなかった。そもそも古代の生物なので比較できる訳がないし、やっぱり誰もが思い描く最強の恐竜イメージはT-REXでしょう。そこで「じゃあ俺たちの考えるさいきょうの恐竜を作っちまえばいいんじゃね?」という中学生的な発想がいいですね。T-REXをベースに色々と混ぜているのだから、そりゃあ説得力も生まれます。しかもその恐竜一辺倒になるのではなく、シリーズ通しての適役であるヴェロキラプトルもしっかりと登場させる。しかも今回はこのラプトルが味方に回ったりもするアイデアも今までの過去作ではあり得なかった発想で楽しい。そして最後はやっぱりT-REXにしっかりと一番美味しい役を持たせる辺りのサービスも最高です。終盤のT-REXとラプトルの共闘、そしてモササウルスの止めの一撃までの大怪獣大暴れのアクションにはそれは胸を躍らせながら観てしまいました。 そして一作目と三作目と同様に、基本的には子どもを大切にできない大人がちゃんとした大人に成長するまでの物語となっているのも良かったです。一作目ではグラント博士、三作目ではカービーでした。本作では何と女性がその役目となっています。最初は甥のことなど仕事の二の次にだった彼女が、物語が進むにつれ彼らを守る保護者としての自覚を持っていく過程には中々熱くなるものがありました。 ほぼ唯一の不満点は映画内で恐竜が初めて画面に映るシーンがそれほど重要視されていないこと。本シリーズでは恐竜が初めて画面に映り込むファーストインプレッションは非常に効果的に演出されていました。一作目ではブラキオサウルス、二作目ではステゴサウルス(厳密には違うけど)、三作目では上空からの恐竜の群れと、この現代に恐竜が蘇るという人類の夢をこれでもかと強調していましたが、本作ではついに開園したパークの全景を映す場面が最も強調されています。本作の目玉の一つが、開園したパークなのですから別にそれでもいいのですが、恐竜が画面に初めて映る場面もそこに入れて欲しかったです。ホログラムが画面に映る最初の恐竜なんて嫌だー! [映画館(字幕)] 8点(2015-08-13 18:40:14) |
3. 進撃の巨人 ATTACK ON TITAN
《ネタバレ》 特撮の部分は凄かったです。冒頭の巨人の人間踊り喰いの連続から、終盤のエレンが変身した巨人の大暴れまで、あの阿鼻叫喚の場面を映画館で観れた満足感は大きかったです。特に後者に関しては、今まで人間たちが成す術もなく食い散らかさせる場面を繰り返し見せられたせいもあり、その巨人たちを圧倒的な質量で殴り殺すシーンにはカタルシスを覚えました。 しかし残念ながら、個人的に良かったなと思えたのもその部分だけで、後はかなり歪な部分が目立つ作品になってしまっていたと言わざるを得ません。先ず、脚本については不味い点が散見されます。あれだけ壁外に行く前に、「巨人は音に反応するから、大声を出すな」と言われているのに、やれ戦場で喧嘩をするわ、やれピアノを弾くわ、普通にエンジン音がでかい車に乗るわ、etc……。好意的に「まあ周りの索敵を終わらせた上での行動なのだろうなぁ」と勝手に解釈していたら、後半で「実は巨人を確り呼び寄せちゃってました」ってされてもなぁ。人類の未来を背負っているにしては余りにも無能と呆れるしかないです。中でも赤ちゃんの声が聞こえたと言って、巨人をむざむざ呼び寄せてしまったという中盤の展開は、ひどすぎる。謂わば、巨人に隊が襲われるという結果のために、無理矢理に原因を作りましたと言う感じ。あと原作の序盤の胆が「自由を求めなければ人間は家畜と同様である」「世界は言うまでもなく残酷である。強者が弱者を食い殺す実に単純明快な世界である」というメッセージは分かりますし、それぞれ私が原作で最も好きな部分ではありますが、実写化したときにキャラクターにそれをそのまま喋らすのは余りにも下策です。漫画で成り立つセリフを映画にそのまま持ち込んでも説明臭くって堪らないんですよね。色々と脚本が残念な映画でした。 [映画館(邦画)] 5点(2015-08-04 07:20:43) |
4. シン・シティ 復讐の女神
