601. 人生はシネマティック!
《ネタバレ》 戦時下という国難の時代でも、制作に意欲を燃やした映画人の奮闘ぶりが胸を打ちます。テーマが国威発揚に限られようが、細かい注文が軍関係部署からもたらされようが、良いもの=Finest を作ろうという気概はこちらの背をもしゃんとさせてくれるほどの勢いがありました。 仕事と家庭のバランスに苦労するヒロインの脚本家の抱える課題は、今日にも通じて現代的でリアルです。 ピークを過ぎた老名優の滋味溢れる存在感はビル・ナイ本人そのもの。 戦争の悲愴感をぎりぎりまで抑制しながら、生きることの喜びも哀しみもとつとつと語りきった、品のある作品です。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-12-04 20:16:47) |
602. 無ケーカクの命中男/ノックトアップ
《ネタバレ》 タイトルからして(原題も邦題も)どんなフザけた話かと思っていたら、けっこうちゃんとした人間ドラマになってて驚いた。心情表現が巧いんですよ。思わぬ妊娠に動揺しつつ、なんとか現実と夫となる男を受け入れようとするキャリア女子の気持ちの揺れを的確に描写してると思います。折り合いをつけようといっぱいいっぱいのところ、マリファナ&未読の育児書発見で心が折れるトコなんか、ほんとよねえーと共感しきり。 芯の強すぎな姉から6才の姪っ子に至るまで女が強い強い。ひきかえ、男たちの弱いことはコメディならではのオーバー描写を差し引いても情けないかぎり。とりあえず現実逃避に義兄弟でラスベガスへ、ってコドモか。散々情けなさを披露したぶん、終盤の男気炸裂に、より感動してしまう仕掛けにもなってるわけですが。男と女ではまず違う生き物なのだなーと踏まえて付き合うのが吉ね、というのが感想であります。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-12-02 23:19:45) |
603. ベイビー・ドライバー
カー・アクションの見せ方の巧さではここ十数年で観た中で一番の出来と思いました。車内目線と外から俯瞰した画の切り替えがうまくて、こちらもスピードに乗れる感覚。速すぎるうえにカット割りが多すぎて、観てて疲れる割に迫力が伝わらないカースタントのこれまでなんと多かったことか。 というわけで冒頭から掴みはOK、な今作。リリー・ジェイムズは可愛いし(髪をアップにした時のキラキラしいことったら)、ケビン・スペイシーは安定だしジェイミー・フォックスは見るからに怖い人だしで、人物の引きも充分。あ、主人公の彼はちょっと弱いな。要努力。 クルマ映画で日本車が相変わらず活躍しているのを見るのも嬉しいですね。壊されるのはちょっとつらいけど。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-12-01 23:20:55) |
604. ジョイ・ラック・クラブ
なんか婦人公論とかの読者手記「私の壮絶人生」の寄せ集めみたい。昼ドラ大好きなオバサンたちが食いつきそうなドロついた話ばっかよく8話分も考えつくもんだ。 てっきり移民として苦労した親世代と、故郷など知らずに育った子世代との社会的な断絶やすれ違いをテーマにしたものかと思った。どこの家も母と娘で軋轢があるけど、各家庭の問題止まりなんだよな。スケールの大きそうなことを謳っておいてその実すんごく個人的なことばかり。概要ばかりいっぱい聞かされてもさあ、私この人のこと知らないし、て気分になった。 祖母世代の古い中国の因習めいた話はそれなりに驚きもありましたけど。作り話をでっちあげて婚家から逃げ出した嫁の話が一番面白かった。 [CS・衛星(字幕)] 4点(2019-11-30 23:51:29)(良:1票) |
605. ターミネーター:ニュー・フェイト
