61. 娼年
《ネタバレ》 [娼婦」ならぬ「娼夫」。たいていの場合は体であるが、それを含めて自らを商売道具として売る一人の男性の話。 まず個人的には、不特定多数の女性それぞれと真剣に向き合ってかつ、その場限りの関係で終えられるという感覚が私には理解し難かった。単純に、自分は一人の女性のことばかり考え、良くも悪くもその人以外のことに目が向かなくなる性格だからということもあるだろう。相手の女性に囚われずに、ある意味「器用に」女性の相手ができるこの森中領という人物に、宇宙人かな、と感じるくらい距離を覚えた。 「女なんてつまらない」「セックスなんて手順の決まったただの運動」という領に、仕事を通して女性の多様さや深さを教えようとする静香。少し考えたことは、少々言葉が悪いが、この話は単に一般的な風俗で男が女を買う、というのを入れ替えただけなんだろうか、それとも女が男を買うとなったときにそこに込められる意味も変わってくるんだろうか、ということが気になってきた。私の感覚では、女性が相手を求める感覚も男性が相手を求める感覚も、そんなに違いはないと思っている。男性のほうがあからさまで直接的な場合が多いので、ことさら単純・シンプルと思われがちであろうが、それこそこの物語の森中領くんのような複雑さや深さを持った男性もいるだろう。逆に、男よりあからさまに性を求める女性だっているだろう。そういう意味では「女性は~」という言い回しは私にはさして響かなかった。ただ私自身は男性であり、「異性としての女性」はやはり特別な存在で、その中でも特定の女性には自分の身を半分以上持っていかれるような想いを抱いている。そのように一般的な意味の上での「女性」と私にとっての「女性」では見方が変わるので一概には言えないが、女性だろうが男性だろうがある程度の年齢を生きてきて複雑でも深くもない人間なんていないだろう、というのが私の感想だ。領と東くんの絡みでもあったように、男同士の同性でも感じるものがあってああいうことに発展する場合もある。そういうものも描くあたり、別に「女性」一本槍で押してくる映画でもないんだなと少しほっとした。 「子どもの頃から大人の女性が大好きで、だから歳を重ねた女性がどうしてそのことを罪のように感じるのかがわからない」 この台詞が心に残りました。私はそこまで相手が何歳でも良いとまでは言いませんが、結局その人に魅力を感じるかどうかが大事だと思っています。それ次第では自分より年下を好きになることもあるかも知れないし、その逆も充分あり得るだろう。ただやはり限界はあって、いくら年下でも高校生や中学生にはそんな感情は湧いたりしないし、それは彼ら彼女らはまだ子どもで、自分自身の判断能力も未熟なうちにそんなことをするべきではないと少なくとも私が考えているからだ。私はそうだが、果たしてこの領くんがどこまでそういったことを許容できるのかが知りたいと思った。一般的な美的感覚で言うところの造形が良くない女性であったり、体形が崩れた女性に対しても同じようにできるのか、汚い話ですが排尿はOKでも排便は?など、彼の限界値がどこにあるかが少し気になりました。色々考察する機会をくれるいい映画だと思います。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-09-21 20:56:34) |
62. 羊とオオカミの恋と殺人
《ネタバレ》 宮市さんが本当におとぎ話から出てきた人のように綺麗で人形のようで、実写映画なのに逆に現実味がなくてそれが物語ともうまくマッチしていたように思う。 殺人をネタとして扱うこの映画の手法にはひょっとしたら賛否あるのかもしれない。世間的な悪者だけ殺されてるってわけでもなさそうだし。彼女がただ気に食わなかっただけの犠牲者もたくさんいたことだろう。それでも特に不快感に襲われることもなく鑑賞することができた。いい意味で、殺人と殺人鬼というものを受け入れて見ることができた映画だと思う。 たまーにテレビやネットの世間の人の声で聞こえるのは、「教育に悪いからドラマで未成年(という設定の人物)にタバコ吸わせるな」「自転車にノーヘルで2ケツするな」とか聞きますが、ナンセンス極まりないと思う。そんな声を聞くたびに、「じゃあ火サスで殺人とか、名探偵コナンは何故いいの?ワイスピには何にも言わないの?」などと思ってしまう。誰かが殺人を犯したって事件が起ころうが、殺人を扱うドラマや映画は全然普通にメディアに流されます。真剣に作品を楽しんではいるが、作り物、ということはきちんと認識して一線を引きながら楽しむことが何故できないのか。この映画はそういう一線の画し方を少し身近に感じさせてくれたと思いました。 少し物足りなかった点は二つ。宮市さんが黒須が叫ぶまで殺人を見られていたことに気づいていなかったことと、春子が兄の川崎さんの本当の部屋を見なかったこと。 前者は、あれだけ手の込んだ死体処理をする人たちがあんな壁の穴に気づかないのは話の流れ上不自然と思ったこと。殺した後、壁紙や壁の絵まで入れ替えたりするのに、穴に気づかないって、いやいや。 後者はやはり妹にも兄の異常性に気づいて欲しかったかな。別にタイまで行ったとかいう設定にしなくても、兄が異常ということを知ればその時点で彼がどこで何してようが居場所がどうこうなんてことは忘れられるんじゃなかろうか。