1. スオミの話をしよう
《ネタバレ》 「スオミの話をしよう」公開初日、レイトショーにて鑑賞。 三谷幸喜作品で、この人のテレビドラマは大抵観ており、ほぼどれもが好きな作品。特に三本の大河ドラマは全て傑作ではないかと。 「古畑任三郎」シリーズや「王様のレストラン」等はその世界観がジャンルのスタンダードを作り上げたと思う。 では、監督した映画作品群はどうか。 これがなんというか、独りよがりな部分がたまに出るんだよなぁ。 「ラヂオの時間」や「ザ・マジックアワー」なんかは余韻も含めて好き。 「清洲会議」も良い。数えてみるとまぁ傑作、佳作が大半。 ただ人により好き嫌いがはっきり出る傾向の作品が多いのも確か。 それを通り越して、なんだこれ?ってのも紛れ込む。クセが強いというか、着いていけないギャグセンス。 今回はどうか、満を持して劇場へ! 長澤まさみは相変わらず綺麗でカッコイイ。もうこの世代の女優では一番ではないか。 中堅どころの瀬戸康史も終始うすら笑いでいい味出してる。 ベテランの遠藤憲一さんはイキイキと画面を制す。 クスッと笑う場面も多々あり。 演者のセリフが全て聞き取りやすいのも大事な要素。 ただ…全体的に一体自分は何を観せられたのか?というのが感想。 この映画の面白さが理解出来ない自分の感性は錆びついてしまったのか…と。 後半は、観た時間も関係するのか、もう終わってもいいぞって感じで。 今回はごめんなさい、であった。 [映画館(邦画)] 5点(2024-09-14 06:36:19)(良:1票) |
2. 鬼平犯科帳 血闘
《ネタバレ》 地元での公開ラスト週、何とか間に合い鑑賞。 慣れ親しんだ故中村吉右衛門さんのテレビシリーズは実に見応えがあり、幾度も涙を流した経験がある。 今回の新シリーズは、甥の松本幸四郎さんが主役、その他の主要キャストも代替り。 過去のキャストが素晴らしかった為、比較されてしまうのは仕方がない事。画面を見ていても、過去のテレビシリーズの音楽を脳内再生してしまったり… しかし、今回の映画はそれはそれで良い作品であった。何度も映像化されている「血闘」を見事に再映像化しており、池波エッセンスを大切に活かし魅せてくれる。 吉右衛門さんの完成された鬼平を、敢えて踏襲する芝居で演じた幸四郎さん、相当の覚悟だったと感じる。 また、柄本明さんと柄本時生さんの親子共演、時生さんが時を超えて昔父親が演じた役柄を再現しているのも嬉しくなった。 それと、料理は相変わらず美味しそう。 骨のある時代劇が少なくなった昨今、先日観た「碁盤斬り」や「鬼平」の様な心に刺さる作品を改めて期待したい。 [映画館(邦画)] 7点(2024-06-13 17:12:39) |
3. 碁盤斬り
《ネタバレ》 久々の時代劇鑑賞。 原作は古典落語との事。 前半の穏やかな展開が、藤沢周平の懐かしい人情時代劇の様な心地良さ。 それが突然の来訪者が現れる後半から一転、緊張感ある復讐劇に様変わりする。 善悪だけでは語れないそれぞれの事情、いざ刀を抜いた後の武士の覚悟と非情。 主役の草彅剛さん、その娘役の清原果耶さんが演じた武家の誇り高さ。 國村隼さんの商家の懐の深さ、市村正親さんの侠客の貫禄、敵役斎藤工さんの儚さ… 画面の美しさ、空気感、余韻… 自分は碁を嗜まないが、その品格が指先、表情だけでも伝わってくる巧みな演出。 心に沁みる時代劇であった。 [映画館(邦画)] 8点(2024-06-13 17:06:52) |
4. 映画『からかい上手の高木さん』