《ネタバレ》 エロいねーちゃんが沢山出て、男たちはカッコいいポーズを取って、戦闘で血がドバドバ出まくる、ザ・男子中学生用映画って感じでしょうか。でもこの頭の悪さは嫌いじゃないです。フランク・ミラーの作品の映画化としては前作に引き続き正しい手法だと思うものの、何年も開いてしまうと既にその手法も斬新に見えなくなっているのがやや残念でしょうか。 見所はヱヴァ・グリーンの体の張り方。今までも散々お色気要因として悪女を演じていましたが、本作ほどに激しい露出は初めてだったのではないでしょうか。その女優根性に拍手でした。 [映画館(字幕)] 7点(2015-01-13 20:07:40) |
5. ジャージー・ボーイズ
《ネタバレ》 60年代に人気を博した「フォー・シーズンズ」の結成から解散までを描いた音楽映画。彼らの代表曲の数々と、主演のジョン・ロイド・ヤングの素晴らしいファルセット、特に〆の「君の瞳に恋してる」は聴いているだけでゴキゲンになってしまいました。 但し、物語としては正直言うと凡庸かと思います。ある人物の栄光と衰勢というストーリーは作り尽くされているものですし、しかも本来の映画だったら描くであろう部分(家族との不和etc...)等はアッサリと片づけられる。 これから述べることは私の考え過ぎだと思うし、クリント・イーストウッドにそんな意図は無いと信じている。でも気になったのは以下の部分。 この映画では黒人が驚くほどに除外されている。フォー・シーズンズの観客には100人に1人位の割合で黒人女性が映るけど、それ以外には一切映らない。確かにフォー・シーズンズのポップスは主に白人に人気があったのでしょう。黒人音楽と言えばゴスペルを起源とするジャズですが、60年代にその人気は失われていきますが、その後はファンクやR&Bと進化して人気を博し、更にその後はフュージョンとして深化を続けます。そういう音楽はこの映画からは影も殆ど映らない程にオミットされている(パーティー場面で流れるファンキー・ジャズの名曲『モーニン』もお洒落な白人風にアレンジされている)。この映画はフォー・シーズンズを描く映画なのだから他のジャンルはいらないだろうという意見もまあ分かる。でも黒人という要素すら映画から殆ど省いてしまうのは如何なものかと思いました。あの『グラン・トリノ』を撮ったイーストウッドが何故、という気持ちが強かったです。 [映画館(字幕)] 6点(2014-11-09 16:31:14) |
6. 白ゆき姫殺人事件
《ネタバレ》 率直に言ってしまうと"映画"として面白くなかったです。多分目指した所は現代版『羅生門』だと思うのです。数々の証言に信ぴょう性は無く、真相は藪の中に隠されていると言う、そういうストーリーです。ただ『羅生門』の方は事件の真相そのものに観客が疑いを抱く様になっている優れたミステリであったのに対し、本作は誰の目から見ても証言者の勝手な想像だろうと断言できることまで無闇矢鱈に藪の中に放り込む。例えば、証言者の一人、満島栄美が色々想像する話ってのは本当に想像でしか無い訳で、そんなものを映像で見せられても無駄に尺が長くなるだけだと思います。そのある事ない事想像する大衆の怖さを描いている作品でもあるのだから全くの無駄とは思えませんが、「そんな想像見せるならサッサと次の証言者の話に移ってくれない?」と思ってしまいました。 そして非常にキツかったのがワイドショーのシーン。意図はわかるんです。憶測の情報を基に勝手にある人物を容疑者として扱うワイドショー(数年前にみ○も○たが非道い憶測をしてましたね)、またその元となるネットの問題性。でもそのワイドショーの映像をわざわざ5分以上も見せる必要があるのでしょうか?普段あまりワイドショー番組を観ないので、このシーンはとても辟易しました。映画として必要なのは分かるけど、映画として全然面白くなかったです。 あと超バリアフリーな、わかり易ーい演出方法も正直どうなんだと思います。この映画は基本的に証言者のナレーションに合わせて進んでいきますが、例えばある証言者が「その時、私は見たのです。彼女が笑っているところを!」と言った時に、容疑者が「(ニヤリ)」と笑うシーンにはこっちが笑ってしまった。そんなシーンばっかり。 文句ばっかり書いてますが、要所要所でTwitterに興じる大衆の愚かさを描いた後に、終盤近くで美姫と夕子がロウソクを点滅させてお互いに繋がっていることを再確認するシーンは素晴らしいと思いました。Twitterもロウソク遊びも他者と交信し繋がりを持つという意味では同じですからね。でもそれって多分原作(未読)にある要素だろうし、映画化作品の良さとは別でしょうが。 [映画館(邦画)] 3点(2014-03-31 00:56:54)(良:2票) |