ということよりも、信じてた兄があんなんだったと知った家族の反応が気になった。ひょっとしたらそこから他の家族もおかしいとわかっていったりして、という勝手なストーリーも妄想しました。 殺人というものをテーマに据えながら同時にコメディのように見せるこういうやり方は、本当なら個人的には好きではない流れだと思ったんですが、想定していたよりとても面白かったです。黒須くんが羨ましいとか思ってしまったりして。 殺人鬼が面白い、なんてあまり世間的に言えたことではありませんが、だからこそ作品として楽しめました。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-08-30 09:40:35) |
63. 37セカンズ
《ネタバレ》 ひたすら脳性麻痺の人はかわいそうだねみたいな内容の映画だったら嫌だな、という感想を持ちながら前半を観ていた。好きな人と結ばれたいと思うのは誰しも願うこと。だけどどんなに容姿が良くて性格が良くてお金があって秀才だったとしても、本当に自分が好きな人と自分の思い通りのタイミングで結ばれるなんてほぼほぼあり得ない。少し厳しい言い方になるかもしれないが、そういうことが思い通りにならないのが障害のせいだなんて、逆に意識しすぎだと感じる。脳性麻痺ではないが、自分も障害を持つ人に恋をしたことがあるので、余計にそう感じる。結局は自分に合うか合わないかというシンプルなことだと思うのだが。 そんなふうに思っていたら、車椅子で人生を謳歌している人が現れその連れ合いの女性と仲良くなり、脳性麻痺の障害を持つ女性ユマは新しいドアを開けることになった。その連れ合いの女性舞さんはユマには最初刺激が強かったとは思うが、23くらいの女性にとって知っていても別段不思議ではない大人の世界を見せてあげる。ただ面白がって夜遊びに連れ回すだけではなく、ユマと母親の関係性まで考えてくれる、とても出来た女性だと思った。介護士?の俊君も立派だとは思うが、彼についてはあまりどんな人か描写されるシーンが少なくて、ユマについてタイまで一緒に行って仕事は?、とかある意味この映画で一番謎なキャラクターだったかもしれない。 映画だから少し大袈裟に表現したのであろうが、仕事のパートナーのサヤカという子はひどかったな。いや性格はもちろんなんですが、あんな扱いをしたら自分が捨てられるってわかりそうなものだが。どうせユマにはそんなことできないとでもたかを括っていたんだろうか。ユマが独立しようとしている動きに気付いていたはずなのに、それであの対応しか出来ないとか終わっている。あれは要らなかったな。 人の内面から来る良さに、障害なんて関係ないと思う。五体満足無障害の人でも内面が腐ってる人なんていくらでもいるし。だがやはり、実際の生活ではいろんな苦労があるだろう。そういった生活に関わる難しさを持ちながら、存在も知らなかった双子の姉に会いにタイに行くというのは、すごいエネルギーを感じた。その行動力に感動した。自分も、何かに対してそれくらいの行動力を出してもいいんじゃないかと刺激になりました。 てかどうでもいいことですが、彼女パスポートは持ってたんですね。あの母親の性格からしてそんなもの持たせなさそうですけど。そんな重箱の隅に残った栗きんとんのかけら程度のことが少し気になりました。失礼しました。良作です。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-08-20 01:10:15)(良:1票) |
64. サイダーのように言葉が湧き上がる
《ネタバレ》 これを書いてる時点でまだ誰かのレビューを見たわけではないですが、なんだか「作画が…」とか書かれてそうだな。個人的にはそれも含めて楽しかった。なんだか学生の文化祭を観ているような気持ちで見ていました。もちろん、良い意味で。 その上で身もふたもないことを言わせてもらえば、映画を楽しんだというよりも、そこに込められたメッセージやテーマに思案を巡らせることを楽しむようになってきてしまっている私がいます。この映画で言えば、チェリーの俳句への創作意欲とそれを誰かに認めてほしい承認欲求、さらにスマイルの出っ歯へのコンプレックス。それらが交互に混ざり合って、一つのストーリーになっていたと思いました。チェリーとスマイル以外は丁寧に描かれていたのは藤山さんくらいかな。ジャパンとかビーバーとか、なぜその名前?とか思うキャラはたくさんいたし、スマイルの家の裕福具合とか色々気になることはあったけど、あえて説明は削ったのかな。書籍もあるようだがそちらでは描かれているんだろうか。モールの物品をかっぱらったり想い出のレコードを割ってしまったりなど、割と洒落にならないことをやっているがコミカルに描けているのはアニメの特性かな。なんにせよ、単体の映画としても楽しめる作品だった。 私もスマホのカバーに小さな辞書を仕込みたくなりました。すぐに検索しましたが、あんな造りになってるカバーは無いようです(もちろん本も、泣)私もデジタル画面より、紙のほうが好きだなあ。自分のルーティンにを大事にしていたり、探し物に夢中になったり、好きな子に見られないかもと分かっていながらこっそりメッセージを発信してその行方を気にしたり。。。色々共感できるシーンがありました。 上述したように、映画を楽しんだ、と言うよりもそこに込められていたメッセージやそれに共鳴した自分の何かにひどく反応してしまった、そういう作品だったと思う。だから、私の感想は多分他の人には伝わらないかもな。そんなレビューですんません(汗) 一点だけ不満を述べさせてもらうなら、最後の俳句を詠み上げるシーンは、ちゃんと五七五のリズムで詠んで欲しかったな。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-08-16 00:58:20) |