《ネタバレ》 久々に公開初日の映画鑑賞。 還暦オヤジが何今さらラブコメ見てるの?って感じだが、劇場で空間を共にした主要客層の8割は同年輩以上の高齢層。 この原作コミック、なんかその昔の大林宣彦監督の旧尾道三部作や、 「小さな恋のメロディ」とか「リトルロマンス」と言った洋画を思い起こさせるノスタルジックな感覚が満載なんだよなぁ。 で、こっそりその原作コミックやアニメを見ていたり、先日まで放映されていた深夜のテレビドラマを視聴していたオヤジ連中の琴線に刺さって 思わず鑑賞って流れが安易に想像できる…自分もだけど。 映画はその原作の後日談的な内容。 長閑な瀬戸内海の展望を背景に、大した事件もなく、ただ平和に話が進む。 ラブシーンや諍い等も無く、主人公の二人のもどかしい心の交流が、善意的に描かれており、ひたすら穏やかで幸せな展開。 正直、主演の永野芽郁さん、助演の江口洋介さん以外の演技は素人級、でもそれすら微笑ましい。 鑑賞後清々しい心持ちとなる佳作でありました。 [映画館(邦画)] 7点(2024-05-31 16:56:35) |
5. シン・仮面ライダー
《ネタバレ》 もう待ちきれなくて仕事帰りに、最速公開日のレイトショーにて鑑賞。 本来、早々にレビューをアップして、お祭り騒ぎに便乗しようと目論んでいた。「シン・ウルトラマン」の時と同様に。 しかし、今回は手強かった。今自分が観たものをどう判断していいのか困惑していた。 果たして傑作だったのか、キワモノ映画だったのか、脳内整理が瞬時で付かなかった。 冒頭にいきなり結構エグい暴力描写が続き、その上池松ライダーの暗い表情がモチベーションを下げてくれる。 緑川博士や、ルリ子の説明も唐突で、言葉が頭に入らない。何が何だか。 クモオーグの乗った逃走車両が昭和ナンバーの古い国産車だったりして、時代設定も分からなくなり、混乱度は更に高まる。 しかし、その後に、政府機関の2人の強烈な登場で、今回の映画の世界観がぼんやりと浮かび上がる。 その先、パート構成で物語はテンポ良く進み、こちらも画面に集中して楽しめる。そう、楽しめたのだ。 思いがけないキャストの登場や、チープさを敢えて払拭しないコマ落としの様な特撮での演出など、 放映当初の「仮面ライダー」、あるいは原作漫画へのリスペクト、愛情、こだわり等がいきなり溢れ出てくる。 柄本ライダーの登場で雰囲気にも明るさが加わり、怒涛の展開が「スッキリ」させてくれる。 政府機関の二人が名乗るシーンは、「そう来たか!」と膝を叩いてしまう昭和的反応。 うん、確かに楽しめた。 ただ、一緒に観た作品背景を知らない妻は腑に落ちていない表情であったし、分かる人には分かるというストーリー構成、 またPG12である事は「仮面ライダー」としてどうなんだろうか。 「シン・ウルトラマン」は全ての世代が楽しめる明るい作風であり、観賞後の爽快感があった。 「シン・仮面ライダー」は観終わった後、劇場を埋めていた親父達は、帰りがけに連れにどう感想を述べようか悩んでいる様な、 そんなモヤモヤ感が漂っていた。 でも鑑賞後二日経った週明けの朝に思う。 やはり心に刺さっていた。そしてもう一度確かめに劇場に行きたい衝動。自分は決してこの映画が嫌いではないと。 [映画館(邦画)] 7点(2023-03-20 08:21:44)(良:3票) |
6. すずめの戸締まり
《ネタバレ》 3.11を根底に描いた映画は数あれど、ある種のケジメや未来に向けての「希望」を持たせてくれた作品として貴重。 確かに心にトラウマを抱えている方々にとって、この作品の一部にある震災描写や、スマホから発せられる緊急地震速報の音は恐怖であり、鑑賞に注意が必要かもしれない。 ただ実際には、「すずめ」が心の奥底に抱えているわだかまりの払拭、あるいは自分が行動しなくては厄災を防ぐ事が出来ないという使命感、それに立ち向かう為の旅立ち、そこに共感と勇気が与えられ恐怖が和らげられる。 その描写は明快であり、心が揺さぶられる。 そして旅の先々で出会う人々の優しさ。ここに本当に胸が熱くなった。善意のロードムービーである。 