221. シン・ゴジラ
《ネタバレ》 ドラマパートと特撮パートの比率、構成は確かに第一作を踏襲している感じで塩梅がいい。 官房や防衛省など、相当のリサーチが行われたのだろう。そうしたいわゆるリアリズムの対価として、しがらみや忖度が付随するのはこうした作品の宿命だが、 制約の中で軽やかかつ真摯に風刺を混ぜ込んだシナリオには唸る部分が多い。 当然批判は覚悟しているだろう会議シーンの多さもいわゆる喜八カッティング&アングルと怒涛のダイアログによって活劇化しようという試みか。 実際、颯爽とした石原さとみや市川実日子の台詞廻しなどは内容以上に語りのリズムでシーンを動態化している。 とは云うものの、肝心の凝固剤注入シーンまで台詞で全解説というのは残念だし、長谷川博己が檄を飛ばすスピーチシーンも冗長に感じる。 (語る長谷川は特権的なクロースアップ、聴く側の民間協力企業隊員らは背中か手元だけで表情を一切映さないあたり、徹底して意地が悪い。) 特撮シーンは快晴の昼間、夕暮れ、夜景とバランスよく、庵野的な工場群や電線越しにゴジラを捉えた仰角ショットがよく決まっている。 やはりこういう部分で作り手のフェティシズムがものをいう。 怪獣の歩みによって屋根瓦が細かく振動するなど前半の純日本特撮的な数ショットに心躍るが、後半のビル倒壊アクションなどはハリウッド大作に 先行されている分、分が悪い。 それでも旧作に囚われすぎることなく、火の海を背景に陽炎に滲む「巨神」のイメージを象ったセルフオマージュ等も盛り込んでしっかり己の映画に仕上げているのだから天晴れである。 第一作同様、海のショットで始まるこの最新作。ラストは海へ還すことなく、日本を睥睨させる。 [映画館(邦画)] 8点(2016-07-30 22:55:06) |
222. インデペンデンス・デイ: リサージェンス
《ネタバレ》 コンピュータ処理のドッグファイトにもデストピアにもモンスターの造形にも、もはや既視感しか覚えない。 いわゆるテンプレート。新しいものなど、何一つない。古びた最新作である。 あれやこれやの作品のパーツを劣化コピーして継ぎ接ぎした、アトラクション映画。だから、位置関係がとか距離感が云々などは、云うだけ野暮。 大津波のサスペンス&アクション演出など、数年前の『カリフォルニア・ダウン』に完全に負けている。 でもって、敵方エイリアンを含めて魅力的な登場人物というものがただの一人も登場しない。 とってつけたようなロマンスとか、友情とか、親子愛とか、自己犠牲とか。鼻で笑ってしまう。 同じ予定調和のラストミニッツレスキューでも、グリフィスとは大違い。ドキドキもハラハラもしない。 [映画館(字幕なし「原語」)] 2点(2016-07-29 23:01:54) |
223. トランボ/ハリウッドに最も嫌われた男
《ネタバレ》 とうとう密告フォームまで登場したこの国の今現在と重ね合わせず観ることは困難であるという不幸。 憲法修正第一条を巡る言及から何から引っくるめて、ただの感動的な物語映画として見終えさせてはくれない。 映画でも簡潔明瞭に語られている『スパルタカス』の顛末は、『カーク・ダグラス自伝』の『スパルタカスの戦い』の項などにも詳しく記述されているが スタンリー・キューブリックとの確執なども加わって実際はより複雑で興味深い人間ドラマがあったことがわかる。 その辺りも映像化されれば面白いのだろうが、尺的にはやはり端折ったのが正解だろう。 カーク・ダグラスが「名前を取り返してくれたこと」への感謝のエピソードは、劇場でそのクレジットを見るブライアン・クランストンの表情によって 視覚的にも印象深いものとなった。 脚本家を題材とした映画らしく、映像的な突出はないものの、台詞の妙味と劇展開の面白さで一気に見せる。 手動のタイプライターによる速筆がさらにテンポを生む。 エドワード・G・ロビンソン役やジョン・ウェイン役の俳優らも、顔貌の相似以上に佇まいと台詞を語る口跡が皆素晴らしく、 ジョン・グッドマンの啖呵には胸がすく。 [映画館(字幕なし「原語」)] 8点(2016-07-28 23:56:19) |
