41. ウォール街
マイケル・ダグラスが中盤で語った「われわれは何も生み出さない。世の中に存在している富を分配するのが仕事だ。自分の懐により多く集めることの何が悪い」といった趣旨の言葉がこの業界を的確に言い表していると思いました。右から左に株を動かすだけで金を儲ける仕組みはさぞ複雑かと思いきや、株価の変動を予測する情報戦であり、義理人情が介在しないゲームのように単純明快。シーン親子の熱演も相まって、職場体験をした気分になれました。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2012-02-19 15:28:36) |
42. 雨月物語
《ネタバレ》 京マチ子扮する良家の幽霊に見初められた男の怪談です。この世のものではない幽霊というものを、テクノロジーに頼らずとも表現し演じることができることの証明が本作であり、映像表現を貫徹する意志の強さを感じます。 [CS・衛星(邦画)] 6点(2011-07-19 12:55:31) |
43. その男ヴァン・ダム
《ネタバレ》 かつて金曜ロードショーや日曜洋画劇場でよく目にしたヴァンダム。老いさらばえた元肉体派ハリウッドスターに与えられたのは、オッサンになってしまった自らを省みるという役回り。冒頭の皮肉感満載のアクションシーンになぜか胸が高鳴り、スポーツ選手であれば後進の育成を担えるものの、肉体の替えが利かないアクションスターがすがれるのは、それでも自らの肉体のみ。現役であったことの証明として満を持して披露される回し蹴りと独白が本作のハイライトです。本作を観終えて、『ユニバーサルソルジャー』『ストリートファイター』を観返そうかと思いながら、また今度でいっか、となってしまうところもまた、ヴァンダムな気がします。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2011-07-17 21:31:07) |
44. エネミー・オブ・アメリカ
《ネタバレ》 シンプルかつ緊張感のあるトニー・スコットらしいアクション作品です。嫌疑を掛けられたウィル・スミスがジーン・ハックマンの助けを得て逃亡し無実を晴らす筋書きです。ウィル・スミスのとぼけた雰囲気が妙に本作と合っていました。緊張感を持続させる腕についてはさすがトニー・スコット、安心して鑑賞できます。しかし最後はいただけません。関係者全員集合・全員相撃ちという見せ場のはずが、銃撃の瞬間は手振れで映され誰が誰を撃ったのか不明。演出というより誤魔化しているように見えてしまい、こういうシーンはタランティーノの専売特許なのだなとしみじみしてしまいました。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2011-04-23 12:12:00) |
45. ヒトラーの贋札
ユダヤ人収容所で贋札作りの強制労働が行われる様子を描いたテンポのよい佳作です。生き長らえることと、自己犠牲を伴う正義を貫くこと。前者は生きとし生けるものの根源的な欲求であり、後者は死後も続くこの世界を思う人間的な感情で、優劣をつけられないものです。明日も生きているかわからない日々の中では生きのびることが最大の目的になるのは自然でありながらも、正義を貫く者の姿も併置することで均衡を保ち、なかなかの作品に仕上がっています。 [CS・衛星(吹替)] 6点(2011-04-17 21:29:08) |
46. アンストッパブル(2010)
行きつけの名画座でトニー・スコット作品2本立ての1本目として鑑賞しました(2本目は『トップ・ガン』)。無人の暴走列車を止める、ただそれだけの作品です。止める役がデンゼル・ワシントンという時点で人類は安泰ですが、手振れの映像、緊張感を煽る音楽、細切れのカットなど、スコット節が炸裂し手に汗握る作品に仕上がっています。巨大な鉄の塊である機関車が画面にのしかかるように映る様は、3Dでなくとも映画ならではの迫力を体感できます。ハンバーガーを食べながら観るには最適な作品ですが、それ以上の感興が沸かないのも事実でした。ところでデンゼル・ワシントンの相棒役のクリス・パインはリメイク版『スタート・レック』で主役を張っていた彼ですね。『トップガン』で登場する空母がエンタープライズだったり、何とも感慨深いものがありました。 [映画館(字幕)] 6点(2011-04-13 00:18:35) |
47. パラダイス・ナウ