愛媛の民宿の女子高生も、神戸のスナックのママもその存在は人のあるべき姿。何か行動しようとする者をひたすら応援する。 そこに恐怖に打ち勝つ「希望」が感じられた。 3.11の直後に見られた、ボランティアの方々の迅速かつ的確な人道的行動、また国内、世界各国から寄せられた支援や温かい言葉。何か重なるように思い出してしまう。 もちろん、災害は毎日の様に世界中で発生しているし、「閉じ師」がどれだけいれば世界を救えるかなんて考えると、このアニメも所詮甘ったるい空想にしか過ぎない。海外の災害に神道が通用するとも思えないし。 しかし、鑑賞後に感じたある種の幸福感は、確実に「希望」とイコールである。 「すずめ」の選択した行動は尊く、新海監督の熱く強いメッセージとして受け取った。 [映画館(邦画)] 8点(2022-12-14 08:44:41) |
7. トップガン マーヴェリック
《ネタバレ》 封切りから結構時間が経ってしまったので、それなりにネタバレで内容が伝わってきたのだが、 まぁ、そんなのどうでもいいってくらい面白かった〜。 内容的には、前作はもちろんの事、英国の名作「633爆撃隊」のエッセンスも隠されていたりして、 古典的な航空戦争映画ファンへのサービスも怠らないトム・クルーズの心意気! 彼等にとって、日本人の零戦の様な存在、P51マスタングの飛行シーンや、アイスマンとの抱擁など、 熱い感涙場面も良い具合に散りばめられており、アクションシークエンス以外も手抜き無し。 バーカウンターでの軽い疎外感なんかも、リアリティあったなぁ。 極めつけは、戦闘機同士の「ドッグファイトは機体の性能より、パイロットの腕だ」って、もうマーヴェリック、最高! F14でSu-57を叩き落としちゃう痛快感、何が第五世代だ! とにかく、鑑賞後にひたすら晴れやかな気持ちになる快作。 [映画館(字幕)] 9点(2022-06-13 08:42:51) |
8. シン・ウルトラマン
《ネタバレ》 週末レイトショー。 待望の「シン・ウルトラマン」、公開初日の鑑賞。 昨年の庵野秀明展で購入したTシャツで身を固め、いざ光の国へ。 庵野秀明さんがエヴァンゲリオンで何しようとそれは構わない、彼のモノだから。 でも、ウルトラマンはみんなのモノ。悪戯に余計な解釈や、難解なテーマ等を乗っけてきたら許すまじと、 期待と同時に覚悟を決めて挑んだ2時間… …流石に彼は見事な職人であったと。 オリジナルへのリスペクト、愛情。 冒頭のタイトルバックからしっかりと伝わってきた。 そして現実と空想の無理のない調和、これはシンゴジラで見せたテクニック。 もちろん、観客が期待しているレベルでエヴァテイストの禍威獣(怪獣)の造形とバトル演出は しっかりと盛り込んでいる。 確かにシンゴジラと比較すると、スケール感に乏しい部分は否めないが、 ゴジラは元々反核を訴えたシビアな社会派映画、 ウルトラマンは30分で、夢と希望とたまにシニカルなスパイスをお茶の間に届けてくれたTVドラマ。 このコンパクト感と詰め込み感すらも愛おしく思えてくる。 街が破壊され、泣き叫ぶ群衆の姿はこの映画には必要ない。 オヤジ達で溢れた夜の映画館からの帰り道は、妙に清々しい気持ちでありました。 [映画館(邦画)] 8点(2022-05-14 08:43:32)(良:5票) |
9. ウエスト・サイド・ストーリー(2021)