224. 植物図鑑 運命の恋、ひろいました
《ネタバレ》 最近は「実は猫でした」みたいなファンタジーもゴロゴロあるわけだから、オハナシのあまりの非現実っぷりに当然こちらもその手のオチだろうと 高を括って惰性で眺めていたが、まさか人間だったとは、、。 映画開始から、主演男女のドアップづくしにうんざりし、観れば判る心情をご丁寧に説明する無駄なモノローグ(待ち人はこないとか、ショックだったとか)や劇伴に辟易し、そもそも味付けが濃い目なのは当然の居酒屋料理を引き合いに出して「味覚が変わった」みたいな台詞を言わせる作り手の食音痴ぶりに落胆させられたりするわけだが、根本的に恋愛の劇自体が悲しいほど薄っぺらいのである。有川という名詞がある時点で、推して知るべしだが。 ただ、ヒロイン高畑充希が大きく口を開けて美味しそうに杓文字についたご飯を頬張るショットはいい。食事を疎かにするアイドル映画が多いなかで、 ここでは料理をおいしく頂く表情の魅力が、かろうじて二人が抱く好意の裏付けということで説得力を持たせている。 [映画館(邦画)] 2点(2016-07-27 23:57:09) |
225. ストライキ
《ネタバレ》 果汁を「搾り取る」とか、放水で扇動者を「洗い出す」とかの換喩の面白さ以上に、その画面の迫力に圧倒される。 火災が起こったので放水で鎮火させる、といった因果による作劇ではなく、 炎と煙を画面に展開させたので次はさらに水のスペクタクルを披露しよう、というような発想ではないだろうか。 そう思わせるくらい、経営者側がふかす紫煙や、放水攻撃の激烈さは過剰だ。 ともあれ、ここから始まる怒涛の群衆活劇は圧巻である。 高層建築を舞台に、深い縦の構図によって大乱戦が演出されるが、その高度は赤子に対する容赦ない仕打ちとしても利用される。 前半では人物紹介のモンタージュなどに使われる程度の動物たちも後半はアクションとサスペンスに大きく寄与している。 (ポンプ馬車、馬の足元に置かれた子供、牛の屠殺) こちらもまた、その含意以上に画面の力そのもので迫ってくる。 [ビデオ(字幕)] 8点(2016-07-24 20:41:40) |
226. 海へ See you
《ネタバレ》 事あるごとに幾度も幾度も回想シーンに飛ぶという、最悪の語りで進む。仮にもレースの映画でこのような「後ろ向き」な進行は勘弁して欲しい。 桜田淳子との対話シーンとなると、その途中途中で説明の為のフラッシュバックに突入。 しかも、それがいしだあゆみ絡みの類似シーンの反復というから、クドい事この上ない。 いかにもこの脚本家好みだと思われる設定や女優が登場してくるが、ヒロイン二人もここではただ鬱陶しい。 南極の大地を駆ける犬たちのイメージを受け継いだ、砂漠を走る車両の空撮ショットも次第に単調と化す。 [DVD(邦画)] 3点(2016-07-23 23:59:45) |
227. ジェネラル・ルージュの凱旋