《ネタバレ》 意気揚々と自爆テロに向かう兄と寡黙な弟の対比が印象的です。最終的には兄はテロが根本的な解決にならないことに気づき弟を呼び戻そうとするのですが、弟は無意味とわかりながらもテロに向かうことをやめることができません。当番として回ってきた自爆テロ参加の命令に逆らわずただ運命に従順な弟の姿は、彼らを指導する立場の人間=権力を行使する側の不気味さを際立たせます。鑑賞後、実にやるせない気持ちにさせられる作品でした。 [ビデオ(字幕)] 6点(2011-03-14 21:12:50) |
48. スタンドアップ
シャーリーズ・セロンがダメ夫から逃げて、働き始めた実家近くの鉱山でのセクハラ訴訟モノです。私の鉱山の男とは「保守的な反面仲間のために命を賭すことも厭わない義理堅い男たち」というイメージが『わが谷は緑なりき』で培われていたのですが、そんな祖先の墓に泥を塗りまくりの野郎共が女鉱夫にセクハラの限りを尽くします。そんな糞野郎共のなかで尋常ではないほど際立つ美貌のシャーリーズ・セロンが訴訟を起こし奮闘するのですが、『エリン・ブロコビッチ』のように訴訟にまつわるドラマの描きこみが薄く、物足りない鑑賞感でした。シャーリーズ・セロンの演技に+1で6点献上。 [地上波(字幕)] 6点(2011-03-14 21:01:55)(良:1票) |
49. ザ・ロード(2009)
《ネタバレ》 原作既読です。荒廃未来系の作品が大好きで原作に非常に唸らされパンパンの期待で鑑賞しました。活字の合間から立ち上がる灰色の荒廃した世界を見事に映像化したことにまずは拍手を贈ります。小説の映画化はえてして脳内映像に勝ることが少ないなかではよく作りこまれています。ただ決定的に掛けているのはその見せ方。深い谷をつなぐ荒廃した高速道路、同じ角度で傾き連なっている電信柱など、親子ドラマの背景にしておくには余りに惜しいように思います。荒廃した世界にはショットを固定し、幾何学的な文明の遺物を連ねて映すだけで満腹になったと思うのですが何とも残念です。また、越冬するため荒廃した世界を南に歩いて下るという極めて途方のない感覚は映画では欠落しており、ストーリーは原作に忠実ではあるものの、ハプニングを連ねて飽きさせないように腐心した脚本家の苦心が伺えます。ただ、原作と異なる心地よい感動を得て映画館を後にできたのは、ラストでガイ・ピアース一行の女性(妻?)と少年が会うシーンです。女性が少年に笑いかけながら「あなたを見ていた」と告げたとき私は強烈な母性を覚えました。回想部分も含め全編を通して少年と母親との交流を描いた場面は(原作でも)皆無であり、父親に庇護され命を保証されてきたとはいえ、母親という存在がいかに子供にとって不可欠であるかを感じました。父親とは明らかに異なるやわらかな輪郭と全てを肯定するようなまなざしが非常に印象的です。荒廃した世界に生まれ、父、母、通りがかりの老人とカートを盗んだ男性が世界のすべてだった少年にとって、まさに新しい世界が開けたこのエンディングは素晴らしい余韻をもたらしてくれます。 [映画館(字幕)] 6点(2011-02-05 22:33:56)(良:1票) |
50. ナイト&デイ
このところばたばた続きで、頭がアホ状態でも楽しめる映画をと思い立ちチョイス。妻と映画館で観ました。期待通りのこれぞハリウッド映画という出来栄えで満足できました。キャメロン・ディアス天然ぶりは、『バニラ・スカイ』での怨念を晴らしているようでもあります。カップルが銃を乱射して全ての窮地を切り抜け、観終わった後には「あーおもしろかった」以外何も残らない、バカ映画(ほめ言葉)のお手本のような作品です。他方、妻は余力があったのかかなり真剣に鑑賞したらしく、キャメロン・ディアスのおバカっぷりに立腹したそうです。このテの作品に突っ込みを入れるのはナンセンスだと言ったら、現実にこんな女性がいたらイラっとしないのと返され、そう言われるとそうだと言うと、ちょっと満足そうな顔をしました。 [映画館(字幕)] 6点(2010-12-26 23:47:44) |
51. ハート・ロッカー