7. 少女は自転車にのって
《ネタバレ》 非常に優れたキッズ映画であり、女性映画。ある物(本作の場合は自転車)が欲しくて頑張る子どもの姿を描いた傑作は『運動靴と赤い金魚』など多々ありますが、本作の場合はその"自転車"に強い意味が込められており、近所で売られているちっぽけな一台の自転車に乗り少女・ワジダが駆けるシーンに爽快なカタルシスを感じられる作りになっていた思います。 サウジアラビアでは近年ではやっとこさ変わりつつあるとは言え、女性は車を運転出来ません(それだけの能力が女には欠如していると見なされている)。そんな環境の中でワジダは自転車に乗って、友達の少年と競争したいが為にあらゆる努力を尽くし、自転車に乗ろうとする。自転車に乗るワジダは見てわかるとおり女性解放のメタファーです。その対比として随所で女性の権利が失われているサウジアラビアの現状を映し出す。年頃になるとヒジャブ(体をスッポリと隠す真っ黒なスカーフ)の着用を強要され、結婚相手以外の男性に肌を見せてはならず、既婚女性は旦那を喜ばせることが至上命令であるかの様に振舞わなければならず、世継ぎを産めない体になるとお払い箱。そんな現状を淡々と描いてきた後に、ワジダが自転車に乗って駆ける姿がなんと爽快感に溢れていることか。 同時にこれからのサウジアラビアの女性の行く末も暗示させる。自転車に乗ったワジダは力強くペダルをこぐ。辿りついた先は大通り。車が猛スピードで行き交う。そこでワジダは立ち止まるがその目線は確りと前を見つめている。目線の先は暖かい光で満たされている。 今後、サウジアラビアの女性にはまだまだ困難が降りかかるでしょう。パキスタンで暗殺されかけた女性運動家、マララ・ユスフザイさんの例を取っても、イスラム教圏で長く続いてきた男性優位社会はまだ根深く息づいている。それでもワジダは自転車に乗って前を向く。その姿には茫とした不安も感じるが、それを上回る希望が見い出せる。全ての女性に贈りたい良作です。 [映画館(字幕)] 8点(2014-03-16 12:02:41)(良:1票) |
8. 地獄でなぜ悪い
《ネタバレ》 園子温監督は自伝の中で、如何に現在の日本映画界で「泣ける」「感動できる」映画が持て囃されていて、観客に「泣かせること」を至上命令とするような映画が溢れていることに憤りを顕にしていました。そして黒澤明や深作欣二など日本を代表する名匠の映画には、唯々泣ける映画は殆ど無く、自分はそういう映画を作りたいと熱い思いを吐露していました。 そして完成した映画が『地獄でなぜ悪い』です。いや、園監督は実質的デビュー作『自転車吐息』から基本的に常に同じ路線で突っ走っていると思います。「どうしたら観客にショックを与えられるか?」「自分が作りたい映画とはどういうものなのか?」、という問を追求されてきた監督です。しかも下手をすると単なる自慰行為とも呼べる映画になる所を、園監督は観客を満足させるサービスも忘れずふんだんに盛り込んで映画を作り上げる。これは別の芸術家の言葉ですが、芸術作品は畢竟「混沌(コンフュージョン)」と「秩序(オーダー)」のバランスが大事なのだ。園監督はそのバランスの取り方が実に上手いと思います。 本作も正にそういう作りで、クライマックスではヤクザ同士の殺し合いが只管に続き、血が其処此処にビュービュー飛び出て、首がポンポンすっ飛び、銃声がガンガン鳴り響き、怒号が飛び交う。これは観客に向けたサービスと取るべきでしょう。オープニングから『仁義なき戦い』のテーマが流れる通り、この映画は深作欣二監督のタッチに非常に近いと思います。迫力のある残虐描写と気の抜けたギャグが連続する。正に深作欣二の世界。観客は地獄の乱痴気騒ぎに身を委ねるのみです。そこに園監督の映画への熱い思い、一生に一本の映画を取れるなら命なんて要らない!いい暮らしをして平凡な映画を作り続ける位なら死んだ方がマシ。そんな話が展開していく。 ある種の観客や映画の作り手にとってはこれ程のサービスは無いでしょう。そのサービスを全く有難がらない方がいらっしゃるのも当然です。私には最高のサービスでした。 [映画館(邦画)] 9点(2013-10-11 22:04:14)(良:1票) |