《ネタバレ》 クライマックス前の倫理委員会のシーンなどは、ともすればテレビドラマ的なダイアログ従属型の場面になりがちだが、 人物の出入りと共にさまざまな音響(手ばたき、携帯のコール音、スクリーンの開くモーター音)をフレーム外から先行させていくショットつなぎで シーンの緊張を持続させ、その後の動的なスペクタクルへのタメとしても機能することとなる。 病院玄関口で待機する山本太郎らのショットに、救急車のサイレン音を次第に高めていく形で響かせる。 エピローグでの堺雅人と羽田美智子のツーショトに、救急ヘリの音を響かせて次の屋上ヘリポートシーンにスムーズに繋げる。 舞台が病院という閉鎖空間に限定される舞台だからこそ、発生源不明の音響を配置することによって画面外へのベクトルを創り出す。 そうした意識的な音の用法を以て観客をドラマに引き込んでいこうという細やかな芸は 随所で確認できる。コーヒー豆を挽く不協和音の活用の巧さも言うまでもない。 モブシーンでの、画面中央からフレーム外へと放射状に人物の動線をつくって空間を広げてみせる演出も同様だろう。 モノクロでのパートカラー処理によって印象づけられる、赤色灯、血、口紅の艶めかしい赤が仄かにエロティックなラブシーンとなっている。 [DVD(邦画)] 7点(2016-07-19 14:12:57) |
228. ミツバチの羽音と地球の回転
《ネタバレ》 映画の始まりと終わりは、海辺でひじきを採取する山戸孝さんの姿である。 祝島のドキュメンタリーとしては同様のスタンスに立つ纐纈あや監督の『祝の島』もあるが、恒例のデモや伝統行事の神舞、上関町議会など 同じイベントを撮りつつもそれぞれアプローチの違いが垣間見れて興味深い。 鎌仲監督のほうは、撮影スタッフは三名。 ベテランらしく多彩なショットで『生物多様性のホットスポット』たる島の動植物の生態まで押さえつつエピソードを紡いでいる。 主に、島で一番の若手である山戸さん一家の暮らしぶりと抗議活動に密着しているのだが、 若い彼の理性的でしっかりした言動に感動する。 彼へのインタビューは、ひじきや野菜を取ったり、パソコンで産直販売の営業をしたりという活動の最中に撮られており、 その意志的な労働の姿と表情が、映画の中で語られる彼の言葉に説得力を持たせている。 犬や豚などとのふれあいの図に和まされ、沖合での中部電力との対立の図にいたたまれなくなる。 [DVD(邦画)] 7点(2016-07-18 23:06:25) |
229. あゝ野麦峠
《ネタバレ》 鹿鳴館で社交ダンスを踊る婦人のドレスの裾とクロスカットされる、雪の中を歩く女工らの足。 そこから続く峠越えシーンのロングショットが『アギーレ 神の怒り』にも引けをとらないほど圧巻のスケールである。 撮影スケジュールとしては逆なのだろうが、ラストの秋の峠もまたヒロインを労わるような情緒があり素晴らしい。 工場内の再現も本格的であり、工場群のミニチュアのショットも精巧に手掛けられている。 さらに感心するのが、女優達の手作業を捉える横移動のショットである。糸をとる作業の様子は非常に高度な技能を要するものであることが わかるが、これを多くの女優らがそれぞれ実演するのをバストショットで丁寧に披露していく。 女工になりきった女優たちの真剣な表情、佇まい、本格的な手捌きが非常に美しい。 現在なら、本職の方が作業する手元のショットと、女優の表情のショットを別撮りするしかないだろう。 そうした作り手の心意気の滲むこの横移動ショットは、ラストの舞踊と再びクロスカットされてさらに情感を煽る。 一方では心中のエピソードの直後に祭りの明るいシーンが入れたりと、ウェット一辺倒な作劇は回避しようとしているのがわかる。 大竹しのぶらがみせる「生き生きとした青春の輝き」(『私の映画人生』山本薩夫)に救われる。 [DVD(邦画)] 7点(2016-07-11 23:58:21) |
230. 殺されたミンジュ