《ネタバレ》 今回の鑑賞については、前作にある程度の思い入れがある事、スピルバーグ監督が好きな事、 その二点から必ず観ようとは意識していた。 当然、リメイク作品については鑑賞前の不安が付いて回る訳だが、スピルバーグ監督流の解釈には 期待しかない。 さて、鑑賞。 冒頭の笛の音、前作に向けてのリスペクトを一瞬で感じ取る事が出来る素晴らしい立ち上がり。 前作でのダイナミックなカメラワークに加え、今回は更に積極的な移動撮影と俯瞰を伴う演出とか、 空の青さや、鮮やかな衣装の色など、印象的なカラーリングが施されていたりとか、 あくまでベースを大事にしながらも嬉しい仕掛けが盛りだくさんとなっている。 ストーリーや、曲順等は適宜改変されており、ここは受け入れ側の好き嫌いはあると思うが、滞りなく進行する。 音楽に大きなアレンジなどは加えず、元の音源から忠実に、ただクォリティだけは抜群に高めてコピーした感じ。 「アメリカ」のシーンは前作の夜から、今作は明るい早朝に変更、躍動感とスケール感の溢れる展開に 思わず涙が出てきてしまった。 物語に関しては、相変わらず愚かな若者達が狭義での正義を貫き通す為に、悲劇に向かっていく お馴染みのロミオとジュリエットストーリー。 でも何だか今観ると、トランプ前大統領のメキシコ国境封鎖や人種差別発言、中国の新疆ウイグル自治区問題、 そしてウクライナの情勢等と、事の大小はあれど被って見えてしまう。 何故この作品が今この時期にリメイクされているのか、大いに合点する。 あと、前作のロバートワイズ監督とスピルバーグ監督の何というか、職人気質、或いは(良い意味で)節操無く 「何でも作ってやらぁ」的な仕事振りにも共通点を感じてしまった。 リタ・モレノさんのあの役柄での登場は、矢張り嬉しいサプライズ。 前作へのリスペクトと、現在への警鐘を鳴らすという見事な作品であった。 (追加)パンフレット、「パンフレット」としてみると価格が高い。しかし、一冊の資料本として考えれば価値も高い。 [映画館(字幕)] 9点(2022-02-20 06:36:53)(良:1票) |
10. 燃えよ剣(2020)
《ネタバレ》 司馬遼太郎の「竜馬がゆく」と「燃えよ剣」をバイブルの様に読み倒している熱烈信者が 自分の世代(昭和30年代生まれ)には多いと思う。まさに自分もそう。 ただ、過去何度も映像化されてきたこの二作品、原作への思いが強すぎて正直期待を裏切られるものが多く、 今回もあまり過度な期待はせずに観賞しようと思っていた。 しかし、コロナ禍により封切りが一年半以上も伸びてしまった事で、否応なしに熱い思いが高まってしまう。 製作者には気の毒だと思うが、そんな面倒な司馬信者が、封切り早々に劇場へ足を運んだ。 結果、よくぞこの150分間であの原作の持つ情熱を描き切ったと、心より感動している。 当然、一年かける大河ドラマでも十分対応可能な原作だけに、端折られるエピソードがある事は致し方ない事。 ではどこをどう端折るか、そこがポイントであろう。 例えば芹澤、沖田、山南らと大坂に出向いた折の力士との乱闘事件や、 勇猛果敢な土方が初の海戦に挑み、新政府軍の軍艦に接舷して殴り込みをかける史実など、 映像的にも映えるであろうシークエンスがバッサリ切られている。 また、鬼の副長としての土方像の描写。古高への拷問シーンなど実に薄いし、 局中法度にしても隊士が恐れている場面がほとんどない。この端折りの決断はかなりの勇気だと思う。 でも、鑑賞後何故かそんなに気にならない。 考えてみれば、原作を読み込んだ者にとって、単に幾つかの描写が削られていただけで、 今回の映画の描きたかったテーマが失われてる訳では無いのかもしれない。 それよりも「ゆきは今宵乱心します」…このセリフ!!柴咲コウ、見事!土方と心から情を交わした「恋人」ゆきとのフィクション。 ここを実に大切に描いてくれている。この壮大なドラマの中で最も涙腺が危険であった場面。 原作ファンはおそらく、このセリフが出た時、忘れていた何か甘酸っぱい記憶を何十年か振りに思い出したに違いない。 土方がフランス武官に過去を語っていくという流れも自然で、このドラマ初見の観客にも優しい構成だと思う。 演者も実に見事。深堀はされなかったものの近藤勇の鈴木亮平は過去最高のキャスティングではなかろうか。 音楽の構成も美しい。最近最高の歴史ドラマ。 原作も改めて再読したい。 [映画館(邦画)] 8点(2021-10-18 08:26:49)(良:1票) |