《ネタバレ》 ”2”で溶鉱炉へ消えるシュワちゃんを涙で見送ってから30年。サラとT-800に再会できて、ロートルファンはやっぱ感激なのでした。うわあ、ジョン死んじゃってたのか・・!「審判の日」を回避してくれたのに、全然知らなかったよ ごめんよおサラ。スカイネットしつこいなーまさか時間差で別のT-800型を送り込んでいたとは。と、冒頭数分は2以降を理解するのにとても衝撃的かつ忙しい。ここの過去シーン画像の技術は凄いの一言、こんなことができるのか。 ストーリーコンセプトは前2作とほとんど一緒。でもカーアクションをはじめ戦闘シーンがとても見易いです。特にマッケンジー・デイビスの戦う身体の動きの美しいこと。長い手足にキレがあって惚れ惚れしました。大御所サラ・コナーもなんてかっこ良いんだ。整形せずに年齢を重ねたリンダ・ハミルトンは立派です。 劇場を埋めたほとんどは私を含めリアルタイムでシリーズ1,2作を観てきた世代でした。サラ・コナーも一緒に同じだけの時間を生きたのだなあ、としみじみ感慨深くもありました。 目標ができました。サラのように気合の入った年の取り方をしたい。バズーカを躊躇なくぶっ放せるように。そしてポテチが大好きだと言い切れるように。まず筋トレからかな。 [映画館(字幕)] 7点(2019-11-27 17:53:08) |
606. 帰ってきたヒトラー
《ネタバレ》 移民問題がナショナリズムを煽り、極右政党が躍進している現在ヨーロッパにおいてタイムリーに作られた本作。初めのうちは笑って、最後には冷やっとするという、まさに制作の狙い通りの反応をしてしまった。 いや、総統さすがというか、どんな突っ込みにも質問にも堂々と揺るぎない政治信条で相手を論破しちゃうんだもんな。ほんとのとこ、実在の政治屋など小物にすら見えてしまう。おおすごく頼れるリーダーだ、とうっかり感想を抱きそうになって慌てた。 歴史学者の先生によると今の時代って30年代に似ているんだそうな。ヒトラー総統(比喩であっても)が戻ってきたとして、さてまた歴史は繰り返すのだろうか。映画はその答をこちらに投げて終わります。21世紀の我々は30年代の人々と違って、第二次大戦を知っている。またあの惨禍を繰り返すほどに学習能力の低い種であるとは思いたくないのだが。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-11-20 17:08:52)(良:1票) |
607. 万引き家族
《ネタバレ》 血のつながりってなんだろうね。6人とも全員が血縁の無かった擬似家族。でも、互いを思いやる気持ちが各々にあって、人間のコロニーとしては理想的だったと思う。 この家族、存続してはダメですか。そりゃオヤジが頼りないとか色々突っ込みどころはあるけれど。昨今の児相の機能不全を考えると虐待されてる子を攫ってきて勝手に保護するのはもうアリなんじゃないのかな。社会全体で認めてしまえばいいのに。そして家庭教育の至らなさがあれば、柄本明のような近所のオヤジがびしっと諭してくれる、そんな社会の方が好きだ。 でも現実は、嘘家族は解体で上の子は施設行き、幼い子は虐待親の元へ戻される。先入観から一歩も出ない意地悪婦警に信代が詰問されてる時、ワタシも信代と一緒に泣いた。悔しくて。「(子供は)あなたのことをお母さんと呼びましたか?」そんなこと言うな。実母なんかより、よっぽど母親だったんだ。 今作は、邦画でも最高峰の演技を見られる作品でもあります。樹木希林の初枝婆ちゃんはアッパレなまでに食えない存在でした。孫娘(擬似)の水着はせっせと試着させたうえ万引き(!)、パチンコ屋で隣のドル箱をつらっとガメて、さらには夫を略奪した家庭(一世代下だけど)へ温厚カツアゲ。まさに年季入り、奥が深い。希林さんを失った喪失感はハンパないけれど、安藤サクラのような若手がいるということは、日本映画界にとってとても幸せだとも思うのです。 [地上波(邦画)] 9点(2019-11-19 17:02:33)(良:2票) |
608. エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方