9. 100,000年後の安全
《ネタバレ》 「志」100点、「エンタメ」20点といった感じでしょうか。私はドキュメンタリー映画にもそれなりのエンタメ色を期待してしまう人間ですので、関係者のインタビュー→施設のスローモーション、という延々とした流れはやや残念に感じられました。ただこの話を描くとなると妙に面白気に撮っても浮いてしまうのも事実でしょう。難しいところ。 内容としては、オンカロの職員が程度の違いはあれ、非常に希望的観点で施設を運用していることに心底寒気を感じました。人間というのは矛盾しているようですが論理的に考えれば考えるほど曖昧になるもので、理系では無視できるほど小さな可能性を排除することは良くあります(近似と言います)。インタビュアーは必死に「もしこうなったら?」「もしこんなことが起きたら?」と質問をぶつけますが、答える方は「そんな不確かなことは分からない」「答えられない」と言う。まあこの言い分は理解できなくもない。別に扱っているエネルギーがなんであれ不測の自体というのは有り得るのだから。そのあたりの線引きは人それぞれによって勿論違うでしょう。でも、私としては核エネルギーを扱う時だけは、"万が一"の一を疎かにしないで欲しい。2011年に福島で起きたあの事故はその万が一を軽視した結果という意見もあるのだから。しかもそれが100万年間の話なら?"万が一"の一も積もり積もればだ。 [DVD(字幕)] 6点(2013-07-01 22:50:38) |
10. シュガー・ラッシュ
《ネタバレ》 話はとても大人向け。早い話が職場ですね、コレ。誰だった仕事をしていれば、「こんなことやってられるか!○○の仕事はいいよなぁ」などと愚痴ることは一度や二度あると思いますが、主人公のラルフも正にそれ。ただ彼は他人への迷惑を考えることなしに自分の思うヒーローになろうとしちゃった。つまり嫌われ者も大事な職場のピースであるっていう残酷な点を描いちゃってます(ファミリー映画なのに!)。感心したのは『Fix-It Felix』のマンションに住む住民たちが嫌われ役のラルフを最初はのけ者にしている点でした。記念パーティーにも呼んでやらないって最早いじめに近い。実際に汚い仕事をしている人って職場では大抵ちょっと腫れ物扱いされている場合があると思います。そういう人こそ皆から褒められるべきなのに!(ホントにファミリー映画か?)。そんな住民たちがエンディングではラルフにねぎらいのケーキをあげているシーンには目頭が熱くなりました。やっぱり職場ってのは色々な役割の人が支えあって成り立つものということを大変上手く描いていたと思います。 そんな大人向けなストーリーが根幹の本作ですが、流石はディズニー、子どももしっかりと楽しめるように作られています。『Hero's Duty』のサイバグとの戦闘は迫力満点であれで燃えない男の子はいるんだろうか?っていう出来ですし、『Sugar Rush』のメルヘンな舞台と可愛いレーサーには女の子は喜ぶでしょう。そうそう、この『Sugar Rush』で群れた女の子たちがヴァネロペを小突きまわすシーンも完全に職場のソレでしたね。女はこええで。 それから面白かったのはなんといってもキャラクターの動き!今回『Fix-It Felix』の住民はみんな3Dでありながら動きはファミコン時代さながらにカクカク動いて表情や仕草も大げさなんですが、その動きってPixar以前のディズニーアニメーションの動きにちょっと似ているんですよね。最新の3Dと従来のディズニーが培ってきた2Dアニメの良さを上手く融合した素晴らしいアニメだったと思います(これは本編前に流れる『Paperman』にも言える事ですが)。 しっかしAAさながらの悪役集会にザンギエフがいたけれど、ストリートファイターの悪役ってベガとサガットじゃないんかい?この辺り、作り手がゲームに思い入れがあるのか良く分からん。 [映画館(吹替)] 8点(2013-03-31 13:32:30) |