11. 竜とそばかすの姫
《ネタバレ》 仕事や旅行で何度か訪れた事のある高知県。大好きな場所。 都市部は駅前や市中心のわずかな地域で、東西に長い地形は北方に10分も車を走らせると緑豊かで長閑な風景となる。 広大な海も魅力的な高知だが、この映画の風景は川が主役。都市部を流れる鏡川、山間部へ上り沈下橋のある風景は仁淀川。 その美しい川々と、高いビルの無い高知の都市部(それだけに空が広く、雲の美しさが際立つ)が現実世界の舞台となる。 この土地に暮らす高校生達の都会願望が描かれていないのは、細田ワールドならでは。方言や訛りが無いのも現代っぽい。 監督の田舎への憧れと望郷の念が強く感じられ、そこは新海監督の作品との対比としても面白い。 一方でネットの中の仮想空間「U」。煌びやかで自由で果てしなく可能性のある理想空間。 ここの描写は「サマーウォーズ」よりもやや現実的に描かれており、いかにも近々に実現しそうな世界観。色彩と光の表現が見事。 Belleの歌唱シーンはそこだけMVとして切り取ってみても、おそらく超絶に高品質。 またこの空間で「サマー…」同様ネット空間を回遊するクジラは土佐の海の象徴であったのか、悠々として圧巻。 ストーリーにおいては、土佐っ娘の鈴が一人で深夜バスに乗って遠方に出かける決意をしても、 しのぶくんをはじめ、親友達、おば様達の誰もがそれを止めも、ついて行こうともしない不思議とか、 その先東京の多摩川近くの住宅街に迷いもせずにあっけなく鈴がたどり着いてしまうシチュエーションとか、 DVされていたこどもとタイミング良く外で出くわす偶然とか、 そのこどもを庇う鈴にDV親父が上げた拳を下せなくなってしまった理由とか、 そもそも素敵なおば様たちと鈴とのなれそめとか、深堀すれば劇的であろう多くの場面の解釈を 細田監督が鑑賞者に丸投げし過ぎている点には大いに違和感を持つ。 しかし、鈴を取り巻く高校生達の可愛らしい関係性、地方都市へのリスペクト、 そして何よりも作品の持つ高揚感、映像の奥深さと美しさが、そんな違和感すら凌駕して、 鑑賞後の爽快感と充実感に繋げる。 コロナ禍で旅行もままならない現状、細田監督はネットではなく映画でひと夏の素敵な経験をプレゼントしてくれた。 [映画館(邦画)] 7点(2021-08-10 08:47:24)(良:2票) |
12. 雲霧仁左衛門
《ネタバレ》 池波正太郎原作であれば、余韻や人情の機微を期待してしまう。 例えば無駄な殺生はしない真っ当な(?)盗賊は、火盗改めを小気味よく出し抜いたり、 悪運尽きてお縄にかかる時は潔く…それが池波スタイル。 ところがこの作品は、そこがおざなりになっている。 大仰な斬り合いが多い割には、双方が知略を尽くすという醍醐味は殆ど感じられない。 フジテレビのシリーズや最近のNHKのBS時代劇の方が、そこは丁寧で、事実名作も多い。 それと、裸のシーンがやたらとあるのも、制作時期ならではかもしれないが、なんか下品。 ただ、高松英郎、長門裕之、夏八木勲らの脇を固める名優陣の抑えた演技は素晴らしく、 池波スタイルを何とか保持している感があった。 終盤の名古屋城の仇討とかを無理に入れずに、ラストの仲代達也と市川染五郎(六代目)の解合のシーンに もっていけば後1点追加だったような作品。 [CS・衛星(字幕なし「原語」)] 5点(2021-03-30 08:27:43) |
13. 罪の声