《ネタバレ》 ヒロインは米国で人気のコメディエンヌだそうですが、今作のコメディセンスはさっぱり合いませんでした。 「容姿がさほどでもない、ぽっちゃり系女子の赤裸々バナシ」ならブリジット・ジョーンズという先達がいるわけですが、似て非なるというか、別物です。ブリジットの場合、自身のダメ具合を客観視できてて、開き直りつつも惚れた男ができればなんとかしようと頑張る健気さがあって世間の女子はそこを評価したのですが。エイミーの場合生活が笑えないレベルにだらしなく、酒と大麻が欠かせない。文句ばっかり言ってて笑顔もないわりにひきもきらずセックスフレンドはいるという・・、こんなののどこに感情移入しろというのでしょうか。あの医者はエイミーにはもったいない。納得いかん。 [CS・衛星(字幕)] 3点(2019-11-17 16:49:50) |
609. ハード・ウェイ(1991)
《ネタバレ》 マイケルはともかく、ジェームズ・ウッズがコミカルな芝居ができるとは思わなかったなあ。これがなかなか良いんですよ。見るからに畑違いのマイケル・J・フォックスとジェームズ・ウッズを両立させてコメディとして成功させた、これもちろん脚本も良いんだけどウッズの役者スキルの高さがモノを言ったと思います。 マイケルは自身のハリウッドイメーをまんまなぞった役柄で、それを自分でおちょくっててこれまた安定に巧くてコメディの基本ネタと分かってても笑ってしまう。バーで、マイケルが女役になって強引に話を進めるくだり、ウッズと痴話げんかになりそうなトコで必ずバーテンのおっちゃんがドリンク持ってくるんだよね。複雑な顔のおっちゃんと閉口してるウッズ、ここ声出して笑ってしまったよ。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-11-14 16:28:09) |
610. 山猫は眠らない
《ネタバレ》 スナイパーになるためのハウツームービーです。スナイパーになりたい!という人からスナイパーって何やるんだろう?と思っている人まで汎用性の高い一本です。 これ見ればスナイパーの仕事が丸分かり。スコープを覗いたらこう見える、とか30cm横を敵が通っても気付かれないほどの適切な偽装の仕方や、現地民とのコミュニケーションによる情報入手の大事さも分かります。 ベテラン先輩におとりに使われることもあるけど、そこはキレても大丈夫。意にも介されません。あと、救出に来たヘリに乗り込む間際が最も危険だということも分かりました。勉強になったなあ。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2019-11-13 15:57:15) |
611. ブレードランナー 2049
《ネタバレ》 おお、暗い。湿度も高い。いいですね。これぞブレードランナーの世界観。続編を作るのなら、この雰囲気は絶対に死守してくれないと。もちろんヴィルヌーヴ監督はちゃんと心得ているうえ、彼の暗いけれど粒子の細かい画のセンスはブレードランナーと相性が良かった。僥倖なことであります。 力の入りまくった隙の無いSF世界は初めて見る光景。現代の映像技術の最高峰を堪能できます。 美術は満点ですがやはり偉大な前作を越えるのは難しい。「自己とは何か」という問いを美しいレプリカント達の苦悩に変換した前作にあふれていた情緒が、なんだかとても薄い。ライアン・ゴズリングも悪くはないけれど、彼のつるっとした顔はどことなく無痛気味。”記憶は他者のもの”という事実を前に落胆して机を殴るライアンより、静かにうつむき写真を破り捨てたショーン・ヤングの後姿の方がより強く悲哀が伝わる気がする。事実40年経った今でも忘れられない場面の一つであります。 あとはねえ、細かい諸々への不満。ハリソンが死ぬわけないと分かっている海面不時着時の戦闘が長い。レプリカントレジスタンス達の登場もとってつけた感。口頭説明が長いのも辟易しました。一作目のファンてウルサイなあ我ながら。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-11-10 16:49:11) |
612. オン・ザ・ミルキー・ロード