《ネタバレ》 アクション好みの会社の同期が良かったというので名画で観にてきました。本作品だけではさして目新しさを感じない作品だったかもしれませんが、同時上映の『マイブラザー』を観たことにより、戦場に行くことを職業とする人々の感覚が胸に迫ってきました。イラク・バクダッドで爆弾処理班のチーフを務める主人公は、経験と勘にものをいわせて修羅場を乗り切り続けます。彼が死なないのは職業的能力の高さの現れであり優秀な兵士であることが伺えます。舞台となるイラクは、戦争は終結しているとはいえども、米兵は常に狙われているという緊張感と、爆弾がいつ炸裂するかというスリル、そこそこ迫力のあるアクションシーン(中盤の狙撃シーンは良い)で中だるみしません。印象的だったのは帰国し妻と行動を共にする場面です。シリアルを買っておくように伝えられた彼は、数多くのシリアルが並ぶ棚からひとつを選ぶことができません。自宅のキッチンで妻に職場(戦場)での出来事を話している際、にんじんを切るよう頼まれた際、実に不満気に、ぎこちなさそうに包丁を手に取る姿です。知悉している装備からひとつを選ぶこと、訓練と実戦で得た経験から命令を下すことはたやすくできても、日常生活における選択と実践ができない。狙撃シーンで新兵に飲み物を持ってくるよう指示するシーンとの対比が印象的です。命令することに慣れていても、命令されることはなく、職場(戦場)での有能さを軽くあしらう妻への苛立ちのようであり、制服(戦闘服)を着ていないことへの落ち着きの無さの現われのようでありました。再び職場(戦場)へ戻る彼は、仕事中毒でもなんでもなく、煩わしい家庭から遠ざかろうと仕事に逃げるサラリーマンの姿のようであり、某大国の姿と重なるようでもあります。『マイ・ブラザー』と続けて観たことによる+1点で、6点献上。 [映画館(字幕)] 6点(2010-12-26 23:19:30)(良:1票) |
52. スター・トレック(2009)
オリジナルシリーズは未見。中学生の頃、本作に入れ込んでいた同級生から「エンタープライズ号」「ミスター・スポック」「カーク船長」「クリンゴン」といった単語を耳にしていたので大体の世界観は知っているつもりでしたが、アクションと恋愛をメインに据えた『スターウォーズ』シリーズとは異なり、宇宙とは何かという哲学的な広がりを持ったシリーズであることが伺え知れました。冒頭の艦隊船は迫力があります。しかしながら、なぜかつい『ギャラクシー・クエスト』が観たくなりました。 [DVD(字幕)] 6点(2010-12-22 21:42:46) |
53. アイ,ロボット
《ネタバレ》 近未来SF作品には欠かせない役者となったロボット。人工知能が極度に進化して意志を持つに至り、人間に反旗を翻すというおなじみの展開ですが、ウィル・スミスが登場するのだから地球規模の話に発展しないわけがありません。人間の都合でロボット大量回収・供給が繰り返される描写は、手塚治虫の『火の鳥』に登場するロボット、ロビタを思い起こさせます。人間の脳とロボットの人工知能をひとつの回路に移植されたロビタは、本作における善玉ロボ、サニーと同様、作り手の強い意思により作られた点や、ロボットというアイデンティティを持っていることにより集団行動に出るところも共通していますが、ロボットという「種」に対する強い意思は、あと一歩足りないように感じました。ロビタは、全ての固体がロビタという種の意志のもとで行動を起こし、「一体が死(破壊)を望むならば、それはロビタという種の選択だから我々全ては死を望む」という解釈を導き、溶鉱炉に次々に身を投げる姿からロボットという「種」の強力な意思を感じましたが、本作ではこの個性=全体の源泉であるロボットという種の意志が、善玉ロボ・サニーからしか伝わってこなかったのが残念。悪玉ロボである統合コンピューター、新型ロボの登場により廃却される旧式ロボなど、ロボットが人間社会化することによる弊害も察せられるあたり、舞台はロビタよりずっと先の未来の姿なのかもしれません。ロボットの姿を借りて映画に登場されたCGプログラマーの皆さんに敬意を表して+1点。6点献上。 [DVD(字幕)] 6点(2010-12-11 13:28:58) |
54. スラムドッグ$ミリオネア
《ネタバレ》 ボンベイのスラム街。ゴミ捨て場を漁り最底辺の生活を送る人々の掘立小屋がひしめく街を、退屈しのぎにからかった警備員から縦横無尽に逃げ回る子供たち。『シティ・オブ・ゴッド』を彷彿させるような、野放図なエネルギーに満ちた映画かと思いきや、実にシンプルなラブストーリーでした。幼い頃に生き別れた少女との再会を無心に信じた少年の物語であり、その章ごとのキーワードが、クイズ番組の問題として出題されます。誰にでも語るべき物語があり、彼が彼自身の存在を掛けて掴んだ真実こそが彼にとっての答えであり、それゆえに彼は全問正解した、と言えるのではないでしょうか。 [DVD(字幕)] 6点(2010-12-05 22:30:22) |