11. ジャンゴ 繋がれざる者
《ネタバレ》 純然なブラックスプロイテーションだったと思います。近年は暴力的でありながら、真剣に「暴力や復讐は何も生まないんだ、云々~」と説く映画が多いですが、「そんなもん知るか!悪い奴らはブッ殺せ!」という、ある種陽気な暴力シーンは見ていてスカッとします。これぞブラックスプロイテーション。 しかし終盤まで主人公のジャンゴとシュルツは法に背いた殺しはしません。シュルツはいつも自分は法の下に賞金稼ぎとして人を殺めていることを強調し、ジャンゴは子どもを持つ賞金首を殺すことにためらいを感じたりもしています。 だがシュルツは極悪人キャンディを射殺してしまいます。キャンディは法的には別に犯罪者では無いにも関わらず。ではなぜあれほど法を重んじていたシュルツはキャンディを殺したか。 シュルツはキャンディの義姉(もちろんレイシスト)がベートーベンの『エリーゼのために』をハープで弾くのを聞いて、「ベートーベンはやめてくれ!」といつも冷静な彼とは思えない程に狼狽します。それはドイツ人の彼が自国の最高の作曲家を差別主義者に演奏されるのが耐えられなかったのだと思います。その後、キャンディの書斎で大デュマの『三銃士』を見つけるところも同様。大デュマは「正義」を常に作品に込めた作家でしたから、「なんでこいつはデュマの作品が好きなのにこんな非道いことができるんだ?」と愕然としたのでしょう。私も全く同感で、「もうこいつらブチ殺すしかねーよ!」とフラストレーションが極まった所で、大銃撃戦となり、白人どもを皆殺しにしてくれるので爽快感は半端じゃなかったです。この戦闘シーンに至るまでの会話劇は本当に素晴らしかった。アカデミー脚本賞も納得の出来だったと思います。 それからタランティーノの映画にはいつも言えることですが、画面がカッコいい!広漠な大地とそこに佇むガンマン・ジャンゴというだけで本当にサマになる。往年のマカロニ・ウエスタンの何よりもカッコよさを優先する画作りにはシビれました。「助けに来たぜ、ベイビー」なんてついつい笑っちゃいますけど、超カッコよかった。 [映画館(字幕)] 9点(2013-03-23 09:31:15)(良:3票) |
12. 人生の特等席
《ネタバレ》 劇中で貼られた伏線は強引ながらも全て余すところなく回収し、キャラクター毎のエピソードも丁寧に作られているとは思うのですが、物凄く乱暴な言い方をすればフツー過ぎるといった感想です。クリント・イーストウッド演じる頑固親父の娘に対するデレ具合は笑えるし、ミッキーは弁護士でインテリなのに野球マニアで超体育会系というギャップも見ていて楽しい。しかもミッキーを演じるエイミー・アダムスのしかめっ面した顔が意外にイーストウッドに似てる 笑。普通のハリウッド映画では舞台にならないノースカロライナ州の田舎が舞台という点も画面全体がのんびりしていて魅力的でした。しっかし一年前に『マネーボール』という同じく球団のスカウトを描いた傑作を観ているだけに、「ロートルがハイテクを駆使する若者に長年と経験と勘で勝つ」というプロトタイプの話では少し物足りない。というかクリント・イーストウッドの前主演作『グラン・トリノ』も一人ぼっちのロートルが現代で上手く生きることが出来ず困る話だったが、あちらは古い世代は去ってしまうけれど若い世代に希望を残す形で終わっていた。それに比べて本作は「嫌味な若者ギャフンと言わせた。いけ好かない調子乗りルーキーも痛い目を見た。バンザーイ」って感じでハッキリ言うとやや浅薄だったなといった感想です。イーストウッドを担ぎ出して撮る程の作品だったとはイマイチ思えませんでした。 [映画館(字幕)] 6点(2012-11-23 22:39:08) |
13. ジェーン・エア(2011)