《ネタバレ》 これは・・、珍しいというか唯一無二というかジャンルでいえば「反戦寓話」とでもいうんでしょうかね。これまで観てきたどんな映画よりもこの世界観はとびぬけて独特で、初めての手触りでした。 画は明るく牧歌的、そんな中、弾よけ(!)の傘をさして牛乳を仕入れに来る主人公や砲弾降り注ぐなかギリギリまで卵を割る作業の手を止めない人々とか、戦争が日常になっちゃってる村人たちがシュールです。何の意味があるのか、でっかい壁時計に手を挟まれる家人やら豚の血に飛び込んで真っ赤に染まるアヒルやら描写の一つ一つがのっけからこんな風に「?」の連続で、きっと東欧というなじみの無い土地柄の風土だからぴんと来ないのだろうと無理やり納得して観続ける序盤であります。 ところが描写は落ち着くどころかどんどんシュールさを増してゆく。危機を寸前で救ってくれる動物多数。こんなんだからコレはおとぎ話的に上手く行くようになってんのかな、と思ったら崖から飛び降りたらちゃんと脚を骨折するのだった。そこは数日前みたく宙に浮かないんかい! 銃弾の連射も火炎放射も惨たらしい所業であるのに、この監督が描くと何故だかファンタジック。炎を纏って空を飛ぶアヒルは目に焼きつきました。美しくて。 ところで、美しく不可思議な画の中を逃げる二人がおっさんとおばさんというのどんなもんだろう。モニカ・ベルッチも絶世の美女と言うにはピークを過ぎているし、ここは是非とも16才くらいのボーイ&ガールであってほしかった。未熟さと必死さが反戦のテーマを訴えるにもより効果的だったと思うのだけど。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-11-06 17:24:46) |
613. 穴(1960)
《ネタバレ》 なんとかっこ良い映画だろう。一コマ一コマに無駄が無く寡黙にきびきび人物紹介を済ませ、隙の無い脱獄計画を行う。モノクロが映えるパリの巨大地下空間の画も圧倒的。縦横無限につながる通路、トンネルに吸い込まれ小さくなってゆく灯り。地図が作成不可と言われるほどの巨大な異空間が舞台装置として満点。 そしてつくづくと「脱獄に必要なのは根気と丁寧さ」を思い知らされる長ーい固定カメラ。コンクリの壁を破る、鉄柵をヤスリで切る。ひとつひとつの作業をじっと見守るかのように画を動かさない。この我慢強いことは他の脱獄モノの追随を許さない。 ことごとく「しっかり描き切る」んですよね。差し入れの品を検品する場面も然り、散った土砂を刷毛できれいに清める場面然り。外した扉をはめ直す時はがしゃん、と心棒がはまるまでちゃんとやる。熱量の高い描写に、絡め取られるように酔ってしまいそう。 隣の房から反対側の房へと物品を受け渡しする、あそこも鮮やかだったなあ。 各キャラクターの性格も五人それぞれが見事に描き分けられており、だからこそ観てる者はラストにやられてしまうのですね。誰に、ってガスパールに。リーダーのマチュー、ねえやっぱり新人は引き入れるべきではなかったのだよ。完璧に進んでいた脱獄計画。ただ一つの穴が新入りの彼だった。でも、四人の仲間も我々も「ガスパールを入れてやれよ」って思ってたんだ。あの衝撃のラストまでは。 ガスパールは見るからに誠実な好青年。差し入れられた食料も気前良く皆と分かち合い、育ちの良さが滲み出る。 だけど、観客はラストシーンを経てから思い至る。そんなに良い奴だったか?と。相続した財産を使い果たした後は金持ち女のヒモになり、あげく義妹に手を出す奴。痴話げんかの末に刑務所行き。ふと頭をよぎるは所長と面談した時の金のライター。エンドロールを観ながらワタシは叫んでしまった。あああれは袖の下だったのか・・。しょてから抜かりなく権力に取り入ってたなんて。ラストで冒頭の伏線を回収するなんて・・! 脚本も画も役者もなにもかもが凄い。半世紀以上も前にフレンチノワールは完成しているのだなあ。 [CS・衛星(字幕)] 10点(2019-11-02 15:20:56)(良:2票) |
614. Gガール/破壊的な彼女