《ネタバレ》 35年前の事件を題材とした、硬派な人間ドラマであった。 当時、大学生だった自分はコンビニで深夜バイトをしており、本部からの要請で菓子棚を一斉に調べて、 その事件にかかわるメーカーさんの商品を全て撤去した経験がある。 スカスカの売場を呆然と見つめて、無性に腹が立った事を鮮明に覚えている。 今回の映画、派手さは一切無いものの、実に誠実に、サスペンスフルに作り上げられた傑作。 キツネ目の男の登場には、ゾクっとしたなぁ。 時効になっても決して終わっていなかった事件の全容を、リアルな仮説でストーリー化、 当時から感じていたモヤモヤ感が少し晴れた思いだ (余談:桜木健一さんが柔道着で登場したシーンには思わずニヤリ。昭和ネタ!)。 あと、宇崎竜童さんの役柄。とても格好良く、良識が備わった老紳士然として登場する。 しかし、その存在と行為をしっかりと糾弾する小栗旬さん演ずる新聞記者。ここは本当に良かった。 作者の良心を感じた。 主役格の二人、懐かしいベテラン勢、子役、皆さんとても聞きやすいセリフ回しと、迫真の演技で引き込まれた。 最近の邦画のベスト。 [映画館(邦画)] 8点(2020-11-24 08:40:02)(良:1票) |
14. ミッドウェイ(2019)
《ネタバレ》 同名の1976年の映画は、亡き親父と初めて二人で観た映画。日比谷の有楽座だった。 それはセンサラウンド方式と言う凄まじい音響効果の上映と、軽快なジョン・ウィリアムスのマーチ曲、オールスターキャストの豪華さ以外は、 ドキュメントフイルムと、旧作映画の使い回しが目立つ中途半端な作品だった事が中坊の自分にも感じられた。親父との思い出として大事な映画ではあるのだが。 さて今回の作品。 エメリッヒだけにSFXを駆使した映像はリアルではあるが、やや単調に感じる。 しかし、血生臭い過剰な描写は極力排除されており、あくまで戦闘を重視した演出であった事は潔い。 内容的には比較的史実重視で、過剰な英雄崇拝も無い。一方人間ドラマ部分に関してはほぼアメリカ側に特化しており、 日米を均等に描こうとする心意気は感じられるものの、そこはやはり「トラ・トラ・トラ!」の様に日本側に日本人監督を立ててもらえれば良かったかと思う。 そうすれば、山口多聞役の浅野忠信さんのセリフ回しの一本調子が指摘されて、名将としての山口中将の気高さも表現されていたのではないだろうか。 それと、日本の空母4隻の損失に対し米空母ヨークタウンの飛龍航空隊による大損害はセリフのみの説明であった事が何とも腑に落ちない。 その割にはドゥーリットルの中国大陸でのエピソードや、日本の駆逐艦上での米軍捕虜の虐殺行為などの闇歴史の挿入が何とも不自然で、 カットしてしまった方が映画的にはスッキリするはずだ(史実を隠蔽しろという意味ではなく)。 製作サイドの某国を気遣う事情だとする穿った見方も禁じ得ない。 ただ、総体的に一方的な勝利、敗北という結果論にしなかった事には好感が持てた。ここの部分は1976年の同名作品も同様。 「パールハーバー」の様な映画にならなければ良いが、という危惧の念は幸いにも空砲であった。 近年、1970年代までは数多くあった史実に基づいた戦争大作がめっきり少なくなっている。 「なぜこのタイミングでこの題材の映画なのか?」という疑問はあれども「この題材の映画をこのタイミング制作した」スタッフの姿勢には大いに拍手を送りたい。 [映画館(字幕)] 7点(2020-09-16 08:48:45) |
15. 男はつらいよ お帰り 寅さん