65. HELLO WORLD
《ネタバレ》 少し先に他の方のレビューを拝見してしまいました。そっか、そんなに評価高くないんだな。京都ということと、あの青臭い感じが自分はそれほど嫌いではない。何故ならいまだに自分がかなり青臭いから。青臭い恋愛を信じ、青臭い展開をずっと期待しているから。だから、他人のそんな願望を鼻で笑うことはできない、ただそれだけ。 二人の「堅書直実」、どちらの感情も理解できる。高校生として今を生きる堅書直実も、過去に最愛の人を失い彼女を取り戻すために奔走する大人の堅書直実も。どっちの、どの行動にも共感できた。高校生の直実が、大人の直実をぶん殴るシーンでさえ、両方の直美の気持ちがわかるというのは少しおかしいかもしれないが。 ただ一点、分からないというかそんな伝え方ではダメだろうと思ったのは、「こうすれば彼女は好意を抱く予定だから必ずそうしろ」というシーン。当の高校生の直実も違和感を覚えたようだが、純粋にその人のためにと思った行動に、こうすれば彼女が好意を抱くから、という打算が生まれた時点でそれは彼女の気持ちに対して不純物となる。そうなった時点でそれは同時に利己的な面を持ち、自己のためにそんな行動をしたいわけじゃないという葛藤が生まれ、彼女が純粋に好きであればあるほどその行動に躊躇いが生じる。大人直実はそんなこともわからなかったのかな。誰かが誰かを愛する気持ちを最強だかなんだか知らんが「マニュアル」なんかに支配されたくはない。そんな気持ちは強く感じた。 でも一方で、 マニュアルだろうがなんだろうが何にでも従うから、彼女と一緒にいたい。 そんな気持ちも自分にないかと言えば嘘になる。そのためなら、マニュアルくらい受け入れてしまうかもしれない。矛盾、ですね。 個人的に、単純に京都が好きです。特に京都市内。ラストで頻出する堀川五条、七条堀川、京都駅などは垂涎もの。学生時代いつも通っていた道で、すぐわかった。 通った道、というわけではないが伏見稲荷大社も、駅ビルの上層も出町柳も、懐かしい場所だ。 無限容量の記録媒体「アルタラ」。今聞くと何を馬鹿らしいって思うのですが、また何十年もしたら何をそんな当たり前のこと、みたいな感覚になるのかな。今の世界ですら、20年前には想像できている人はほぼいなかっただろう。電波は空を飛び回り、フロッピーの何千倍何万倍の容量のUSBが安価で手に入るこの時代だ。 そんな備忘録としても、このレビューがいつ書かれて、自分が何歳の時の話だったのかということが残っていて欲しいと思う。 映画のテーマとは違うかもしれないが、 『こんにちは、世界』 そう思える時はまだまだあるんだろうか。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-08-02 03:00:58) |
66. わたしは光をにぎっている
《ネタバレ》 ゆったり、ゆっっっ、、、たりと流れるストーリー。100分にも満たない、映画としては短めの時間ながらも、良い意味で時間の流れがゆっくりと感じられる映画。 小さな町の小さな銭湯、小さな映画館、小さなラーメン屋、小さなエチオピア料理店、それらのお店に少しずつ関わる澪という女の子を中心に話は回ります。とても内気でお世辞にも社交性があるとは言えない澪ちゃんですが、作中でコミュ障が治ってめっちゃ元気に!なんてことは起きません。基本的には初めのキャラクターから変わらず、しかし段々と「芯」が通ってきたような印象を与える、とても繊細な様子を描いていました。 できること、小さなことから始めた銭湯の仕事。思ったより自分に合っていて最終的には自分で別の銭湯を開くまでに。何が自分にとって「ハマる」のかなんて誰にも分かりません。だって自分でもわからないのに。だからこそ、立ち止まるのではなく、失敗してもいい、不器用でもいい、少しずつでも前進しようとする様の必要性・重要性をしっかりと教えられた気がしました。 そしてそういった全てをひっくるめて一つのドキュメンタリーとした上映会。私もあの観客の一人だったんだなと実感しました。実際に住んだこともない知らない町のドキュメンタリーであれなので、もし直接深く関わった町のそれであれば、もっと気持ちが入って何も言えなくなるだろうな。感動できました。心にスッと、しかししみじみと沁みる、良い映画でした。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-07-08 00:45:54) |
67. mellow メロウ