《ネタバレ》 明快すぎる邦題からして、思想内容先行型で言語的である。初期作品の寡黙さが嘘のように、登場人物が饒舌だ。 そんな事まで、と思うくらいよく喋る。 メッセージの比重の高まりは幾度となく指摘されてきているけれど、これはやはりかなりの退行だろう。 拉致や窃視や尾行、盗撮といった要素がさして映画的に機能しないのも宜なるかな、である。 [DVD(字幕)] 4点(2016-07-08 11:47:19) |
231. 残菊物語(1939)
《ネタバレ》 何度目かの再見で、新たに気づかされるのは音響に対する作り手の意識の高さとその達成である音の豊かさ。 長門洋平氏の著作『映画音響論』での詳細な分析とユニークで斬新な解釈に触発されて見返したわけだが、 フレーム外から聞こえる物売りや行商人の掛け声、囃子など、その対比としての沈黙の用法・タイミングまでよく考え抜かれているのがよくわかる。 まるでヒロインの表情を見せまいとするようなフレームサイズ、構図、陰影。加藤幹郎氏を始めとして散々指摘されてきたことではあるが その分、森赫子の済んだ声音はより際立って美しい。 長門氏によるラストシーンの解釈に全面的に首肯するわけではないが、冒頭シーンとの対照という意味でも、「ありうべかざるものを、 ありうべきものとして」描いたとするそのユニークな解釈はとても興味深い指摘である。 十分に分析されつくしたかに見えても、さらなる味わいと解釈を許容する傑作の奥深さを思い知らされる。 [ブルーレイ(邦画)] 10点(2016-07-06 23:59:20) |
232. 日本で一番悪い奴ら
《ネタバレ》 組織の中でポイントを稼ぐべく必死の綾野剛ら刑事と、追われる被疑者が路上で乱闘紛いの捕り物を繰り広げる。 引きの長廻しでかなり本格的な擬斗を行っているので、怪我もあったかもしれない。 アスファルト上で柔道の投げ技をかけられて、かなり危険な受け身のとり方をしているし、ナイフの振り回し方も本気に近い。 総じて、乱闘シーンの気迫が映画の主たるパワーでもある。 その合間合間に、チームの面々が埠頭で黄昏たり、薬中毒となったホステスの薄暗い部屋で性交したりのいいショットも出てくる。 中村獅童らのヤクザ、ピエール瀧の悪徳刑事像も堂に入っていて、綾野との丁々発止のやりとりが楽しい。 ただ綾野のメイクの中途半端さが、少々混乱を招くところがある。 [映画館(邦画)] 7点(2016-07-02 23:33:39) |
233. 帰ってきたヒトラー
《ネタバレ》 タイムスリップしたらしいヒトラー(オリヴァ―・マスッチ)が軍服で街中をふらつくゲリラ撮影的シーンで通行人たちが様々な反応を示す。 それがどこまで仕込まれたものなのか、完全なアドリブなのか当初は判然とせず、フィクションとドキュメンタリー的画面が せめぎ合う中、現在の人々が彼との対話の中で示すリアクションに強く興味を惹かれていく。 白眉はNPD本部に突撃しての党首との対論だろうか。 御本人なのか俳優なのか、畳みかけるオリヴァ―・マスッチの饒舌とその迫力に強張る党首氏と取り巻きの表情に、こちらも息を呑む。 ふと『ゆきゆきて、神軍』を思い起こすシーンでもあるが、そうしたリスキーな対話シーンが度々登場してくるのが面白くもありスリリングでもある。 そこだけとっても、監督や主演俳優の果敢さは大いに評価されていい。 そのフィクションとドキュメンタリーを転倒してみせるラストも唸らせる。 [映画館(字幕)] 8点(2016-06-26 22:15:06) |
234. クリーピー 偽りの隣人