《ネタバレ》 まずこの物語の肝になるジェーン・エアのキャスティングについてですが、ミア・ワシコウスカを起用したのはベストな選択だったと思います。私はティム・バートンの「アリス・イン・ワンダーランド」のアリス役としか知らないのですが、アリスを観た時のミア・ワシコウスカの第一印象は少女と言うより青年っぽいというイメージでした。簡単に言うと可愛いというよりはカッコいい、ベルばらで例えるとマリー・アントワネットでは無くオスカル、そんな感じ。ジェーン・エアはゴリゴリの男尊女卑がまかり通っていた時代に女らしさを排除したヒロインと言う型破りな発想で誕生した小説ですから、この物語の主人公は男に媚も売らなけりゃ、お洒落にも興味が無く、気高い人間でなければいけません。そしてそのイメージをミア・ワシコウスカは崩さずに演じ切っていたと思います。またアカデミー賞衣装賞を取っている通り、衣装に関しては非常にこだわりがあることが彼方此方に見て取れます。その辺りも良かった。なんせ登場する女性の殆どがコルセットでギチギチに固めた服を着ているのだ。豊満な胸よりかは、慎ましい胸の方が好きな自分にとっては観て良かった映画でした。 [映画館(字幕)] 6点(2012-06-18 23:05:11)(良:1票) |
14. 幸せへのキセキ
《ネタバレ》 この手の映画はちんまい女の子を可愛く撮った時点で勝ちだと思います。「アイ・アム・サム」のダコタ・ファニング、「リトル・ミス・サンシャイン」のアビゲイル・ブレスリン、そして今作ではマギー・エリザベス・ジョーンズの様にです。とにかくミー家の末っ娘が可愛いんだこれが。動物園の生き物に夢中になっていると思えば、大人顔負けのシニカルなギャグを飛ばしたりもする。そのコロコロと変わる表情の豊かさを観ているだけで「OKー!」という気になってしまったのです(念の為に言っておきますが断じてロリコンではありません)。それから主人公の兄のトーマス・ヘイデン・チャーチの役柄も「サイドウェイ」の時の役と殆ど違わない様なキャラで観ているだけで笑いがこみ上げてきました。相変わらず何でも女が基準なんだな、お前は。お話も小さな世界のちょっと幸せな話といった感じで気楽に楽しめますね。もうお腹も出てきてオッサンな主人公が自身の生活への不満を虎の一騒動と同期させて描くのも上手いと思いましたね。主人公が基本的に自身の心情を吐露しないこともあり、ここの魅せ方の上手さは秀でていたと思います。ちょっと残念だったのは音楽の盛り上げ方でしょうか。とにかく泣きを入れるシーンでは感動的なテーマ曲が鳴り響くのでちょっとそのしつこさに辟易してしまった感はありました。 [映画館(字幕)] 7点(2012-06-16 23:17:13)(良:1票) |
15. J・エドガー
《ネタバレ》 改めてディカプリオの演技力の凄さを確認できる映画ですね。自然な吃り方、老体らしい鈍重な動き方、女性を前にした時のうろたえ方などディカプリオの演技を観るだけでもお釣りがくるなと思いました。他の演者の演技クオリティもとんでもなく高く、ディカプリオの卓越した演技力がそれほど映画内で浮いてしまっていないのも凄い点ですね。ストーリーは一見は只の地味な伝記ものですが、今のアメリカ国内での格差社会、言論の不自由、個人の正義の喪失をエドガー・フーバーの施策になぞらえているのではないかと思いました。そのエドガー・フーバーの施策も原点は疑いようもなくアメリカの為である点がまた映画のストーリーが複雑に感じてしまう理由かなと。 [映画館(字幕)] 8点(2012-02-12 21:08:01)(良:1票) |
16. 少年マイロの火星冒険記