《ネタバレ》 爽やかな恋愛、を映画にするとこんな感じでしょうか。中には少し泥臭いものもありましたが、「どんな結果になっても告白はしろ」というメッセージは強烈に持っていた。作中の告白は見事に全て×でしたけどね。 女性が女性に憧れる、というのも身近で似たようなことがあったのであーあれねと、私は結構簡単に受け入れてしまいます。特に作中のように女子の体育系クラブでは割とあるある。バスケとかハンドとか。でもやはり相手もOKという割合はだいぶ低くて、「ありがとう、でもごめんなさい」が大半の結果なのではと思う。 そう思うとなかなか難しい関係の告白が多かった。既婚者の女性が旦那を同席させての告白、女子中学生が同じ学校の女子の先輩に向けての告白、女子中学生の成人男性への告白、などなど、はなからわざと「それは無理だろ」という告白を作中に出していたのかな。 文字で書くとなんだか暗い雰囲気と思うかもしれませんが、私がこれを観た日は驚くような雲ひとつない晴天の日で、冒頭に書いたようにこの爽やかな恋愛映画にすごく爽やかな日和がこの映画の雰囲気ととても合っていたことを覚えている。今日この映画を観れて良かったとも思えた。恋愛、告白、とはまた違うかもしれませんが、この映画と良い出会いができた、そう思えました。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-06-12 21:29:41) |
68. 去年の冬、きみと別れ
《ネタバレ》 ずっと観たかったのだがなぜかNetflixでダウンロードができない作品で、家で観る時間がなかなか取れずしかし今回ようやく鑑賞することができました。 前半は猟奇的な写真家=木原坂雄大を取材しながら追い詰められる記者=耶雲恭介というストーリー展開だったのが、耶雲の素性が怪しくなってきたところから話の方向が変わってきたのを感じました。あの白い文庫本の破壊力たるや。序章から第三章までの組み立ても見事でした。いきなり第二章から始まるから何か間違ったかなと心配しましたが、なんてことはない、見事な演出でした。 結局出てくる主要人物のほぼ全員どっか異常な人物しかいなかったので、なかなか誰かに感情移入しながら見ることは難しかった。強いて言えば耶雲(中園)に共感を覚えるが、心配とは言え盲目の彼女=吉岡へのつきまとい行為は度が過ぎていると感じる。普通に話しかければいいのに、仕事休んでつきまとったり、そもそもやましいことの自覚はあるようでだから話しかけないことも怪しさを倍増させる。耶雲に異常性を持たせたかったのかもしれませんが、あのへんはなんだか過剰演出な気がしました。 シンプルに目に焼き付いたのは、蝶の写真と、蝶の標本。蝶の写真は、耶雲が評していた内容がそのまま突き刺さった。あの蝶が何を隠しているのか、その奥が見たいと、確かにそう思える写真だった。実際にああいう作品があるのかはわかりません。映画のために用意したただの一枚絵なのかもしれませんが、それでも自分には何か感じるところがあった写真です。 次に蝶の標本。標本のどれかというと目玉模様のやつ。一匹だけならまだしも、あれを何匹も同時に見ると流石に薄寒いものを感じました。その感想とは裏腹に、ちょっと見続けたいという不思議な気持ちにもなりました。 いろいろ心が揺さぶられ、楽しめた映画でした。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-06-09 01:48:07) |
69. 名も無き世界のエンドロール
《ネタバレ》 個人的に、このラストはすごく良かった。よくあるドラマの展開なら、あそこで「バカなことはするな!」とか「そんなことをして彼女が喜ぶと思うのか!」とかいうセリフで犯人が思いとどまったり、その言葉でひるんだ隙に犯人を警察などが取り押さえるというシーンをよく見ます。ですがこの話では結局犯人は思いを遂げ、しかも共犯だった友人にはドッキリで騙し打つという、なかなか観てる側にはアジな展開で楽しめました。 実際想像してみた。もし自分の最愛の人を事故で失い、その犯人があのような人間だったら。もしその犯人が何の反省もしておらず何なら自分は悪くないと逆ギレしてくる始末で、轢いた相手を犬呼ばわりしてきたら。殺意湧きました、普通に。だから、あのラストでとても満足している。 城田ちゃんは、マコトとヨッチとは少し離れた位置から二人を眺めながら、でも近くにいる存在。自分でもそう言っていた。やや第三者的な立場でいることが心地良くもあり、しかしヨッチのことを考えた時に主役になりきれない自分に嫌気もさしていたのかもしれない。しかし最終的に二人を支え二人のために動き続けた城田ちゃんは、なんだかやり切った達成感に包まれている気がした。サッドエンドの中のハッピーエンドであったと思いたい。そんな作品でした。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-06-09 01:26:40) |
70. ルパン三世 血の刻印~永遠のmermaid~<TVM>