《ネタバレ》 ドローンによる俯瞰空撮も含めて、こんなにイド―ダイスキだったかと思うほど、よくカメラが動く。 人物の移動に合わせてポジションを様々に変えつつ、照明も大胆に変化させながらショットを持続させるなど、意欲的な印象が強い。 犬と人間との絡みを引きのショットで見せ、関係性の変化を反復によって提示する。これもカットを割らないアクションシーン共々難度が高そうだ。 隣人宅の門から覗く雑草も、至るところに現れる白いカーテン類も、ラストの香川照之の周りを舞う枯葉も、風によく靡いてムードを出している。 それらは恐怖の表現であると同時に、映画の快楽でもある。 竹内結子がテーブルで割っていたのは何の殻か。その後に続くジューサーの騒音もまた夫婦間の変調と不協和を表現する。 静かな風の騒めきも勿論だが、遺体を包んだ透明なナイロンポリを脱気していく音の生々しさだとか、衣擦れの音とか、 ここぞという場面の音響に対する意識も相変わらず高い。 その極め付けが、竹内の絶叫である。 蛇足は承知でも、それだけでは終わらせないということらしい。 [映画館(邦画)] 7点(2016-06-23 23:43:41) |
235. 10 クローバーフィールド・レーン
《ネタバレ》 街の情景から窓辺にピントが移り、女物の服飾のデッサンから恋人同士らしきツーショット写真へとパンされる。 案の定、そこは女性の部屋で彼女は憂鬱そうな表情で誰かと何やら通話しており、荷物をまとめた彼女は酒瓶を手に取るが、 アクセサリーらしきものは残していく。 冒頭からタイトルの出る事故シーンまで、音声はスマートフォンから響く彼氏らしき男性の声のみだが、仮にそれがなくとも 二人の間に何らかの諍いがあり、家を出てきたことは彼女の表情から容易に想像がつく。 24時間営業の給油所で彼女の車の後から入場してくるヘッドライトも含めて、後の展開の伏線となる要素が 一切台詞抜きで画面によって効率的に提示されていく導入部がいい。 クロースアップの多さが苦にならないのは、俳優の表情が心理劇を一層引き立てると共に、閉鎖空間の強調効果を生んでいるからだ。 ダクト内を匍匐前進するヒロインをナイフが襲うショットではその閉塞感が生むサスペンスはなかなかである。 防護服を通して生き物の音が響いてくる、車の警報音が鳴りだすなど、音響の強弱も随所で効果をあげている。 アクションが絡むと途端に乱雑になるカメラワークが惜しい。 [映画館(字幕なし「原語」)] 6点(2016-06-21 22:58:52) |
236. ゆけゆけ二度目の処女
《ネタバレ》 大抵の批評で指摘されるキーワードは、他作品での荒野や雪原と共に、いわゆる屋上という密室・閉鎖空間というもの。 階下に降りるシーンもあるものの、実際舞台はほぼビル屋上に限定される。 空間と動作が制限される分、距離を詰めたアクションの身体性がクロースアップされ、 その中で貯水タンクや雨や血しぶきによる水のイメージが豊かに展開する。 パートカラーによるサプライズの演出も『犯された白衣』よりも効果的に決まっている。 主演2人の生硬な感じも初々しく、特に少年の非心理的な目がいい。 [DVD(邦画)] 7点(2016-06-20 16:45:53) |
237. アウトバーン
《ネタバレ》 折角アウトバーンを舞台に使うのなら、何らかのタイムリミットを設定するなど、速度と時間をドラマに絡めるべきではないだろうか。 ヒロインが拉致されるのを防げるか否かのサスペンスもそれに該当するのだけれど、これももっとカットバックを使って盛り上げて欲しいところ。 単にスピードとクラッシュを誇示するカーアクションの場というだけでは物足りない。 市街地での逃走劇も、カメラ大揺れ一辺倒で芸がない。 加えてクライマックスの包囲されたバーからの脱出劇も、そこに作り手はもっと気を遣えと思う。 バーの裏口から駅のホームまで、ロケーションと人混みを利用して男女二人がどう追手を撒いて逃走するか。 アクション映画として、仕掛けやアイデアの一番の見せどころだろうに。 運動感の演出にしてもサスペンスの演出にしてもここが一番雑というのでは情けない。 主演二人はどことなく『トゥルーロマンス』のカップルを思わせた。 [映画館(邦画)] 4点(2016-06-19 20:32:36) |