《ネタバレ》 うーん、一言で言うと「惜しいな」と思えた作品です。ストーリーのテーマは悪くない。母親と詰まらない事で仲違いしてしまった少年マイロが、アブダクションされてしまった母親を何とか自分の手で救いだそうとする。火星の住人は完全女性上位社会であり、個人の意思や芸術が禁止されている世界。これはどう見ても社会主義のパロディですね。今頃に描くのはやや遅い気がしますが、軍隊の行進や指導者から想像するに北朝鮮を批判しているんでしょう。ヒロイン(?)の火星人の女の子が最終的に力いっぱいに絵を描いているシーンは、人間にはやっぱり芸術が必要なんだと感じジーンとしました。そしてラストで見せる母の愛。息が詰まりながらもマイロにヘルメットを被せるシーンは結構泣けました。火星から母親を救ったマイロは、冒頭ではクソガキだったのが、冒険を通して大人の顔になっている。オシマイ、オシマイ。……となれば良かったのですが、まずゼメキスのモーション・キャプチャーを使った人物造形が相変わらずコワいよ!どうしても実写で良いじゃんと思ってしまう。それからマイロの相方のグリブルが最後まで鬱陶しすぎる!こんなイヤな相方役は久々に見ましたよ。企画の段階で彼をどうにかできなかったのでしょうか。とまあ不満点もかなりある作品でした。 [映画館(吹替)] 6点(2011-05-29 10:28:43) |
17. ジュリエットからの手紙
《ネタバレ》 画面はとにかく美しい。確かに美しい……が、それだけな気がしました。その他は余りにも陳腐で平凡なストーリーが続くとしか言いようがありません。なぜそう思ってしまったのか?それは普通の恋愛映画には必ずあるモノが欠けているからでしょう。それは"障害"です。この映画のソフィーとチャーリーには、物語上で必要な絶対的な障害がまるで感じられないのです。唯一の障害らしい存在がフィアンセのヴィクターですが、彼との関係もチャーリーに合う以前から影がありましたし、障害とは言えないでしょう。つまり「ローマの休日」での身分の差、「プリティ・ウーマン」での住む環境の差、「カサブランカ」での社会的立場の差、それに相当するものがスッポリと抜けているんです。そんなラブストーリーが面白い訳が無い。最後にロミオとジュリエットのバルコニーでの逢引を真似していますが、ロミオとジュリエットは家柄が違うという障害があるからこそ、あのシーンは盛り上がるのであって、彼らがどこで逢引しても盛り上がるんです。バルコニーという舞台だけ真似たって何の意味もありません。唯一映画らしいなと思えた点はヴァネッサ・レッドグレーヴが本当のロレンツォに合えた瞬間にまるで少女の顔になっていた演技でしょうか。でもあの女優さん、最初に出てきた時から結構明るい感じのおばあちゃんでしたから、やっぱり微妙かな。ずっとしかめ面してた老婆が、最後に少女の顔になるってんなら感動しそうですが。 [映画館(字幕)] 1点(2011-05-26 22:27:39) |
18. 十三人の刺客(2010)
《ネタバレ》 この映画の最大の魅力は稲垣五郎の怪演に尽きます。しかし他の要素が物足りないという訳ではありません。寧ろ、現代に作られた本格時代劇としては突出した殺陣、リアリズムと言えると思います。数十分に及ぶクライマックスでの殺陣の凄まじさ(特に松方弘樹にの殺陣には惚れ惚れします)、切腹シーンに代表される残酷描写のリアリズム、ここ数年の内にこれだけ気合入れた時代劇があったでしょうか?それでもこの映画の印象は稲垣吾郎が持って行ってしまいます。少なくとも私は見終わった後、只々稲垣五郎演じる斉韶のおぞましさが心に深く染み付きました。忠臣の斬首された頭を蹴鞠のごとく蹴り飛ばしたり、女子供を的に弓技に興じたり、一言では表せない超気持ち悪いあの食事シーンだったり、とにかく稲垣五郎のやることなすこと人非人過ぎて、知らず知らずの内に笑ってしまいました。人って余りに気味の悪いものを見ると笑うものなんですね。普段、清潔感のあるキャラを演じることが多い稲垣五郎だからそここれ程怖い悪役足りえたのでしょうか。映画って面白いですね。 [映画館(邦画)] 8点(2010-10-25 01:26:24)(良:1票) |
19. 食堂かたつむり
個人的に雰囲気先行型の映画が好きではありませんので、厳しい評価を付けました。こういう世界にトリップ出来る人は良いのでしょうが、私は倫子を取り巻く環境に全く魅力を感じませんでした。 しかも必要の無い様な演出が多い事も鬱陶しい。不必要な部分を全部削って90分位にしたら、嫌いな作品にならなかったのかもしれません。 飯が美味そうだったのが唯一良かったです。 [映画館(邦画)] 1点(2010-02-20 01:34:25) |