《ネタバレ》 ルパン感は80点。さすがに20本以上もルパンシリーズを見ると好きと嫌いが分かれてきますが、これは好きなやつでした。 冒頭から「ルパン三世40th anniversary」の文字が。そうかもう40年にもなるんだ。そしてその記念すべき年になんと声優陣の大幅改変。主要キャラはほとんど新しい方に替わっていました。 私の勝手なイメージですが、きっと声優の世界も結構な縦社会で、昔からのベテランや偉い人に周りが忖度して、今回のような記念の年ならそれこそそういう人を立てて出演「していただいて」勇退してもらうのかなとか思ってたら、記念の年に外すなんて、なかなか思い切ったなあと変なとこで感心してしまいました。 新しい声優さんたちもだんだん聞き馴染んできました。流石に少し違和感は感じましたが、まあこれもサザエさんやドラえもんの声が変わった時のように、だんだん気にならなくなることでしょう。 内容も良かったです。人魚の宝石にさらに隠された八百比丘尼の財宝を巡って戦うルパン達と氷室一味。八百比丘尼の財宝や美沙と麻希の物語、ルパン一世を通して見る泥棒とは何かという問いかけなど、色々楽しめる要素がありました。ひたすら泥棒という仕事にこだわる麻希に向けてのメッセージのように一世の残したものを、「ま、泥棒なんてそんくらいのもんだ。結局楽しんだもん勝ち、ってとこかな?」と解釈するルパン。 個人的にはこういう、盗めないお宝的な話は大好きです。『お宝返却大作戦』もそうだったし、そういう話がもっと増えることに期待。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-05-10 06:49:49) |
71. おいしい家族
《ネタバレ》 これが「おいしい家族」かどうかはさておき、色々考えさせられる良い映画でした。結婚生活がうまく行ってない女性が、母の三回忌のために地元へ帰るとそこには亡くなった母の服を着て女性として暮らす父の姿が。うろたえる娘に追い討ちのように「父さんは結婚する。相手は男だ。」と平然と言い放ち、自分以外の親戚はすんなりそれを受け入れて、なんなら普通に祝福モード。自分がおかしいのか?と葛藤しながら悩む娘の物語。 いや、別に同性愛とかトランスジェンダーとかを否定する気はありませんが、いくら物語とはいえあそこで娘が「あっそう、オッケー良かったね。おめでとう」ってなったらそっちの方が不自然だし気持ち悪い。うろたえて疑問を訴えるのは当然の反応。ましてや娘には事前の説明も何もなく、亡くなった母のために帰ってきたのにその母を冒涜するような真似をしているように見えたのでしょう。きちんと事情も伝えず、それは怒るわ。こういう問題って、さもそれまでの価値観で生きてきた人がおかしいとか、なんなら否定するくらいの勢いで描かれがちですけど、同性愛とかLGBTとかそういう考え方を尊重しろという人ほど、それまでの価値観を持った人の考え方を尊重してくれないのは納得がいかないといつも思っている。あれ?あんたらのほうがえらいの??といつも疑問に思う。それまで虐げられてきたりマイノリティだったがゆえなんでしょうけど、「なんでこっちの気持ちわかんないの?」って詰め寄られるのはなんか違うと思う。 あんな小さい島で、田舎であんな風に生きていたら実際はどうなるんだろうというのは少し知ってみたいですが、でも青治さんのように家でも職場でも(しかも校長先生)あそこまで堂々としていれば偏見のようなものは生まれないんですかね。彼は自分の考え方を人に押し付けるようなことは一切していないし、あの姿勢には素直に好感が持てた。人として魅力的だと思う。女の子になりたい瀧も、そんな彼が好きなダリアも、みんな憎めない良い子だった。 完全に蚊帳の外に置かれ、いきなりサプライズ的にビッグニュースを放り込まれた燈花に同情しつつも、素敵な家族のストーリーを見ることができました。少し、心が洗われました。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-05-03 01:45:09) |
72. 彼らが本気で編むときは、
《ネタバレ》 観る前は正直、苦手なジャンルの映画だと思っていました。ですが、観ていくうちに段々と引き込まれていき、登場人物の多くに感情移入してしまいました。 正直なところ、私はLGBTQなどの性別問題は自分とは無関係だと思っています。自分は違うし、でも無関係というからにはそんな人が周りにいても極端に反応したり差別したりも特にしません。自分は違うので恋愛対象にはなりませんが、友人であればこちらも特になんとも思いません。何かの拍子に誰ががそうだと分かったとしても、「あ、そうなんだ。ふーん」程度の反応しかしないと思います。「わたし、日本人より欧米の人の方が好みなの」とか言われるのと同じくらいどうでもいい。 子供の頃から思っていたことで、なんというか、説明が難しいのですが、そういう人たちに特別な呼び名をつけたり、「こういう人たちもいるから理解して」という運動そのものが既に差別なんではないかと思っている自分がいて、そういうのを見ていると言い方は悪いのですが、アホらしい、と思ってしまいます。 人権、ともよく言うがそういう呼び名を付けられた人たちの人権には特別配慮してそうでない人たちには配慮しないこともよくわからない。この映画では取り上げられなかったが、体が男で心が女であっても女子トイレには行かないだろう。女風呂にもおそらく行かないだろう。そこは自分の仕組みと、社会の仕組みとを双方に考えた上でバランスを考えるべきだと思う。