238. 団地
《ネタバレ》 『鉄拳』のクライマックスも場が月面に飛躍してしまうのだから、こんな展開でも驚くまい。 岸部一徳の物語的にも映画的にも少々脈絡に欠ける行動、加えて主に斉藤 工が担わされることごとく笑えぬギャグにも耐えよう。 それらを補って余りあるくらい、不器用な妻を演じる藤山直美がいい。 『時代』を熱唱する彼女の楽し気な夢想シーンがちょっと長いかと思うと、一転してヘルメットのショット、息子の遺影のインサートとともに現実に引き戻され、彼女を喪失感が襲う。思わず嗚咽をもらす彼女がいじらしい。 パート先のスーパーの裏口でマネージャーから叱られ、レジ係の一人芝居を演じる彼女の姿が可愛らしい。(それを大楠道代が窃視する。) テレビレポーターの質問にあっけらかんと笑う彼女の呵々大笑ぶりがいい。 そして、岸部と二人、夜を徹してひたすら漢方作りをする労働のモンタージュがとにかく美しい。 仕事の合間に柔軟体操し、おにぎりを頬張りながら夫婦協働で丸薬をつくりあげていく、その二人の不格好な姿が何故だか不思議に胸を打つ。 二人の、長年連れ添った者どうしの対話も味がある。 [映画館(邦画)] 5点(2016-06-15 21:34:48) |
239. マネーモンスター
《ネタバレ》 100分足らずのスピーディな展開の中、いわゆるストックホルム症候群的な主人公の感情の変化が明確に表現されていて キャラクターへの好感を無理なく抱かせる。 臨機応変に男たちに指示を伝えるジュリア・ロバーツ、上司に敢然と反旗を翻すカトリーナ・バルフら、スマートで颯爽とした女性像も印象的である。 複数のカメラ映像の中から適切なショットを即座に選び取り、俳優やカメラマンに指示を与え、効果的な引用映像を適宜インサート編集しつつ現場を仕切り、 尚且つ外部との情報収集も同時進行で行っていくJ・ロバーツの聡明なさまは監督本人を思わせる。 そこでさりげなく挟まれるのがハワード・ホークスだったりするセンスも堪らない。 スタジオを脱出したジョージ・クルーニーがエレベーター内でJ・ロバーツが聞いているのを知ってか知らずか 彼女に対する真情を吐露する。それをモニターで見る彼女は緊張の中、一瞬表情を緩ませる。そんな瞬間の積み重ねがラストの ツーショットに向けじわじわと効いていく。 対象を追い続けたカメラマンは、事件の顛末にそっとカメラを反らし、それを我々の側に向けて置く。 [映画館(字幕なし「原語」)] 7点(2016-06-12 20:56:50) |
240. 64/ロクヨン 後編
《ネタバレ》 俳優の表情を少し不明瞭にみせる暗めの照明はギリギリの感じで、映画のトーンとなっている。 原作だと柄本祐の頑張りには彼なりのささやかな根拠があった訳だが、そうしたささやかなユーモアも削られてしまっているのは惜しい。 映画オリジナルのパートは、河川敷のロケ地もそれなりに選んで川面の反射と揺らめきを使い、オレンジの炎と淡雪を映画ならではの見せ場としたかった ということだろう。 平成と昭和を跨ぐ風物詩ともなりつつある緑の公衆電話のすり減ったプッシュボタン。小説の映画化としてはこれは要となるショットだろうが、 一方で原作の描写にもある永瀬正敏の酷使した手を印象づけるショットがあったかどうか思い出せない。それだけ印象が薄いということなのだが そちらこそ伏線なり種明かしなりでもっと活用すべき被写体ではないか。 地べたから睨みすえる緒形直人の表情変化の凄みと危うさは特筆もの。 [映画館(邦画)] 5点(2016-06-12 19:29:26) |