《ネタバレ》 いやー、この男ね、マット?失礼でしょ。地下鉄でナンパしといてしかもあの程度の容姿でユマみたいなモデル型美人に惚れてもらっといて「他に好きな女がいる」って、そんなんGのつくガールじゃなくたってキレるわ。 ジェラシーが凄いって言うけどあのくらいのことは普通の範囲でしょ。ジェニー可愛いと思うけどな私は。こんな失礼な奴ブラック・ホールまで飛ばしちまえば良かったのに。 つまるところ終始一貫男目線のコミック・ムービー。目くじら立てることもないんだけどさ。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2019-10-26 23:59:52)(良:1票) |
615. アンストッパブル(2010)
《ネタバレ》 今さら暴走列車モノかあ、しかもこのストレートなタイトル、と期待値は低かったのですが、これがもう観始めるとペンシルバニア周辺の住民と同じくらい緊迫しました。無人の貨物列車が暴走するだけのシンプルな話ながら、そのヤバさをリアルに伝えるスコット監督の手腕は只事ではないです。「速さ」に「怖さ」をプラスさせるにあたっての、踏み切りに立つ女の子の前を風を切って過ぎるデカイ車体や連結の衝撃で飛び散り雨あられの如く降りかかる穀物の粒といった目に見える演出は効果抜群でありました。 特に最初の作戦失敗の画は、人間が人形のように車体に弾かれるショッキングなものですが、これがすごくリアルで「ああそりゃそうなるよ」と頭を抱えてしまいそうになりました。さらに状況は悪化し、大曲りに入ってかしぐ777号が弾く鉄路の火花はこちらのメンタルを追い詰めるのに充分。いやあもうおっかない。 と、緊迫映像で魂を抜きにかかったスコット監督なのですが、織り込んできた人間ドラマ部分はちとベタでいらんかったのでは、と思いました。よくある夫婦の危機と忘れてた子供の誕生日。なぜアメリカの子供はいい年になっても親に誕生日を祝ってもらいたがるのだろうか。そしてたいてい高確率でその日を忘れる父親。 でもまあ列車停止と同時にすっとエンディングを迎える潔さは好みです。良かったです。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-10-23 00:24:23)(良:1票) |
616. クライシス・オブ・アメリカ
《ネタバレ》 遠い戦地で果たして何があったんだろう?と大いに期待を持たせる導入部です。ダークでミステリアス、ここらへんはかの「羊たち」を手がけた手腕を彷彿とさせます。 だけど、ふたが開いてみるとちょっと苦しい。複数の人間の記憶を同じように改ざんするなんて、いくらなんでもそんなこと可能かい? ブルーノ・ガンツをもうちょっと上手く使えば、ドイツ系重厚感効果で話の信憑性も数パーセント上がったかと思われるけど彼わりと早く退場してしまうし。 観終わってみるとやたら強く印象に残るのがメリル・ストリープの怪演のみ、というしょうもなさ。メリル、怖いですよー。息子溺愛の毒親ぶりが上手すぎて気持ち悪いったらない。顔中に刺青が入ったアラブの女より怖かった。 [CS・衛星(字幕)] 5点(2019-10-22 00:08:50) |
617. ホワイトハウス・ダウン
んーどこをとっても一つも目新しさの無いアクション映画でした。観ている間ずーっと頭にあったのはマギー・ギレンホールって誰に似てるんだろうってことだったし。キャリー・フィッシャーでした。レイア姫ね。いやそれはどうでもいいんですが。 たしかに画は凄いです。ホワイトハウス内部のリアリティなんか、どうやってロケしたんだろうと思います。実物は知らんけど。「見せる」映像のクオリティの高さに関しては、この監督作品の右に出る逸材は(ちょっとしか)いないでしょうね。 チャニング・テイタムは意外と情操のある演技ができており筋肉だけではないことを証明してますし、台詞のユーモアも効いてます。脇役も手堅いです。 だけど同じなんだよね。ダイ・ハード一本観れば後発組は皆同じなんだよね。名作のつぎはぎだらけの今作を観ていると、ナカトミ・ビルで孤軍奮闘していたブルース・ウィリスを越える作品など現れないのではないか、と30年経って思うんであります。現われてほしいなあ、わくわくさせてほしいなあと心から願っています。 [CS・衛星(字幕)] 6点(2019-10-20 16:45:59) |
618. ジョーカー