性的には大多数に属する男の自分だって、性とはまた違う自分の個性の仕組みと、社会の仕組みとのバランスをうまく考えて折り合いをつけているのだから。誰にだって多かれ少なかれ、大なり小なりそういう面はあるだろう。だから、リンコさんが検査入院になったとき、病院の事情も考えずに人権侵害だと大騒ぎするマキオには大いに違和感を感じた。ああ、彼にとっての人権というのもそういうことなんだな、と。 別にこういう考えの自分が大正義だとも思っていません。ただ、上述したリンコさんの病室を変えるよう病院のスタッフに迫るマキオのように、相手の事情やその場所の仕組みも考えず、ただ自分たちはこうだからこうしろ、と迫るのはなんだか嫌だな、と率直に感じました。病院のスタッフが、リンコさんの容姿や特性に対して明らかに差別的な態度や嫌がらせ等の攻撃をしてきたというなら話は別ですが。そういう意味では、トモがカイの母親に持っていた洗剤をぶっかけるシーンは痛快でした。ああいうのは良い!!スカッとしましたね。 改めて、私は自分はこういった性別問題とは無関係だと思っています。もし私が誰かを攻撃したり悪口を言っていたら、多分それはその人のことが嫌いなだけです。体は男で心は女で…とかどうでもいいです。その人そのものと仲良くなれるかどうかは別問題なので。ただ、社会の仕組みを無視して権利の話ばかりしているシーンは見たくないなというのが率直な感想です。映画のレビューっぽくは無いですが、この映画を観てこういうことを思いました。一つの考え方としてご一読ください。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-03-03 23:57:11) |
73. ラストレシピ〜麒麟の舌の記憶〜
《ネタバレ》 「満漢全席」 昔何かのマンガで見たことあるなあ。中華一番??美味しそうだなとは思ったがあまりのスケールの大きさにイメージはついてこなかった。そんなうっすらとした記憶の中にあった名詞が久しぶりに聞けました。最近料理に凝っていることもあり、最初から最後まで結構興味津々で見られました。特に最後のエンドロールでの、山形氏の「大日本帝国食菜全席」を現代版にアレンジした佐々木充版レシピもとても見応えがありました。家で趣味で作れるレベルではないのでなかなか参考にはなりませんが…あ、鮎の春巻きくらいならできるかもです(笑) 112品をひとつひとつ壁に貼り出していくとかも良いですね。あれだけでむしろ部屋のデザインとしてとてもファッショナブルにきまっていて、今の建築デザインにああいうのがあってもいいんではないかと思わされました。逆に良すぎて、いくら無尽蔵にお金を使えたといっても当時の満州であんな作りの建築をできたのかなという疑問はありましたけど。映像作品としてはとても良かったと思います。 ストーリーもとても好きです。冒頭のオムライスがすでにもう美味しそう。あんな風にお米をくるむんですね。うちでは普通にお米にかぶせるだけだわ(汗)孤児院の園長とか、本人の出自とか、出てくる人物たちとか、全てきちんと最後に整理して終わる、ひとつの映画としてとても綺麗な作品だと思いました。特にストーリーに不満もありませんでした。はじめっから疑問だった、「なんでこの人にこの依頼が来たんだろう」という疑問も最後きちんと解けましたし。まあ、当時の軍があの既成事実作るためだけにお金と手間かけすぎだろうとは思いましたが。 良い映画だと思います。料理好きな人はぜひ。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-03-01 22:04:58) |
74. ルパン三世 ワルサーP38<TVM>
《ネタバレ》 ルパン感は50点くらいかな。というのも、この回はルパンシリーズとしてはけっこう血生臭い回で、爆発や暗殺など、全体的に陰鬱とした感じをはらんでいます。中盤にはルパンも蜘蛛のタトゥーの毒を入れられ、その毒を入れられた者は例外なく、中和する特殊なガスを出す島の中でしか生きられないという閉塞感もプラスされ、全体的に暗いお話しです。 上述したように、いつもはコミカルだったりギャグだったりお色気要素だったりがたくさんあるシリーズですが、今作は「これぞルパン!」という感じはそれほどありません。ですが十数作もあるシリーズの中で時々こう言ったシリアス路線のものがあっても良いでしょう。ルパン的ではないですが、嫌いではない。 そういえばこの『ワルサー』を見てからルパンの拳銃を気をつけて見るようになりました。よく見るとどのシリーズでもちゃんとワルサーを使っていますね。次元のマグナム、五ヱ門の斬鉄剣と同様、ルパンシリーズを彩る重要なアイテムなんだと実感しました。 久しぶりに見て二つだけ「?」な点がありました。 ひとつは銭形の相棒のビッキー。突然出てきて何か物語に絡む重要なキャラなのかな、あ、エレンの弟に似てるから実は死なずに生きていた弟のアレックスなのか!?などと思っていたら何にも物語に絡むことなく終了。なんだったんだ?? ふたつ目はラストシーン。まだ毒の中和剤できてないのにルパンたちは島を出てしまいましたけど大丈夫なのか??大量にガス持ってって島外で中和剤作るってことなんだろうか。ちょっとわからない部分でした。 まあそんなことは言いながらも好きな話です。心を鎮めて不遇な環境の暗殺者たちに想いを馳せる、そんなルパンシリーズでした。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-02-10 19:08:18) |