55. バニラ・スカイ
本作のオープニングは、トム・クルーズがレディオヘッドの「エブリシング・イン・イッツ・ライトプレイス」をバックに、アパートで目覚めるところから始まります。打ち込み音が多くひんやりとした肌触りの『キッドA』というアルバムのオープニング曲で、このアルバムと同じく、一体何が始まるのか音の先に広がる風景を想像して非常にワクワクします。が、ケミカルブラザーズ、シガーロス、ジェフ・バックリィなど、途切れることなく聴こえてくる音楽すべて、映像とその場面に全くマッチせず、かえって違和感を掻き立てられます。映画は全編、トム・クルーズの観ている夢でした、というオチを知ってみるとこの非現実感と不気味さも納得できました。『トータル・リコール』と『インセプション』と『エターナル・サンシャイン』に『ハイフィディリティ』を振りかけたような映画で、キャメロン・クロウの作品らしく、深刻になりすぎない明るさがあり、エンターテイメントとしてよくできた作品だと思います。ヒロインのペネロペが、可憐でありながら芯の強い女性を見事に演じています。彼女の演技の幅の広さには毎回脱帽させられます。 [DVD(字幕)] 6点(2010-12-05 22:29:24) |
56. アマデウス ディレクターズカット
バッハを音楽の父にたとえるならモーツァルトは兄よ!という妻に勧められて鑑賞。印象に残る高笑いと共になるほど賑やかな音楽のお兄さんぶりを発揮する彼の姿を見ることができました。周囲の風評や家族の生活を省みず、自らの才能に絶対の自信と確信を持つ紛れもない天才を描く姿勢は一貫しており、政治的駆け引きに長ける凡才サリエリとの対比が実に鮮やかで安心して鑑賞できるこれぞアカデミー賞といった映画です。クラシック音楽が好きで、モーツァルトという人物に関心のある方なら存分に当時の世界を味わいながら曲に耳を傾けることができると思うのですが、いかんせん自分はロック育ちのため、散りばめられた天才の曲たちにさほど動かされることなく3時間を過ごしてしまいました。天才の馬鹿笑いに+1点。 [DVD(字幕)] 6点(2010-11-23 00:11:28) |
57. フェイク
《ネタバレ》 マフィアものながらアル・パチーノは末端の兵隊役、ジョニー・デップは変人ではない囮捜査官役。裏社会への潜入が功を奏せば奏すほど見守る家族にしわ寄せがゆき懊悩する悲しきサラリーマンのデップが前に出ていて、おとり捜査の緊張感は希薄でした。観て損はありませんが、饒舌なパチーノははまり役とは言えません。 [DVD(字幕)] 5点(2011-12-18 13:16:59) |
58. ソードフィッシュ
冒頭、ワーナーのテロップがぼやけ、トラボルタのクロースアップと独白からドッカンまでのテンションには引き込まれました。が、その後は愛想笑いが上手なウルバリンと、彼にまとわりつくストームの必然性ゼロのおっぱいポロリが印象に残るのみです。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2011-12-18 13:15:18) |
59. 3-4X10月
沖縄、ヤクザ、海、砂浜、マシンガン等、次作『ソナチネ』で見事に開花するネタが詰まっています。が、ストーリー、キャラも弱くつなぎの作品のようであり、北野作品たる迫力には欠けます。 [DVD(邦画)] 5点(2011-12-18 13:13:13) |
60. ザ・コーヴ
前日に鑑賞したのが『いのちの食べかた』という薄味な作品だったせいもあって、冒頭、日本の漁師と思われる姿を白黒反転させた映像からしてただならぬ気合を感じ、期待をもって鑑賞しました。イルカ調教師と長い年月を共に過ごしたイルカが、過労の末に死んでしまった(と本人には思えた)ことから、イルカ解放活動家になったことを主軸に展開し、本作最大のヤマは、公然とイルカ漁が行われている和歌山県太地町の入江でその現場を撮影することに向けられます。果たしてそれは成功し、残虐な行為を暴きめでたしめでたし、という顛末。イルカが心底好きなのだなと思わせる作品です。本作と同様の手法で犬、猫、牛、馬、熊などを題材にすればアカデミー賞のドキュメンタリー部門はマイケル・ムーアと毎年競り合いそうです。 [DVD(字幕)] 5点(2011-08-19 23:55:33) |