《ネタバレ》 アメコミの悪役キャラとして完璧だったJ・ニコルソンのジョーカー。ヒース・レジャー版で彼は顔のペイントも粗い三次元のリアル狂気として現実に現われ、ついにホアキン版では「すぐそこにいる」ジョーカーとなった。 「お前、キモいんだよ」との言葉を投げつけられるアーサー。ブリーフ一枚の痩せた身体を晒し、表情は自信無さげでどたばたした不格好な走り方、的外れな空笑い。鬼気迫るようなホアキンの役作りに、ヒースのように自己を削り過ぎないかと心配になる。 アーサーがジョーカーへと変質し、群集を巻き込んで破壊行動へ向かう、そこにある種爽快に近い快感があるのを否定できない。炎上するゴッサムシティを背景にゆっくりと身体を起こすジョーカーは社会が生んだ悪意の果ての姿。オレンジ色に染まったその画を、禍々しくも美しいと思ってしまった。 ヒース・レジャーのジョーカーはもはや悩んでなどいなかった。絶対狂気の一個体だった。 痛くて無様な己の内面に呑まれて狂気を発症してゆくホアキンジョーカーもまた、伝説となるだろう。 [映画館(字幕)] 8点(2019-10-16 16:13:14) |
619. コンプライアンス 服従の心理
《ネタバレ》 これ、かなり怖いです。自分も素直なタチですからこの店長の立場になったらどうしたやら色々考えてしまったけど、少なくとも「裸の女の子の見張りに男をつける」ことには抵抗していると思いたい・・。 人間がいかに権威に弱いか、この話は有名なドイツの実験とかでなく実社会で起こった実話であるということが恐怖を増します。 実事件の防犯カメラに記録されたことを下敷きに、各人物のキャラの肉付けや置かれた立場の説明が簡潔になされていてすんなり入り込めます。ダントツに上手いのが店長役のおばさん。初めこそ突然の警察からの指示に戸惑い、ターゲットの女の子に気遣いを見せていますが、犯人の口車にどんどん乗せられすっかり丸め込まれてゆく様子はこちらの絶望を増幅させます。気の利かないバイトを使う苦労への共感を示されたり、リーダーとしての資質をほめられたりするたび相好を崩すその表情、ああーすっかりニセ警官に心を開いちゃってるよ・・。外野から見てる分には引きますけど果たして自分ならあんな顔にならずに済むかどうか。 「不服従の男」が現われ、騒ぎはあっという間に収束するけれど、それまでの長いこと。2時間も無かったのか・・。雑なホラーなんかよりオソロシイと思いましたよ。 [CS・衛星(字幕)] 7点(2019-10-14 00:51:19)(良:2票) |
620. わたしは、ダニエル・ブレイク
《ネタバレ》 ケン・ローチが引退を撤回してまで撮りあげた、渾身の作品と思います。 かつて「ゆりかごから墓場まで」と言われた英国の福祉が機能不全となって久しいと聞いてましたが、もはや人間の尊厳をも削り取るシステムになってしまっているとは。 ダニエルが振り回される所定手続きの複雑怪奇なことったら、喜劇さながら。見ているこちらも電話が先なのか書類提出が先なのか、どっちなんだよ、と思います。60過ぎて受ける「履歴書の書き方講座」や形だけの求職活動といった茶番。40年も大工一筋だった男にウェブで手続きしろと言い放つ。煩雑な手続きに疲弊しているのは職員も同じで、彼らも余裕が無くて辛そう。ちょっとでも温情をかけて処理したら上司に「前例を作らないで」と叱責されます。この女性職員はダニエルに手続きをあきらめないよう励ましてくれてたんですけどね。ラストには葬儀に出席している姿も見えました。 ダニエル・ブレイクは本当に良い奴なのです。他者を労わる心を持ち合わせ、まっとうな権利を行使するために他人のために声を上げることのできる隣人なのですよ。 そして、こんな苦境にあってもキレの良いユーモアを忘れないのが英国人の偉いところで、私が傑作と思うのは「保留音のBGMをマシなものに変えろ」でした。 格差とか移民問題とか、山ほどの問題を抱える現状はかの国の政治家だって百も承知なのでしょうが、一市民として思うことはダニエルのような善良な市民がこんな目に遭う社会は嫌だ、この一点に尽きます。 [CS・衛星(字幕)] 9点(2019-10-09 18:52:06)(良:2票) |