75. ルパン三世 バイバイ・リバティー・危機一発!<TVM>
《ネタバレ》 ルパン感90点。ルパンシリーズではけっこう記憶に残っている作品です。子供心に、これぞルパン!というのを、学んだ気がする。 ルパン三世って、ルパンや銭形や不二子ちゃんに代表される色んなキャラの魅力が特徴のアニメではあるんですが、なんだかSF的な要素もとてもワクワクするシリーズですよね。作品によってどこに重きを置くかはまた違ってくるんでしょうが、例えばこの『バイバイリバティー…』では、あらゆる犯罪者のデータベース化や、そのデータの共有、はてはそのデータをウィルスで操ってしまうアイデアまで。これが1980年代のアイデアということに驚きます。また本作ではありませんが、『ヘミングウェイペーパー』のほうではネクタイ型のカメラも出てくるし…この時代から30年近く後になってようやく普及してくる技術が当たり前に描かれるその発想力に改めて驚きます。 あとはルパンシリーズお馴染みのスケールの大きさや女性キャラのストーリーなどは面白い。自由の女神を盗むとかどんだけ(笑)また最後に母親を亡くしたマイケルが自由の女神に「バッキャロー!!!」と叫ぶシーンもなんとも言えずしみじみしました。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-01-25 20:36:54) |
76. 日本で一番悪い奴ら
《ネタバレ》 舞台は昭和後期から平成中期の北海道警。ちょうど私も昭和に生まれて学生時代を過ごしたくらいの時期です。まあその頃くらいの日本なら家庭でも学校でも体罰なんて当たり前でしたし、このくらいの汚職があってもそれ自体にはそれほど驚きはありません。まだ携帯も出たか出ないかくらいのSNSと呼べるようなものはまだまだなかった時代。そんな時代だったからでしょうか、諸星さんがこのように自分の周りの世界に取り込まれ囚われてしまったのは。今思えばインターネットなどなく、良くも悪くも自分の周りの世界しか見えてなかったこの時代にはこういう風に誰かの影響や何かの思想に染まりやすかった時代なのかもしれません。この諸星さんもそうで、道警に入りたての新人時代には課のエースで先輩でもあった村井に可愛がられ影響されてその生き方を模倣し、その後道警に新設された銃器対策課に配属されそこから彼は特に銃の摘発に力を注ぐようになる。思想に染まった彼の考え方は本当に極端であり、銃摘発のためにロシアから銃を輸入することすら彼の中では是であり、彼に言わせれば「チャカさえあげられればシャブなんてどんだけ出回ったって関係ないでしょ!」ですから。本当にそこまで事実だったのかはわかりませんが、麻薬の所持使用で道警に逮捕されてもなお道警に恩義を感じていると述べた最後の語りはなんだか考えさせられます。人はあそこまで何かに夢中になり、視野が狭くなれるものなのでしょうか。昭和後期から平成中期、複雑な思いで振り返ることになりました。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-01-13 22:54:32)(良:1票) |
77. 人魚の眠る家
《ネタバレ》 原作はだいぶ前に読みました。あらすじ覚えていましたが、また映像で見ると違いますね。 個人的には書籍版よりも毒気は少なくなったかなと思いました。それだけに、突然の家族の事故、脳死や臓器移植・そういう家族を抱える状況などに思いを巡らせる機会となりました。娘が突然あんな事故にあったらどうする?娘の臓器提供の意思なんて聞かれたらどうする?娘の体の維持のために最新技術を使えるとか言われたらどうする?残された弟がお姉ちゃんのことで悩んでいたらどうする?娘のことに心酔するあまり周りを蔑ろにする母がいたらどうする?色んな「どうする?」が頭の中を駆け巡りました。すべて、実際にその立場になってみないとわかりませんが、私個人としては家族の立場なら生かしたいと思うし娘の立場ならもう臓器提供しますと言いたくなる。同じ人間が立場を変えて考えても真逆の意見になってしまうので、これは本当に立場次第の問題だと思う。そしてそれを周りがどれだけ尊重できるか、そういう問題だと。 電気信号を与えて体を動かしたり表情を作るということも、そこだけ見れば不気味に映るかも知れませんが、本来の目的は体を動かして身体の代謝をあげたり健康のための機能であって、そういう見方をすれば全然気持ち悪いものでもなんでもない。その結果どんどん身体の数値が改善されていく娘を目の当たりにして家族が喜ばないはずがないんだから。星野さんの彼女も、あんな見せられ方だけされればそれは誤解すると思う。 今はこうやって良くも悪くも他人事としてこんな感想を書いていますが、このような事故が本当に起きたりするのではないか、なったらどうしようと、そんなふうにどこか気持ちを引き締めつつ何もない日常を有難く感じるきっかけになりました。 [インターネット(邦画)] 8点(2022-01-08 16:59:19) |