《ネタバレ》 柴又からほど近い、下町の空気が感じられる葛飾区の映画館で鑑賞。 冒頭、主題曲を桑田さんが歌うと言う事で、やや不安を感じていたものの、 奇をてらわずに、とうとうと歌唱した桑田さんに深い「寅さん愛」を感じた。 懐かしすぎる数々の思い出のシーンを挟みながら、寅さんの甥っ子、満男の現在を描いていく展開、 そこに登場する人物には、悪意など一切無い。 出来の良すぎる娘、優しさに溢れた編集者、偶然出会えた昔の恋人。。。 そして満男の中に、確実に寅さんの心意気が引き継がれている事、そこに何よりも安堵する。 ご都合主義でもなんでもなく、寅さんから満男に贈られた奇跡がそこにある。 そして、鑑賞者たる自分たちにも、正月映画として新作の寅さん映画を劇場で観る事ができた奇跡。 米寿となられた山田洋次監督が、今この映画を通して伝えたかったもの。 それをしっかりと受け止めて、語り継いでいく事が寅さんを愛した者たちの責務だと思う。 [映画館(邦画)] 9点(2019-12-30 08:03:22)(良:1票) |
16. 翔んで埼玉
《ネタバレ》 埼玉県出身の妻と、千葉県に住み続ける自分が、松戸の自宅から、都内下町にある亀有の映画館で、妙に生々しい地元感を味わいながらの鑑賞。 常磐線経由で茨城に進み、そこから埼玉に入るという変なルートの違和感、それすらもしっかり落としていく、地元ネタへの踏み込み方に敬意を表したい。 明らかに土地勘ありまくりの場所が舞台なのだが、これだけdisられると、かえって快感になるから不思議だ。 リヤカーについていた「野田」ナンバーなんて、地元民には屈辱以外の何物でもないのだが、自分の車のナンバーの「野田」の文字が何故か愛おしく感じてくる。 最近の、特定地域や国に向けてのネット上での陰湿な悪口(ヘイトスピーチ)や罵り合いは、何とも不快で暗い気持ちになる。 対して、この映画のdisり合戦の根底にあるもの。おそらくそれは「愛情」だと思う。「愛」よりも「愛情」。 その「情」があるから、中途半端な遠慮やフォローの必要が無い。その潔さ、清々しさが、鑑賞後の爽快感に繋がる。 バカバカしくも、実に痛快な2時間でありました。 [映画館(邦画)] 7点(2019-03-22 08:47:06)(良:3票) |
17. アメリカン・グラフィティ2
《ネタバレ》 自宅で1作目を友人と観る機会があり、その勢いで2作目も観賞。 公開時には酷評が目立っていたが、しっかりと前作の内容を引き継いでおり、空気感は異なるものの、正統派の続編と言える。 エピソードによって画面サイズが変わるのも、時代を感じさせる上手い演出だった。 カートだけは登場せず、セリフでしか名前が出て来ないのが、残念な点。 物語は4つのエピソードを年を重ねながら進められる。 ①ジョンのエピソードは、田舎町のレーサーとしての英雄譚。 時代もまだ明るい空気が漂っており、前作のイメージを一番残している。 レースでの結果は、町の連中がジョンを助けて、盛り上げて、一緒に勝ち取ったもの。 この田舎町ではジョンミルナーは人気者なのだ。 北欧から来た美人の留学生とのエピソードも、ジョンらしく一筋縄ではいかないが、レース後の会話が何しろ微笑ましい。 それだけにラスト、波打つ坂道で黄色いデュースクーペが見えなくなるシーンは、胸が締め付けられる。 ②最も印象深いのは、戦場でのテリー。 リアルな戦場シーンにも正直驚いた。 1作目のおっちょこちょいで、臆病だったテリーの面影はなりを潜めて、仲間の命を救ったり、 壮絶な(友軍の)攻撃から、飄々と生還したりと、一人前の男として頼もしく成長している。 理不尽な上官に逆らったり、戦場離脱を企てたりという行動は、臆病風に吹かれた訳ではない。 彼の理想が戦場に無かっただけだ。 痛快にも部隊を脱した彼が、その後行方不明になってしまう件は、作品の中では直接描かれてはいない。 彼の前向きな行動と、力強い生命力。 決して死ぬんじゃないぞと、祈らずにはいられない。 ③デビーのエピソードは、最もお気楽。 時代背景はとても退廃的でありながら、彼女の持つ素直さや、ポジティブさが、コメディパートとして息抜きとなる。 ただ「大晦日は嫌い。とても良い友人が二人も死んだ日だから」というセリフには悲しくなる。 