78. ハチミツとクローバー
《ネタバレ》 そっか。これって少女漫画が原作なんですね。言われてみれば納得です。でもそんなにゴテゴテした少女漫画然としたものではなく、芸術家の卵たちの人生や作品に対する葛藤を見れた、っていう感じです。面白かった。 芸術品についてはよくわかりませんが、作品にひたむきに取り組んでいる人を見るのは好きです。この映画なら、はぐみさんがまさにそんな感じの人。ゴツいヘッドフォンで周りの音を全て遮断するようにしながら作品と向き合うあの姿は確かに魅力的でした。竹本君が一目惚れするのもなんだかわかります。森田君は天才肌という感じですが、アーティストというより旅人という感じ。一箇所にじっとしてるタイプじゃなさそう、人間関係も。はぐみさんとなんとか仲良くなろうして、実際少し仲良くなり始めた竹本君が、急速接近するはぐみさんと森田君になんとも言えない気持ちを抱くシーンはなんだか切なかったですね。ストーカーの真山君と、彼を好きな山田さんの気持ちだけはよくわからなかったな。とにかく相手が好きだという気持ちだけはわかりました。 抑えきれない、飲み込みきれない誰かが誰かを好きになる気持ちというものを見ることができました。この映画では若い男女の物語でしたが、いくつになってもそういうものを忘れずに過ごしていきたいものです。 [インターネット(邦画)] 8点(2021-11-13 14:38:54) |
79. 私をくいとめて
《ネタバレ》 つい最近観た『勝手にふるえてろ』に何だか似てるなぁと思っていたら、やはり【タケノコ】さんがすでにおっしゃっていました。共通点は、彼氏がいない独身女子が仕事や人間関係などの日々の出来事に対して脳内で色々突っ込んだり妄想を展開してみたりするということ。『勝手にふるえてろ』のほうではあくまで主役の女子本人が脳内一人芝居を行うのに対し、本作『私をくいとめて』では、A、という自分の中のもう一人の自分との対話が中心になります。Aは自分の中にいるもう一人の自分として、主役の彼女に冷静に助言をします。Aの存在は彼女にとって当たり前にいてくれる存在でありすぎて、一度Aを失った時の喪失感を彼女はとても恐れています。現実には自分を好いてくれる男性がいて、自分も彼を大好きなのに、そうなるとAを失うことになるんではないかと怖がる彼女はなかなか現実の恋愛を前に進めることもできず、、、と、作品概要のようになってしまいました。 比較ばかりであれですが、『勝手にふるえてろ』より本作のほうが毒気は少ない印象です。周囲の誰かに対してではなく自分の中のもう一人の自分であるAとの対話が中心になっているからかもしれません。私自身も外に出すより心の中に葛藤やら何やらを溜め込むタイプなので、自分なりのAとの対話をしてるのかもしれません。勇気を出して飛行機に耐えて海外の友人宅を訪れたら、友人の旦那家族勢揃いのサプライズって。こう言うタイプの人間には辛すぎるなあ。セクハラを目の当たりにして心がざわざわする気持ちもわかるし、主役ののんさん演じる黒田さんに色々感情移入してしまう映画でした。 この映画も、女子だけでなく、色々人間が抱える心の声などを可視化して見ることのできる良い映画だと思いました。他の人もこういうふうに思うんだ、感じるんだということを見れるっていいですよね。 [インターネット(邦画)] 8点(2021-11-04 16:12:09) |
80. RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ
《ネタバレ》 日本でも他の国でも、自分の好きな乗り物に名前を付けたり擬人化して愛情を注ぐということがありますが、この映画も電車に名前をつけたりこそしませんが、三浦友和さん演じる運転士の電車に対するじんわりとした深い愛情が感じられました。それとは全く対照的に、家庭のほうでは昭和のおやじ的な奥さんに「おいお茶!」みたいな亭主関白モード全開で、普段ならともかく、本当にやりたいことを相談もできない夫に辟易して奥さんは出て行ってしまいます。 奥さんのことも運転士としての仕事も、ひいては電車のこともとても好きなのに、それらに対しての姿勢は真逆になってしまう。無機物には素直になれるけど、好きな人に対してはプライドや恥じらいが邪魔して素直になれない、いっぱいいっぱいになった時に感情をぶつけてしまって、後で後悔する。なんだか自分を見ているようでした。主役の滝島さんに対しても、素直になればいいのにって第三者の視点からは冷静に思えるんですが、いざ自分が同じような立場になると全然冷静になんかなれなかったので、その葛藤がわかってしまうことに感情移入してしまい、辛かったです。勢いや感情任せに言ってしまった言葉で、本当に大事なものを失ってしまう。この話では間違った自分と向き合ってやり直すことができて、良かった。 最後に、滝島さんが定年の祝いの席で言われたセリフが刺さります。私は定年なんてまだまだな年齢ですが、この言葉は良い意味でも悪い意味でも覚えておきたい。 「おまえさん、老い先短いとか思っとるだろう?長いぞぉ、ここからが…」 [インターネット(邦画)] 8点(2021-10-28 19:02:25)(良:1票) |