破天荒だが、いい仲間との出会いがあり、飛び切りの笑顔が見られた、一番のハッピーエンド。 ④夫婦となったスティーブとローリーの喧嘩は相変わらず、それどころか激しさは増す一方。 しかし、「いちご白書」を彷彿とさせる、学生と警官隊の激突に巻き込まれる事によって、 1作目同様、結局信頼関係を強めていく、ある意味進歩していない二人に、何故かホッとする。 4年にわたる大晦日、それぞれの「蛍の光」の歌唱で締めくくられるラストは、明らかに前作より悲しい。 混沌とした時代に突入してしまったアメリカが、1962年の様に輝きが感じられないのは、この時代の日本も同様。 再上映や、テレビでの放映がほとんどない本作、確かに、前作のような爽やかさはない。 しかし時代の厳しさに翻弄されながらも、前に進む事を選んだ彼らに再会できたのは、やはり嬉しい事であった。 [ブルーレイ(字幕)] 7点(2019-01-28 08:48:31) |
18. ボヘミアン・ラプソディ
《ネタバレ》 彼らの活動期間にまつわる細かなエピソードの列挙や、ライブの再現などを考えると、2時間超えの作品が決して長いとは思えないが、 6分の曲がラジオでかけてもらえない様に、長すぎる映画も観客からは敬遠される。 それでも、限られた上映時間は、フレディの生涯の疾走感とリンクして、しっかりと補われた。 家族たるメンバーだけへのカミングアウトと抱擁。実父との和解と抱擁。そしてラストに繋がる20分の奇跡のライブ。 メンバー各々は何を思ってプレイしたのか、空を突き抜けたフレディの声は、どこまで届いたのか。 瞼を閉じると、胸が熱くなり、その想いはブライアン・メイのギターとともに、やはり疾走し続ける。 [映画館(字幕)] 9点(2018-12-03 08:03:58)(良:1票) |
19. 刑事コロンボ/忘れられたスター<TVM>
俳優で声優の小池朝雄さん。父の竹馬の友で、朝雄おじさんと呼んで、親戚付合いをさせてもらっていました。 そんなおじさんが亡くなられたのが33年前の3月、享年54歳。今の自分と同じ歳。 高校生だった自分は、生前のおじさんに無理なお願いをして、声優を務めていた刑事コロンボの台本を1冊欲しいとねだり、 そして頂いた本が、32話『忘れられたスター』。 なぜこの作品だったのか尋ねると、単純に自分が一番好きなコロンボの作品だからと言う事。 今でもこの台本は家宝です。 改めて観ると、物語の切なさと、コロンボの優しさが心に残る傑作。じわっと涙が出てくるラストです。 余韻という言葉が最も似合う作品でした。在りし日のおじさんを偲び、10点。 [DVD(吹替)] 10点(2018-03-14 08:07:17)(良:3票) |
20. ダンケルク(2017)
《ネタバレ》 スピットファイアが本当に美しい。 ラスト近くの着陸シーンには感涙。それまでの緊張感から一気に開放される。 大きく三つの視点と時間軸から描いた構成は、最初の内は多少混乱するものの、見事に集約される。 敵兵たるドイツ軍兵士の姿は殆ど見る事も無く、それが逆に当時の混乱を感じさせる。 また、イギリスの港へやっとの事で帰って来た英国空軍のパイロットが、大局を知らない陸軍兵士から「役立たず」と罵られていた時、そこで出会った老紳士に「私は(貴方の活躍を)知っているよ」と言われる場面。 この後の戦史で繰り広げられた「バトル・オブ・ブリテン」に繋がる重要で感動的なシーンであった。 感情の機微や、人の絆といった人間臭さの表現は、一切排除している様な演出でありながら、実はしっかりと観る者に、彼等の深層心理まで理解させてしまうノーランのマジックには驚愕。 戦争映画の新たな傑作! [映画館(字幕)] 9点(2017-09-09 23:28:23)(良:1票) |